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第57話 コミュ障でもアウトドアは嫌いじゃない

「はああ、めっちゃ怖かった~。で、ここどこだ?」



 銀仮面の取り巻きから【逃走NZ】で逃走を果たした俺は周りを見渡す。



「湖…か?」



 目の前にはきれいな水面が光を反射してキラキラと光って、そのまわりには木々が続いている。



 森の中の湖。


 どうやら、また変なところに来てしまった。ワンチャン街の近くに行ければ、という思いもあったが、やっぱりこのじゃじゃ馬【逃走NZ】さんは思うようにいかない。まあ、このスキル、あのネヒルザイベントで習得したやつだしな。そう考えると、この尖りすぎた性能も納得できなくもない。



「で、どうしようかな」

『ゆらゆ~ら♪』


「お、なんだ、ネギ坊嬉しそうだな」

『ゆら~♪』



 なんか自然の中に来たせいか、ネギ坊の機嫌がアゲアゲだ。やたらと言葉が多い。はしゃいでるのが手に取るようにわかる。



「まあ、こんな場所あんまり来れないだろうしな。本屋のクエストには間に合ったんだし、慌てることもないか」

『ゆら!』



 療養に入ってから引き籠りのような生活だったから、こういったきれいな自然の中ってすごく新鮮な感じがする。それにコミュ障ボッチの有段者としては、こんなところでテントなんか張ってBBQなんてのにはちょっとした憧れを持っているのだ。コミュ障ボッチであるが陰キャではないのだ、たぶん。



「こういうところ来るとアレやりたくなるんだよな」

『ゆら?』


「釣りだよ、釣り。ネギ坊知ってる? 魚釣り」

『ゆらゆら~』


「え、知らないのか。じゃあやってみるか。俺もよく知らないから失敗するかもだけど」

『ゆら!』



 頭に手を伸ばすとネギ坊が葉っぱをユラユラさせてるようだ。たぶん嬉しいんだろう。


 湖から少し離れ、森の中へ入る。モンスターが出ると困るので、そっと警戒しながらだ。ちなみに【配達】の敏捷アップは発動していないからクッソ遅い。てことでこの場所が街へのルートからだいぶ逸れていることがわかる。



 遅さに我慢しながら地面を探していくと、しなりの良い手ごろな枝が見つかる。しっかり意識するとアイコンが表示されたから、拾得物ということらしい。拾ってみると名前は【竹の枝】。うん、そりゃしなるよな。



 釣り竿は見つかった。次は糸と針。これはさすがに落ちてはいないだろう。こういう時はこれを使ってみる。北地区の出店で買わされた釘バットを分解して得た【釘】30本。



 釘を取り出し意識するとアイコンが点滅する。


『簡易鍛冶セットを使用しますか?』

『はい』

『釘をリサイクルします』



 釘をリサイクルして得られる素材は鉄5g。これで作成できるアイテムが表示され欲している釣り針が表示される。ほかにも縫い針やネジなんかもあったが、俺には裁縫もDIYもできそうにないからスルー。



 鍛冶がうまくいって釣り針をGETしたから次は糸。糸と言えばアレしかない。


【仙蜘蛛の糸】


 また、すこしピエロ服の袖が短くなったがまあいいよね。金ならある。あるのだ。はっは。



 で、あとはこれを繋げるんだけど、結び方とか全く知らん。まあ、コマ結びを何回も繰り返しとけば大丈夫かな?



【仙蜘蛛の釣り竿】

 初心者用の釣り竿だが初心者にはもったいない機能付き。竿自体の耐久性は最低品質。



 …初心者で悪かったな。人をおちょくってるようなこの感じ。なんか海賊マッチョを思い出す。あ、いかん。せっかく作ったのに折りたくなってきた。落ち着け、俺。



 完成した釣り竿を持って湖に戻る。釣り場によさそうな木の影になってるところに釣り糸を垂らしてみる。



『ゆ~ら~♪』


 うん、ネギ坊もなんだか楽しそうだ。よかった、折らなくて。



 ……

 ……


「釣れないな~」

『ゆら~』


 釣り糸を垂らして30分は経ってる。なのにまったく釣れない。釣れないどころか魚の気配すらない。ま、知ってたけどね。知ってたけどお、せっかく釣り竿作ったんだからもう少しビギナーズラック的なものがあってもいいんじゃないかとも思う。運営さんそういうとこよ。



