第319話 嵐の前夜は静かなもの
「おお、スプラか、遅かったではないか」
ガガンさん達に見守りを頼んだ城壁へと戻ると、ガガンさんとダガンさんがハンマーを片手に息を整えていた。
「えっと、これってもしかして?」
「急にこの怪物たちが消え出しての。慌てて岩魔をハンマーで討伐したところじゃ」
「そこの葉っぱの奴から徐々に枯れていったぞ。最後は花のやつが残っておったがそう時間を置かんうちに枯れたわい」
そっか、ってことはついさっきまでは生きてたと。今、夜9時だから…1時間くらいか。
「了解です。ガガンさん、ダガンさんありがとうございました」
「いやいや、まったく手応えがなくての。だいぶ弱っておったようじゃ。わしらは1発ずつ軽く小突いただけじゃしの」
「ああ、岩魔がこうも簡単に倒せるとはの。不思議なもんじゃて」
「なるほど……で、この子は?」
城壁に寄りかかって座っている兜ネコのニャン坊を指す。
「おお、それだけはおとなしくての。敵意も感じんかったんで放っておいたらずっとそこに座っておるんじゃ」
「ニャン坊どうした?」
ピンポーン
『岩魔ニャン坊と契約しました』
グゴ
あ、そうか、従魔枠増えたんだったな。どうしよ、従魔ギルドに売るか……
グゴ?
どうしよ…
グゴ…
うーん
グゴ??
「だー、やっぱ無理だー! ニャン坊、これからよろしくな!!」
グゴ!
「じゃあ、ニャン坊も色塗るか? で、岩っ子班に加入だ!」
体をクリーム色に、兜を黄色とオレンジにしよう。
グゴ?
「うん、いい感じ。じゃあ、ニャン坊、他の岩っ子班と一緒にこの街の警護に当たってくれ」
グゴ! ……グゴ?
ニャン坊が短い手で敬礼、やる気満々で移動を始めるがすぐに足元にあるさっきまでムシトリーズが入っていた植木鉢につまずいてしまう。すると、その植木鉢を持ってこっちに見せてきた。どうやら「これなに?」ってことらしい。
「あ、それ? それは植木鉢。植物を入れてモンスター対策するの」
グゴ?
「え、それ持つの?」
グゴ…
「あ、それ持ちながら街を警護するのか。なるほど……それだと岩っ子班が苦手なすばしっこい飛蛇にも対応できるかもな。じゃあ、ちょっと待ってて」
散乱している植木鉢を全部ストレージしまい、リヤカーを引いて食虫植物畑に戻る。そして食虫植物を植え替えて急いで城壁に戻る。
「んじゃ、ニャン坊、コレを持って警護を頼むな。他の岩っ子班にもここにある鉢を持ってってくれるように伝えてくれる?」
グゴ
ニャン坊が短い足でゆっくりと街へと移動していった。ニャン坊が左右に揺れるたびに持たれた鉢のキンチュウも左右に揺れる。ニャン坊のお尻と反対方向に揺れるキンチュウがちょっと面白い。
「スプラ君といると全然退屈しないね」
ニャン坊を見送っていたらクレオから声がかかる。
「わたし今日はこれでアウトするけど、昨日のことだけ教えてくれない?」
「昨日のこと?」
「ゴマッキさんのこと」
「ああ、ゴマッキさんのこと忘れてた!」
「……だと思ったよ。でも、なんでゴマッキさん今日来なかったのかな? もしかしてわたし嫌われてたりする?」
「あ、そう言うんじゃなくて、ちょっと深い訳があって」
「深い訳? それってゲーム的な? それとも個人的な?」
「あ、ゲーム的な事情。ちょっと厄介な状況でさ」
