第10話 戦力向上? 2
最初の勝利のあと、どうであったかというと、連戦連勝とは行かなかった。敵にうまく対応されてしまうこともあったのだ。それと、俺の投げの失敗で顔からずれたりと。
それでも、三、四回に一度は勝てたのだから、まあまあというべきだろう。そして、この間の我がダンジョンの戦力向上は如何に、といえば。
俺は攻撃力上昇1%が2回、防御力上昇1%が5回、アビリティ獲得は0、ちなみに、これは俺が7回死んで得たものである。
一方、勝った――計3回(最初の勝利をのぞく)――方で得られたものといえば。
三助が五色になった。残り2回分の向上はミーたんに行ったらしいと女神様が教えてくれた。戦闘に参加した者――ただし、俺をのぞく。なぜか、俺を除く。何度でも、言う。ダンジョン・マスターたる俺だけを除く。俺は悲しいぞ――には、能力向上の資格があり、誰が受け取るかは運次第とのこと。ミーたん、見ていただけだけどな。
そのミーたん。2回目の戦闘に入る前に、女神様におねだりして、更に高いところ――ほぼほぼ天井に近いところにぶら下げてもらっており、そこから、今も部屋を睥睨しておる。
加えて、ときどき、美しく澄んだ歌声――話すときのガラガラ声からは想像のできぬ――を聞かせておった。ときに清澄な響きとともに深閑な森へと、あるいは幽玄な滝へといざない、ときに、もの悲しさに溢れ、入らぬはずの夕日による暮れなずむ幻景をかいま見せた。
他方、ミーたんに如何なる向上があったかは知らぬ。まさに、触らぬ神に祟り無しとばかりに、俺は近付かぬことを最善としていた。
そして新たに加わったレベル1が3体。これからのダンジョンを背負うであろう新鋭たちである。期待せずにはおれぬ。
まずは、シャクトリムシが巨大になったとしか想えぬもの。その不気味さで相手を怖がらせることはできるかもしれないが、他に何ができるかは不明。シャクトリンゴと彼女が名付けたゆえは、せめて名前だけでも可愛くと想ったか。リンゴを想わせるところは寸分もないとは一応、言っておく。
次に耳のとても大きなリス。頭上に、頭とたいして変わらぬ大きさの耳を並べる。なので、耳はしっかり左右にはみ出し、その全体の輪郭は、あごを基準にいわば逆三角形をなす。もしかしたら、斥候や間諜(かんちょう=スパイのこと)などで役に立ってくれるのかもしれぬ。名はリス吉。スケといいキチといい、果たして彼女は日本の古風な名に馴染みでもあるのか?
そして3体目はといえば。初めて連れて来られたとき、姿が見えなかった。
「ほら。鎌次郎。少しは落ち着きなさい」
彼女にそううながされると、やがて、目の前に姿を現す。それを見て、俺はあまりのことに言葉を失っていた。
プレイヤーを即死という最悪の結末へと導くクリティカル・ヒット持ちの凶悪モンスター。カマイタチであった。両の手は鋭利な刃物そのものであり、そして余りに素早いために一度動き出せば、肉眼で捕らえることは不可能。プレイヤーがレベルが上がっていない状況で出会うなら、まず対処の術のない相手であった。他方で、ゲーム冒頭ではほぼほぼ遭遇しない、ウルトラレアより稀少な存在でもある。