第92話 デジャヴ
本屋でハンゾウさんから依頼を受けた俺は早速東の森へ向かうために本屋を出る。だが、本屋を出てから「折角だから畑に寄って収穫の様子でも見てみようか」などと浮気心を出したら大勢のプレイヤーたちに見つかってしまった。だが、どうやら配達バフ全開の俺についてこれるプレイヤーはいなかったようで、無事に東の森に到着することができた。
ハンゾウさんから配達先として教えられたのは森の奥地にある3つ並んだキノコのオブジェ。そこで前回同様に鍵を使えば隠ぺいが解けて研究施設が現れると言う。
ただ、今回の配達依頼は難易度が高い。前回のような平原の中で目立つ木々に囲まれたオブジェではなく、森の中のキノコのオブジェ。どうやって探せばいいのか。
実はその方法もハンゾウさんから入手済みだ。
受け取った鍵。これがオブジェまで導いてくれるらしい。今回の鍵は目的地に近づいていれば鍵自体がプルプル震える仕組みなのだ。
東の森に入ってポケットの中でプルプルする鍵に注意しながら森を進んでいく。すると嫌でも視界に入ってくる緑のアイコン。そう、薬草の群生地があちこちにあるのだ。それが奥に進めば進むほど目につくわけで…
「ちょっとくらいならいいかな」
『ゆら~?』
ネギ坊からは『どうだろうね~?』ってよくわからない反応。ってことは少しくらいなら採取してっても大丈夫って事だろう。
『ゆ~ら~?』
「え、ブルーゼリー? それなら帰りでも狩れるし。魔好香もあるしさ。でも目の前のこのアイコンは今しか採れないかもしれないじゃん?」
そそくさと薬草の群生地に移動して採取開始。採取できるのは携帯食の材料になる【青草】と低級キュアポーションの材料になる【月光草】。
低級キュアポーションは<毒状態>、<痺れ状態>、<微睡状態>を回復する状態回復ポーション。それぞれに対して【毒出し草】、【月光草】、【陽光草】で作ることができる。
ちなみにこのキュアポーション、中級キュアポーションまでは対抗する状態異常によって種類が変わる。つまり、先の低級状態異常3種に加え、<猛毒>、<麻痺>、<熟睡>の中級状態異常3種の計6種類に対して別々のキュアポーションが必要って訳だ。【低級キュアポーション(毒)】、【中級キュアポーション(麻痺)】ってな感じ。マジョリカ薬房で見てきたから間違いないぞ。そしてこの状態異常は種類が増える可能性が高い。薬房のリストに【???】表示がいくつもあったからだ。たぶんまだ解放されていないってことだろう。
攻略組にとってはちょっと面倒くさい仕様かもしれんが、採取組や調合組にとってはやりがい要素にもなる。薬師の俺としては有り寄りの有りだ。
で、ここで採れる【月光草】が対抗する<痺れ>状態だが、打撃攻撃や特定の魔法攻撃によって体の一部がしびれて動きが鈍くなる状態異常だ。なので俺的には特に必要なものではない。だって打撃攻撃や、電撃なんて受けたらその時点で死に戻り確定だし?
じゃあ、採取しないかというとそれはそれで話は別。何が採れるかに関わらす目の前に広がるアイコン群を見たら採取魂に火が付いてしまうのだ。重なるように見えるアイコンを見ただけで胸が高鳴ってしまう俺って、元々こういう作業が好きなのかもしれない。
という訳で採取に取り掛かるが採取開始と共に驚いた。採取があっという間に終わってしまうのだ。なんでこんなに速く採取できるのか。採取しながら頭を捻ってたら閃いた。
「あ、俺って今、配達中じゃん」
配達バフとピエロ装備によって敏捷値が70越え。そりゃ低級素材なら速攻で採取できるはずだ。
ストレスフリーの採取のすばらしさを全身で感じながら目に入るアイコンを採り漁っていく。
『ゆら?』
「あ、もう少しだけ。ほら、そこにも群生地あるし。そこが終わったらもう止めるから」
ネギ坊が時間を気にしてくるからそろそろ終わらないと。これで最後だ。
そしてそういう時に限ってこんなことが起きる。
「あ、出た。長時間採取。ネギ坊、ごめん、ちょっと待っててな」
【精密採取】のレア採取物効果が発動したらしい。あの【毒毒毒草】を採取した時の超低確率効果。これは期待できる。もしかしたら前に見逃したうっすらアイコンを越えてくるかもしれない。
「あらん、また会ったわねん」
「…?」
長時間採取に入った途端に背後から声がかかる。なんだこれ、デジャヴか? いやいや、デジャブちゃうぞ。はっきり覚えてるし。ってか強烈に記憶に刻まれとる。
「あ、もう何もしないから。逃げないでね」
今度はオネエ様の方だけで話してくる太い声。怖くて確かめられないが、間違いなくあの時のオネエ軍人だ。でも声の感じからして今回は距離を詰めてくる様子はないらしい。
「まずは自己紹介するわね。わたし、シーボーイっていうの。かわいらしい草をお採取するのが大好きなお採取組よ」
…お採取? くそ、採取はよ終われ。
「でね、今はこの森でお採取中なの。やだ、理由? そりゃ、あの時のあなたとの経験がどうしても忘れられなくって」
…ほんと頼む。一秒でもいいから早く終わってくれ。
「あなた今話題のピエロ君でしょ。掲示板で超有名よね」
「え?」
あ、やば。思わず振り向いてしまった。
「あら、こうやって見るとずいぶんとかわいらしいのね。この前は逆光でよく見えなくて」
一瞬だけ短金髪を確認してすぐさま採取に向き直る。
「あ、採取は続けててね。邪魔するつもりはこれっぽっちもないから」
急にあたふたし出すオネエ軍人。いや、話しかけてること自体が邪魔になってることにぜひとも気づいてほしいのだが。
「ただ、あなた今大変でしょ? 例の契約物狙いのプレイヤーが多くて。大丈夫? 追っかけられたりしてない?」
ん? なんだ? なぜ追いかけられてることを知ってる? ってか、例の契約物って。なんで白金貨のこと知ってんだ?