「もしかして指名手配と関係ある?」
「あ、知ってるんだ」
「そっかあ、じゃあわたしもゴマッキさんと話さないとな」
ん? クレオが話す? 何をだ? ってかそういや、ゴマッキさん連絡来ないな。
プルプル
「あ、ちょっとごめん、フレコだ…って、ゴマッキさんじゃん!」
『スプラっちー! このドレスありがとう! すごいよコレ、死に戻りしなかったもん!』
『ああ、気に入ってもらえてよかったです。ってか連絡遅かったですね』
『そうなのよ、12時間待ってやっと熟睡から覚めたと思ったら5分もしないうちにしょうもない木を鑑定してまた熟睡しちゃって。今やっと二度目の目覚めなの。スプラっち今どこ?』
『北の街にいます。クレオも一緒なんですけど、昨日の件でゴマッキさんの事バレてますから、話しておいた方がいいんじゃないかなって。しかもなんかクレオが指名手配の事知ってて、それでゴマッキさんと話したいらしいっすよ』
『え、そっか。そうだよね、昨日バッチリやっちゃったもんね。仕方ないか。じゃあ、どうする? わたしラスプの近くにいるから農屋に行こうか?』
『はい、じゃあお願いします』
フレコを切って振り返ると、目の前にクレオの顔が。いやいや近いから。
「ゴマッキさんなんて?」
「今から農屋に来るって。そこで話すってさ。じゃ、行こっか」
クレオを連れて農屋に戻る。ガガンさんとダガンさんには今晩の分の五祥霊砲酒を渡して帰ってもらった。
…
…
「んーおいしい。やっぱ凄いわ、この極楽?ジュース」
ゴマッキさんが極楽発砲水を一気に飲み干して上機嫌だ。
「で、ゴマッキさん、クレオが話したいってことですけど」
「あー、クレオちゃん、昨日はごめんね~。クレオちゃんには話しとくね」
「あ、はい、今トレード出しますね。スキル内容とその経緯ってことでいいですか?」
「うん……はい、んじゃ、これで成立っと」
クレオとゴマッキさんが暗黙の了解といった風に慣れた感じでトレードを締結する。
いいな〜、俺もこんなふうに当たり前みたいな感じでトレードしてみたい。未だに使い方よく分からんしな。
「うわっ、なんですか、コレ」
「ひどいでしょ~」
「そっか、それで指名手配に…」
「そうなのよ、現場見られた街の衛兵を一人逃がしちゃってね」
「仕留めきれないとそうなりますよね」
「そう。このスキル詰めが甘いのよね~」
なんだ? なんか不穏な会話に聞こえるんだが? 「仕留めきる」とか……スナイパーかなにかでしょうか?
「あの、もしなんなら俺、癒楽房で作業してアウトしますけど……」
妙に意気投合して盛り上がっている2人には俺の言葉は届いていない。母親と妹が盛り上がってる時は俺も父親と一緒に蚊帳の外に出されてきたからな。こういう時はササッと姿を消すに限る。
癒楽房に移動して【採種】をしながら明日の予定を考える。
「北の城壁は終わったし、岩魔も飛んでこないみたいだったしな。次は薬房と住居と行政府かあ。じゃあ、午前中に住居を作ってもらって俺が【特殊建築】で複製してる間に薬房やってもらう感じかな。で、午後から皆で行政府だな。念のために岩っ子班に護衛に入ってもらうか…」
「あ、スプラっち、ここにいたの〜」
「やっぱり種やってくれてたんだ〜」
15分ほどで2人が癒楽房に入ってきた。もう話は終わったのか?
