表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
運ゲー野郎のモブ転生――ダンジョン連合vs運営政府  作者: ひとしずくの鯨
最終部 そこが地獄の一丁目な件
118/130

78番地 レイド21

 隠し通路を通って、『運ゲー野郎』のダンジョン・マスターの間に入った俺(第23人格C)を待っていた状況とは。


 マスターとおぼしき者も含めて多くが倒れ伏しており、その中の少なからずの者は体を小刻みに震わしておった。


 恐らくタナトスの死の魔法のせいだろう。ならば、間に合わなかったのか?


 そして、倒れたヒュプノスの腕の中に抱き殺気立つタナトス。そのにらみつけておる先には、修復子がおった。


 何があったのだ?


「ダメだよ。タナトス。こいつを殺しては」


 声そのものは弱弱しいが、ただ、そこには強い感情が込められておった。


「しかし、お前。こんなことをされて」


「ううん。タナトス。そんなにひどくない。こいつが僕になしたのは、たぶん、部分上書きだけど、ただ、とても微々たるもの。もっと強く上書きできただろうにね。なんなら、完全上書きも。でも、こいつはやらなかった。あるいは、できなかった。たぶん、後者だけど。いずれにしろ、結果からみれば、僕はラッキーだった。なら、こいつにもラッキーをおすそわけしなければね」


「お前がそうまで言うなら、従うが」苦々しさを含んだ声が吐かれる。


「それにね。こいつと僕らは似た者同士。こいつの中は恐怖と迷いでいっぱいだ。それにもかかわらず、僕らの前にたちはだかったのはどうしてだと想う。仲間を守ろうとしてだ。たいしたもんだと想わない?

 それにね。こいつの正体。想像できる。女王だよ。ふふ。全部、こいつを上書きしようとして分かったんだけど」


 タナトスもヒュプノスもこちらの存在に気付いておらぬのか、いずれにしろ、等閑にふされておった。


「なら、どうする?」


「ふふ。タナトスはそればっかりだね。でも、ほら。さっき仮死の魔法を使う前に、タナトスは言っていたじゃない。こいつら、どうでもいいって。あれは嘘じゃないよね。それは、僕にも分かる。僕もそう想うもの。こいつらはここに置いて、他に行こうよ。もっと楽しいことが待っているよ」


「ああ。そうだな。お前がそう言うなら、そうしよう」


 タナトスはヒュプノスに肩を貸しつつ、立ち上がる。


「待て」俺は声をかける。ここで初めてこちらの存在に気付いたという風に、2人が見る。「皆に死の魔法をかけたまま、立ち去るつもりか?」


「心配するな。上書きはしていない。それにこいつらは、死んでも復活する」


「みだりに死を与えることはあるまい。解いて行け」


 一端は、腕の中のヒュプノスを床に寝かせ、立ち上がり、不審な者を見る目つきで睨む少年が言うには、

「そもそも。誰だ? あんたは」


「第23人格Cだ」


「タナトス。ダメだよ」とヒュプノス。


「分かっている。心配するな。こいつらはどうでもいい。解いてやってもいい。ただ、新第3人格の記憶から分かったが、あんたは第4人格の弟子らしいな。そして、第4はあんたのAやBといっしょにダンジョン『地獄巡り』に入ったらしい。お前も分岐体なら、AかBと連絡が取れるんだろう。ならば、第4人格に誓わせろ。俺たちを追わぬと」


 俺の見聞きしているものは、AとBも見れており、彼らがかたわらにおる第4人格に説明しているのが聞こえて来る。そして第4人格が了承するやりとりも。


「誓うそうだ」と教える。


 すると、タナトスのかすれを帯びた声がひとしきり聞こえ、おこりの如くに震えておった者たちの体がそれから解放されて、休まるのが見て取れた。


 タナトスは再びヒュプノスに肩を貸し、立ち上がらせる。


「せっかくだ。これをやろう」


 そうして俺は右腕の腕輪を外す。アンロックのパスコードの検索に多少時間を要したが。そして、俺はぽいっとばかりに放り投げたが、タナトスは受け取らず、腕輪は床に落ちて、カランと音を立てた。


餞別せんべつ代わりだ。それをはめれば、筋斗雲を扱える」


 タナトスは興味を示さなかったが、ヒュプノスが腕を伸ばすのを見て、タナトスが拾い上げ、渡す。


「いいものをもらったね。タナトス」嬉し気な声があがる。「でも、ブカブカだよ」自らの腕にはめてみて、そう言う。


「孫悟空専用の乗り物だろう。要らぬのか?」


「少なくとも、俺は要らぬ。それに、それがあれば、そなたらは遠くに行ける。誓いは誓いで大事だが、そもそも顔を合わせなければ、争いにもならぬ。それはそれで、俺にもねがったりかなったりだ」


「そうかい。なら、もらって行くよ」とタナトス。


「ありがとう。おさるさん」とヒュプノス。


 お猿さんはねえだろうと想いつつ、俺は二人が筋斗雲を従えて立ち去るのを見送った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