第311話 植え替えは難しいらしい
「おお、増えとるな」
北の街に突如湧いてきた飛蛇のため、建設は一旦中断し飛蛇対策の為に畑に戻って来た。オッキイが提案してくれたアレを街へ運ぶためだ。
で、アレと言うのはもちろん食虫植物のこと。この食虫植物を街の中に散りばめて飛蛇を捕食してもらおうってのがオッキイのアイデアだ。ほんとこの子たち天才過ぎるよな。
農屋で見つけた大きな植木鉢をキンチュウの隣に置く。
「じゃあ、この植木鉢に移植して……あれ?」
「おい、兄ちゃん、枯れちゃったぞ」
ネギ丸たちが入っていた植木鉢に土ごと入れようとしたんだが、鉢に入れた瞬間に見る見るうちに枯れてしまった。
「あれえ、なんで枯れたんだろ。根っこ傷つけたのかな」
もう一度、今度は根っこを気づつけないように周りを広めにとって掘り上げてみる。
「ああ、また枯れちゃった」
「また枯れたぞ~」
「おかしいな。あ、そうだ、肥料かけたらどうだ?!」
肥料をかけてから移植してみるが、それでも鉢に入れた途端に、先と同じように枯れてしまう。
「おかしいな……鉢に入れると枯れるのか? じゃあ、これでどうだ?」
今度は鉢に入れずに土から上げたまま北の街へ運ぶ……が、3mほど離れた時点で枯れてしまった。
「ダメみたいだな、兄ちゃん」
これは……もしかして、食虫植物は移植できないってことなのか?
「兄ちゃん、この植物さあ、ツンツンしたらびっくりして挟んでたのを離しちゃうじゃん?」
デッカイがキンチュウをツンツンしながら話す。
「もしかして、刺激にメチャクチャ弱いんじゃね? わっ!」
ヘニャア~
デッカイが近くで大声を出して驚かせるとそのまま枯れていくキンチュウ。
いや、声だけで枯れるんかい。って、まあ、それもあり得るか。だって、エリゼさんの声だけで元気になってたもんな。だとしたら逆も十分に考えられる。
「食虫直物かあ、繊細なんだな~(俺みたいに)。どうしよかな。だれか詳しそうな人……ゼン爺しかいないか」
…
…
「おや、スプラさん、今日も子連れて。何か御用でしたかな」
いや、子連れって。
「ドリアさんに聞いたらここだって聞いたので」
今日もゼン爺はプレイヤーの小規模畑で講習という名のシゴキ中だった。俺がゼン爺を呼んだことで、シゴキから解放されたプレイヤーたちが一斉に座り込んだり、横になったり、うつ伏せに倒れ込んだりしている。一人だけ空に向かった何か叫んでるけど、あれは壊れかけてるのか?
「ちょうど、休憩にしようと思っておったところです。スプラさんの畑に伺いましょうかの」
「「うおおおおおっ」」
ゼン爺の休憩という言葉に畑から歓声が上がる。なんか可哀そうになってきたな。今度極楽発砲水でも差し入れしてあげようかな。
…
…
「ぷはあー、いや、美味いですの」
畑に来るなり農屋に直行したゼン爺。ドリンクサーバーの前でモジモジし始めたからとりあえず一杯渡したら一気に飲み干してご満悦だ。こりゃ、このために休憩にしたまであるな。
「で、ゼン爺に聞きたいのが、食虫植物のことで」
「ほう、あの植物ですな。実はわたしも気になっていろいろと調べておったところです。まだ畑にありますかな?」
「うん、まだ生えててさ、別の街に移植しようと思ったんだけど、すぐに枯れちゃってできなくて。それでゼン爺に聞きたかったんだよ」
「ふむ、では見てみましょうかの」
ゼン爺が農屋を出て畑に向かう。その後を俺とデッカイオッキイが付いていく。
「ふむふむ、しかし、これはまた何度見ても珍妙な植物ですな」
そう言いながらわざと指を葉に挟まれるゼン爺。葉からは粘っこい液体がにじみ出ている。
「【溶解液】…こんな簡単に錬金媒体が手に入るとは、なんともはや」
手に付いた液体をネチャネチャとさせるゼン爺。
「で、つつくと……驚いたようにして離してしまうと。ふむ、ずいぶん外部からの刺激に弱いですな。これですとやはりスプラさんの行われた通り、普通の移植は無理でしょうな」
そっか、やっぱりか。
「解決策は一つ。この植物と親和性が高い鉢を用意することですな」
「親和性が高い鉢って?」
「鉢に使われている土のことです。植物にはそれぞれ親和性の高い土というものがあるのです。鉢作成の素材に使われている土も影響があると言われておりますのでな」
土か。虫獣土とか?
