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第317話 地獄の惨劇

「岩魔10体来ます!」


「10体飛ばのは反則じゃー!」

「なんで歴代王家より多いんじゃーー!!」


 ダガンさんとガガンさんが文句を言いながら城壁の影から巨大ハンマーを担いで構える。


 だが、実のところ昨日ムガンさんと対峙した俺はおそらくこうなるだろうことは予測していた。だって、あの時のムガンさん、半端なかったもん。城壁完成しそうになったら絶対に2体や3体じゃすまないって思ってた。


 だから持ってきたんだ。この食虫直物、ムシトリーズをな。


「チク坊、おいで」

『チュチュ?』


「ほら、このムシトリーズがチク坊を守ってくれるからな」

『チュチュチュ?』


 では、コホン。


「来たー、チッチャーネさんが10人飛んできたー!!」

「え、俺が10人?」


『チュチュチューーー!!!』


 衝撃のフェイク情報にチク坊がムシトリーズの中を駆け巡る。すると、ムシトリーズのほんわかしていた雰囲気に変化が現れる。そしてすべてが高さ5m級の巨大食虫植物軍へと変貌した。


 キンチュウのただのネバネバだっただけの葉には剣呑なギザギザが生え、ガシガシとなにかを咀嚼でもするかのように開閉を繰り返す。


 アースンの蓋つきコップは巨大化し、その脇からは棘のある太いツルが2本ニョキニョキと伸びる。まるですべて捕まえて放り込んでやるぞと言わんばかり。


 マキラの長い葉っぱは本体よりも高く伸び、その表面には無数の触毛が生える。さらにその葉っぱが絨毯のように丸まったと思うと、次の瞬間には一瞬で空中に葉を伸ばして、再び一瞬で丸まる。まるで巨大なカエルの舌だ。


 そして最後のマルサンにいたっては逆さ円錐上の葉がなくなり、その代わりに妖艶な巨大花が咲く。何とも言えな甘ったるい匂いを漂わせるが、その花の中央にはぽっかり空いた口の中は漆黒の闇。根元から伸びた細く長い蔓が餌を探すかのように空中を揺らめいている。


 モンスター化したムシトリーズ。


 その狂気の気配が場を支配していく。



「こ、これはまた…」

「ち、地上はこうも恐ろしいものじゃったか…」


 ガガンさんとダガンさんが城壁の外側に跋扈するムシトリーズに完全に腰が引けている。


「来ます!!!」


 上空を見るとだんだんと大きくなってくる岩。陽光に照らされ光陰がくっきりとついた巨岩がが北側の空を埋め尽くしながら飛んで来る。そんな世界の終焉かと思えるような情景に俺を乗せたアリオンも後ずさる。


 どんどん迫り大きくなってくる岩魔。


 しかし、その先頭の一つが急に下降する。見るとマルサンの長い蔓が絡め取り地面に引き落としたようだ。さらに2つの岩魔が地面に落とされ轟音をあげる。


 上空にはさらに大きくなって目前に迫る岩魔7体。今度はそのうちの2体が一瞬で姿を消す。マキラが葉を伸ばして絡め取ったようだ。


 残り5体が城壁のすぐ直前まで迫ると、今度は横からぶっといトゲトゲの蔓が岩魔を殴り飛ばす。2体が蔓の棘にその岩の体を大きく削り取られながら吹っ飛んでいく。


 そして最後の3体が城壁に衝突する直前にキンチュウがその金属より硬い葉っぱのすべてを広げ緑の壁を作ると、まるでバレーボールのブロックのように岩魔3体を真下に叩き落す。


 地面に落ちた岩魔は棘の蔓によって持ち上げられ、アースンのコップに入れられ……ようとしたが、どうやら入らなかったようで、コップの上に蓋をするような形で逆さまになっている。


「すっげーー!!」


 遠くに避難していたデッカイが叫ぶ。


「これは……わしらの城壁が守られたということか?」


 ダガンさんがその場に膝をついて茫然としている。だが、まだ終わりじゃない。北側城壁を完成させないとこの流れを終わらないはずだ。


「ダガンさん、城壁を伸ばします! その場を離れてください!」


 ダガンさん達によって一瞬で作られた高さ14m、長さ10mの城壁。今度は俺がこの城壁を延伸する。


「【特殊建築】!!」


 瓦礫の街にあった砕かれた小石の山々が赤く光る。ガガンさん達が城壁を作った時に剥がれ落ちた石も赤く染まる。それらが何本もの赤い巨大チューブとなって俺が指定した空間へと流れ込んでいく。



