第56話 互いの秘密
「………ん、ングんん、な、なんだその頭の上のその、それだ」
あれ、なんか、今、何かが起こりましたよね。何か聞いちゃいけないものを聞いてしまったような。水色銀仮面さん、そんなビシッとネギ坊を指差しても誤魔化せませんよ。
「じ〜〜っ」
「な、なんた、その目は。それよりその頭の上の……」
「じ〜〜っ」
「き、君は、こ、この攻略組トップのわたしに何かい、言いがかりでもつ、付けようと言うのか」
「いえいえ、言いがかりだなんて。ただ、『かわいい〜やだ、ちょっと』って言うのがなんか……」
「んぐ…」
「いえ、俺は何も言いはしませんよ。ただ人ってそれぞれ秘密にしたいことの1つや2つあるもんじゃないかなぁって思うんですよね〜ただそれだけですよ」
「わ、わかった。じ、じゃあ取り引きしないか？ わたしの秘密を教える代わりにその、それ、頭の上の。それ従魔だよな。あ、あれだろ、ワールドアナウンスにあったやつだろ？ それをちょっとだけでいいから触らせてくれないか？ あ、あと、お話なんかできたりするのか？ できるなら是非お話とかもさせてもらえたら。も、勿論、無理ならいいぞ。お互い明かしたくない秘密はあるだろうからな」
そっか、水色銀仮面はネギ坊と触れ合いたいと。それと交換に水色銀仮面の秘密を教えて貰えば、付きまとわられる事も無くなるということか。まあ、ネギ坊が癒楽草だって事を知られなければ大丈夫だし、ここは決め時だな。
「わかりました。その条件で取り引きに応じますね。じゃ、まず俺から、この子は銀仮面さんの言うとおり、従魔です。ワールドアナウンスにあったのはコレの事です」
「そ、そうか、な、名前とかはあるのか？」
「ネギ坊って言います」
『ゆら〜ゆら〜♪』
「きゃー、喋った、喋っちゃった？ 何この子、ネギちゃん、こんにちは」
『ゆら！』
「きゃー、何、言葉が分かるの？ なにそのポーズ。その上げてる葉っぱが君のおて手？」
『ゆ〜ら！』
「きゃー、握手？ 握手なの？ いいの？ きゃー、握っちゃった。なんかふわふわしてる～」
…えっと、なにこの状況。
「……………………あの」
「はっ、ご、ごほん。すまんな、多少取り乱してしまった」
「多少？……」
「ああ、もう面倒くさい、いいわもう」
「えっ？ ええ～っ！」
銀仮面さん、その場で銀仮面を外したらメチャクチャ美人さんだった。くっそ、コミュ障の苦手な美人枠だったかあ。ん？ あ、でもなんだろ、あんまり、緊張してこないな。コミュ症が発動しない。
「はい、これでいいわよね。じゃ、ネギちゃん、こっち見て〜、きゃ、なにそのお目々。かわいい～かわいい～」
あの、銀仮面さん、顔が近いんですけど。
…
…
「あああ、堪能したわ。FGSやって良かった〜。うちではペット飼えないのよね。くそ親父が絶対に許してくれないから」
「えっと、銀仮面さん、そろそろ俺の用事をさせてもらってもいいでしょうか？」
この銀仮面、かれこれ20分ほどネギ坊と遊び倒したからな。残り30分もない。早くしないと。
「わかったわよ。じゃあ、これ」
ピンポーン
『プレイヤー「ウェイブ」よりフレンド申請が届きました。承認しますか？』
「……NO」
「ちょ、ちょっと、なに申請蹴ってんのよ」
「いや、別にフレンドになりたいとは思ってないので」
「ちょっと、ちょっとちょっとちょーーっと！ 今までの流れだとここは承認の一手でしょうに」
「…いや？」
決してそんな流れではなかった。
「…わ、わかったわよ。じゃあ、わたしはウェイブ。見ての通りピチピチの20歳の学生。アバターいじるのが面倒でこれが素顔。で、いろいろ虫が集ってきてまともにゲームできなかったから仮面付けてるの。これでいい？」