 そして釣れない静かな時間が経過するごとにふと不安がよぎる。


「そういや、俺、街に帰れるんか?」



 帰れるかどうかもわからないのにこれ以上時間を無駄にしてていいのだろうか。


 なんとか今日中には街に戻らないと。畑も心配だし、ブルーゼリーも早く手に入れて万事屋さんのクエストも進めたい。ずっと待たせてるからね。


 ということで、釣り竿を持ち上げる。



「ん、なんだろ。何かに引っかかってるみたい」


 垂らしていた糸を引き上げようとしたら何かに引っかかったのかびくともしない。



「くそ、なんだよ、何が引っかかってるんだよ、もう」


 筋力1が原因なのか、釣り竿が原因なのか、どうしても動かない。



『ゆらゆら!』

「え? MPを使うの?」


 ネギ坊からMPを使えと指示が来る。あれか、農具を使った時みたいなことか?



「よし、いけ!」


 釣り竿が、というより釣り糸が光る。そしてMPが1消費されると、釣り竿が一気に水中に引き込まれる。



「うおおおお」


 思いっきり足を踏ん張って釣り竿を支える。なんとかギリギリで耐えることができたようだ。そして数秒後に何かが水面に浮いてくる。



巨大昆布ジャイアントシーウィード

 海水で育つ巨大な海藻。モンスターの糞など有機物が大量に流入するときに発生し、水中の有機物を吸収し巨大化する。巨大化した後は水棲モンスターの餌となる。

 


 海中? ってここ海…じゃないよな。対岸があるし。どういうこと?


 湖の水をすくってなめてみる。



「うえ、しょっぺ」


 まさかの海水でした。これ、どこかで海とつながってるのかもしれないな。



 で、問題はこれをどうするかだよな。


 浮いている巨大昆布を引っ張ってみるが全然動かない。オブジェクトの類かと思ったが、念のためストレージに入れてみる。


ブーン

「容量が足りません」


 いや、ってことは入れられるんかい。


 しかし一割も入ってないストレージに入らないとはこれ如何に。そこでピーンとくる俺。そそくさとこれを取り出す。



「テレレレッテレ~、【バッサリ君】」

『ゆらら~』



 取り出したバッサリ君で巨大昆布の葉をサクサク切っていく。敷布団くらいの大きさに切るとストレージに入れることができた。



「残りは…ま、いっか。魚の餌になるみたいだし」


 残った釣り竿を見ると、釣り糸が極端に短い。水中には抜けた根っこが見えている。ふむ、これは仙蜘蛛の糸が急激に縮んでその勢いで昆布が根っこごと抜けたってことか。



 巨大昆布を湖に残してその場を立ち去り歩き始める。ここがどこなのわからないけど、だいたいの方角は太陽の位置から推測できる。


 はじめは南の平原にいたんだから街よりも北側に来てしまうとは考えにくい。ということは、とにかく北方向に向かえば街か街道に着くはず。もし森に着いたらそこは東の森だから入らないように迂回して街を目指そう。



 方角に気を付けながら湖を取り巻く森の中に足を踏み入れる。奥へと進むとだんだんと視界も悪くなる。頭上を木々で遮られ鬱蒼とする中を注意しながら進んでいく。


 なんか、こういう暗い森の中って不思議と方向が分からなくなるよな。



 そういや前にTVで見たことがある。暗い森の中をまっすぐに歩く実験をしたら、みんなぐるっと円を描くように回ってしまうらしい。それを一緒に見ていた父親が、「そういう時は高いところから周りを確認するほうがいい。高い木を探せ」とか言っていた記憶がよぎる。


 よし、ここは高い木に登って周りを確認するか。せめて太陽の位置だけでも確認したい。


 周りを見渡し一番太い木を探す。太い=高い。合ってるよな? 



 ……

 ……



「ま、そうだよな。登れないよな。筋力1だし」

『ゆ~ら~』


 探してみるとひときわ太い木が見つかった。「よっしゃ」と思い登り始めるが、両足を地面から離した時点でずり落ちた。


 どや顔だった父親のアドバイスもFGSにおいては木登りするにも筋力がいるという仕様に無力化されたようだ。哀れ父殿。



 さて、どうするか。このまま進んでも方向が違ったらまた湖に戻ってしまうかもしれない。できることなら登りたいんだが…。なんか木登りできる道具でもないものか。


 いろいろと放り込んであるストレージを探ってみると、一つ見つかった。さっきの仙蜘蛛の釣り竿だ。これ、確かMP使うと糸が縮んだはずだ。つまり、農具みたいに伸び縮み可能。



