第50話 NPCを雇用します
「俺はゲンジだ。種まきの速さと正確さなら誰にも負けねえ」
「わたくしはエリゼと申します。農作業のことはあまり分からないのですが、歌うことが好きなので歌うことでお役に立てればと…」
畑で待っていたのは背がひょろっと高く手足も長い細い切れ長の目をした若い男。そして白いワンピースにクリーム色のツバ広帽子といった農作業とは程遠い恰好をした若い娘さん。
ゲンジと名乗った男の方は自分と同じく雇われた女性エリゼを鬱陶しそうに見ている。そりゃ農業ギルド経由で契約したのに、お嬢様風の格好をした歌好きの素人が一緒に雇われていたらそうなるかもしれない。
「俺はスプラです。この畑の所有者です。畑は御覧の通り、後は種を蒔くだけの状態です。種はここに十分な量がありますので、今日中に畑の全面に種まきを完了させていただきたいです。ゲンジさん可能ですか?」
「ああ、待っている間に畑の状態は確認させてもらったよ。こんな見事な畑は見たことねえ。腕がなるってもんだ。今日中だな? 大丈夫だ。暗くなる前に終わらしておくよ」
「それはよかったです。ゲンジさんは種まきが終われば帰宅してくださって結構です。明日は契約終了まで自由時間ということで大丈夫ですから」
「え、マジか。そいつは嬉しいねえ。大概の雇い主は種まきが終わってもなんだかんだで時間ギリギリまで雑用を押し付けてくるからな。今回スプラさんに雇われてよかったよ」
ゲンジさんは早速種まき作業に移っていく。その種まきする姿はすさまじいとしか言いようがなかった。長い腕を存分に使って効果的に種を蒔いてく。すべてが効率化された一切無駄のない種まきだ。
「あのう、わたくしは何を…」
「あ、エリゼさんは自由に歌っててくださって構いませんよ。飲み物もこちらで用意しますので」
「え? 本当にそれでよろしいのですか?」
「ええ、なるべくたくさん歌っていただけると助かりますが、ご無理のないように。あ、それと歌う時はできれば畑の中を満遍なく歩きながら歌っていただけるとより助かります。あと午後5時には帰宅してください。朝は無理のない程度に早めに出てくださいますか?」
「そんなことでよろしければ喜んで」
二人が畑でそれぞれの役割を果たす中、俺はログハウスに戻ってジュース作り。ゲンジさんとエリゼさんの慰労用のジュースだ。田舎のじいちゃんが畑作業の後は必ず一杯やってたからな。俺にとっては畑作業と終わった後の一杯はセットだ。
ネギ坊に癒楽草を貰ってすり潰し、多めの聖水で溶かし込む。前にMPポーション作りの時に「スキルを使用しなけりゃジュースにしかならない」とネギ坊が言ってた。じゃあ、今回はジュースを作ろうじゃないかということで、【調合】【調薬】は使用しない。スキルはオフにチョイチョイっと。
【至福のジュース】品質10
体に必要な栄養素が全て詰まった栄養満点ジュース。
上品な甘さと後味のすっきりした柑橘系の香り。
効果は様々
ピンポーン
「特定行動により【料理Lv1】を習得しました」
「お、料理か」
なるほど、ジュースだから【料理】扱いか。買い溜めしてあった聖水10本に癒楽草1つで5人分くらいだな。じゃあ、まずは味見を…うん、うまい。さっぱりとした甘さに柑橘系の香りもいい。個人的には好きな味だ。よし、ゲンジさんとエリゼさんに1杯ずつ飲んでもらって気に入ってもらえたらもう1杯上げようかな。
「ゲンジさーん、エリゼさーん。休憩しましょう」
…
「いやあ、これうまいな。しかも飲んだすぐから体の疲れがぶっ飛んでくぜ」
「もう1杯ありますよ」
「え、いいのか? じゃあ、仕事終わったら貰ってもいいかな。疲れ飛ばしてから飲みに行きてえからよ」
「じゃあ、帰る時に声かけてくださいね。エリゼさんはどうですか? お口に合いましたか?」
「はい、とってもおいしいです。わたくしは喉の疲れが取れました。それに声の通りもとてもいいように感じます」
「それはよかったです。おかわりはいかがですか?」
「いただけるのでしたら、明日の朝にいただけると嬉しいです。一日良い声で歌えそうですから」
それからの2人の働きは一段と精力的だった。ゲンジさんはあっという間に作業を終え、ジュースを飲んでお礼を言って帰っていった。エリゼさんは午後5時まで楽しそうに歌い続けて帰っていった。
俺もログアウトしてリアルで夕食を取る。今日は親がいないからお湯を注ぐカレー味のヌードルだ。ついつい汁まで飲み干しちまったぜ。
夕食を食べ終わり、身の回りのことを終えて再びログインするとログイン先はなんとログハウスだった。てっきり噴水前になると思っていたのでこれは驚きだ。だって、街中でログアウトする時は、宿屋でログアウトした場合は宿屋が、自分のホームでログアウトすればホームがログイン場所になる。それ以外でログアウトした場合は噴水前がログイン先になるはずだ。
つまり、このログハウスは《《ホーム扱い》》ということだ。
おいおい、開始3日目にホーム持ちになるなんてどうなんだ? これまでの経験だと自分のホームなんて何個も先の街で手に入れるとか、プレイヤー集団のクランがクランハウスを高額で買うとかで初めて導入されるものじゃないの?