「…」
「あ、その様子だと掲示板見てないでしょ。だめよ、情報収集は大切なんだから。いいわ、この前のお詫びもあるし教えてあげる。これからあなた大変だと思うわよ。なんならGMコールしたらいいわ」
なんだ、シーボーイ優しいのか… ん? シーボーイ? 「Sea Boy」ってことか? 海ボーイ…海坊主?! するとあれか、凄腕スケベハンターの元同僚軍人。そっかそっか、あの海坊主か。
そういう訳でオネエ軍人改め海坊主から掲示板での話を聞いたのだった。一向に終わる気配のない採取を続けながら。
…
…
「…マジっすか」
「ええ、大マジよ」
海坊主から聞いた話はこんな感じ。
イベントで星獣に出会うためには契約物が必要。で、出会う星獣のレア度は契約物のレア度によって変わる。レア度の高い契約物は格の高い住民から貰えるらしい。でも、格の高い住民は仲良くなるハードルも高い。そんな状況で、ピエロ服と住人とのやり取りが以前から掲示板で話題に上がっていた。そこから俺が住人からの信頼度が高いんじゃないかということになる。で、「さてはこのピエロ、レア度の高い契約物を持っているに違いない」ということになった。そこでレア度の高い星獣と出会うために俺をパーティーに誘ってゴブリン討伐したい奴らが街中を跋扈していたらしい。
なるほど、そういう事だったのか。
「どうする? GMコールする?」
海坊主が心配そうに聞いてくる。聞いてくるが、なんと、このタイミングで俺の採取が終わる。
【氷華草】
陽光が届かない極寒の地で悠久の歳月を経て開花した決して融けることのない氷の花。砕氷竜が好んで食す。
…もう、また竜とか出てきているし。物騒だって、マジで。牢屋行きとかやめてくれよ。
❖❖❖❖レイスの部屋❖❖❖❖
【爆炎草】の次は【氷華草】かあ。
小僧、牢屋行きはお勧めできんぞ。
王都はそんなに甘くねえからな。
MJとかMKとかMSとかSRとかは違うぞ。
ってか、マジで小僧が王都連れていかれたら王都解放するのか?
どうすんだろな?
――――――――――――――
◇達成したこと◇
・採取【青草】【月光草】【氷華草】
・海坊主とお話しする。
・指名手配騒ぎの理由を知る。
◆ステータス◆
名前:スプラ
種族:小人族
肩書:マジョリカの愛弟子(EX)
職業:上級薬師
属性:なし
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:1
耐久:1(+3)
敏捷:1(+13)
器用:1
知力:1
装備:ただのネックレス
:聖魔のナイフ【ドロップ増加】
:仙蜘蛛の道下服【耐久:+3、耐性(斬撃・刺突・熱・冷気)】
:飛蛇の道下靴【敏捷+13】
:破れシルクハット
固有スキル:【マジ本気】
スキル:【正直】【薬の基本知識EX】【配達Lv10】【勤勉】【逃走NZ】【高潔】【依頼収集】【献身】【リサイクル武具】【採取Lv10】【採取者の勘】【精密採取Lv3】【調合Lv10】【匙加減】【投擲Lv10】【狙撃Lv2】【鍛冶Lv7 】【調薬Lv10】【団粒構造Lv2】【農地管理Lv4】【農具知識EX】【料理Lv1】【広範囲収集】【遠見】【工作Lv1】【釣りLv1】【木登り】【よく見る】【自動照準】【下処理】【火加減】【創薬Lv2】
所持金:約845万G
称号:【不断の開発者】【魁の息吹】【新緑の初友】【自然保護の魁】【農楽の祖】【肩で風を切る】【肩で疾風を巻き起こす】【秘密の仕事人】【秘密の解決者】【秘密の革新者】
従魔:ネギ坊[癒楽草]
◎進行中常設クエスト:
<薬屋マジョリカの薬草採取依頼>
〇進行中クエスト:
◆契約◆
名前:ネギ坊
種族:瘉楽草[★☆☆☆☆]
属性:植物
契約:スプラ(小人族)
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:1
耐久:1
敏捷:0
器用:1
知力:5
装備:【毒毒毒草】
:【爆炎草】
固有スキル:【超再生】【分蘖】
スキル:【劇物取扱】【爆発耐性】
《不動産》
畑(中規模)
農屋(EX)
≪雇用≫
エリゼ
ゼン
ミクリ