「ちなみに【虫獣土】は無理ですぞ。陶器用の土でないといけません」
あ、そうなのね。じゃあ、森とか行けばいいのか?
「じゃあ、東の森とかで取れるかな?」
「いいえ、東の森で採れるのは栽培用の土。陶器制作用の土と言えば西の荒れ野です。あそこにならなにかしらあるやもしれません」
「そっか、西の荒れ野かあ」
「はい。ですが、西の荒れ野には群れて狩りをする犬モンスターが多く出没しますゆえ、採取するには危険な場所ですぞ」
犬か。リザードドッグだよな。なんか今だと懐かしくすらある。思えばリザードドッグのブーツを改造したことからマークスさんと仲良くなったんだもんな。
「あの犬達にはいろいろと世話になってるから、御礼でも言いに行ってきますよ」
「お礼…?」
「あはは、リザードドッグなら心配要らないので。ちょちょっと行って採取してきます」
…
…
てことで、西の荒れ野に来たはいいけど、そういや俺、初めて来たよな。これまで西の荒れ野だけは来たことなかった。
デッカイとオッキイは畑に置いてきたし、チッチャーネさんも農屋で【味見】中。クレオは昼過ぎからのログインだし、ゴマッキさんからは昨日の夜以来連絡はない。たぶん、熟睡でゆらゆらしているんだろう。街中で衛兵に捕まってないといいけどな。
アリオンに乗って、頭にネギ坊、背中のリュックにチク坊を連れて荒れ野を移動する。そして移動してみて問題に気が付く。
「なんか、土の採取場所がないんだが?」
採取場所はある。【採取の極意】と【薬草の英知】で視界内には採取ポイントがあちこちにあるのだ。そして薬草に限り、何の薬草かまでわかる。ほとんどが【毒出し草】と【毒草】。たまに【治癒草】だ。
で、薬草以外の採取ポイントに足を運ぶと【青草】だったりする。【青草】は食べ物扱いらしいから採取前に知ることはできない。
で、30分ほど探してみたが、薬草以外の採取ポイントは全て【青草】だった。
「これは……俺に何かが足りてないってことか?」
会話ログを確認するが、ゼン爺はいろんな土が取れると言っている。それなのにこれだけ探して一つも見つからないのは明らかにおかしい。おそらく何かしらの条件を満たしていないんだろう。
「土か…」
ガルルルル
荒れ野の真ん中で黄昏ていると、懐かしい鳴き声が聞こえてくる。
「よっ、やっと出たか。久しぶりだなリザードドッグ」
グルルルル ガウガウ ……アオオオーーーーーン
なぜか攻撃する前から遠吠えを放つリザードドッグ。早速仲間を呼んだらしい。ってか、俺まだ何もしてないんだが? 前はダメージ受けてピンチの時に仲間呼んでなかったか?
グルルルル グルルルル グルルルル
どこからともなく…というか、目の前でポップするリザードドッグ。森じゃないから“どこからかやってきた”感がなく、“湧いてきた”感が半端ない。
「んじゃ、散弾狙撃!」
キャイン
リザードドッグの逃げる範囲を散弾が網羅したため、問答無用でポリゴンに変わる。足に当たっただけなのにHPを削り切ったらしい。さすが【馬奏術】、大した威力だ。
「散弾狙撃、散弾狙撃、散弾狙撃……」
遠吠えで仲間を呼ばれるが、ポップするそばからポリゴンに変えていく。そして最後の一匹をポリゴンに変えたところで流れ作業も終わった。面白みに欠ける戦闘だったが、安全第一だ。
【ドック革】×6
【ドック毛皮】×1
「ドッグ革か。クレオの装備に使えるかもしれんな。毛皮はもう少しあってもいいかな」
プルプル
俺が新しいブーツのデザインを妄想していたらフレコが鳴る。相手は…クレオだ。思ってたより早かったな。
『スプラ君、今どこ?』
『あ、西の荒れ野だけど。でも一旦戻ろうと思ってる』
『あ、じゃあ、農屋でいい? 種も欲しいし。今日はちゃんとお金払うから。税金込みでいいから』
そっか、種だよな。まだ全然【採種】できてないんだけど……
❖❖❖レイスの部屋❖❖❖
「やっぱり移動できませんでしたね」
