第36話 金のなるネギ
「なに、癒楽草だって?!!」
マジョリカさんの叫びに俺とゴルバさんは揃って直角お辞儀の態勢に。いや、別に悪いことした訳じゃないんだけ条件反射というやつだ。
「スプラ、あんたのその頭の、ププッ、上の草がブッ…癒楽草だって言うのかい?」
マジョリカさんも口元を引く付かせながら目線は俺と頭上のネギ坊を行ったり来たり。報告しに戻った時には一目見て笑い転げてたから、これでもまだマシになったほうだ。
街中を歩く際は髪の毛を両手で持って何とか隠しながら来たんだけど、流石に面倒臭かった。正直もう笑われてもいいかなって思っている。
ま、それはこの際いいとして。いや本当はよくないんだけど…。特殊上級薬師のマジョリカさんでもネギ坊は鑑定できないらしい。薬草ではなくモンスター扱いだからかそれとも俺の従魔になったからか理由は定かでないが薬草鑑定が効かなくなっているようだ。俺も契約者としてネギ坊のステータスを見て初めて癒楽草だってわかったしな。
「はい、ネギ坊は癒楽草で間違いないです」
「そうかい、契約した本人が言うんだから信じたいのはやまやまなんだけどね。癒楽草っていや、ここ百年間に採取記録がない程の希少種なんだよ。これが本当に癒楽草なら世界を揺るがすほど大変なことなんだけどねえ」
『ゆ~ら~』
ネギ坊が頭の上で俺に話しかけてくる。ん? 自分を千切れ? あ、千切ったら薬草扱いになる? なるほど。
「マジョリカさん、ネギ坊が葉っぱを千切ってもいいと言っています」
「なに、本当かい。それが出来るならありがたいね。じゃあ、ちょっとばかり失礼するね」
『ゆら!!』
「あれ、この子、よく動くね。これ、じっとしなさい。これ!」
『ゆらゆら!!』
数分間、マジョリカさんの猛攻をネギ坊はすべて避けきる。敏捷0じゃなかったのか、ネギ坊。ネギ坊がそんなに素早いなんて俺は悲しいぞ。勝手に俺を置いていかんでくれ。
「はあはあ、だめだね。こりゃ敏捷がどうのって問題じゃないようだ。スプラ、あんたはできるのかい?」
「えっと、じゃあ」
ペリッ。
「あ、採れました」
「…そう言うことかい。従魔契約した主人しか入手できないか」
「じゃあ、これ、どうぞ」
ネギ坊の反応を見ながらマジョリカさんに渡してみたが、ネギ坊的には問題はないようだ。うん、俺が千切れば問題なしっと。
「おおお、…本当だよ……確かに【癒楽草】じゃないか。はあ、これがかの癒楽草かい。この歳になってこんなものに出会えるなんて。人生わからないものだね」
少しウルッときているマジョリカさんを横目に自分でも鑑定してみる。
【癒楽草】
絶滅危惧種。特殊な環境でしか生育しない希少薬草の葉きれ。
生物のあらゆる異常を癒やす。
そのままでは使用できず、何らかの加工が必要になるが、それには相応の練度に達した上級技術が必要。
ネギ坊、絶滅危惧種だったのか。そうなると、貰えた称号の意味もわからんでもないな。でも、あれか。調合とか、錬金に使うにしても高いレベルの上級技術が必要か…うん、ないな。そんなものは持ってないないぞ。
これは今すぐにどうこうするもんでもないか…
あ、そういやゴルバさんが動く草を燃やしたらいい畑の肥料になったって言ってたよな。そっち方面で考えてみるか。
「マジョリカさん、じゃあ、それ返してもらっていいですか?」
「……念のために聞くが、何に使う?」
「燃やして、畑の…」
「止めとくれ!!」
マジョリカさん、またそんな急に殺気を。ほら、ゴルバさんがまた直角お辞儀になっちゃってるじゃないですか。
「ふう、まさかとは思ったが、聞いておいてよかった。危うく動物の糞と同じ扱いにされるところだった」
「でも、その灰を撒くと作物の品質が…」
「だまらっしゃい!!!」
だまらっしゃい… そんなセリフ言う人本当にいるんだな。言葉の学習とかどこから持ってきてるんだ、FGSのAIよ。
そんなことを考えていると、マジョリカさんはギルド長の机の引き出しを開けて一枚の紙を取り出す。そしてスラスラと何やら書き込む。
「よし、これでいいだろう。スプラ、あんたにこのわたし、特殊上級薬師マジョリカの愛弟子としての身分を与えようと思う。どうだい?」
え? マジョリカさんの愛弟子? 普通の弟子じゃないてことだよな。何が違うのかよくわからんが、そんな簡単に勧めてくるとか…うーん、なんか怪しい。
「愛弟子にしてもらえるなら嬉しいですが…」
「そうかい、それじゃあ、ここに契約書がある。受けるならこれにサインしな。ちなみに、この契約には条件が3つある。1つは今回のこの癒楽草をわたしに売ること。2つ目はこの癒楽草の事はわたしとゴルバ以外には誰にも言わないこと。3つ目はあんたが今すぐに中級薬師に転職して技術を磨く、そして上級調合スキルを習得すること、それまでは他の職への転職は許さないよ。どうだい?」
ピンポーン
「『特殊職業クエスト~マジョリカの弟子』が『エクストラ職業クエスト~マジョリカの愛弟子』に変わりました。受けますか?」
うわ、マジか。エクストラ職業クエストだって。名前だけでもすごいレアっぽいじゃん。これは受けたい。是非にも。ただ条件が意外と厳しい。
…1つ目は大丈夫というか、買ってもらえるなら寧ろありがたい。どうせネギ坊から取り放題だろうし。3つ目は中級薬師になれる上、上級調合スキルを習得するチャンス。願ったり叶ったりだ。
で、問題は2つ目。ネギ坊が頭に生えてるこの見た目で誰かに聞かれないことなんて考えられないんだよな。現にこの2人は笑い転げてるし。興味引かないなんてことは絶対にないだろ。これ超ハードモードじゃない?
