第68話 スライムを探せ
「はあ、我慢できずに逃走しちゃったけど、あのアイコンなんだったんだろうな」
『ゆら~』
「『そうだね~』じゃないだろ。ネギ坊があそこで声出すから」
『ゆらら~』
「あ、違う違う、ごめん。落ち込むなって」
珍しく落ち込むネギ坊。普段元気な奴が元気ない姿を見せてきたら、そらもう慰めるしかない。うちの妹かよ、ネギ坊。
「ま、いいよな。ほら、周りにプレイヤーが全然いないし。ここでスライム狩っていこう」
『ゆら!』
お、元気な声。立ち直りの速いネギは嫌いじゃないぞ。
とりあえず偵察もかねて辺りをうろついてみる。すると木の陰にチラッと見える青いなにか。注意しながら近づいてみる。
「え? ゼリー? あ、これ、ブルーゼリーじゃない? なんでブルーゼリーが落ちてんだ? 誰か倒してそのまま置いてったのか?」
周りを確認するがプレイヤーの気配は全くない。そして誰もいない。
「貰っちゃっていいのかな? いいよな、放って置いたら消えちゃうだろうし」
ゼリーに近づき手を伸ばす。
「うわっ、なんだ?」
目の前のゼリーが急に俺の手に飛びついて指先にくっつく。手を振っても取れない。取れないどころか俺の手を食うようにどんどん覆っていく。
「痛、痛い、何だこれ」
青い透明のゼリーに包まれた右手にチクチクと痛みが走る。HPゲージを見るとHPが1減っている。で、慌ててバタバタしてる間にさらに減る。おい、これ、ダメージ食らってるじゃん。
俺は手を力いっぱいブンブンと振り回す。すると手を覆っていたゼリーがプルンと手から離れて地面にペチョン。そして再び俺のほうにじわじわと近寄ってくる。
【ブルースライム】
ゼリー状の魔物。弱いくせになんでも取り込んで消化しようとする。
そっか、こいつがブルースライムか。くっそ、ブルーゼリーかと思った。あ、もしかしてこいつ擬態してたのか? ってかスライムってそんな賢いの?
俺はブルースライムに向かって【投擲釘】を狙撃する。
プツン
「あれ?」
投擲した釘がスライムを突き抜けてスライムの下の地面に刺さる。これ、もしかして効いてないとか? とりあえずもう一回。
プツン
もう一回
プツン
ブルースライムは「何かした?」とでも言わんばかりに不思議そうにこっちを見つめている…気がする。いや、なぜ効かない? …あ、違うわ。
「そういや核狙わないとダメだったっけ」
ゴルバさんから聞いてたスライムの倒し方を忘れていた。いや、俺何やってんだ?
じー。
スライムをよく見る。
じー。
近いけど【遠見】を使って拡大してみる。
じー。じー。じー。
あった。スライムの中に小さい豆粒みたいなの。これが核だな。
俺は投擲釘を構えて【狙撃】する。
釘が当たった核はそのままブルースライムの中でポリゴンに変わる。そして残ったブルースライムのゼリー部分が形を変えていく。数秒で野球ボールが丁度入るくらいの四角いキューブ状のゼリーになった。
【ブルーゼリー】
ブルースライムの成分が凝固したもの。
素材として使われる。
やった。今度こそ本物のブルーゼリーゲットだぜ。
「やったな、ネギ坊」
『ゆら~♪』
二人で喜び合いながら次のスライムを探す。さっきは木の影にいたから、同じような場所を重点的に探す。が、スライムは見つからない。一匹も。いや、そんなことある?
「いないな~」
『ゆら~』
かれこれ15分は探しているが、まったく見つからない。なせだ?
