66番地 レイド9
「母上は本当のことを言っておると想うか?」
そう阿修羅王が問うのに対し、巨大白猫が答えるには、
「はったりに決まっておる。渾身の一撃を放てば、滅塵が壊れるというのは、母上も知っていよう。それを防御力が高い卦で防いだに過ぎぬ。無論、母上自身が選んでとわしはみるが。
仮に母上が言う如く、運任せで卦が出るとすれば、わしらに有利になるだけ。もっともわしらは陰陽については良く知らぬ。それゆえの警戒は怠るべきではなかろう」
「なるほど。何にしろ、こちらが攻めれば、母上は何らかの卦で受けざるを得ぬ。そなたの滅塵は切り札ゆえ、急いて用いるのは望ましくなかろう。ここは、まずわしが露払いと行こう。それにこの属性アップの間が、阿修羅王の術にどう感応するのか、楽しみでな」
そのすらりとした体、更には面立ちもほっそりとし、見ようによっては女性の姿かとも見まごう。そして、その6手もやはりすらりと伸びる。これに乗る第6人格は攻撃を命じるだけで良い。あとはオート・モードで阿修羅王がやってくれる。右上手と左下手が結ばれ、その両の手指にて複雑な印をなす。
「雨神権現」
その柔和な笑みをたたえておる口元が開き、生命の息吹の如くの声を出す。雨がどっと振り出し、風神のなす風と混じり合う。たいして時をおかず、巨大な渦となり、陰・陽を呑み込む。
阿修羅王と距離を取った白猫は福ダルマ人形のかたわらへ。今や、2体して宙に浮かんでおった。
「しかし、あれがオートの戦い方とはなかなか信じられぬな。最初の攻撃からして風神との連携を図るとは」
と福ダルマ人形。
「そなたも知っていようが、オート・モードには上書きにまつわる伝承がある。ああした優れた機体には、部分上書きされた戦闘狂の偽・人格が埋め込まれており、オート・モードはその人格が担っておると。それが本当なら、わしらよりうまく戦えたとしても不思議ではない」
「上書きか。種族の黒歴史にほかならぬものに、今のわしらが助けられておるかもしれぬというのも、何とも皮肉なもの」
ただ、やがて荒れ狂う渦の奔流とまったく無縁という如く、陰・陽が浮かび上がって来て、まるで、あえてという如く、その渦のわずかに上――そのスライムの体が触れるか触れぬかのところに留まる。
「64卦の1たる『同人』を得た。大川をわたるに利あり」
男女の二声が告げる。
「あれが偶然に出た卦と想うか。どう見ても選んでおるだろう」と白猫。
「わしらの意思など偶然と同じようなものということかもしれぬ。万物を貫く理と比べれば」