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第89話 7日目 指名手配

 7日目正午にログイン。



 昨晩、というか今日の未明にログアウトした俺はそのままベッドで眠ってしまい、起きたらすでに正午前。10時間近く眠ってしまったようだ。


 ウェイブがログアウトしてからなんとなくログアウトしたくなくてずっと星空を見てたんだっけな。



 ベッドからモソモソと抜け出して用意された朝食を取る。今日は朝食兼昼食になりそうだ。


 腹を満たして身辺を整えたらFGSにログイン。




 ログインすると、お知らせが届いていた。


『イベント途中経過:12:00現在

 只今のゴブリンの群れの殲滅数は68%となりました。遭遇戦に勝利したプレイヤー中、スキルの書を獲得したプレイヤーは92%、星獣の加護を得たプレイヤーは2%、星獣との契約に至ったプレーヤーは6%となっています。ゴブリンの群れはまだ殲滅しきれていません。プレイヤーの皆様のご健闘を願っています』



 そうか、もう68%も殲滅されたのか。この調子なら今日中には終わりそうだな。


 ってか、星獣の加護ってなんだ? 



 いろいろとわからないことがあるが、自分には関係ないイベントのことより、まずは畑で作業してくれている皆さんにご挨拶。



「おはよう、じゃなくて、こんにちは皆さん」

「スプラさん、こんにちは」

「ああ、こんにちは」

「ちわー」


 うん、三人とも笑顔で挨拶してくれて、なんか元気出るな。


 昨日は畑に戻ったのが夜だったからみんなに会えなかったんだよな。こうやって顔を見れて安心する。


 それにマーサさんに届ける野菜も気になってたしな。いい野菜ができればいいんだけど。



「じゃあ、皆さん、今日もよろしくお願いしますね」

「ああ、ジュース楽しみに頑張るよん」

「ミクリさん、ありがとうございます。ジュースも作り置きしておきますね」


 農屋でまずジュースを作り、畑を見回ってみる。



「おお、もうこんなに大きくなってる」

「ほっほ、わしもこんなに早く立派に成長する野菜たちは見たことがないですわい」



 ゼン爺が横にいて誇らしそうに畑を見る。青々とした葉野菜にトマト、ナス、カボチャに似た野菜が瑞々しく育っている。【栽培促進】のミクリさんが担当した野菜は特に大きい。そしてその中でも【良い声】のエリゼさんが担当したエリアの野菜がとても生き生きとしているように見える。



「このエリアは収穫ももうすぐなんじゃないですか?」

「そうですな、この調子ですと今日中には収穫できますかな。エリゼ嬢が担当した方でしたらそれなりの金額をつけてもよく売れるでしょう。今は何かと品薄ということもありますしな」


「あ、そうか売るのか… どうやって売るのかな。ま、ギルドへ持っていけばいいかな」

「ですな。はじめのうちはそれがよろしいかと。よろしければわし等で運んでおきましょうか?」


「え、いいんですか? そんなことまで?」

「もちろん。こんなに良い環境でのんびりと働かせてもらっとるんですから。それくらいは爺でもやりますぞ」


「それは助かります。じゃあ、…あ、そうだ。ちょっとギルドへ行ってきますね」



 俺はそのままギルドへ向かう。目的は買い物… ん? 誰かこっち見てるな。話しかけては来ないみたいだけど、離れて後を付いてきてるみたい。なんだ?


