77番地 レイド20
第23人格Cは。結局、孫悟空の機体でダンジョン『運ゲー野郎』を目指しておった。さすが、神将、猿もどきよりずっと早えぜ、という訳である。初めから、こいつで走れば良かった。
ただ、筋斗雲が付いて来るのが不気味であり、機体のROM内の取説を検索すると、右の腕輪を外せば、憑いて来なくなると分かる。ただ、何かの悪さをする訳でもなくあるまいと想い、そのままにする。そう、俺が乗りさえしなければ、問題無し。
俺は運ゲー野郎の最初の間に入る。次の瞬間、部屋の様子が変わる。しまった。忘れていたぜ。ランダム配置の仕掛けを。
どのダンジョンだ? ここは?
部屋の奥に通路が見え、そちらをうかがうが、いないのか、隠れているのか、モンスターの姿は見当たらない。
「誰かおらぬか。俺は運営使者の仲間だ。急ぎ運ゲー野郎に行きたいのだ。案内してくれぬか?」
待っていると、通路の向こうから巨大な耳をした小動物が近づいて来る。ただ、それもある距離まで。どうやら、こちらを警戒しておるらしい。まあ、そもそも孫悟空の機体を見るのも初めてであろうから、致し方ない。
どうするかと困っていると、その小動物がいきなり近づいて来て、ジャンプ。そして、こちらが油断しておったということもあるが、腰帯にさしておった如意棒を奪われてしまう。
「おい。何をする」そう言い、取り返そうとするが、相手の目的がそれではないと分かる。それに結び付けておった札の方である。
そうして、想い出す。このお札は竜の脱皮――こちらは肩からはおっておった――とともに、運営使者が基地――第6人格が換装しておった――に置いてくれていたものであった。『これは目印代わりとなるが、身に着けておけ』との注意書きとともに。
小動物は如意棒を俺に返してから、通路の奥へと何ごとかを叫ぶ。そうすると、隠れておった他のモンスターもぞろぞろと出て来る。
その中に猿もどきに似た者――ずっと小さい――がおり、「何用ですか」と猿もどき語で問うてくる。
俺は己が運営使者の仲間で、運ゲー野郎へ攻め込んだ敵についての重要な情報があるから、そこへ案内してくれと請うた。
「ついて来てください」と言い、先導するその者を追う。
そうしながら、俺は第23人格A・Bとのリアルタイムでの視覚・聴覚野の共有化を試みる。既になしておる「記憶野の共有」の応用技で、より難易度は高いが、俺たちにとっては慣れたもの。互いが見ているものを見、聞いているものを聞くことができる。
結果、俺はにんまりすることになる。『地獄巡り』のマスターが勝利したとの報告を丁度受けているところだった。更に、それへの返答において、何と、母上をしりぞけたと分かった。
あとはここ。マスターたちにタナトスとヒュプノスと戦う際の注意点を知らせなければ。