67番地 レイド10
「64卦の1たる『師』を得た。地中に水師(=水軍)あり」
すると、荒れ狂う渦上に無数の舟が浮かび、大波に翻弄されながらも、その上にずらり並ぶ弓兵が矢を上へと放つ。となれば、空はまさに矢で満ちた如くとなる。
風神・雷神と阿修羅王は矢の届かぬ高さへと逃げ――この間の天井は既に無きが如くである――他方、白猫と福ダルマは忽然と姿を消す。
「そなたの次元牢か? 入るのはずいぶんと久方ぶりのこと」
2体は、そもそもおった外界(時空)に付着する隠し部屋とでもいいうるところにおった。中におる感じとしては、薄暗がりというほかない境界のはっきりしない空間である。『運ゲー野郎』の道夫のアビリティ「隠し通路」に近いが、ずっと融通が利く。
「嬉しくない通り名だが、そういう用い方もできる」と福ダルマ。
そこから外界をのぞくことはできた。母上の呼び出した舟は、あるいは波に呑まれあるいは互いにぶつかりして、くだけ、やがては兵も舟の残骸も渦の力により水底へと引きずり込まれたのか、まったく見えなくなった。
「しかし、母上の方も攻め手はあると見える。ならば、温存が良策とは限らぬ」白猫は周囲に浮かぶ滅塵6種の中から脇差ほどの短い刀を選ぶ。「母上の背後に出たいが、できるか?」
「正直、どちらが前でどちらが後ろか分からぬ」
「構わぬ。至近距離から不意をつければ良い。合図を送ったら、やってくれ」
そして巨大白猫は1つ大きく息を吐くと、柄を両手で持って正眼に構え、「頼む」との声とともに想いっきり地を蹴る。直後、眼前にスライムの姿。確かに、のっぺらぼうゆえ、至近にても前後不明なるも、やはり裂帛の気合もろとも、そのまま体重をのせて突撃する。
そのはずであったが、目前の母上の体は消失しておった。獲物を捕らえぬままに、掌中の滅塵は己の気合のために刀身から崩れ去り、やがては柄も塵と化す。蓮華にもらったお守りが風に飛ばされて行く。
少し離れたところから、やはり、男女の2声が告げる。
「64卦の1たる『遁』を得た。三十六計、逃げるに如かず」
その黒き体表には白い棒――真ん中で切れているものもあれば、そうでないものもある――が6本横列に並んでおった。