第61話 初めての鍛冶工房
「じゃあ、俺はこれで失礼しますね」
「はい、ありがとうございま… あ、そういえばスプラ様は配達員でいらっしゃるんですよね? でしたらもう一件配達をお願いできないでしょうか?」
「え、あ、はい。大丈夫ですけど」
そろそろ日も傾いてきたし、畑にも行きたいんだけど、街の外の配達クエストもらえる人は大切にしておきたいよな。
「実は急ぎで頼まれている本の配達がありまして。わたしは明日の準備があるため、もしよろしければお願いできないかと。場所は西区の武器屋でマークス氏というお方なのですが…」
「へ? マークスさん?」
「おや、もしかしてお知り合いでしたか?」
「ええ、よく配達の依頼をくれるんです。あと防具とかもお世話になってて。マークスさんなら大丈夫ですよ。すぐに行ってきます」
「おお、それは助かります。今回は報酬は前払いさせていただきます。あと、報告は結構です。もしかするとしばらく店を閉めるかもしれないので」
「そうなんですね。わかりました」
「ではお届けの本はこちらですのでよろしくお願いします」
【恋愛マスターが語るデートの心得~初級編~】
…マークスさんったら、もう。
ピンポーン
『クエスト<本屋??の依頼2>を受注しました。報酬として750Gを獲得ました。』
「こんにちは」
「おお、スプラか。ちょうどよかった、ヘアバンドの色を変えてみたんだが、よかったら感想聞かせてくれないか」
「あ、いいですけど、まずこれ、本屋さんからの配達です」
俺は《《袋に入った》》本をマークスさんに渡す。さすがに本の内容を知られたら恥ずかしいだろうからな。来るときに万事屋さんでプレゼント用の袋を買ったのだ。恋愛下手であろうマークスさんには親近感が湧くから、どうしても応援したくなるんだよな。
「お、早速届いたのか、そうかそうか。お、そうだ、俺ちょっと用事思い出したからスプラ、お前工房使いたかったら使っていいぞ。今日はこれで店閉めるからさ」
ピンポーン
『クエスト<本屋??の依頼2>を完了しました。』
ほほう、これはこれは。『敏腕鍛冶師のマークス氏、仕事よりもデートの計画を取る』か。なるほどなるほど。ふーん。ま、頑張ってください。
しかし、これは有名鍛冶師の工房を独占できるってことだよな。マークスさんがいないんならネギ坊素材だって使いたい放題ってことだし。これはありがたい。
あ、でももしかして、あの本包装せずに渡してたらこんな素直な行動取らなかったんじゃね? むしろ「俺はこんな本より仕事が大切」とか強がり言いかねんよな。俺だったら間違いなくそうなる。そっか、うん、これはちょっと気遣っておいてよかったかもな。
そそくさと本を持って店を出て行ったマークスさんを見送り、俺はカウンター奥の工房に入らせてもらう。膝まである暖簾を押して工房に入ると、リアルの俺の部屋4つ分程の広さの空間があった。
中央には畳2枚分ほどの広さの作業台、その奥には炉と金床、左には様々な工具がところ所狭しと並べてあり、右側の壁には大きめの窓、その下にはベッドも置いてある。職場で寝るとか意外とブラックなんだな鍛冶師って…。
さて、じゃあ、俺は早速鍛冶といきますか。でも正直、本格的な工房を使うのは初めてでよくわかんないんだよな。農具の時は【リサクル&農業知識EX】でイメージ図でできたし、釣り針もレシピでできただけだし。
ていうか、どうやって始めるんだ? アイコンも見当たらないし。始め方すらわからんぞ。おーい、運営さーん、ガイダンスとかないんですかー?
「…返事はなし、か」
まあ、期待はしてなかったけどな。GMがあの海賊っところで期待薄だ。じゃあ、とりあえずこの金床のうえに何か置いてみるか。これなんてどうだ?
