第312話 初めての図書館
「スプラ君、こっちこっち」
図書館の読書コーナーで俺を手招きするクレオ。
「図書館なんて初めて来たな…ってか、あったんだな図書館なんて」
なぜ図書館に来たのかというと、西の荒野から戻る途中にまたクレオから連絡があり、図書館で待ち合わせすることになったのだ。
「ごめんね〜、急に。時間潰しに図書館寄ったらいきなりクエスト発生しちゃって」
そう言うクレオは本を見もせずにペラペラ捲っている。
「それ、何してんの?」
「あ、読書だよ、こうやってペラペラ捲ってると知識を覚えられるんだ」
え、知識を覚えられる? 何それ、知らない。
「スプラ君は図書館すら知らなかったもんね。なのに、よく最前線でいられるよね」
そう、図書館の存在とその場所をさっきクレオから聞いたばかりだ。
「ごめんたけど、もう少しだけ待ってくれる? あと10分くらいで終わるから」
「あ、別に大丈夫。ってか、俺も図書館探検したいから」
図書館の中は吹き抜けの2階建て。入り口を入ると2階までの全体を見渡せるようになっている。
広さはどうだろ、吹き抜け部分がバスケコート2面分くらいか。周囲にこれでもかと並べられている本棚に視線をやると、その本棚がなんの分野の本棚なのかが表示される仕様になっている。しかも全体を眺めれば大まかな配置も表示してくれる。
「これなら案内板がなくてもすぐにわかるな」
現在、クレオは吹き抜けの1階部分、たくさん長机が並んでいる一角で本をペラペラしている。
「これ、プレイヤーが多かったら異様な光景だろうな」
満席で全員が本をペラペラしている状態……うん、ちょっと怖いまである。
「どんな本があるんだろな」
近場から順番に見ていくと、薬草棚、食用植物、観葉植物が隣同士に並んでいる。
別の方では農業関連の本棚に、調合、鍛冶、料理と各分野ごとにまとまっているようだ。
「観葉植物かあ。食虫植物って観葉植物だよな? 『食虫植物の本』とかビンコなのはないのかな……おっ、なんだ?」
食虫植物を探そうとするとウィンドウ画面が勝手に開く。そこには『食虫植物を検索しますか?』の文字。
「え、なに? 検索機能とかあんの? めっちゃ便利じゃん! んじゃ検索っと」
ブーン
『食虫植物の検索結果は0件です』
んだよ、期待したじゃねえか…。
「そうなると…あ、土とか?」
『土を検索しますか?』
「します!」
ピコン
『検索結果、32件です。
・一から始める農業(推定読了時間30分)
・農業用土の科学(推定読了時間94分)
・土と土中生物(推定読了時間163分)
・百家農業(推定読了時間362分)
…
…
読了時間って…え、最低30分時間以上ペラペラしろってことか?
「いや、無理だろ。何の苦行だよ!」
ここは俺が来るべき場所ではなかったということが……ん?
「なんでこれだけ読了時間5分なんだ?」
リストの一番下に読了時間5分の本があった。
『薬根植物の生態』
「なんか、よくわからんけど5分くらいなら読んどくか」
クレオもあと5分くらいで終わるはずなので、試しに1冊読んどくことにする。
「おお、すっげー、本が飛んできた!」
俺が本を読むと決めると、なんと本棚から本が飛び出して吹き抜けをグルっと一周しながら俺の手元にやってきた。
図書館らしからぬエフェクトだが、俺的にはアリよりのアリだ。だって、こんなの読んだら絶対に魔法とか覚えそうじゃん。
「んじゃ、えっと、なになに、え、そうなの? へえ。あ、マジっすか? へえ………」
…
「スプラくーん」
「ん? あ、クレオ、もう終わったの?」
「終わったじゃないよ。15分待ってますけど?」
「え、マジで?」
クレオの声に慌てて時計を見ると、確かに読み始めて20分が経過していた。
「そんな集中して何の本読んでたの? 声掛けづらかったよ」
「あ、これは『薬根植物の生態』って本」
「げ、それ読了時間が鬼畜本の一つじゃん。なんでそんな意味のない本集中して読んでんの!? もしかしてスプラ君、苦行好きだった?」
ん? 読了時間が鬼畜? なんか勘違いしてるな。
「クレオ何言ってんだ? 読了時間5分だぞ。ただ中身が面白かったからつい時間忘れてた読んでただけ、すまん」
一瞬キョトンとしたクレオが図書館をグルっと見渡して視線を止める。すると本が吹き抜けの中を降りてくる。
