72番地 レイド15
「そなたとは少し話をしてみたいと想っておった。何せ、そなたはあの修復子たちをずいぶんと可愛がっておったからのう。こうは想わぬか? 我らは修復子の時代に戻るべきと。我らの進化の道は誤りであったと。上書き能力は捨てるべきではなかったと」
不意に阿修羅王のかたわらに移動した陰・陽(のっぺらぼうの黒スライム)が男女2声にて問いかける。
「わしにまで戯言を言うか」
阿修羅王が左右の3腕(計6腕)を組み替えて次々に呼び出した権現は、火師、土師、金師、木師、雲師、霧師、そのいずれをも、卦を出して防いだ陰・陽は最後の雷師権現に対しても、
「64卦中の『随』を得た。雷は沢の中に安息すべし」
と告げるや、それまでこの間を荒れ狂っておった雷鳴がぴたりと止んだ。
「なかなかににぎやかな術を見せるのう。あの子に部分上書きを受けたそなたにしてはのう」
「あの子?」
「忘れたか?」
(部分上書き? あれはそうだったのか? それゆえ、わしの機体を操る能力に問題が生じていたのか?)
疑問が胸中に渦巻くも、口に出すを得たは次の言葉。
「忘れるものか? あれと何のつながりがある」
「無論のこと。それは秘密よ。正しき占いの結果を得るために、そしてそれを必然とみなしうるためには必要なこと。いろいろ互いの意を知っては、どうしても忖度が生じる。それは、過程としての占い、そして結果としての必然の両方を汚すでな」
「何をしておる。阿修羅王」
不意に横ざまから白猫が薙刀で斬りつける。しかし、裂帛の気合を帯びぬ攻撃ならば、卦を用いるまでもないとばかりに、たやすくよける。
「こいつはあの誤・転生子と何かつながりがある」
「落ち着け。阿修羅王。あれは運営政府内に文書にて報告されている。当然、母上も読むことができる。心理戦を仕掛けて来ておるのよ。気狂いというだけでは飽き足らぬらしい」と白猫。
「気狂いという語はそなたにこそふさわしかろう。まともな奴はそんな武器は用いぬよ。そなた以外の者は知らぬのだろう。その名の下の字は正しくは塵ではなく、『尽くす』、もしくは『尽く』の尽。その意味するは『滅しつくす』、もしくは、『ことごとく滅ぼす』。そして、その本当の効果は」
との陰・陽の言葉をさえぎるは阿修羅王。
「知っておるさ。ここにおるわしらは皆。ゆえにこそ、旧第3人格(白猫)の覚悟に震え、それに応じるために集うておるのだから」