ドーーーーーーーン


 街中から移動してきた赤いリソースが集まり、街の東西、端から端まで300m程に延伸された北城壁が轟音とともに姿を現したのだった。



ピンポーン

『特定行動により【特殊建築Lv4】のレベルが2上がりました』





ガシガシ ガシガシ ガシガシ


 地面に落とされマルサンの蔓で地面に固定された岩魔3体がキンチュウのギザギザの葉によって少しずつ削られている。


 3体のアースンのコップにも3体の岩魔が逆さまにツッコまれている。大きすぎて蓋は閉まっていない、と言うか、たぶん溶解液があるところまで入っていない。無理やりグイグイと棘の蔓で押し込まれているがどう見ても入る大きさじゃない。


 残りの岩魔4体はマキラによって長い葉に巻かれて動けなくなっている。



「で、スプラよ。これどうするつもりじゃ? また従魔にでもするのか?」


 ガガンさんが呆れたような目で聞いてくる。


「そうですね……」


 実はムシトリーズが岩魔を全て無力化してからそれについてずっと考えているのだが……実はもうこれ以上隅っこの方のキャラ……否、新しいキャラを思いつかないのだ。


「このままにはしてはおけんしの、なんならこのハンマーで叩き壊すぞ」


 そう言って、どデカいハンマーを担ぐダガンさん。いや、でもさ、岩っ子班を作っちゃったから、岩魔を叩き壊すのに正直抵抗あるんだよな。なんか、岩っ子班の先祖を壊すみたいでさ。


「とりあえず、1体だけ削ってみます」


 うーん、どういう姿にするかな。猫、ペンギン、恐竜ときたら……




「こりゃ、なんじゃ? 兜かの?」


 武士風のゆる猫になった岩魔を見たガガンさんが首を捻る。考え抜いた結果、創造性を全く発揮できなかった自分をポカスカ心の中で叩きながら、とりあえず名前を付ける。


「じゃあ、お前はニャン坊な」



ブーン

『従魔枠が最大に達しています。従魔を手放すか、従魔ギルドへ販売して枠を空ける必要があります』



 ……??


「どうしたんじゃ、スプラ。なにも変わっとらんぞ」


 ガガンさんがニャン坊にしようと思っていた岩魔を角度を変え替え観察している。


 ってか、短いアナウンスの中に新しい情報が氾濫しとるんだが? なに? まず、従魔枠が最大……確か称号効果で+1されてたはず。ってことは従魔枠のデフォルトは最大4体だったってことか? ネギ坊、チク坊、岩っ子班3体の5体が俺の最大枠ってこと?


 で、従魔を放す? そんなことできんの? ってか、放すくらいなら販売したほうが絶対にいいじゃん。え、放すメリットとか何かあるのか?


「うーん…」

「どうしたスプラ?」


「ガガンさん、俺ちょっと行きたいところがあるんで、この岩魔たち見ててもらえませんか?」

「え、この地獄の惨状を見とけと言うのか?」


 いや、地獄の惨状って……ま、わかるけども。


「もし何か起きたら叩き壊してくださって大丈夫なので」

「ふむ、まあいいがの。アレがあればどれだけでも見ておるぞ」


 そう言ってコップを呷る仕草を見せてくるガガンさん。まあ、あんな大仕事してくれたんだし、全然いいんだけどね。もう夕方でもあるし。


 ガガンさんとダガンさんには五祥霊砲酒を、チッチャーネさんとデッカイ&オッキイには極楽発砲水を渡し、俺はクレオとともに例の場所、従魔ギルドに向かう。




「あらー、スプラ君、いらっしゃい」


 従魔ギルドではウソノさんが文字通り首を流くして待っていた。だるそうに天井見上げてポケーっとしていたのを見てしまった。


「ウソノさん、ちょっと聞きたいことがあるんですけど」

「なあに、何でも聞いて」


 ウソノさんが少しかがんで俺の視線に合わせてくれる。でも顔がちょっと近い。


「って、ちょっと待って!」


 急に立ち上がるウソノさん。そしてその視線が俺の背後に向けられる。


「なに、その子かわいい~」


 俺の後ろでおとなしく状況を見守っていたクレオ、その肩にチョンっと乗っかているナガちゃんがロックオンされたらしい。でもナガちゃんは星獣なんだが? ウソノさん星獣には興味なさそうだってけど。


