第79話 マジョリカ印の超美容液
「おい、スプラ、どうしたんだい!」
はっ、いかん、情報が、情報が押し寄せてきて俺を飲み込んでいった。なんだったんだ今のは。
「はい、目が覚めました、ありがとうございます」
「目が覚めただ? 流石に無理させちまったかね。いや、悪かったね。愛弟子なんて取るのは初めてだったからね。わたしとしたことがあんたのひ弱さを忘れてしまったね」
ひ弱さてって。まあ、否定はしませんけど。
「じゃあ、仕上げはまた今度にしておこうかね。疲れをとってからでもいいからね」
「あ、いえ、大丈夫です。今からやります。やらせてください」
万事屋さんが今か今かと待ってるんです。訪問した時の「どうなってるんだ」オーラを見るのが怖いんです。このままじゃ万事屋さんを利用できないんです。
「ふむ、そうかい。スプラがやる気ならわたしも付き合うよ。今は暇だからね」
「暇?」
自分から暇だなんて言うのマジョリカさんらしくないな。いつも忙しそうに振舞ってるのに。
「なんだい、あんた知らないのかい? 南の平原にゴブリンどもが群れを作って大量発生してね。街の物資供給が遮断されてるんだよ。もう街中物資不足で大変さ。おかげでポーション材料すら手に入らないときたもんだ。このマジョリカ様を暇にさせるとはもったいないことをするもんだ」
そっか、そういや物資不足だったな。あ、そうだ。あれだ、あれ。HPポーション買っとかないと。けど、物資不足じゃやっぱ無理かな。
「あ、マジョリカさん、HPポーション買い溜めしたいんですけどやっぱ無理です?」
「ああ、悪いね。HPポーションは一人一つまでしか販売できないよ。これは愛弟子でも変わらないね。って、あんた、この薬房の使用許可出したんだからもう十分自分で作れるだろ」
あ、やっぱそうなりますよね。でも俺普通のHPポーションって作ったことないんだよな。癒楽草使うとMPポーションになっちゃうし。
「作り方なら薬房に書いてあるから見ながら作るといいよ。でも材料はないからね。自分で探しといで。で、それより美容液だろ。さっさと作るよ」
マジョリカさんが作業台に大きな中華鍋を持ってきてコンロにかける。
「さあ、まずはこれに活性炭を溶かした聖水を入れるんだ。ここは一気に入れて構わないからね」
「はい」
「それから火をつける前に毒出し草を丁寧になるべく重ならないように置いていく…」
「はい」
「それから…」
…
…
ピンポーン
『特定行動により【創薬Lv1】のレベルが上がりました』
…
…
「よし、完成だよ。これがこのマジョリカ愛用の美容液。しかもいつもの2ランク上の美容液だ」
【マジョリカ印の超美容液】品質9 ×105
住人に著しい肌の美麗効果をもたらす美容液。
効果:絶大
おおおお、とうとう完成した。
長かったなあ。マークスさんの恋のキューピット役から始まって大渓谷の向こうでネギ坊と出会ったり、森じゃあウェイブと巨大スライム倒して。それが今やっと完成したんだなあ。
しかも品質9とか。もうすぐ10じゃん。品質カンストとかこんな序盤でいいのか? バランス崩してないか心配になるレベルの代物だぞ、これ。
あれ? でもなんで105個なんだ? 100個分作ったはずだったんだけどな。
「じゃあ、スプラ、このマジョリカ印の美容液100本、早速万事屋に届けてやったらどうだい?」
「あ、はい。でもなんか5本多いんですけど」
「おや、余ったのかい。それはもったいないね。仕方ない。これはわたしが責任を持って使うとしよう。実際に使って改良の余地を探しておこうかね」
そう言ってそそくさと美容液5本を自分の前掛けのポケットにしまい込むマジョリカさん。その目がちょっと泳いでるのだが?
ま、ここでとやかく言うほど俺も野暮ではない。マジョリカさんがはじめから垣間見せていたウキウキ感。まあ、そういうことなんだろう。ここはお礼も込めて喜んで進呈させてもらおう。
「そうですか、それは助かります。もし改良の余地が《《あったら》》教えてください」
「そうだね。これだけ品質がいいからね。ないとは思うけど、もしあったら伝えるよ」
「はい、お願いします。あ、マジョリカさん、後片付けはやっとくので先に休んでください。俺HPポーションも作りたいんで」
「ああ、そうかい。じゃあ、わたしはこれで休むとするよ。ポーションの在庫も少ないし、店も閉めようかね。あとはスプラ、薬房は自由に使っていきな。出る時はそのまま出て行けばいいからね」
うんうん、嬉しそうだ。これは早速お試し時間ってことかな。
そっか、じゃあ、これから美容液作るときはマジョリカさんの分も試験品として多めに作っておくかな。
「よし、じゃあ、先に万事屋さんのところへ向かうとするか。さっき見事に飲み込まれた情報も確認したいしな」
『ゆら~♪』
「まずは称号もらった肩書ってやつだよな。設定するとか書いてあったけどどうやるんだろな」
とりあえず歩きながらステータス画面をチョイチョイ。すると、ステータス画面に異変が。
名前:スプラ
種族:小人族
肩書:マジョリカの愛弟子
職業:上級薬師
属性:なし
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:1
耐久:1(+3)
敏捷:1(+14)
器用:1
知力:1
…
…
「なんか項目が増えてるんだけど…」
『ゆ~ら…』
これ、なんか、俺、ヤバいことしちゃったんじゃない? 大丈夫?
