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運ゲー野郎のモブ転生――ダンジョン連合vs運営政府  作者: ひとしずくの鯨
最終部 そこが地獄の一丁目な件
103/130

63番地 レイド6

 竜の脱皮をまとうゆえに、巨大な雷でさえ己を傷つけるを得ぬ。それなのに、マスターの怒気のみなぎりは痛みをおぼえるほどであった。そのマスターの逆鱗がはがれ、血が舞い上がる――敵のやいばがひらめくたびに。


(相性が悪すぎる)

 まったくいくさしておらぬ鉄チン――実質、これが2度目である――にも、それがたやすく読み取れるほどに。


 敵は最初3体で現れたが、合体して一体となった。戦闘が始まってからは、ずっと一方的であった。雷公のはもとよりマスターの雷撃でさえ、まったく通じなかった。恐らく敵はそれに対する完全な耐性を持っているのだろう。


 他方で属性攻撃に対しては、完全な防御を誇るマスターのうろこも、物理攻撃に対してはもろさを見せていた。


 今も戦えているのは、私とマスターのみ、屁コキ野郎とピヨ丸は情け無用とばかりに初撃で斬られた。それに比べれば、しばしのあいだ、戦うを得た雷公も今は地に倒れ伏す。彼の場合、ムチを用いる分、攻撃も通じたように見えたが。ただ、固さよりは変幻自在を特徴とするムチである。加えて、雷撃の乗らぬそれでは、敵に取って脅威ではありえなかったようである。


 マスターが私をつかんでは、敵に放り投げるのは、わずかとはいえ、敵の体にダメージを――実質少しへこます程度に過ぎぬが――与えるゆえ。有効な攻撃がそれのみのゆえ。


 私はつかみあげられるたびに、マスターに訴える。

「どうか、助勢をお受けください。お願いです」

「皆と戦うことは、恥ではありませぬ」

「分からぬのですか。貴方あなたが死ねば、多くの者が悲しむことを」


 マスターはここまで周囲――他のダンジョンから来た応援の者たち――からあがり続ける助太刀すけだちの許可を「ならぬ」の一点張りで、拒み続けておったのだ。


 戦闘のさなか、私の心には1つの不安が生じており、それが消え去ることはなかった。召喚師様のおらぬダンジョンにて死んだら、どうなるだろうか? マスターは、雷公は、復活するのだろうか? 今、想えば、戦闘前にマスターに確認しておれば――召喚師様の死後、負けたことはあるのですかと問うておれば、この心中の不安にさいなまれずに済んだのかもしれないが。しかし、ここまで敗色濃厚になるとは想わなかったのだ。むしろ、何となくではあれ、マスターなら勝てるだろう、そう楽観しておった。


 その不安の源を探せば、女王の発したと伝え聞く布告となる。召喚師様の殺害。何でそんなことをと、理解できなかった。ダンジョンの攻略は、マスターを倒せば完了する。召喚師様の殺害など、まったく不要である。しかもダンジョン中で唯一復活できぬ召喚師様を殺すなんてことは、ただひらすらに非道なる行い。女王がそのようなことを好む残虐な性質である可能性もあったが。


 何かほかに目的があるのではと考えていたのだが、今の今まで想い及ばなかったのだ。しかし、召喚師様の死亡後、そのダンジョンにてはモンスターたち――召喚師様により召喚された者たちが復活せぬとしたら、ダンジョンの完全なる滅亡。それがあらゆるダンジョンに及べば、ダンジョン世界の滅亡に他ならない。なぜ、そんなことを望むのかは分からぬが、それが女王の本当の目的であるとしたら。


 妻のあだを己の力のみで討ちたいとの気持ちは私にも分かる。というより、妻の立場に立てば、嬉しくさえ想うかもしれない。しかし、その妻――殺された召喚師様――が何より望むことは、己の仇討ちではなく、マスターの生のはずである。


 であるからこそ、ゴチンと敵にぶつかるたびに、その衝撃に意識が飛びそうになりながらも、拾い上げられるたびに、諫言かんげんを試みるのである。


 己の体はどうやら想ったより固いらしい。そこは喜ばしく想うものの、しかし応援にかけつけた者たちの中には、敵により有効な――更にいえば致命的な――物理ダメージを与え得るアビリティも武器も持っている者がいるはずである。


 果たして、何度目であろうか、つかみあげられる。ただ、これまで一度もなかったことであるが、そのまま、マスターの巨体が倒れ伏した。そうして、私の目には、マスターへ振り下ろされる敵のやいばが見えた。


 いかつく、凹凸おうとつの激しい姿――私の知るモンスターの中ではゴーレムが最も近い――の敵がふるわんとする凶刃きょうじんが。

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