「あ、この子はシマエナガのナガちゃんです」

「へえ~、そうなの~、ナガちゃんって言うの~」


 おお、ゴマッキさんとはバチバチだったのにクレオは違うんだな。ってか、それぞれでファッショナブルだからなんか絵になるな。


「いいわ~。“かわいい”に星獣も従魔も関係ないもの。“かわいい”は正義よね~」


 ナガちゃんのふわふわ羽毛をツンツンして目尻を下げまくるウソノさん。この人こんな顔もするんだな。


「ナガちゃんもかわいいですけど、スプラ君のチクちゃんもかわいいですよ」


 ウソノさんのツンツンしていた指が動きを止める。


「……チクちゃん?」

「はい、もうチクちゃんの“かわいさ”と”えげつなさ”のギャップにわたしやられちゃって…」


 そっか、岩魔戦ずっと見てたもんな。なるほど、ギルドに来るまでずっと俺の背後にいたのはチク坊を見てたのか。リュックからよく顔出してるもんな。


「スプラ君? どういうことかしら?」


 ウソノさんが俺の前に移動して今度は腕組みをしながら見下ろしてくる。なんか迫力がすごい。しかし、下からのアングルでも美人なんだな。つまりウソノさんマジもんの美人ってことか。ちょっと抜けたところがなかったら俺には完全に無理なタイプだった。


「この前の卵が孵ったんですよ。ほら、チク坊おいで」

『チュチュ?』


「……」


 チク坊を見たウソノさんが固まる。ただ目だけが見開き、そして血走り、さらに鼻息が荒くなって…


「…し…」


 今度は手が震えだした。いや、大丈夫か?


「…し……」


「ウソノさん、大丈夫で…」

「新種じゃねえーかーーーーーーーーーーーーー!!!!」


 血走った目で見下ろされ、絶叫されたことで、なんか力が抜けて後ろに倒れていきながら、「ああ、前も見た天井だな~」なんて思いがよぎった俺だった。




❖❖❖レイスの部屋❖❖❖


「だはーーー、小僧、お前やりやがったなーーー!!」


「やりましたねー(……フラグ通りっす!)」

「だーーー、もうなんだよこの地獄の惨劇はよ」


「流石にこれは気持ち悪いっすね」

「ったく、こんな気持ち悪い絵なんか使えっかよ。小僧、やらかすのは1000歩譲ってやる。だからせめて絵は撮らせろ。こいつら使うのだけはやめてくれーー!!」


「うわ、花が岩を食べようとして食べられなくて地面に叩きつけましたよ。これはえげつないっす……」

「こんな情景外に出したら炎上するわ!!」


「プレイヤーがFGSに寄り付かなくなりますね。特に女性プレイヤー」

「小僧、お前、一陣二陣呼び戻しするんじゃねーのかよ、逆効果っー!! そして、その兜ネコはアウトーーー!!」



―――――――――――――

◇達成したこと◇

・ムシトリーズをモンスター化

・建築「北の城壁完成」

・習得【特殊建築Lv6】

・地獄の惨状を作り出し皆に引かれる

・岩魔を削るが創造性を発揮できずに凹む

・ガガンとダガンにムシトリーズの見守りをさせる

・従魔ギルドにいろいろ聞きに行く

・ウソノの絶叫に過去を思い出す



◆ステータス◆

名前:スプラ

種族:小人族

星獣:アリオン[★☆☆☆☆]

肩書:マジョリカの好敵手

職業:多能工

属性:なし

Lv:1

HP:10

MP:10

筋力:1

耐久:1(+33)

敏捷:1(+53)

器用:1

知力:1

≪武器≫ (決断の短刃─絆結─)※筋力不足

≪鎧≫ 仙蜘蛛の真道化服【耐久+33、耐性(斬撃・刺突・熱・冷気・粘着)】

≪足≫ 飛蛇の真道化靴【敏捷+53】

≪アクセサリー≫ 道化師の自然派キャリーセット


◆固有スキル:【マジ本気】

◆スキル:

特殊──【逃走NZ】【危険察知NZ】

保有──【品格】【献身】【騎獣術】【依頼収集】【念和】【土いじり】【熟達の妙技】【眼通力】【薬草の英知】【劇毒取扱】【特級毒物知識】【独り舞台】【鉱物学】【超速読】【解読術】【土壌知識】