「なんか、意図せずホームを得てしまった。…ま、いっか」
畑では種まきはすでに終わったし、あとは水やりや草取りなんかの管理を誰かにしてもらわないといけないよな。俺には栽培の知識も経験もないから、こういう時はやっぱりギルドだよな。
「いらっしゃいませ。住人との雇用契約ですか?」
「はい、種まき後の栽培ができる人を探してまして」
「では、スプラ様にはギルドからのサービスとして栽培に適したスキルを持った方だけをご覧いただけるようにしますね」
「え、それは助かります。スキルまで全部確認するのはすごく大変なので」
「いえ、いいんですよ。先ほどゲンジ様がギルドに寄って帰られまして、スプラ様のご厚意のことをお話されていました。ゲンジ様がとても喜んで報告しに来られまして。ギルドとしてもそういった雇用主様は大切にさせていただきたいと思っていますので」
「そんな大したことはしてませんが、喜んでくださってたならよかったです」
「では種まき後の栽培に関して有用なスキルを持った方々のリストをお出ししますね。…はい、抽出完了しました。こちらの方々です」
カウンターの女性職員が見せてくれたリストには前回よりも大幅に少ない30名ほどのリストが載っていた。
ステータスは無視して、スキルだけに注目して見ていく。すると気になるスキルが2つ。
【栽培促進】賃金14000G
作物の収穫までに至る期間を半分にする。
収穫物品質-1
【十全栽培】賃金18000G
妥協なき管理によって収穫物の品質を2つあげ、時に品種改良も行う。
作物成長速度減少(小)
栽培速度を取るか、品質や品種改良を取るか。うん、迷った時は両方だな。
2人とも1週間契約で7万8400Gと10万800Gで17万9200Gになった。先の2人も併せて約22万G。これ、1週間で元を取れるんだろうか? まあ、赤字になったら勉強量だな。
さて、これで畑のことも一通り片付いたし、今日はこれでログアウトだ。
❖❖❖❖レイスの部屋❖❖❖❖
うーん、【十全栽培】かあ。
小僧、なかなかハードな道を選びやがったな。
こりゃ楽しくのどかな癒しの野菜栽培…にはなりそうもねえな。
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◇達成したこと◇
・習得【料理Lv1】
・住人雇用(ゲンジ・エリゼ・??・??)
◆ステータス◆
名前:スプラ
種族:小人族
職業:中級薬師
属性:なし
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:1
耐久:1(+4)
敏捷:1(+14)
器用:1
知力:1
装備:ただのネックレス
:聖魔のナイフ【ドロップ増加】
:仙蜘蛛の道下服【耐久:+4、耐性(斬撃・刺突・熱・冷気)】
:飛蛇の道下靴【敏捷+14】
:破れシルクハット
固有スキル:【マジ本気】
スキル:【正直】【薬の基本知識EX】【配達Lv10】【勤勉】【逃走NZ】【高潔】【依頼収集】【献身】【リサイクル武具】【採取Lv10】【採取者の勘】【精密採取Lv3】【調合Lv10】【匙加減】【投擲Lv10】【狙撃Lv1】【鍛冶Lv3】【調薬Lv3】【団粒構造Lv2】【農地管理Lv4】【農具知識EX】【料理Lv1】new!
所持金:約735万G
称号:【不断の開発者】【魁の息吹】【新緑の初友】【自然保護の魁】【農楽の祖】
従魔:ネギ坊[癒楽草]
◎進行中常設クエスト:
<薬屋マジョリカの薬草採取依頼>
〇進行中クエスト:
<農業ギルドの配達依頼>
●進行中特殊クエスト
<シークレットクエスト:万事屋の悩み事>
<エクストラ職業クエスト~マジョリカの愛弟子>
◆契約◆
名前:ネギ坊
種族:瘉楽草[★☆☆☆☆]
属性:植物
契約:スプラ(小人族)
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:1
耐久:1
敏捷:0
器用:1
知力:5
装備:【毒毒毒草】
:【爆炎草】
固有スキル:【超再生】【分蘖】
スキル:【劇物取扱】【爆発耐性】
《不動産》
畑(中規模)
農屋(EX)
≪雇用≫
ゲンジ
エリゼ
??
??