「うーん、この調子だと今日中に集めるのは無理かもな」
『ゆらゆら~』
「なんか疲れるよな、こういうの。満腹度も減ってきたし、一角亭弁当でも食べて元気出すか」
『ゆら』
倒木の上に座ってストレージから一角亭の弁当を取り出す。実はこの弁当、受け渡しの時に店員のお姉さんが「ちょっと豪華よ」って耳打ちしてくれた弁当だ。いつ食べようかと思ってたけど、これは元気を出したい今しかない。
「あれ? そういやこんなものもあったな」
ストレージのリストの中に見つけたのは【魔好香】。北地区の露店街で買わされた無駄アイテムだ。いくらで買ったかすら全く覚えていない謎アイテムでもある。
【魔好香】
稀少な薬草を用いた魔物の群れを引き寄せるお香
肉や卵が敷き詰められた一角亭弁当に舌鼓を打ったあと、ちょっと迷ったがこの【魔好香】を使ってみることにする。俺がこれを使うとしたら動きの遅いスライムくらいしか使えないだろう。リスになんか使ったら囲まれてタコ殴りされて死に戻る未来しか見えん。
「んじゃ、【魔好香】使用。カモン、ゼリーの素たち!」
四角い香炉から紫色の煙が発生する。初めはチョロチョロだった煙がどんどん勢いを増す。その様子を興味深く見てたら、発生から数秒で山火事かってくらいに辺り一面煙だらけになった。
にしてもこの紫の煙大丈夫か? 見た感じ毒煙にしか見えんのだが。
ステータス画面には何の表示もない。ってことは大丈夫か。
カサカサカサ
「ん? なんだ?」
なんか上の方からカサカサ音がする。頭上を見ると一帯の木の葉っぱが妙な動き方をしている。
「風なんてないのにな。…あ、まさかフィールドボスとか言わんよな?」
ピチョン
後ろに何かが落ちる音。振り返ると足元にブルースライムがへしゃけていた。でもだんだん形が整っていく。
カサカサカサ
スライムを見てるうちも頭上ではずっと葉っぱがカサカサ音をたてている。
ピチョン
今度は俺の真横にスライム。へしゃけていて元の形に戻ろうとしている。が、今度はそのまま見続けたりはしない。だって、核が表面に見えてるんだもん。
「【狙撃】っと」
スライムの核がポリゴンに変わる。
ピチョン
ブルーゼリーを回収する間もなく、また後ろで音がする。見ると核丸出しのへしゃけたスライム。速攻で【狙撃】する。
ピチョン ピチョン ピチョン
今度は目の前に三体のスライム。もちろん【狙撃】三発。
ピチョン ピチョン ピチョン ピチョピチョピチョピチョン ピチョピチョピチョピチョピチョピチョピチョピチョピチョピチョピチョピチョピチョピチョ…
「え、ちょ、ちょっと、待って、多すぎだって」
頭上から落ち続ける大量のスライム。そっか、木の上にいたのかこいつら。
とりあえず、スライムを頭からかぶったらヤバすぎるから逃げ回る。もう【狙撃】の照準を合わせる暇もない。とにかく逃げる。
「はあ、はあ、ちょっと、まじで、なんだってんだよ」
逃げ回る事、体感で5分。やっと青いゲリラ豪雨が止んでくれた。
え? なんでそんなに逃げ回っていたか?
それはこいつら狙ったように俺の行く先々に落ちてきやがったからだ。走っては引き返し、曲がってはさらに曲がりなんてことを繰り返すはめになってしまった。
「スライムって知能あんのかよ。聞いてないんだけど?」
ブツブツ文句言いながらもスライムの核を【狙撃】していく。もう、何重にも重なってへしゃけているからなかなか元に戻れずにいるスライムたち。森の地面が青いゼリーでグチャグチャだ。大切なはずの核が探すまでもなく【狙撃】してくれと言わんばかりに散乱している。
「頭いいのか悪いのかわからんな」
とにかく、大量すぎるスライムたち。手当たり次第に狙撃しまくっていく。
ピンポーン
『特定行動により、【狙撃Lv2】のレベルが上がりました』
なんとか頑張って狙撃しまくった結果、拾ったドロップはこんな感じ。
【ブルーゼリー】×109
【ブルーゼラチン】×3
たまにちょっと硬めで大きさ二倍の塊が落ちてたが、どうやら【ブルーゼラチン】というレアドロップだったらしい。
で、残った武器はこんな感じ。
【投擲釘】×0
【毒釘】×0
【毒毒釘(聖)】×8