「じゃ、クレオ、これ種30個な」
「うん、ごめんね、ありがとう。本当にお金いいの?」
「うん、知っての通り全く金に困ってないから。それにあのパッツンに金くれてやるのは嫌すぎるからな」
「そっか……じゃ体で返すね」
「へ? クレオ何言ってんの?!」
「ちょ、クレオ! ゴマッキさん、違いますから。ナガちゃんっすよ。ナガちゃんの至極の羽毛の肌触りで払ってもらうって事です」
言っとくが、FGSは未成年もやってるから清く正しく美しくがモットーだからな……最近はニカブあたりが怪しいが…
「もう、お姉さんびっくりするじゃないの。最近の若い子は本当に理解でいないから」
おお、ゴマッキさん、俺もゴマッキさんの方です。ここ、ここの線で分かれてますよね。
「……スプラ君はこっち側だと思うよ」
俺がクレオとの間に足で線を引いていると、クレオが冷めた目で見てくる。
「うん、スプラっちはそっち側よ」
ゴマッキさんまでそんなことを言うのか。俺は29歳だぞ、内緒だけど。
「まあ、それはともかく、わたしはログアウトするわ。熟睡する前にログアウトしとかないと制御不能になるから」
「あ、じゃあ明日のログイン時間決めときましょう。熟睡キュアポーション用意しときますよ」
「じゃあ、9時でどうかしら? ログイン場所はラスプの西地区の宿屋なんだけど」
「そこは良く知ってるので大丈夫です。じゃあ9時に宿屋前で」
「あ、じゃあ、わたしも明日は一日大丈夫だから9時前に農屋に来るね」
ゴマッキさんとクレオがそれぞれログアウトしていく。
さて、じゃあ俺は……12時まであと40分。アレを作るための素材だけ採取してログアウトするか。
アリオンに乗って東の森へ疾走し、森中を走り回る。走りながら採取アイコンをチェックし、お目当てのものを見つけてそのままログアウトした。
❖❖❖レイスの部屋❖❖❖
「あのモンスターの従魔化は約1時間みたいですね、先輩」
「なるほどな。あの新スキルは素材リソースを無理やりモンスターリソースに変換するから、それが時間の制限っていう形で現れるってことか」
「あ、先輩、スプラさん、従魔枠をゴーレムで埋めちゃいましたよ。しかも、街の防衛指示まで出しちゃってます。これ、売る気ないっすよ」
「うおおおい、小僧! お前、自分がカッティングしたからってゴーレムに愛着持ってんじゃねー! さっさと売っ払って従魔システムを広げんかい!」
「でも、これがスプラさんっすよ、先輩。なんか新しいゴーレムも嬉しそうですもん」
「やってほしい事やらずにどうでもいいことに時間をかける。小僧ってそういうとこあるよな」
「まあ、でもこれで従魔システムが広がることは期待できなくなりましたし、後はさっさと国作り進めてくれたらいいっすね」
「そうだな……って、言ったそばから森に入ってったぞ。何してんだ?」
「何か探してる見たいっすけど……あ、見つけたっぽいっすね」
「あああっ、それっ!! この広い森にたった2本しかないやつ!! 小僧、まさか、お前……」
「これは先輩、先輩のユニークスキルがピンチっすよ。これは流石にヤバいっす」
「小僧、マジで止めてくれ!! 【マジ真視】はお前がいない前提で作ったんだ。それをされると、俺、マジ困惑」
「(なんだかんだ言って、楽しんでますよね、この人……)」
―――――――――――――
◇達成したこと◇
・束縛した岩魔がニャン坊残して全滅
・ニャン坊と契約
・ニャン坊のムシトリーズを持って警護したいという要望に応じる
・ゴマッキとクレオが慣れた感じでトレード結んでるのを羨ましがる
・ゴマッキとクレオに自分がクレオ側だと言われ不納得
・東の森で何かをゲットする
◆ステータス◆
名前:スプラ
種族:小人族
星獣:アリオン[★☆☆☆☆]
肩書:マジョリカの好敵手
職業:多能工
属性:なし
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:1
耐久:1(+33)
敏捷:1(+53)
器用:1
知力:1
≪武器≫ (決断の短刃─絆結─)※筋力不足