いろいろ調べたら、肩書は職業とは別に、一度獲得した肩書はいつでも変更できる仕様らしい。その時々で都合のいい肩書を名乗ることができるようだ。まあ、名刺みたいなものってことか。
だが、その効果がヤバいだろ。なに、ポーション売却価格200%アップって。3倍ってこと? マジかよ。で、称号【肩で疾風を巻き起こす】で30%アップだから…うん、計算できん。ま、めっちゃくちゃ金策できるコンボってことだな。
いや、ちょっと、これ、まさか肩書って他のプレイヤーには見られたりしないよな?
頭の上のアイコンの上に肩書表示されてたりとか…ないよな? 大丈夫だよな? くそ、こんな時にウェイブがいてくれたら確認してもらうのに。
「…うん、とりあえず、外しとこう。必要な時だけね、つけさせてもろて」
とりあえずリスク回避だけしたところで万事屋さんに到着する。
ピンポーン
『ワールドアナウンス:シークレットクエストを初めて完了したプレイヤーが現れました。初めてシークレットクエストを完了したプレイヤーには【秘密の疾走者】の称号が与えられます』
「び、びっくりした」
万事屋さんのドアを開けようとしたら、ワールドアナウンス。シークレットクエストを完了させたプレイヤーが現れた様子。一瞬万事屋さんに到着したことで俺がクリアしたのかと思ったが、その後に称号取得のピンポンさんは来なかった。どうやら別のプレイヤーに先を越されたらしい。
「ま、これで称号持ちが多くなれば、俺も目立たなくて済むしな。他の奴らもどんどん爆弾を抱えてくれればってところか。ごめんくださーい」
「はあい」
エプロン姿のおっとり若奥様風の万事屋さんが静かな笑顔で迎えてくれる。
「万事屋さん、美容液が完成しましたよ」
「美容液? が、どうかされましたか?」
あ、そっか。万事屋さんにはまだ美容液の事話してなかったんだったな。こりゃ失敬。
「あ、すみません、肝心なことをお伝えしていませんでした。実は住人のお客さんを呼び戻すための新商品を考えてたんです。で、薬屋のマジョリカさんや武器屋のマークスさん、教会のステラさんに協力してもらって特別製の美容液を作ってみたんですよ。女性向けの製品です」
「ああ、なるほど、それで美容液ですか。わたしの個人的な悩みにそこまでしてくださるなんて… スプラさんに打ち明けてよかったです。では、早速ですが、まずわたしが1本使ってみてもよろしいでしょうか?」
「はい、もちろんです」
万事屋さんは美容液を手に付けるとそのまま丁寧に顔に押し付けるようにして浸透させていく。
美容液関連は母親がやっているのを見たことがあるが、確か洗顔をして化粧水やらなんやらをつけてあれこれしてから美容液を使っていたはず。よくもまあこんな面倒くさいことを毎日欠かさずできるもんだと感心した覚えがあるんだが…・
万事屋さんは洗顔もせずにいきなり美容液。ここはゲーム仕様らしい。
「こ、これは……」
俺が女性と美容液についての考察に思考を巡らせているうちに、早々と【マジョリカ印の超美容液】を試し終えた万事屋さん。本来20分はかかる作業を1分もかからずに終了した割に、その顔は今までよりも透明感と輝きが何段階も増しているように感じる。自分でも実感したのか急いで鏡を見る万事屋さん。
「な、な、なんですのーーー、これーーーー!」
今までの万事屋さんのキャラが崩れ去った瞬間だった。
❖❖❖❖レイスの部屋❖❖❖❖
え、マジか。MJの美容液ってそんな変わるの?
ヤバない、それ?
あれ? 今、管理側の女たちの悲鳴が聞こえたような…?
――――――――――――――
◇達成したこと◇
・作成【マジョリカ印の超美容液】品質9 ×105
・習得【創薬Lv2】
・万事屋に美容液をお試ししてもらう
◆ステータス◆
名前:スプラ
種族:小人族
肩書:マジョリカの愛弟子(EX)
職業:上級薬師
属性:なし
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:1
耐久:1(+3)
敏捷:1(+14)
器用:1
知力:1
装備:ただのネックレス
:聖魔のナイフ【ドロップ増加】
:仙蜘蛛の道下服【耐久:+3、耐性(斬撃・刺突・熱・冷気)】
:飛蛇の道下靴【敏捷+14】
:破れシルクハット
固有スキル:【マジ本気】
スキル:【正直】【薬の基本知識EX】【配達Lv10】【勤勉】【逃走NZ】【高潔】【依頼収集】【献身】【リサイクル武具】【採取Lv10】【採取者の勘】【精密採取Lv3】【調合Lv10】【匙加減】【投擲Lv10】【狙撃Lv2】【鍛冶Lv6】【調薬Lv10】【団粒構造Lv2】【農地管理Lv4】【農具知識EX】【料理Lv1】【広範囲収集】【遠見】【工作Lv1】【釣りLv1】【木登り】【よく見る】【自動照準】【下処理】【火加減】【創薬Lv2】new!
所持金:約730万G
称号:【不断の開発者】【魁の息吹】【新緑の初友】【自然保護の魁】【農楽の祖】【肩で風を切る】【肩で疾風を巻き起こす】
従魔:ネギ坊[癒楽草]
◎進行中常設クエスト:
<薬屋マジョリカの薬草採取依頼>
〇進行中クエスト:
●進行中特殊クエスト
<シークレットクエスト:万事屋の悩み事>
◆契約◆
名前:ネギ坊
種族:瘉楽草[★☆☆☆☆]
属性:植物
契約:スプラ(小人族)
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:1
耐久:1
敏捷:0
器用:1
知力:5
装備:【毒毒毒草】
:【爆炎草】
固有スキル:【超再生】【分蘖】
スキル:【劇物取扱】【爆発耐性】
《不動産》
畑(中規模)
農屋(EX)
≪雇用≫
エリゼ
ゼン
ミクリ
 




