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第86話 真夜中の一角亭…

 今、ウェイブって聞こえたんだけど? 気のせいか?



「あんたは隠してるつもりかもしれねえけど、もう全部わかってんだよ」

「わたしが何を隠しているというのだ」


「俺たちがドロップの数数えてねえとでも思ってんのかよ」

「あんたがパーティーにいる時だけ半端な数になるんだよ」

「そうそう、初めは多く出てんのかと思ってたけどよ。『ウェイブにドロップがない』って計算するとピッタリくるんだよな、これが不思議と」



 やっぱ、ウェイブみたいだな。なんだ、仲間と揉めてんのか? ドロップがどうのって、あ、もしかしてドロップなしがバレたとか?



「そんなものわたしが知る…」

「もうこれ以上あんたに利用されるのはまっぴらなんだわ」


「仲間たちのほとんどは『微笑みの聖女様』のもとへ行っちまったしよ。MPポーションが手に入らない現状これ以上あんたに付いていくメリットなんかないんだよ」


「お、お前たち…」

「はっきり言ってやるけどよ、円卓の騎士なんてクランはあんたの魔法がすごいからそれにつられてできただけの集団なんだよ。別にあんた自身の魅力に惹かれたわけじゃねえんだわ。で、MPポーションが手に入らない今、あんたはただの役立たずのくそ野郎なんだよ。いつもいつも偉そうに人をこき使ってよ、溜めた金でMPポーションガンガン使わせやがって。それでも俺たちに感謝の一言だってなかったよな」


「貴様っ」

「それにHPポーションもない今、みんな『微笑みの聖女様』の範囲回復魔法についていくのは当然なんだわ。しかもそっちの聖女様はとっても優しいんだと。MPポーション使ってあげたら一人一人に感謝して回るって評判なんだわ。どっかの誰かさんとは大違いだなあ。あんたも『微笑みの聖女様』の爪の垢でも煎じて飲んだらどうだ、あん」


「貴様ら、わたしがどれほど敵を殲滅したと思ってる。貴様ら全員が束になってかかっても勝てない数を倒してきただろうが。だから貴様らのスキルレベルが…」

「はいはい、もういいよ、そういうの。それにもうあんたに貴様呼ばわりされる覚えはねえんだよ。一人で女王様ごっこでもなんでもやってろよ」


「くっ」


 ウェイブを残して他のプレーヤーは去っていった。残されたウェイブがうなだれて体を震わせているのが分かる。



 おいおい、どうした、ウェイブ。らしくねえぞ。そこは最期までガツンと言ってやれよ、なんならあの銀色魔法をぶっ放すくらいでもいいんじゃないか?



「……んだよ、顔がいいとか魔法が強いとか。やっぱり自分たちに都合のいい事しか見てないんじゃん。結局都合が悪くなるとみんないなくなる。こっちがどんな気持ちで……くそ、なんなんだよ」


 その場にうずくまって体を震わせるウェイブ。



 うーん、こんなところまで米粒っ子に似てんのかよ。参ったな、こりゃ。




 ウェイブに面影を見ていた従妹の女の子。米粒くっつけて幸せそうに弁当食ってたあの子が中学生になった頃だったか。


 その頃には米粒っ子も背が伸びて才色兼備ともてはやされてたっけな。妹が俺の後をついてこなくなった頃からその子も俺についてこなくなった。っていうか、他の陽キャの従兄弟たちと仲良くなってた。


 人は変わるものだとしみじみしたっけ。


 もちろん俺は相変わらずコミュ障の大学生。就職活動の真っ最中だった。あの頃はまさかあのクソ上司のいる会社に入ることになるとは思ってなかったな。



 で、爺ちゃんが亡くなった時に親族が一堂に会する機会があった。その通夜振る舞いの席で叔父さんたちがワイワイと息子娘の自慢話に花を咲かせていた。学生ながらに爺ちゃんの通夜の後に話すことじゃねえだろって呆れてた覚えがある。