…まあ、と言っても、こんなチャンスを逃しはしないんだが。
俺はペンを持って目の前の用紙にサインをする。用紙は消えることなく、マジョリカさんが何度も頷きながら確認して引き出しにしまう。そして机の上には山積みにされた大量の金貨。
ピンポーン
「『エクストラ職業クエスト~マジョリカの愛弟子』を受けました。このクエストは達成の如何に関わらず1度限りとなります。」
ピンポーン
「『中級薬師』に転職しました。【調合Lv1】を習得しました。【匙加減】を習得しました。次回転職可能まで47:56」
【匙加減】
調合成功時の品質+1
さすがに中級職業ともなるとスキルが2つも習得できるのか。あ、でも【調合Lv1】だったら初級とか見習いとかでも習得できるのかもな。
まあ、そんなことよりもこっちが重要。このクエストは1回限りか。失敗できないとか緊張するな。でもまあ、失敗がある要素は2つ目だけなんだけど。
「あの、マジョリカさん、もしネギ坊のことを誰かに知られたらどうしたらいいんでしょうか?」
「なんだい、もう失敗した時の話かい。そんなものその癒楽草はわたしでも鑑定できないんだ。自然にバレるなんてことはないよ。あんたが話さなければ失敗なんてありえないさ」
「それはそうですか…」
「ほら、つべこべ言ってないで、さっさとこの金をしまいな」
「あ、はい」
机の上の金貨の山をカバンに入れる。山のような金貨があっという間に吸い込まれる。いくらだったのかと所持金を確認すると、300万Gくらいだった。っていうか、ネギ坊の再生能力使えばどんだけでも手に入るんだが? これ一生金に困る事ないんじゃね?
あ、でもその都度300万Gくれるんだろうか。いや、だめだ、金を出しながら涙目だったマジョリカさんにそんなことはさすがにできない。
「こんなにいただいて… ありがとうございます」
「礼を言うのはこっちの方だ。こんな幻の薬草に出会えるなんて。さあ、これから資料を集めてコレをどう使うかを研究しないとね」
そうか、マジョリカさんが癒楽草の使い方を調べてくれるんだな。それはありがたい。
ん? まてよ。そうなると、万事屋さんの美容液はどうなるんだ?
❖❖❖❖レイスの部屋❖❖❖❖
へ? エクストラ職業って… へ?
うわーー、あのMJが、あのMJが暴走し始めやがったー、えらいこっちゃー!!
ん? 待てよ。
あれ? これって失敗したらいいだけじゃね?
だよな。
よし、YR1、今こそお前の本領を発揮する時だ。行けー! 暴れてしまえー!
――――――――――――――
◇達成したこと◇
・受注 <エクストラ職業クエスト~マジョリカの愛弟子>
・転職:中級薬師
・習得:【調合Lv1】【匙加減】
・【癒楽草】販売で300万GET
・入手:破れシルクハット
◆ステータス◆
名前:スプラ
種族:小人族
職業:中級薬師 new!
属性:なし
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:1
耐久:1
敏捷:1
器用:1
知力:1
固有スキル:【マジ本気】
スキル:【正直】【薬の基本知識EX】【配達Lv4】【勤勉】【逃走NZ】【高潔】【依頼収集】【献身】【リサイクル武具】【採取Lv10】【採取者の勘】【精密採取Lv3】【調合Lv1】new!【匙加減】new!
装備:【破れシルクハット】new!
【ただのネックレス】
【夢追う男の挑戦的ローマサンダル】
所持金:約300万G new!
称号:【不断の開発者】【魁の息吹】【新緑の初友】【自然保護の魁】
従魔:ネギ坊[癒楽草]
◎進行中常設クエスト:
<薬屋マジョリカの薬草採取依頼>
●進行中特殊クエスト
<シークレットクエスト:万事屋の悩み事>
<エクストラ職業クエスト~マジョリカの愛弟子>new!
〇進行中クエスト:
<クエスト:武器屋マークスの個人的な依頼>
◆契約◆
名前:ネギ坊
種族:瘉楽草[★☆☆☆☆]
属性:植物
契約:スプラ(小人族)
LV:1
HP:5
MP:10
筋力:1
耐久:1
敏捷:0
器用:1
知力:5
装備:【毒毒毒草】
固有スキル:【超再生】【分蘖】
スキル:【劇物取扱】




