第75話 ❖AI達の舞台裏6❖
第69話が抜けていましたので追加させていただきました。申し訳ございません。
『じゃあ、5日目の振り返りをしようか。アマデウスからかいいかな?』
「はい、マスター。5日目24時時点で新規ログイン率は前日より1%上昇し90%の大台に乗りました。二陣販売は1.3%上昇し9003本となり、こちらも9000の大台に乗りました」
『うん、じわじわ伸びてきているようだね。前回から懸念されてた生態系の乱れについてはなにか大きな変化は無かったかい?』
「はい、マスター。生態系の乱れについては依然としてプレイヤーズイベントによる局所的なモンスターの乱獲が続いており、各地でモンスターAIの容量を超える状態が定期的に起きています。これによってモンスターAIの成長が著しく加速されており、ブルースライム、平原リス、チックリにおいて特殊個体の出現が確認されています」
『特殊個体か。まあAIはデータ量が増えればそれだけ成長するもの。これだけ特殊な状況が続けば特殊な成長を遂げるものが出てきてもおかしくはないね。で、それらのプレイヤーへの影響はどれくらいかな?』
「はい、マスター。プレイヤーの思考パターンデータの急速蓄積により、プレイヤー行動の先読みが可能になってきています。それにより、一般的な思考パターンのプレイヤーに対しては裏をかく攻撃を始めています」
『ふむ、チュートリアル段階である現状での先読み攻撃はちょっとやり過ぎかな。これから二陣三陣も参入してくるからね。うーん、こういう時はこれまでのデータをひっくり返すようなプレイヤーが出てくるといいんだけどね。安易な先読みで行動して痛い目を見る方がいい。コリンズ、プレイヤーの先読みモンスターへの対応はどんな感じかな?』
「はい、マスター。現状、先読みモンスターにより死に戻ったプレイヤーたちからのクレームは入っていません。まだモンスターAIの変化に気が付いていないと思われます。しかし、これが続いて死に戻り率が跳ね上がれば掲示板などでの情報交換によりモンスターの行動変化が明るみに出ることとなり、大きなクレームに至る可能性は大きいと思われます。現状、先読みモンスターを討伐したプレイヤーは1%にも満たない状況ですので、プレイヤー間での対応策の共有が発生するには時間を要すると思われます」
『その1%未満のプレイヤーの攻略方法は?』
「はい、特殊なスキルや魔法の使用の他、プレイヤースキルによるものがほとんどです。汎用性はありません」
『ふむ、そうか。まあこれも因果律。プレイヤーが起こしたことだ。もうすぐログインが始まる二陣たちに迷惑が掛かる前に、イベントで一陣プレイヤーに責任を取ってもらおうか』
「はい、マスター。今回のイベントは【ゴブリンの大攻勢】。南の平原を中心に大量発生したゴブリンが群れを形成しつつあることを利用しました。そして、現状始まりの街にとって唯一の物資輸送路の南の街道が封鎖され、物資不足が段階的に深刻化します。物資が足りない中で、ゴブリンの群れの撃破を競うイベントとなります。競争を取るか、協力を取るかで結果が大きく変わることが予想されます」
『物資不足に対応しながらのゴブリンの群れの殲滅か。なるほど。プレイヤーの選択が問われるね。ちなみにゴブリン急速減少による環境への影響は?』
「はい、現在、南の平原の生態系の源泉である森の湖に巨大昆布が発生しています。これにより、今後は小型水棲モンスターの活動が活発になり、それを食す森林モンスターが増え、それを狩る平原モンスターも増えていく予定です」
『底辺から回復させていくってことだね。うん、了解。生態系は慎重な見守りが必要だからアマデウスとコリンズ、協力して事に当たってくれ』
「「はいマスター」」
『で、星獣の方はどうなってる? あれがインパクト残せれば新規ログインも二陣販売も二陣の新規ログインもかなり影響あると思うんだけど』
「はい、契約物の入手法が掲示板で共有されたことで、積極的に住民NPCと交流しようとする流れが形成されだしています。ギルドでの信頼構築依頼の受注量も6000%増となっています。イベント中に契約物を取得するプレイヤーは20%に上ると予想されています」
『そうか、20%か。40%まではいってほしかったけど、まあ出だしが悪かったからね。20%でも喜ぼうか。うん、コリンズありがとう。アマデウスもね』
「「はいマスター」」
二人が部屋を出て行き、続いて現れる黒い置物、否、海賊レイス。
『レイス、ダイジェスト見たよ。なに、彼パーティー組んだの? すごい魔法ぶっ放すじゃん彼女。コリンズからも映像上がって来てたよ』
「へえ、ソウデスネ」
『なに? 彼の影が薄かったの気にしてる?』
「ぐ、別に薄くはなかったと思いますけどね。仕留めたのは小僧ですし」
『はは、そうだね。仕留めたのは彼だもんね。それよりあのスライムの解析は終わった?』
「はあ、裏GMで追跡しやしたよ。小僧が早々とログアウトして時間がありやしたから」
『流石レイス、抜かりないね。で?』
「【魔好香】の大量使用と成長したスライムAIの暴走ってとこですかね。あんなもん、始まりの街周辺一帯の生態系を食い尽くすようなバグですぜ。あそこで食い止めてなかったら最悪大規模メンテナンスになるところでやしたよ。数時間前とそっくりデータ入れ替えが必要で2、3日、下手したら1週間かかりやしたでしょうね」
『そっか、深刻な状況だったか』
「【魔好香】の大量使用も例のプレイヤーイベントのせいでしょ? 見ましたぜ、【魔好香】を独占したプレイヤーが高額で販売しているの。めんどくさい依頼をコツコツこなして貯めたやつじゃねえでしょ、あの数。絶対領主側から流れてますぜ。それにプレイヤーイベントなんてプレイヤーだけで起こせるもんじゃねえですし。権力側と絡まなきゃ不可能って言いきれやす。どうしちまったんです? 外部から何か変なもんでも入ってんじゃねえですか?」
『いや、それはないはずだ。うちの技術者たちみんな天才だから』
「根拠のない自信ほど危ういものはねえですぜ」
『はは、わかったよ。現実管理側でも、調べてみるから』
「早々にお願いしやすぜ。仮想管理側もまだ胡散臭い動きが気になりやすから」
『彼の排除問題かい?』
「ええ、俺が動き出してからは向こうの動きもピタリと止まっちまいやがったんですがね。まあそのうちまた動き出すでしょうから目が離せねえんですよ。何しでかすか分からねえ小僧に付きっきりなんてハード過ぎやす」
『そっか、レイスには苦労掛けちゃってるね』
「え、あ、まあ、俺の処理能力にはまだまだ余裕ありやすけどね」
『あ、なんだ余裕あるの。じゃあ、これからもそんな感じで頼むよ。ダイジェスト映像は時間あるときでいいからさ。じゃ、よろしく』
「あ、いや、そういう意味じゃなくてただの照れ隠し… あ、ログアウト…」
未完成の世界地図の部屋。そこにはカラオケセットを値切りながらレンタル注文するレイスの声がしばらく聞こえていたらしい。




