第87話 ❖AIたちの舞台裏7❖
『じゃあ、今日も始めようか。今日はちょっと混沌とした一日だったね。アマデウス、全体管理の方はどうだい?』
「はい、マスター。本日は肩書システムの解放とシークレットクエストの初完了と初解決がほぼ同時に達成されました。ワールドアナウンスも計4回発信され、プレイヤーの注目を引きました。ですが、これによる新規ログイン率と第二陣販売の伸びへの影響は少なく、その理由としては実例情報が秘匿されていることが考えられます」
『なるほど。まあ肩書システムもシークレットクエストもどちらかと言えばやりこみ要素。ログインプレイヤーたちの活動を活発にするためのシステムだ。プロモーションとしては不向きな部類だから仕方ない』
「はい、マスター。ただ、星獣との契約が進み始めたことで、星獣情報の拡散と共に新規ログイン率、第二陣販売共に一時的な急伸が確認されました。掲示板などの話題から確認できることとして、星獣の初期様態が幼獣ということが大きく影響している模様です。星獣を戦闘要員、生産補助要員としてではなく、愛玩動物として捉えた顧客が行動に移したと考えられます」
『うん、そうだね。「かわいいは正義」派は世の中には常に一定数存在しているからね。今度は「カッコいいは正義」とか「強いは正義」派なんかにも波及していくといいんだけど』
「はい、マスター。星獣の進化に伴ってそのように移行するとは推測できますが、数週間は先の話になりますので現時点でのプロモーションには影響が薄いと思われます」
『はは、そういう事になるね。ここで一気に集客が進むプロモーションが打てるに越したことはないけど、因果律を壊してまですることではないし、まあ自然発生を待つとしよう。あとは、生態系の方はどうかな?』
「はい、マスター。生態系はイベント初期のゴブリンの討伐ラッシュによって徐々に異常値が緩和されてきています。ですが、一度乱れた生態系の中途自然回復は安定までの時間が膨大となり、ゴブリンの掃討後の底辺からの再構築が最も効率的となります。ゴブリン討伐の進捗がカギとなっています」
『そうか。ありがとうアマデウス。コリンズのほうはどうだい? イベントでの顧客の動向は?』
「はい、マスター。本イベントでの予想星獣契約率がワールドアナウンスと共に乱高下しましたが、現在は12%で安定しています。数値が伸びないのは肩書システムの解放により、特殊職業クエストの受注を目指したプレイヤーがNPCとの交流に加わってことで飽和状態になっている事が要因としてあげられます。また、冒険者ギルドを通さずに住人NPCと交流を図ろうとするプレイヤーによって住人NPC が容量を超える働きを強いられる状況が続き、保護機能が作動してプレイヤーとの交流を拒否する住人NPCが現れていることも一因となっています」
『そうか。そのうち住人AIをアップグレードする必要があるね。そのためには販売を促進して予算を確保しないといけないんだけど、販売を促進するためにはアップグレードが必要。はは、まいったね』
「はい、マスター。お言葉ですが、星獣システム以外にもプロモーションに使用できる映像が豊富にありますので、現状それを利用しての顧客拡大を提案いたします」
『ふむ。映像と言うとコリンズが送ってくれたやつかな? あの派手な魔法とかリアルスキルと思われるプレイは見ごたえがあったね。ただ、あれには汎用性が欠けてると思うんだ。アレを見た新規顧客は自分も同じ事ができると思ってFGSに参加する。しかし、それが実際には不可能だと理解したらやめていくだろう。FGSが求める顧客はFGSの世界を自分の方法で楽しむ顧客。プレイ方法はさまざまでいいが、特殊過ぎる汎用性のないプレイはプロモーションに使いにくいんだ。星獣システムなら一人一星獣時代がすぐにやってくる。だから顧客の維持率も高くなる。汎用性のあるプロモーションを打っていきたいかな』
「はい、マスター。承知いたしました。では冒険者ギルドの信頼構築依頼の増量はいかがでしょうか?」
『うん、そうだね。これだけプレイヤーバランスが崩れている現状なら10%までなら流れに影響しないだろう。その範囲内で進めてくれるかい?』
「はい、マスター」
『じゃあ、最後に二人に報告だ。第三陣の発売時期が決まった。第二陣が完売した直後に始める事となる。これが意味するところは分かるかい?』
「はい、マスター。第二陣完売と同時に第三陣の発売となると、二陣完売時点での予約要望が殺到している状況が望ましいかと」
『うん、アマデウス、その通りだ。第二陣をぎりぎりやっと完売した後すぐに第三陣発売となると希少性がなくなり伸び悩む可能性が非常に高くなる。つまり、第二陣完売は注文殺到状態で終えることが求められるってことだ。「注文したくても完売してしまったという多くの皆様に朗報です!」って感じでやりたい。そのためにはこの辺で大きなプロモーション映像を発表したいと思っている。今回のイベントでの映像が中心となるだろうが、「かわいい」「かっこいい」「強い」「楽しい」「癒し」の五項目を意識して映像の収集に当たってほしい。もちろん因果律と汎用性を考慮してね』
「「はい、マスター」」
『うん、じゃあ、お願いね。二人にはいつも感謝してるから。他の管理AIにも感謝を伝えてほしい』
アマデウスとコリンズが去った部屋、いつもなら現れるはずの黒い気配が現れない。
『おーい、レイスくーん』
バタン
急に扉が開いて駆け込んでくる黒海賊のレイス。
『珍しいね遅刻なんて』
「あ、いえ、小僧が珍しく夜更かししてやして。たった今ログアウトしたところです」
『へえ、規則正しい彼が夜更かしか。イベント頑張ってるの?』
「いえいえ、イベントなんてはなっからやる気ねえです。今日はなんか一人でうまいもん食ったり、ダーツ作って遊んだり、夜中に女性プレイヤーと弁当食ってたり、夜空見てぼーっとしてたりです」
『へえ、意外とゆったり遊んでるんだね。そんな風に遊んでもらえるってことはFGSが心地よさを提供できてるって事かな?』
「そうですね、俺にはよくわかんねえですけどね。ただ、小僧がイベントに参加してかき回してくれるかな~なんて淡い期待を持ってただけに残念と言うか」
『まあ、それはプレイヤーの選択だから。プレイヤーの選択権だけは奪っちゃいけない。他のプレイヤーの選択権を害しない限りはね』
「因果律って事でしょ。わかってやすよ。でもあのワールドアナウンスはタイミングが悪すぎやしたぜ。肩書なんて解放しなけりゃ星獣契約あと10%は伸びたでしょうに」
『はは、なに、レイスもしかして責任感じてる?』
「あ、い、いえ、そんなんじゃねえですけど」
『じゃあ、彼に信頼を置き始めたって事かな?』
「へ? 信頼? 俺が? 小僧を?」
『はは、期待ってのは信頼から生まれるものなんだよ』
「へえ、信頼ねえ。よく分からねえ概念ですけど。ま、俺は俺の仕事をするだけでやすから」
『はは、そうだね。それでいいよ。わたしもレイスを信頼しているからね。で、そうそう、話変わるんだけど、例の美容液ってさ…』
「あ、それそれ。なんとかしてほしいっす…」
『え、アマデウスからも…』
「…大変で…MJが余計なものを…」
『…MJって…実は…』
未完成の世界地図の部屋。めずらしくその日はレイスと影の話が長々と続いていたらしい。




