69番地 レイド12
ダンジョン『運ゲー野郎』を目指す第23人格Cであったが、未だその目的地への手がかりを見つけられずにいた。その機体である孫悟空が乗る筋斗雲――全てはこいつのせいであった。何せ、こいつがとんでもなく使いにくい。1回飛ぶたびに宙返り――これはまだ許せるが――その次の瞬間には、どことも知れぬところに至っておる。何か、見知った建築物なり地形なりが現れるまでと想い繰り返しておるが、延々と見だせぬ。
ついには、これは無理だと想いなし、筋斗雲に寝転がってぼーっとしておった。空か。空はやっぱり高いな。上空には雲がたなびいておった。雲もあんなに上にある。地上から見上げるのと、そんなに変わんねえ。でも、何で、あんまり変わんねえんだろう。ああ。そうか。筋斗雲に乗ってるから、想い至らなかったが、そんなに高く浮かんでる訳じゃあねえんだ。
なら、より高く浮かべば……どうなる? より遠くが見渡せるんじゃねえか。そうしたら、手がかりとなるものが見つかるかもしれねえ。なら、試してみねえ手はねえな。
筋斗雲を上に向け、己はずり落ちそうになりながらも、まさに雲の端につかまり、ひとっ飛びする。
視界が暗転し、何も見えなくなる。あまりに高く上り過ぎたせいだろうか?
〈析出個体が迷い込んだ〉
声が聞こえた。というより、声ならぬ声が意識の中にひらめいた。
〈個体は必然の呪いにかけられておる〉
〈我らは祝福されたる偶然に留まるべきだ。なればこそ、永遠の非在のうちに安寧を得られる〉
〈母上は、非在の持つ永遠性に耐えられなかった〉
ふと想う。もしや、ここは母海なのか? これまで母海が具体的にどこにあるかなど、考えたことはなかった。自らが至れるようなところにあるなどとは想いもよらなかった。しかも、それが我らの頭上にあろうとは。
〈異物はあるべきところに戻せ〉
〈呪われたる必然の世界へと〉
〈不幸なる存在の時空へと〉
頭にひらめく言葉は永遠に止まぬと想われたが、やがてまったく聞こえなくなり、代わりに眼下に大地が見え出した。どうやら少しずつ落ちているらしい。
何となく、地上の木々などが見定められるほどに降りたころ――それでもまだ最初飛んでいた高度よりずっと高い――目立ち、加えてよく見知っているものをついに見だした。第6人格が換装していた基地である。結局、最初のところに戻っちまってるじゃねえか。
彼ははやる心を抑えつつ、飛び降りても大丈夫な高度まで下がるのを待つ。孫悟空の機体に乗り慣れていないので、最悪、落下の衝撃に耐えられずということもありえたが、そこは一か八かでやるしかなかった。ここで時間を浪費しては、運ゲー野郎と敵の戦いに間に合わぬとなりかねぬ。
そして、そのあと基地へと向かい――そこには己が乗り換え前に乗っておった猿もどきがあるはずであった。再度、それに乗り換え、運ゲー野郎に向かう気であった。
「呪われてるのは必然の世界じゃねえ。この孫悟空に乗る俺だ。そして不幸なのは存在の時空じゃねえ。今の俺だ」
心中の想いが、想わず口をついて出ておった。