74番地 レイド17
鉄チンは倒れ伏したままのマスターと共に、戦況を見つめておった。
『存在の空処』の神将ミノタウロスはまさにその剛力にて攻め込み、同時に姿なき陽炎3体が隙あらばと攻撃を加えておる。敵は防戦一方に追い込まれておった。さすがにこのままではヤバいと想ったのであろう。敵は3体に分離して戦い始めた。戦況はほぼ5分となった。合体時には4対1と明白だった数の上での有利が、4対3となればほぼ無くなったに等しいゆえであることは、明らかであった。
それを見て、鉄チンはふと疑問に想う。どうしてマスターとの戦いのときは合体して戦ったのだろうか? マスターの巨躯に対抗するため? それもあり得ると想えたが、もうひとつの可能性に想い至る。マスターの雷撃の威力は神将雷公を上回り、空前絶後。それに耐えるためではないかと。あくまで推測に過ぎぬが、合体することによりアビリティが変化し、それが雷耐性を最大にするのであれば。
「マスター。敵に雷撃を試みられてはいかがです?」
「何ゆえだ。敵に通じぬことは分かっておる」
そこで鉄チンは自分の考えを説明する。ただ、マスターは浮かぬ顔のままである。そうして言うには、
「あの陽炎という者たち。あれらは我の脱皮をまとっておらなかった。大丈夫か?」
「言われてみれば、確かに。姿が見えぬのを利しての戦い振りは明らか。脱皮を着れば、薄物とはいえ、見えなくはない。とすると、助太刀に入る際に、脱皮を脱いだ可能性は高いですね。むむ」
ただ、鉄チン。閃いた。というか、初戦でその戦法を用いておったのだから、そこに想いが至るのは、いわば必然。
「マスター。雷撃をのせた私を敵に投げ当ててください」
「おお。それならば」
マスターは苦悶の声を上げつつ、態勢を起こすと、私を天に向けて振り上げ、そこで私のみならず、自らの全身に雷撃を落とす。
(いや、そんな最大級の雷撃にしなくても。すでに気絶しそうです)
脱皮により体に実害は無いとはいえ、これほどの雷撃となれば、衝撃も最大級。
そうしてやはりぶん投げられ――初戦よりずっと速い。そして、やはりゴチン。2度目の衝撃も最大級。そうですね。雷撃もぶん投げもマスターの心が乗っておりますものね。仇を討ちたいとの。
そうであれば、私の気絶も避けられそうにありません。そうして地に落ちた私の目には、敵の一体が膝から崩れ落ちる様が見えた。気絶まぎわ、私はマスターを見た。目が合ったマスターにその意は伝わったはずである。
(やりましたね。最強コンビ爆誕ですわ)