「『薬根植物の生態』よね? ほら、読了時間14400分だよ。中身も……ほとんど白紙だし」
「は? いやいや、5分だって。で、中も面白いから、ほらこの陽光草の根っこをこうやって処理すると熟睡耐性が増すんだって。こんなのゴマッキさんの……」
「え、どこ? どこに書いてあるの? ここから先真っ白なんだけど?」
「え、だからこの辺。ってか、ここまで白紙なんてないよな?」
「え、白紙だよ?」
「……」
「……」
空中の一点を見つめるクレオと、そのクレオを見つめる俺。するとクレオの目が見開く。そして俺にもピンと来る。
「「スキル(持ってる?)かな?」」
同時の発声がちょっとハモる。
「【薬草の英知】のせい…」
「ストーップ!」
クレオが俺の言葉を遮る。
「スプラ君、そういうヤバい情報を前触れなく言うのやめよっか。スキルの中身のことは聞かないから。この話はここまで」
なんかクレオが肩で息をしている。そうか、情報もお金になるんだったな、そう言えば。
「読了時間にはスキルで短縮されるって事は分かってるの。でも、その効果は5%〜50%ぼど。14400分が5分なんて……あ、この情報自体ヤバいか……んじゃ、スプラ君、トレードお願い」
ピコン
『プレイヤー、クレオパンドラからトレードの申請が届きました』
「300万で買うから、今の。これで他には言えないから。うん、これで安心」
なんか、一人で決めて一人で納得しているクレオに何も言えない俺がいて……
ピコン
『トレードが成立しました』
「じゃ、この話はこれでおしまい。行こっか」
「あ、うん」
ピコン
『読了時間が過ぎていますが、読了しますが?』
俺が本を置いて立ち上がるとウィンドウが現れる。
「読了?」
「あ、時間が過ぎたら自分で読了するんだよ。本画面の左下にボタンない?」
クレオの言葉に本を見ると確かに左下に『読了』というボタンが黄色く点灯している。
んじゃ、ポチッと。
ピンポーン
『標準読了時間の1%未満の時間で読了しました。【超速読】のスキルを習得しました。極級難解書を読了したため【解読術】を習得しました』
【超速読】
速読スキルの最高峰。読了時間が10%に短縮される。
【解読術】
標準読了時間600分を超える難解本の読了時間が10%に短縮される。
「……」
「ん? どうしたの?」
「いや、【超速読】ってのと【解読……」
「ちょ、ス、ストーーーップ!!!」
クレオの叫び声が静かな図書館に響き渡った。
その後、司書らしきNPCに厳重注意され、明日一日図書館の利用ができなくなったクレオを極楽発砲水で慰める俺だった。
❖❖❖レイスの部屋❖❖❖
「先輩、スプラさんって図書館利用したことなかったんですね…」
「ああ、アイツはMJやなんやから直接知識スキル伝授されてるからな」
「本来なら、知識系住人と仲良くなるために図書館で知識スキルを身に付けるんですけどね」
「小僧は始めっからショートカットしまくったからな」
「読書システムは習得している知識スキルによって読了時間が短縮されるシステムで、徐々に難解本が読めるようになるよう綿密にバランス調整されてますから」
「綿密なバランス調整……小僧の大好物じゃねえかよ。ったく、嫌な予感しかしねえな」
…
「スプラさん、今さら極級難解書なんて読み始めてどうするんすかね。そんなの読んでる場合じゃないのに」
「……ん? この感じ…ちょっと待て、小僧の読んでる本って…『薬根植物の生態』か!! ああっ、確か小僧には【薬草学】があったはずだ!」
「【薬草学】なら、薬草関連本の読了時間が100分の1ですから…144分で読了っすね。見事にバランス崩壊です」
…
「「……はい?」」
「ちょ、なんで、もう読了してんだ!? さっき読み始めたばかりだろうが!」
「ああっ、先輩! スプラさん、【薬草学】じゃなくて【薬草の英知】になってます!」
「なんだとぉーーーーっ! ってことはもしかして…」
「あーあ、二大読了時間短縮スキルが……」
「小僧ーーっ、頼むからシステム終わらせてくるの止めてくれーーっ!!」
―――――――――――――
◇達成したこと◇
・図書館の存在を初めて知る
・図書館のシステムに興奮する
・5分だけのつもりで読書してみたら20分読書し続けてしまう
・クレオから300万Gの情報トレードを締結する
・習得【超速読】【解読術】
◆ステータス◆
名前:スプラ