「…もしかしてこの糸を使えば上の枝まで行けるんじゃね?」



 ってことで、早速釣り竿を出しMPを使うと縮んでいた糸がミヨ~ンと伸びた。


「お、いけるかも?」



 次に糸の先に小石を取り付ける。やり方なんてわからんから、とにかくグルグル巻きにして釣り針で引っかけて留める。そしてその小石を高いところにある枝まで【投擲】してやる。


 そう、忍者が高いところに登るためによくやる感じ。



「おお、巻き付いた。やっぱ頼れるのはスキルだな~」


 うまく枝に巻き付いて固定された糸。今度は釣り竿の竹の枝をしならせて輪にする。それを脇の下に挟んで糸をぐるぐるして固定。そしてMPを流す。



「うおおお」


 MPを使用した瞬間、俺の体は宙に浮き、そのまま糸が巻き付く枝までスルスルと持ち上がる。


 ここまでこればあとは枝によじ登るだけ。苦戦しながらもなんとか登り終えると眼下には湖と森、さらにその先の平原まで見渡すことができた。太陽の位置も確認し方向をしっかり覚えて木を降りる。降りる時は上った時の逆の工程を行ったらすんなり降りられた。


 それからも定期的に木に登って方角確認して進むこと30分。



「ウォーーン」


 もう少しで森を出るというところで、テンプレのような狼の声。やたら響き渡る狼の声に足がすくみそうになる俺。しかしここで引き返しても死に戻りが確定する。なぜならログアウト用のテントを買い忘れたからだ。テントを使わずにログアウトすればアバターはずっと残される。つまりやられ放題ってことだ。ここは前進あるのみ。

 


「ネギ坊、行くぞ。もし死に戻ったらお別れかもしれないけど、必ずまたお前を探しに行くからな」

『ゆら~ら?』



❖❖❖❖レイスの部屋❖❖❖❖


お、釣りか。いいぞ、やれやれ。ただ魚釣れなきゃ絵としては使いずらいぞ。



だっはっは、昆布釣ってどうすんだ。

いや、もうこりゃお笑い枠でいくか。


うん? でもこんなところで巨大昆布なんて生息してたか?


あれ?

 

――――――――――――――

◇達成したこと◇

・【仙蜘蛛の釣り竿】製作

・【巨大昆布】を釣り上げる




◆ステータス◆

 名前:スプラ

 種族:小人族

 職業:中級薬師

 属性:なし

 Lv:1

 HP:10

 MP:10

 筋力:1

 耐久:1(+3)※

 敏捷:1(+14)

 器用:1

 知力:1

 装備:ただのネックレス

 :聖魔のナイフ【ドロップ増加】

 :仙蜘蛛の道下服【耐久:+3、耐性(斬撃・刺突・熱・冷気)】※耐久減少

 :飛蛇の道下靴【敏捷+14】

 :破れシルクハット

 固有スキル:【マジ本気】

 スキル:【正直】【薬の基本知識EX】【配達Lv10】【勤勉】【逃走NZ】【高潔】【依頼収集】【献身】【リサイクル武具】【採取Lv10】【採取者の勘】【精密採取Lv3】【調合Lv10】【匙加減】【投擲Lv10】【狙撃Lv1】【鍛冶Lv3】【調薬Lv3】【団粒構造Lv2】【農地管理Lv4】【農具知識EX】【料理Lv1】【広範囲収集】

 所持金:約735万G

 称号:【不断の開発者】【魁の息吹】【新緑の初友】【自然保護の魁】【農楽の祖】

 従魔:ネギ坊[癒楽草]



◎進行中常設クエスト:

<薬屋マジョリカの薬草採取依頼>

〇進行中クエスト:

<本屋?? の依頼>

●進行中特殊クエスト

<シークレットクエスト:万事屋の悩み事>

<エクストラ職業クエスト~マジョリカの愛弟子>



◆契約◆

 名前:ネギ坊

 種族:瘉楽草ゆらくそう[★☆☆☆☆]

 属性:植物

 契約:スプラ(小人族)

 Lv:1

 HP:10

 MP:10

 筋力:1

 耐久:1

 敏捷:0

 器用:1

 知力:5

 装備:【毒毒毒草】

   :【爆炎草】

 固有スキル:【超再生】【分蘖】

 スキル:【劇物取扱】【爆発耐性】



《不動産》

 畑(中規模)

 農屋(EX)


≪雇用≫

エリゼ

ゼン

ミクリ

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