【釘】×21本
『【釘】21本をリサイクルします。素材を選んでください』
おお、出た。なるほど、この金床に何か置くとガイダンスが始まるのか。それなら金床にアイコン表示とか欲しいよな。
「しかしリサイクルかあ。まあそうだよな、作り変えるわけだしリサイクルになるのか」
これがインゴットとかを置いたら本格的な鍛冶になるのかもしれない。ま、とりあえずは釘をリサイクルしてみるか。素材化もできるけど、1本につき鉄5gしか取れないんじゃたかが知れてるし。それならすでに武器として成り立ってる釘に別の素材を付加してみるほうがいいだろう。しっかり当たれば狼を一撃で倒せるなら武器としては釘で十分な訳だし。
で、付加する素材を探してストレージを確認すると目についた草が。
【毒草】×224
【毒毒草】×8
【毒草】は【調合】で毒薬にすると武器などに塗って相手を毒状態にできる。
【毒毒草】は同じく猛毒状態にできる。ただし猛毒薬にするには【調薬】が必要との説明書きだ。
「うーん、森での戦闘の時に一匹目の狼に当てたのが毒釘だったらもっと楽に逃走できたかもしれないんだよな」
毒草を採取してから何度か考えていたことではあるのだが、下手こいて自分が毒状態になったらシャレにならんからこれまで試してこなかった。
「リサイクルだと毒薬とか猛毒薬を経由しなくても直接【毒草】選べるってことか。これは…ありだな。やってみる価値は十分にある。毒草もまた採取できそうだし」
苦労して帰ってきたから毒草の群生地帯の場所はある程度覚えている。行こうと思えばまた行けると思う。たぶん。
ちなみに【毒毒草】と【毒草】を付加するには釘1本に草一つ必要なようだ。ここは【毒毒草】を優先し、【毒毒草】×8、【毒草】×13を21本の釘に付加していく。
『冷却水を選べます』
付加する毒草を選び終わると今度は見たことのない選択肢。どうやら工房では冷却水が使えるようだ。選べるのは【聖水】と【井戸水】の2つのアイテム。井戸水は工房の備え付けらしい。
ここでは【毒毒草】には上位素材であろう【聖水】を選ぶ。【毒草】には【井戸水】だ。
「これで、OK、と」
選び終わると今度は、壁にかけてある大きなハンマーにアイコンが現れて点滅する。
「えっと、これで叩くってことか?」
重そうなハンマーだが持ってみると持てない重さではなかった。よくわかならないままにそのまま釘を叩いてみる。
軽く叩いてみる……何も起きない。
少し強く叩く……何も起きない。
強く叩く……何も起きない。
思いっきりぶっ叩く……ハンマーが光る。
何度か思いっきりぶっ叩くとハンマーの光が収まる。
ピンポーン
『特定行動により【鍛冶Lv3】のレベルが上がりました』
選んだ毒草と聖水がストレージから消え、金床の上には紫色の釘が8本、薄紫の釘が13本残った。
【毒釘】
毒が練りこまれた鉄製の釘。傷を負った敵は部位毒状態となる。
建築に使用すると木材を腐らせる。
【毒毒釘(聖)】
猛毒が練りこまれた鉄製の釘。傷を負った敵は部位猛毒状態となる。
アンデットに多大なダメージを与える。
建築に使用すると木材を腐らせる。
あ、聖水ってそういうことね。なるほど。
❖❖❖❖レイスの部屋❖❖❖❖
おい~。おいおい~。
なんだよ~、急に鍛冶なんか始めやがって~。
嬉しい事するんじゃねえよ、まったくもう~。
じゃあ、遠慮なく撮らせてもらおっかな~。
本格的な工房でキンコンカンっと♪
っておい!
釘ってなんだよ。
地味!
地味だから!
地味ーーっ!
――――――――――――――
◇達成したこと◇
・受注<本屋??の依頼2>
・完了<本屋??の依頼2>
・マークス工房で鍛冶
・製作【毒釘】13本【毒毒釘(聖)】8本
・習得【鍛冶Lv4】
◆ステータス◆
名前:スプラ
種族:小人族
職業:中級薬師
属性:なし
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:1
耐久:1(+3)
敏捷:1(+14)
器用:1
知力:1
装備:ただのネックレス
:聖魔のナイフ【ドロップ増加】
:仙蜘蛛の道下服【耐久:+3、耐性(斬撃・刺突・熱・冷気)】
:飛蛇の道下靴【敏捷+14】
:破れシルクハット
固有スキル:【マジ本気】
スキル:【正直】【薬の基本知識EX】【配達Lv10】【勤勉】【逃走NZ】【高潔】【依頼収集】【献身】【リサイクル武具】【採取Lv10】【採取者の勘】【精密採取Lv3】【調合Lv10】【匙加減】【投擲Lv10】【狙撃Lv2】【鍛冶Lv4】new!【調薬Lv3】【団粒構造Lv2】【農地管理Lv4】【農具知識EX】【料理Lv1】【広範囲収集】【遠見】【工作Lv1】【釣りLv1】【木登り】
所持金:約735万G
称号:【不断の開発者】【魁の息吹】【新緑の初友】【自然保護の魁】【農楽の祖】
従魔:ネギ坊[癒楽草]
◎進行中常設クエスト:
<薬屋マジョリカの薬草採取依頼>
〇進行中クエスト:
●進行中特殊クエスト
<シークレットクエスト:万事屋の悩み事>
<エクストラ職業クエスト~マジョリカの愛弟子>
◆契約◆
名前:ネギ坊
種族:瘉楽草[★☆☆☆☆]
属性:植物
契約:スプラ(小人族)
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:1
耐久:1
敏捷:0
器用:1
知力:5
装備:【毒毒毒草】
:【爆炎草】
固有スキル:【超再生】【分蘖】
スキル:【劇物取扱】【爆発耐性】
《不動産》
畑(中規模)
農屋(EX)
≪雇用≫
エリゼ
ゼン
ミクリ
 