【注入釘(毒)】×0
【注入釘(劇毒)】×1
もったいないと思いながらも素材の集めやすいものから使っていった。残ったのは【毒毒釘(聖)】と【注入釘(劇毒)】だけ。
本当は【注入釘(毒)】なんかはリザードドッグとか強敵に使いたかったんだけどな。しかしブルースライムは今を逃したら次はいつ大量に狩れるかわからんから仕方ない。くそ、これも全てプレイヤーがクソ多いせいだ。
まあ、と言っても、念願のブルーゼリーも確保できたし、おまけにレアドロップまで手に入れた。あとは街に戻るだけってことだ。
そして今の俺は森の中では迷子にはならない。なぜなら方向を知る方法はもう習得済みなのだ。スキル込みで。
周りを見渡して一番太い木を探す。そして見つけたら必殺【木登り】の発動だ。
「おお、すっげ。なにこれ、メチャクチャ軽いし、力も強くなってる」
木登りを始めた途端に体が軽くなる。体感では【配達Lv8】くらいのバフ効果が発動しているようだ。
ヨイショヨイショと木によじ登り、枝に到達したらそこを足場にヒョイと次の枝へよじ登る。ヒョイヒョイのヒョヒョイであっという間に森の木々の上に出ることに成功する。
「えっと時間と太陽の関係からして…」
FGSは日の出が6時で日の入りが24時。日照時間が超長いから太陽が真上に来るのは午後三時。そして今が正午を過ぎたくらいとなれば、だいたいの方角の検討はつく。
「よし、あっちが西だな」
大体の方角が分かればあとは進むだけ。スライムしかいない森にもう脅威はない。ゆったり採取でもしながら帰るとしますか。
オネエ軍人のせいで逃してしまったあのうっすらアイコン。【遠見】と【冒険者の勘】、【採取Lv10】のコンボでまた見つけるべし。うん。
❖❖❖❖レイスの部屋❖❖❖❖
よしよし、ブルーゼリー確保したな。
念のため撮ってたけど、流石にあのスライムの惨状は配信できねえな。
倫理がどうのとか絵面がどうとかきっと言われるだろうし。
ネガキャンマスコミ相手にするのってホント面倒癖えなあ。
――――――――――――――
◇達成したこと◇
・ブルースライムをブルーゼリーと間違える。
・【魔好香】使用。大量のスライム撃破。
・獲得【ブルースライム】×109、【ブルーゼラチン】×3
◆ステータス◆
名前:スプラ
種族:小人族
職業:中級薬師
属性:なし
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:1
耐久:1(+3)
敏捷:1(+14)
器用:1
知力:1
装備:ただのネックレス
:聖魔のナイフ【ドロップ増加】
:仙蜘蛛の道下服【耐久:+3、耐性(斬撃・刺突・熱・冷気)】
:飛蛇の道下靴【敏捷+14】
:破れシルクハット
固有スキル:【マジ本気】
スキル:【正直】【薬の基本知識EX】【配達Lv10】【勤勉】【逃走NZ】【高潔】【依頼収集】【献身】【リサイクル武具】【採取Lv10】【採取者の勘】【精密採取Lv3】【調合Lv10】【匙加減】【投擲Lv10】【狙撃Lv2】【鍛冶Lv6】【調薬Lv4】【団粒構造Lv2】【農地管理Lv4】【農具知識EX】【料理Lv1】【広範囲収集】【遠見】【工作Lv1】【釣りLv1】【木登り】【よく見る】
所持金:約730万G
称号:【不断の開発者】【魁の息吹】【新緑の初友】【自然保護の魁】【農楽の祖】
従魔:ネギ坊[癒楽草]
◎進行中常設クエスト:
<薬屋マジョリカの薬草採取依頼>
〇進行中クエスト:
●進行中特殊クエスト
<シークレットクエスト:万事屋の悩み事>
<エクストラ職業クエスト~マジョリカの愛弟子>
◆契約◆
名前:ネギ坊
種族:瘉楽草[★☆☆☆☆]
属性:植物
契約:スプラ(小人族)
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:1
耐久:1
敏捷:0
器用:1
知力:5
装備:【毒毒毒草】
:【爆炎草】
固有スキル:【超再生】【分蘖】
スキル:【劇物取扱】【爆発耐性】
《不動産》
畑(中規模)
農屋(EX)
≪雇用≫
エリゼ
ゼン
ミクリ