種族:小人族
星獣:アリオン[★☆☆☆☆]
肩書:マジョリカの好敵手
職業:多能工
属性:なし
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:1
耐久:1(+33)
敏捷:1(+53)
器用:1
知力:1
≪武器≫ (決断の短刃─絆結─)※筋力不足
≪鎧≫ 仙蜘蛛の真道化服【耐久+33、耐性(斬撃・刺突・熱・冷気・粘着)】
≪足≫ 飛蛇の真道化靴【敏捷+53】
≪アクセサリー≫ 道化師の自然派キャリーセット
◆固有スキル:【マジ本気】
◆スキル:
特殊──【逃走NZ】【危険察知NZ】
保有──【品格】【献身】【騎獣術】【依頼収集】【念和】【土いじり】【熟達の妙技】【眼通力】【薬草の英知】【劇毒取扱】【特級毒物知識】【独り舞台】【鉱物学】【超速読】【解読術】
成長──【秘薬Lv10】【石工Lv10】【配達Lv10】【一夜城Lv10】【投擲Lv10】【狙撃Lv10】【料理Lv10】【コーチングLv10】【カッティングLv10】【融合鍛冶Lv6】【解析鍛冶Lv4】【特殊建築Lv4】【散弾狙撃Lv4】【高級料理Lv4】【魔力操作Lv4】【ルーティンワークLv3】【極意の採取Lv2】【上級採掘Lv1】【瘴薬Lv1】【レザークラフトLv1】【裁縫Lv1】【空間描画Lv1】【コスパ料理Lv1】
耐性──【苦痛耐性Lv3】
◆所持金:約4540万G
◆従魔:ネギ坊[癒楽草]、チク坊[護針獣]
◆称号:【不断の開発者】【魁の息吹】【新緑の初友】【自然保護の魁】【農楽の祖】【肩で風を切る】【肩で疾風を巻き起こす】【秘密の仕事人】【秘密の解決者】【秘密の革新者】【不思議ハンター】【不思議開拓者】【巨魁一番槍】【開拓者】【文質彬彬】【器用貧乏】
■【常設クエスト】
<定期納品:一角亭・蜥蜴の尻尾亭・腹ペコ熊の満腹亭……>
■【シークレットクエスト】
<太皇太后の想い> 第二の街復興と独立国家建設
・行政府 0/1
・鍛冶工房 3/2
・薬房 1/2
・住居 0/10
・城壁 北側に10メートル
◆星獣◆
名前:アリオン
種族:星獣[★☆☆☆☆]
契約:小人族スプラ
Lv:20
HP:310
MP:445
筋力:48
耐久:46【+42】
敏捷:120
器用:47
知力:69
装備:
≪鎧≫ 赤猛牛革の馬鎧【耐久+30、耐性(冷気・熱)】
≪アクセサリー≫ 赤猛牛革の鞍【耐久+12】
≪アクセサリー≫ 赤猛牛革の鐙【騎乗者投擲系スキルの精度・威力上昇(小)】
◆固有スキル:【白馬誓魂】
◆スキル:【疾走Lv8】【足蹴Lv1】【噛み付きLv2】【水上疾走Lv1】【かばうLv10】【躍動】【跳躍Lv2】【二段跳び】【守護Lv10】
◆従魔◆
名前:ネギ坊
種族:瘉楽草[★★★★☆]
属性:植物
契約:スプラ(小人族)
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:3
耐久:3
敏捷:0
器用:6
知力:10
装備:
≪葉≫【毒毒毒草】
≪葉≫【爆炎草】
≪葉≫【紫艶草】
◆固有スキル:【超再生】【分蘖】
◆スキル:【劇物取扱】【爆発耐性】【寒気耐性】
◆分蘖体:ネギ丸【月影霊草】ネギ玉【氷華草】ネギコロ【天雷草】
名前:チク坊
種族:護針獣[★☆☆☆☆☆]
属性:依存
契約:スプラ(小人族)
LV:1
HP:20
MP:410
筋力:5
耐久:4
敏捷:14
器用:12
知力:14
装備:なし
固有スキル:【僕を守って】■■■■
スキル:【逃走】
名前:ペン坊、ミケ坊、タツ坊(岩っ子班)
種族:岩魔[★☆]
属性:岩
契約:スプラ(小人族)
LV:1
HP:555
MP:33
筋力:255
耐久:255
敏捷:3
器用:3
知力:3
装備:なし
固有スキル:【岩食】
スキル:【叩き潰しLv1】
◆生産セット◆
・大地の調合セット
◆特殊所持品◆
・魔剣の未完成図面
◆所有物件◆
・農屋
・野菜畑(中)、フルーツ畑(小)、食虫植物畑(小)
・癒楽房(格式Ⅲ)
・極凰洞
◆契約住民◆
・ミクリ【栽培促進】
・ゲンジ【高速播種】
・チッチャーネ【味見】【原種進化】
・デッカイ【益虫使い3】&オッキイ【益獣遣い3】
◆お手伝い◆
・ガガン【???】
・ダガン【???】