≪鎧≫ 仙蜘蛛の真道化服【耐久+33、耐性(斬撃・刺突・熱・冷気・粘着)】
≪足≫ 飛蛇の真道化靴【敏捷+53】
≪アクセサリー≫ 道化師の自然派キャリーセット
◆固有スキル:【マジ本気】
◆スキル:
特殊──【逃走NZ】【危険察知NZ】
保有──【品格】【献身】【騎獣術】【依頼収集】【念和】【土いじり】【熟達の妙技】【眼通力】【薬草の英知】【劇毒取扱】【特級毒物知識】【独り舞台】【鉱物学】【超速読】【解読術】【土壌知識】
成長──【秘薬Lv10】【石工Lv10】【配達Lv10】【一夜城Lv10】【投擲Lv10】【狙撃Lv10】【料理Lv10】【コーチングLv10】【カッティングLv10】【融合鍛冶Lv6】【特殊建築Lv6】【散弾狙撃Lv5】【解析鍛冶Lv4】【高級料理Lv4】【魔力操作Lv4】【ルーティンワークLv3】【採土Lv3】【極意の採取Lv2】【上級採掘Lv1】【瘴薬Lv1】【レザークラフトLv1】【裁縫Lv1】【空間描画Lv1】【コスパ料理Lv1】
耐性──【苦痛耐性Lv3】
◆所持金:約4億300万G
◆従魔:ネギ坊[癒楽草]、チク坊[護針獣]、ペン坊・ミケ坊・タツ坊・ニャン坊[岩魔]
◆称号:【不断の開発者】【魁の息吹】【新緑の初友】【自然保護の魁】【農楽の祖】【肩で風を切る】【肩で疾風を巻き起こす】【秘密の仕事人】【秘密の解決者】【秘密の革新者】【不思議ハンター】【不思議開拓者】【巨魁一番槍】【開拓者】【文質彬彬】【器用貧乏】【従魔業の開祖】
■【常設クエスト】
<定期納品:一角亭・蜥蜴の尻尾亭・腹ペコ熊の満腹亭……>
■【シークレットクエスト】
<太皇太后の想い> 第二の街復興と独立国家建設
・行政府 0/1
・鍛冶工房 3/2
・薬房 1/2
・住居 0/10
・北側城壁 完成/10m
◆星獣◆
名前:アリオン
種族:星獣[★☆☆☆☆]
契約:小人族スプラ
Lv:20
HP:310
MP:445
筋力:48
耐久:46【+42】
敏捷:120
器用:47
知力:69
装備:
≪鎧≫ 赤猛牛革の馬鎧【耐久+30、耐性(冷気・熱)】
≪アクセサリー≫ 赤猛牛革の鞍【耐久+12】
≪アクセサリー≫ 赤猛牛革の鐙【騎乗者投擲系スキルの精度・威力上昇(小)】
◆固有スキル:【白馬誓魂】
◆スキル:【疾走Lv8】【足蹴Lv2】【噛み付きLv3】【水上疾走Lv1】【かばうLv10】【躍動】【跳躍Lv3】【二段跳び】【守護Lv10】
◆従魔◆
名前:ネギ坊
種族:瘉楽草[★★★★☆]
属性:植物
契約:スプラ(小人族)
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:3
耐久:3
敏捷:0
器用:6
知力:10
装備:
≪葉≫【毒毒毒草】
≪葉≫【爆炎草】
≪葉≫【紫艶草】
◆固有スキル:【超再生】【分蘖】
◆スキル:【劇物取扱】【爆発耐性】【寒気耐性】
◆分蘖体:ネギ丸【月影霊草】ネギ玉【氷華草】ネギコロ【天雷草】
名前:チク坊
種族:護針獣[★☆☆☆☆☆]
属性:依存
契約:スプラ(小人族)
LV:1
HP:20
MP:410
筋力:5
耐久:4
敏捷:14
器用:12
知力:14
装備:なし
固有スキル:【僕を守って】■■■■
スキル:【逃走】
名前:ペン坊、ミケ坊、タツ坊、ニャン坊(岩っ子班)
種族:岩魔[★☆]
属性:岩
契約:スプラ(小人族)
LV:1
HP:555
MP:33
筋力:255
耐久:255
敏捷:3
器用:3
知力:3
装備:なし
固有スキル:【岩食】
スキル:【叩き潰しLv1】
◆生産セット◆
・大地の調合セット
◆特殊所持品◆
・魔剣の未完成図面
◆所有物件◆
・農屋
・野菜畑(中)、フルーツ畑(小)、食虫植物畑(小)
・癒楽房(格式Ⅲ)
・極凰洞
◆契約住民◆
・ミクリ【栽培促進】
・ゲンジ【高速播種】
・チッチャーネ【味見】【原種進化】
・デッカイ【益虫使い3】&オッキイ【益獣遣い3】
◆お手伝い◆
・ガガン【双想顕現】
・ダガン【双想顕現】