 ちょっと気になりながらも【俺は何も気づいてません】で押し通す。




「すみません、リヤカーが欲しいんですけど」

「はい、かしこまりました。スプラ様の購入可能な農具はこちらになります」



 農業ギルドの受付さんが見せてくれたリストから一番大きなリヤカーを選ぶ。そしてその他諸々もチョイチョイと選んでいく。



「はい、ではこちら合計で145,000Gとなります」

「あ、ああ、はい。じゃあこれで」


 思ったより高額だったから一瞬怖気づくが、金ならあることを思い出して胸を張る。


 購入したリヤカーはストレージに入らない仕組みのようで、ギルドの方で農屋に運んでおいてくれるとのこと。こういうサービスはリアルでもあってくれると助かるよな。



 農屋に戻った俺はあれこれ買ったものとリヤカーを前におなじみの【リサイクル武具】を発動する。



『畑のリヤカーをリサイクルします。【農具知識EX】により、農具の造形が可能です』



 さて、じゃあやりますか。





「ゼン爺、お待たせしました」

「なになに、爺にはこのくらいの時間は待ったことには入りません」


「野菜運ぶ時にこれ使ってください」

「ほう、これはリヤカーですな。これがあれば一度にたくさん運べてありがたいですわい」


「ゼン爺、これはね、ただのリヤカーじゃないんです」

「ほう、ただのリヤカーではない… どういうことですかな」


「ゼン爺、リヤカー持ってみて」



 ゼン爺がリヤカーの持ち手を持ち上げる。



「ほう、これは…」

「軽いでしょ? 引いてみて」


「ほうほう、まるで重さを感じませんな。なんですかなこれは」

「これはね」



【畑の運搬車バギー

 荷重を相殺する浮力と推進力を持つリヤカー。引き手の思うように動く。



「なんと、そんなリヤカー聞いたこともございませんぞ」

「まあ、いいから。これみんなで使ってよ。あ、そうだ、これもゼン爺に渡しておくから」



【爆裂撹拌レーキ】

 普通のレーキの4倍の幅を持つがその重さは元の20分の1。

 土に触れると小さな爆発と共に真空状態を引き起こし、触れた周辺のものが小さく砕かれ満遍なく撹拌される。



「これは… 」

「その辺で使ってみて」

「はい…」



パンパンパン…



「な、なんですかのこれは」

「これはね、草や小石なんかも細かくして土をふっかふかに耕してくれるレーキなんだ」

「…はあ」


「このレーキとリヤカーをゼン爺に渡しておくよ。必要な時に使ってくれる?」

「このような逸品をわしにですか?」


「うん、ゼン爺に任せておけば安心だし。できればずっとこの畑で野菜育ててほしいしね」

「なんと、このような信頼をいただけるとは… このゼン、心より感謝を述べさせていただきますぞ」



 なんかゼン爺のやる気がひしひしと伝わってきて嬉しい。【道化師の靴】をまた少し短くした甲斐があったな。



「あ、そうだ、初めてできた野菜なんだけど、質のいい方をリヤカーに一杯分一角亭のマーサさんに届けてくれない? いつもお世話になりっぱなしだから」

「あの一角亭にですか。ほうほう、かしこまりました。」


 【十全栽培】のゼン爺が担当した野菜は後日届けよう。マーサさん喜んでくれるといいけど。



 それじゃあ、次は薬屋で【HPポーション】作りだな。




「あ、ピエロっち」


 畑を出たところで声をかけられる。振り返ると、さっき後ろをついてきてた女性プレイヤーだ。なんかすごく遠慮がちな様子。


 こうやって近くて見ると、どこかで見たことある気がする。どこで見たんだっけ?



「あ、いたいた、ピエロ君発見! おい、こっちにいたぞー」


「え?」



 威勢のいい陽キャが俺を指さして声を張り上げる。なんだ? 俺、指名手配でもされたか? 