成長──【秘薬Lv10】【石工Lv10】【配達Lv10】【一夜城Lv10】【投擲Lv10】【狙撃Lv10】【料理Lv10】【コーチングLv10】【カッティングLv10】【融合鍛冶Lv6】【特殊建築Lv6】【散弾狙撃Lv5】【解析鍛冶Lv4】【高級料理Lv4】【魔力操作Lv4】【ルーティンワークLv3】【採土Lv3】【極意の採取Lv2】【上級採掘Lv1】【瘴薬Lv1】【レザークラフトLv1】【裁縫Lv1】【空間描画Lv1】【コスパ料理Lv1】

耐性──【苦痛耐性Lv3】


◆所持金:約4540万G

◆従魔:ネギ坊[癒楽草]、チク坊[護針獣]

◆称号:【不断の開発者】【魁の息吹】【新緑の初友】【自然保護の魁】【農楽の祖】【肩で風を切る】【肩で疾風を巻き起こす】【秘密の仕事人】【秘密の解決者】【秘密の革新者】【不思議ハンター】【不思議開拓者】【巨魁一番槍】【開拓者】【文質彬彬】【器用貧乏】



■【常設クエスト】

<定期納品:一角亭・蜥蜴の尻尾亭・腹ペコ熊の満腹亭……>

■【シークレットクエスト】

<太皇太后の想い> 第二の街復興と独立国家建設

・行政府 0/1

・鍛冶工房 3/2

・薬房 1/2

・住居 0/10

・北側城壁 完成/10m



◆星獣◆

名前:アリオン

種族:星獣[★☆☆☆☆]

契約:小人族スプラ

Lv:20

HP:310

MP:445

筋力:48

耐久:46【+42】

敏捷:120

器用:47

知力:69

装備:

≪鎧≫ 赤猛牛革の馬鎧【耐久+30、耐性(冷気・熱)】

≪アクセサリー≫ 赤猛牛革の鞍【耐久+12】

≪アクセサリー≫ 赤猛牛革の鐙【騎乗者投擲系スキルの精度・威力上昇(小)】

◆固有スキル:【白馬誓魂】

◆スキル:【疾走Lv8】【足蹴Lv2】【噛み付きLv3】【水上疾走Lv1】【かばうLv10】【躍動】【跳躍Lv3】【二段跳び】【守護Lv10】



◆従魔◆

名前:ネギ坊

種族:瘉楽草[★★★★☆]

属性:植物

契約:スプラ(小人族)

Lv:1

HP:10

MP:10

筋力:3

耐久:3

敏捷:0

器用:6

知力:10

装備:

≪葉≫【毒毒毒草】

≪葉≫【爆炎草】

≪葉≫【紫艶草】

◆固有スキル:【超再生】【分蘖】

◆スキル:【劇物取扱】【爆発耐性】【寒気耐性】

◆分蘖体:ネギ丸【月影霊草】ネギ玉【氷華草】ネギコロ【天雷草】


名前:チク坊

種族:護針獣[★☆☆☆☆☆]

属性:依存

契約:スプラ(小人族)

LV:1

HP:20

MP:410

筋力:5

耐久:4

敏捷:14

器用:12

知力:14

装備:なし

固有スキル:【僕を守って】■■■■

スキル:【逃走】


名前:ペン坊、ミケ坊、タツ坊(岩っ子班)

種族:岩魔[★☆]

属性:岩

契約:スプラ(小人族)

LV:1

HP:555

MP:33

筋力:255

耐久:255

敏捷:3

器用:3

知力:3

装備:なし

固有スキル:【岩食】

スキル:【叩き潰しLv1】



◆生産セット◆

・大地の調合セット



◆特殊所持品◆

・魔剣の未完成図面



◆所有物件◆

・農屋

・野菜畑(中)、フルーツ畑(小)、食虫植物畑(小)

・癒楽房(格式Ⅲ)

・極凰洞



◆契約住民◆

・ミクリ【栽培促進】

・ゲンジ【高速播種】

・チッチャーネ【味見】【原種進化】

・デッカイ【益虫使い3】&オッキイ【益獣遣い3】


◆お手伝い◆

・ガガン【双想顕現】

・ダガン【双想顕現】

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