 で、そこでひと際目立っていたのがあの米粒っ子。芸能人や皇族も通う有名私立中学に首席で合格し、二年生で生徒会会長に選ばれ、兼任の部活のバトミントンでは都の大会で入賞。しかも美人ときたらそりゃ、あの陽キャどもが放っておくわけがない。


 陽キャの従兄弟たちにもてはやされまくってたっけ。



 で、事件は翌日の葬式の後に起こった。


 米粒っ子の父親が贈賄の疑いで書類送検されたのだ。父親は有名会社のお偉いさん。全国ニュースになってしまった。


 そして父親は娘を置いて早々にその場を後にする。そして残された米粒っ子は…見ていられないくらいに陽キャどもにフルボッコにされていた。精神的に。



 誰もいない場所でうずくまって一人肩を震わせてた米粒っ子を見つけて、どうしようもなくなって、近くのコンビニで弁当を買って持っていったんだっけ。


 二人とも無言で食って、何も話すことなく別れたけど、あの時俺にもっと米粒っ子の話を聞いてやったり、受け入れてやったりするだけの余裕があったらといまだに後悔が残る。



 あとから聞いた話では結局父親は証拠不十分で不起訴処分となった訳だが、米粒っ子は私立中学を自主退学を装った強制退学処分。それ以来、父親ともども親族の集まりには一切顔を出さなくなって、その後の事はなにもわからない。



