第63話 ❖AI達の舞台裏5❖
『4日目が終わったね。お疲れさま。3日目までと違ってワールドアナウンスもなく過ぎた4日目だったけどどうだったかな。アマデウスからお願いできるかい?』
「はい、マスター。4日目は新規ログイン率は1%上昇し89%、第二陣の販売数は7%上昇し8883本となっています。3日目までの上昇率に比べて動きに鈍さが目立ちました。解放された従魔ギルドの利用率は0.1%未満、農業ギルドは2%となっています」
『ふむ、さすがに3日目まではインパクトがすごかったからね。まあ、通常はそんなもんだろう。システムは問題なく動いているかな?』
「はい、マスター。システムは正常に動作しています。が、始まりの街周辺での生態系に異常が見られています。αからβ、正規版へと作り上げてきた生態系ですが、プレイヤーの異常なまでに偏ったプレイスタイルによってあちこちでモンスターの異常減少、それに伴い別モンスターの異常増加が見られます。今特にゴブリンの異常増加が著しく、今後街全体に深刻な影響が出ることが懸念されます」
『ほほう、プレイヤーたちが我々の予想を超えるプレイをしていると。一部、というか一プレイヤーの異常なプレイは認識していたが、生態系に影響するほどとなると、よほどのことと言える。コリンズ、顧客の状況と共に説明できるかい?』
「はい、マスター。現在、商人プレイヤーと領主側との癒着によって聖銀を景品としたプレイヤーズイベントが開催されています。日と時間帯によって高額ポイントを獲得できるモンスターが設定されているため、プレイヤーの討伐するモンスターに極端な偏りが生じ、それによって生態系の乱れを生じさせています」
『なるほど。そのイベントに関わっているプレイヤーの割合は?』
「およそ…44%です」
『ほほう、それはすごい。半数近くのプレイヤーに影響を与えるプレイヤーが存在するとはね。で、それへの対応は?』
「はい、現状ゴブリンの大量発生が確認されています。明日、発表するイベントはこのゴブリンの大量発生によるものといたします。プレイヤーが原因で乱れた生態系ですのでプレイヤー自身で整えるためのイベントとなります。また、自分たちの行動が環境に影響をもたらすということを認識することが期待されます」
『なるほど。因果律を知る。うん、いいね。詳細を送っておいてくれる? あと、星獣のほうはどうなってるかな?』
「はい、星獣との契約に至るための契約物の配布は始まってはいますが、まだ5%にも達しておりません。原因としては先のプレイヤーズイベントが原因となり、冒険者ギルドでの住人との信頼構築依頼がプレイヤーに提示されていない期間が存在し、それにより住人との信頼度が規定に達しているプレイヤーが予想をはるかに下回っていることが挙げられます」
『そうか、そうなると今回のイベントで星獣との契約に至るプレイヤー数は期待できないね』
「はい、我々管理側が手を入れない限りはそうなります」
『うん、じゃあ、このままでいいよ。因果律がこの世界の法だ。イベントで誘導するのはいいが決して直接手を加えることのないようにしよう。まあ、どうなっていくのか、ゆっくり見て行こうじゃないか。二人とも激務をこなしてくれて感謝してるよ』
「「はい、マスター」」
アマデウスとコリンズが微笑みをたたえながら部屋を出て行くと、レイスが現れる。
『やあ、レイス。4日目は何にも起きなかったね。彼生きてる?』
「ええ、生きてるも何もついさっきまで物騒なもの作ってましたよ」
『え、なに? バズーカ砲でも作った?』
「まだそのほうが可愛げがあっていいですぜ。あの小僧、劇毒を体内注入する投擲釘を作りやしてね。あんなんもん【狙撃】されたら助かりようがないですぜ。どうします? なんなら没収しやすが…」
『なにそれ、すごいじゃん。劇毒の入った見えない注射器がいつどこから飛んでくるかわからないなんて。なに、彼、アサシンにでもなった?』
「いんや、中級薬師で、住人用の美容液作るためにスライムを狩る準備中でさ」
『はっは、なんでスライム狩るのにそんなもの作ってんの』
「こっちが聞きてえですよ。釘も地味だし、毒も地味。新規ログインと二陣販売のためにプロモーションしたいってのに、何やってんだかもう」
『まあ、彼が楽しんでるならそれでいいよ。それも因果律。なるようになるさ』
「はあ、そうですかねえ」
『ま、ならなかったらレイスの責任だから。じゃあね。あと、ダイジェスト映像楽しみにしてるから』
「は? いや、なんで俺の責任? いや、ちょっと。えええ?」
世界地図の部屋のソファー。その日の明け方までそこには哀愁漂う黒い海賊の置物があった。