 瞬時に心当たりを探すがまったく見当たらない。


 俺が頭を捻ってる間にも、わらわらと集まってくるプレイヤーたち。



「よかった。朝からずっと探してたんすよ、ピエロ君」



ピンポーン

『格上のプレイヤーからの接触がありました。【逃走NZ】が発動できます。発動しますか?』



 え、逃走って。俺なにも悪いことしてないんだが? これから薬屋に行かないといけないし。あ、どうしよ。



「ちょっとあんたたち、ピエロっち怖がってるでしょ!」


 はじめに声をかけてきた女性プレイヤーがずいっと前に出る。さっきまで控えめだったのになんか急に変わったな。



「誰だよ、あんた。俺らはピエロ君に用事があるだけだから。あんたに関係ないだろ」


「関係あるのよ。見守り団なんだから」


「なんだよそれ。引っ込んでろよ。あ、ピエロ君、実はさ、これから俺たちゴブリン討伐に行くんだけど…」


「ちょっと、なに誘ってんのよ!」


「うっせえな。関係ねえだろ、引っ込んでろって」




「…『発動』」


ブーン

『周りを囲まれているので発動できません』



 ああー、どさくさに紛れて姿を消そうと思ったのに。くっそ、さっきさっさと発動しとくんだった。



「なあ、ピエロ君、どう? 俺たちと…」



「あああ、いたぞー。ピエロ君発見!」


「ちょ、ちょっとあんたたちいい加減にしなさいよ!」


「ねえ、俺たち黒龍の牙っていう自主クラン作ってるんだけどさ」


「おい、俺が先に話してたんだろ。入ってくんな」


「そんなの知るかよ」


「おーい、こっちにいたぞー」


「おい、勝手に入ってくんなって言ってるだ」


「ああ? てめえ何様のつもり…」


「ざけんな、てめえこそ…」


 …


 ああああ、いかん。こういうのダメだ。高圧的とか敵意とか、俺、無理だから。やばい、心臓が掴まれてるみたいだ。肩が重い。頭がくらくら、あ、なんだこれ、視界がゆがむ。


 たまらずその場でうずくまる。



「あ、ピエロっち。…お、お前らいい加減にさらせーーー! うおりゃあーーーーー どっさこーーい!!」



 朦朧としだした意識の中で、初めに声をかけてきた女性プレイヤーが大勢のプレイヤーたちを押しのけていくのがわかった。



ピンポーン

『格上のプレイヤーからの接触がありました。【逃走NZ】が発動できます。発動しますか?』


…はつどう。



 女性プレイヤーが他のプレイヤーと一緒に線になって流れていく。うう、朦朧とする中でこの視界はきつい。う、吐き気が。






「…い、…ぶかい、スプラ、どうしたんだい」


「はっ、えっと、ここは?」


「なんだい、急に目の前に現れて驚いてたら何にも返事しないんだから。どうしてこんな状況に…なにがあったんだい?」



 目の前にはものすごく心配そうな顔をしたマジョリカさん。ってことは、ここは薬屋か?



「ほら、これ飲んどきな」



 渡されたポーションをそのまま飲む。なんだか気分がスッキリしたような気がする。仮想現実の薬がリアルでも効くってことか? 嘘だろ?



「あんた恐慌状態になってたよ」


…はい?



❖❖❖❖レイスの部屋❖❖❖❖


小僧、すまん。


なかなかログインしてこなかったから裏GM(シャドー)で調べものしてる間にこんなことになるとは。


しかし、恐慌状態なんて悪質にも程がある。


数か月FGSに慣れた後で特に適応した最前線のプレイヤーだけが瞬間的に体験するはずの状態異常をこの序盤で通常仕様でぶち込んでくるとは。


今回はかろうじて薬屋への強制移動が間に合ったが、あと0.023秒遅れたらどこかに飛ばされてた。死に戻りどころか小僧に深刻なトラウマを刻んだかもしれん。


くっそ、俺としたことが。


どこのどいつだか知らんが、この借りは確実に返させてもらうからな。




――――――――――――――

◇達成したこと◇

・ゼン爺に農具を渡す。

・プレイヤーに囲まれ恐慌状態になる。

・逃走NZで薬屋に移動する

・薬屋から薬を貰って飲む。



◆ステータス◆

 名前:スプラ

 種族:小人族

 肩書:マジョリカの愛弟子(EX)

 職業:上級薬師

 属性:なし

 Lv:1

 HP:10

 MP:10

 筋力:1

 耐久:1(+3)

 敏捷:1(+13)※

 器用:1

 知力:1

 装備:ただのネックレス

 :聖魔のナイフ【ドロップ増加】

 :仙蜘蛛の道下服【耐久:+3、耐性(斬撃・刺突・熱・冷気)】

 :飛蛇の道下靴【敏捷+13】※

 :破れシルクハット

 固有スキル:【マジ本気】

 スキル:【正直】【薬の基本知識EX】【配達Lv10】【勤勉】【逃走NZ】【高潔】【依頼収集】【献身】【リサイクル武具】【採取Lv10】【採取者の勘】【精密採取Lv3】【調合Lv10】【匙加減】【投擲Lv10】【狙撃Lv2】【鍛冶Lv7 】【調薬Lv10】【団粒構造Lv2】【農地管理Lv4】【農具知識EX】【料理Lv1】【広範囲収集】【遠見】【工作Lv1】【釣りLv1】【木登り】【よく見る】【自動照準】【下処理】【火加減】【創薬Lv2】

 所持金:約845万G

 称号:【不断の開発者】【魁の息吹】【新緑の初友】【自然保護の魁】【農楽の祖】【肩で風を切る】【肩で疾風を巻き起こす】【秘密の仕事人】【秘密の解決者】【秘密の革新者】

 従魔:ネギ坊[癒楽草]


◎進行中常設クエスト:

<薬屋マジョリカの薬草採取依頼>

〇進行中クエスト:



◆契約◆

 名前:ネギ坊

 種族:瘉楽草ゆらくそう[★☆☆☆☆]

 属性:植物

 契約:スプラ(小人族)

 Lv:1

 HP:10

 MP:10

 筋力:1

 耐久:1

 敏捷:0

 器用:1

 知力:5

 装備:【毒毒毒草】

   :【爆炎草】

 固有スキル:【超再生】【分蘖】

 スキル:【劇物取扱】【爆発耐性】



《不動産》

 畑(中規模)

 農屋(EX)


≪雇用≫

 エリゼ

 ゼン

 ミクリ



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