 しゃーないな。




「おやおや、そこにいるのはウェイブ様じゃ?」


「…」



 俺を見上げるウェイブの目は赤く、涙で潤んでいた。FGSの表現の緻密さに驚きながらも、ウェイブの表情に言葉が詰まる。だって、あの時の米粒っ子にそっくりなんだもん。



「泣いてんの? どした?」


「…」



 何も言わないウェイブ。でも今の俺には強力な武器があるのだ。これでも食らいやがれ。



「ジャジャジャジャッジャジャーン、一角亭弁当その2~」


 照れ隠しに某猫型ロボット風に取り出したのは、無料で貰った一角亭弁当。マーサさんのご厚意が存分に詰まっているであろう豪華弁当(予想)だ。



「…!」


 涙があふれていたウェイブの目が弁当を見て見開く。そうそう、それでいい。


 ふと、子供の頃に野良猫に魚をやってみた時のことを思い出してしまったが、今は心の底にしまい込む。



「ほれ、食え食え。嫌なことは食って忘れろ」



 俺からひったくるように弁当を奪い取り、流れるように蓋を開け箸を取り出すウェイブ。恐ろしいほどに動きに無駄がない。そして俺の心の底から顔を出す魚を咥えた野良猫。



「ぷっ」


 俺が思わず吹き出すが、ウェイブはひと睨みしただけで弁当に手をつける。そして一口食べて顔が…とろけた。


 フニャフニャになりながら弁当を食べ続けるウェイブ。お、口元に米粒発見。FGSナイスリアリティー。



 ウェイブが弁当を食べ続けるのを見ながらこの後どうやって話をしようか考える。あの時の米粒っ子に言ってやりたかった言葉を思い返してみる。


 しかし、なかなか思いつかない。俺があの子の立場だったらなんて言って欲しいかったかな。



「あー、おいしかった。生き返ったわ」


 俺が考えている間に弁当を平らげたウェイブが空を見上げる。



「星がきれいだね~。昔クソ親父にクルージングに連れ出されてさ。夜の海の真ん中で見た空もこんな感じだった。星が落ちてくるんじゃないかってくらい迫ってきてさ」


 ウェイブが大きく一息つく。


「わたしさー、コンプレックスの塊なんだよね。だからいっぱい頑張ってきたんだ。勉強もスポーツもなんでも全部頑張ってきた。でもさー、そんなんじゃだめだったわ」


「ん? そう、なん…だ」


「人に必要とされることに依存してるっていうか。自分がないんだよね、わたし」


「…」


「一角亭弁当ありがとね。言っとくけど本当に貴重なんだからね、この弁当。掲示板でトレンドになってたくらいなんだから」


「え、マジで?」


 そんなものを俺は店の入り口なんかで受け取ってしまってたのか。やっちまった。



「最後にいい思い出になったよ。ありがとね、スプラ」


「え、最後?」



「うん、もうFGSやめるからさ。最後にこの弁当食べれただけで自分を捨ててでもクソ親父にFGSねだった甲斐があったよ」


「あ、え?」


「んじゃね。スプラもこんな夜中までゲームやってたらダメだよ。夜は寝ないといいホルモンが出ないんだって。美容にもよくないしね。もう寝なよ、じゃあね、バイバイ」



 そう言ってウェイブが目の前を指先でチョンチョンし出す。そして光に包まれていくウェイブ。


 ちょ、マジでFGS やめんのか? うそ。いや、まだ俺伝えたいこと伝えてないんだが?



 必死で考える。米粒っ子になんて言ってやりたかったか。



「お、俺がそばにいてやるから… 元気出せ!」



 俺が頭から絞り出した言葉にウェイブは目をぱちくり。そのあと、にっこり笑ってFGSから消えていった。


 真夜中の畑、満天の星空にログアウトの光が散っていった。




❖❖❖❖レイスの部屋❖❖❖❖


何だ何だ。MKに続いて小僧もか?

そりゃ自由だけど。FGSはその辺も自由だけど…。


そんなもんプロモーションに使えねえだろ!


あ、いや、素敵な出会いが待つFGSってのもそれはそれで…


…いやいや、ないない。そんな甘ったるいFGSは俺が許さん。許さんぞー。



――――――――――――――

◇達成したこと◇

・ウェイブに一角亭弁当その2を食わせる。

・ちょっと昔を思い出してエモる。

・最後にウェイブに一声かける。



◆ステータス◆

 名前:スプラ

 種族:小人族

 肩書:マジョリカの愛弟子(EX)

 職業:上級薬師

 属性:なし

 Lv:1

 HP:10

 MP:10

 筋力:1

 耐久:1(+3)

 敏捷:1(+14)

 器用:1

 知力:1

 装備:ただのネックレス

 :聖魔のナイフ【ドロップ増加】

 :仙蜘蛛の道下服【耐久:+3、耐性(斬撃・刺突・熱・冷気)】

 :飛蛇の道下靴【敏捷+14】

 :破れシルクハット

 固有スキル:【マジ本気】

 スキル:【正直】【薬の基本知識EX】【配達Lv10】【勤勉】【逃走NZ】【高潔】【依頼収集】【献身】【リサイクル武具】【採取Lv10】【採取者の勘】【精密採取Lv3】【調合Lv10】【匙加減】【投擲Lv10】【狙撃Lv2】【鍛冶Lv7 】【調薬Lv10】【団粒構造Lv2】【農地管理Lv4】【農具知識EX】【料理Lv1】【広範囲収集】【遠見】【工作Lv1】【釣りLv1】【木登り】【よく見る】【自動照準】【下処理】【火加減】【創薬Lv2】

 所持金:約860万G

 称号:【不断の開発者】【魁の息吹】【新緑の初友】【自然保護の魁】【農楽の祖】【肩で風を切る】【肩で疾風を巻き起こす】【秘密の仕事人】【秘密の解決者】【秘密の革新者】

 従魔:ネギ坊[癒楽草]


◎進行中常設クエスト:

<薬屋マジョリカの薬草採取依頼>

〇進行中クエスト:



◆契約◆

 名前:ネギ坊

 種族:瘉楽草ゆらくそう[★☆☆☆☆]

 属性:植物

 契約:スプラ(小人族)

 Lv:1

 HP:10

 MP:10

 筋力:1

 耐久:1

 敏捷:0

 器用:1

 知力:5

 装備:【毒毒毒草】

   :【爆炎草】

 固有スキル:【超再生】【分蘖】

 スキル:【劇物取扱】【爆発耐性】



《不動産》

 畑(中規模)

 農屋(EX)


≪雇用≫

 エリゼ

 ゼン

 ミクリ



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