「で、素顔を隠してるといことが秘密ということで？」
「そうよ、これでもクラン『円卓の騎士』のクランマスターなの。言っとくけど顔じゃなくて実力で上り詰めたのよ」
「え、もうクランとかあったの？」
「まだよ、クランシステムはまだ解放されてないけど、プレイヤー独自で結成している組織。いずれシステムが解放されればそのままクランとして登録する予定よ。言っとくけどトップ３には入るクランだからね」
ふーん、クランかあ。まあ、俺には全く関係ないな。大勢の知らない人とグループ作るなんて絶対無理だし、なにより嫌だ… おっとそんなことより。
「あの、実は俺この場所に用事があってきたんですけど、ちょっと場を外してくれませんか？」
「え、なに？ このオブジェのこと知ってんの？」
「ええ、今クエスト中でここが目的場所なんですよ。でも人に見られるとクエスト失敗になるんで、ちょっとどこかに行っててもらいたいんですけど」
「クエスト？ それって次の街とかに関係ある？」
「それはわかりませんけど、たぶんないと思いますよ。そんなたいそうなものじゃないし」
「なんだ、そっか。わかった。それじゃあ、その用事が終わったらまた、ネギちゃんと遊ばせてくれない？ 少しでいいから」
「あ、まあクエスト達成できれば時間はあるからいいですけど」
「オッケー、じゃあ約束ね」
銀仮面が仮面を装着して木の向こうへと移動していった。
「はあ、なんかどっと疲れてきたな。さっさと終わらそうか」
ストレージから鍵を取り出すと、その鍵が光り出す。鍵が消え去ると同時にあたり一面が光に包まれていく。そして光が収まると、目の前には丸い小屋が三つ並んでいた。
俺は中央の小屋にあるドアを開ける。
「こんにちは」
「…ああ」
部屋の奥で机に向かってなにやら書き物をしている男性がいる。たぶんこの人が息子さんだろう。
「本屋のお父さんからの手紙の配達に来ました」
「…そこに置いておいてくれ」
まったく興味なさそうだな。明日の予定の案内なのに。大丈夫かな。
「わかりました。ここに置きますね。あの、ちなみに急ぎで確認したほうがいい手紙みたいですよ」
「…わかった」
本当に分かったのかな。ま、いいか。
「あと、受領書いただけないでしょうか？」
「…ちょっと待ってくれ」
ヒラリ
紙一枚が飛んできて俺の前に落ちる。これ受領書ってことでいいんだよな？
手に取ってみると、確かに受領書だった。
なんかあっけないやり取りに少し心配になりながらも、受領書さえあれば大丈夫だろうと思い直し小屋を出る。一瞬まぶしい光にさらされると、そこは元居た丸いオブジェの前。そして近寄ってくる銀仮面。こっちに来ながら仮面を外す。
「すごく早かったわね。用事ちゃんと終わったの？」
「あ、え、まあ、たぶん？」
「ま、そんなことより、ネギちゃんあ～そ～ぼ」
『ゆらゆ～ら！』
「あら～ネギちゃんも遊びたかったの～？」
「あ、そうじゃなくて、だれか来るみたい」
街の方角から何人かの声が聞こえてくる。
「あ、やば」
銀仮面のウェイブが急いで仮面をつける。
「ああ、ウェイブ様、こんなところにいらっしゃったんですか」
「あ、ああ、このオブジェを調べていたところだ」
こっちに歩いてきたのは怖そうな狼獣人やらドーベルマン風の犬獣人やらとにかく強そうなプレイヤーたち4人。
「さすがウェイブ様、このオブジェの秘密を探っておられたとは。で、どうでしたか、こちらは？」
「まあ、次の街に関係しそうにはないことはわかった」
「おお、さすがウェイブ様。ん？ …ところでこの小さい変な恰好の奴はなんですか？」
「ん？ ああ、こいつもこのオブジェが気になってるみたいでな」
うう、銀仮面がただ言い訳してるだけなのはわかるんだけど。わかるんだけどなんか悔しい。これ俺のクエストなのに。
「ふん、お前なんかに攻略できるわけねえだろ。邪魔だからさっさとどっか行けよ」
「あ、いや…」
「なんだ、なんか文句でもあんのか。俺たちは円卓の騎士だぞ」
「あ、おい、こいつの頭、これってもしかして従魔じゃね？」
ドーベルマンが俺の頭を指さす。やばいめっちゃ怖い。俺こういうの無理。
「おい、お前、それはお前の従魔だろ。どうやって手に入れたんだ。教えろ」
「あ、い、え、えっと…」
相手の迫力にコミュ障が大爆発して何も言えない。銀仮面を見るが、助けようとする素振りもない。おい、銀仮面、お前秘密ばらすぞ。
「ウェイブ様、この従魔をウェイブ様にお譲りするよう説得いたしましょうか？」
狼獣人が一歩前に出る。その手がネギ坊へと伸ばされるが、自分の頭に手を伸ばされているようで怖さで動けない。情けないが俺はこういう高圧的な輩は無理なのだ。おまけにパワハラ上司の目を見開いた顔もよぎる。あかん、動けん。
「……」
ピンポーン
『格上のプレイヤーからの接触がありました。【逃走NZ】が発動できます。発動しますか？』
え、あ、そうなの？ じゃあ。
『は、発動』
狼獣人の姿が一筋の線になり、俺の周りの景色は線になる。銀仮面も銀色の線に変わった。
❖❖❖❖レイスの部屋❖❖❖❖
なるほどそうか、それで仮面付けてたのか。ほう。
…って、そんなクソどうでもいい情報いらんわ！
小僧、いいからさっさとスライム倒してこい。
【狙撃】持ってんなら狩り放題だろうが！
――――――――――――――
◇達成したこと◇
・本屋の息子に手紙を渡す。
・ウェイブと秘密を共有する。
・【逃走NZ】使用
◆ステータス◆
名前：スプラ
種族：小人族
職業：中級薬師
属性：なし
Lv：1
HP：10
MP：10
筋力：1
耐久：1（+4）
敏捷：1（+14）
器用：1
知力：1
装備：ただのネックレス
：聖魔のナイフ【ドロップ増加】
：仙蜘蛛の道下服【耐久:+4、耐性（斬撃・刺突・熱・冷気）】
：飛蛇の道下靴【敏捷＋14】
：破れシルクハット
固有スキル：【マジ本気】
スキル：【正直】【薬の基本知識EX】【配達Lv10】【勤勉】【逃走NZ】【高潔】【依頼収集】【献身】【リサイクル武具】【採取Lv10】【採取者の勘】【精密採取Lv3】【調合Lv10】【匙加減】【投擲Lv10】【狙撃Lv1】【鍛冶Lv3】【調薬Lv3】【団粒構造Lv2】【農地管理Lv4】【農具知識EX】【料理Lv1】【広範囲収集】
所持金：約735万G
称号：【不断の開発者】【魁の息吹】【新緑の初友】【自然保護の魁】【農楽の祖】
従魔：ネギ坊［癒楽草］
◎進行中常設クエスト：
＜薬屋マジョリカの薬草採取依頼＞
〇進行中クエスト：
＜本屋？？ の依頼＞
●進行中特殊クエスト
＜シークレットクエスト：万事屋の悩み事＞
＜エクストラ職業クエスト～マジョリカの愛弟子＞
◆契約◆
名前：ネギ坊
種族：瘉楽草［★☆☆☆☆］
属性：植物
契約：スプラ（小人族）
Lv：1
HP：10
MP：10
筋力：1
耐久：1
敏捷：0
器用：1
知力：5
装備：【毒毒毒草】
：【爆炎草】
固有スキル：【超再生】【分蘖】
スキル：【劇物取扱】【爆発耐性】
《不動産》
畑（中規模）
農屋（EX）
≪雇用≫
エリゼ
ゼン
ミクリ