「ああ、【溶解液】にリソース取られてるからな。生命力が砂粒ほどしかねえものを移動なんかできっかよ」
「あ、でもこれ、スプラさんZNに聞きに行くみたいっすよ」
「いくらZNだって新種に関しての詳しい知識なんて持ってる訳ねえしできねえだろうよ。で、移動ができない限りは、街が完成してから農業ギルド本部の了承受けて畑区分を創設。それから育成ってとこだろうな」
…
「せ、先輩、ZNがヒントらしきものを出してるんすけど、ZNって知らないですよね?この食虫植物のこと」
「一般論で言ってるだけだろうな。ライス、これまでの解放エリアで食虫植物に親和性のある土はあるか?」
「……ええっとですね。あ、ありますね。でもこれはちょっと難易度が高いっすね」
「どれ……おっ、こりゃ小僧には無理だな。小僧、無理だ。自己防衛は諦めてプレイヤーに頼れ。な、そのほうがお前にも俺たちにもFGSにもいい」
「難易度、無理……なんかスプラさんには全部フラグに聞こえてしまうんすけど」
「いや、でもこれだぞ? どうやって見つけんだよ。このだだっ広い世界で」
「いや、だから、それもフラグにしか……」
―――――――――――――
◇達成したこと◇
・食虫植物の移動ができなくて困る
・ゼン爺からシゴかれているプレイヤーたちを哀れむ
・親和性の高い土でできた植木鉢の必要を知る
・西の砂漠で探索
・リザードドッグの群れを流れ作業で討伐する
・獲得【ドック革】×6【ドック毛皮】
・クレオと合流予定
◆ステータス◆
名前:スプラ
種族:小人族
星獣:アリオン[★☆☆☆☆]
肩書:マジョリカの好敵手
職業:多能工
属性:なし
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:1
耐久:1(+33)
敏捷:1(+53)
器用:1
知力:1
≪武器≫ (決断の短刃─絆結─)※筋力不足
≪鎧≫ 仙蜘蛛の真道化服【耐久+33、耐性(斬撃・刺突・熱・冷気・粘着)】
≪足≫ 飛蛇の真道化靴【敏捷+53】
≪アクセサリー≫ 道化師の自然派キャリーセット
◆固有スキル:【マジ本気】
◆スキル:
特殊──【逃走NZ】【危険察知NZ】
保有──【品格】【献身】【騎獣術】【依頼収集】【念和】【土いじり】【熟達の妙技】【眼通力】【薬草の英知】【劇毒取扱】【特級毒物知識】【独り舞台】【鉱物学】
成長──【秘薬Lv10】【石工Lv10】【配達Lv10】【一夜城Lv10】【投擲Lv10】【狙撃Lv10】【料理Lv10】【コーチングLv10】【カッティングLv10】【融合鍛冶Lv6】【解析鍛冶Lv4】【特殊建築Lv4】【散弾狙撃Lv4】【高級料理Lv4】【魔力操作Lv4】【ルーティンワークLv3】【極意の採取Lv2】【上級採掘Lv1】【瘴薬Lv1】【レザークラフトLv1】【裁縫Lv1】【空間描画Lv1】【コスパ料理Lv1】
耐性──【苦痛耐性Lv3】
◆所持金:約4240万G
◆従魔:ネギ坊[癒楽草]、チク坊[護針獣]
◆称号:【不断の開発者】【魁の息吹】【新緑の初友】【自然保護の魁】【農楽の祖】【肩で風を切る】【肩で疾風を巻き起こす】【秘密の仕事人】【秘密の解決者】【秘密の革新者】【不思議ハンター】【不思議開拓者】【巨魁一番槍】【開拓者】【文質彬彬】【器用貧乏】
■【常設クエスト】
<定期納品:一角亭・蜥蜴の尻尾亭・腹ペコ熊の満腹亭……>
■【シークレットクエスト】
<太皇太后の想い> 第二の街復興と独立国家建設
・行政府 0/1
・鍛冶工房 3/2
・薬房 1/2
・住居 0/10
・城壁 北側に10メートル
◆星獣◆
名前:アリオン
種族:星獣[★☆☆☆☆]
契約:小人族スプラ
Lv:20
HP:310
MP:445
筋力:48
耐久:46【+42】
敏捷:120
器用:47
知力:69
装備:
≪鎧≫ 赤猛牛革の馬鎧【耐久+30、耐性(冷気・熱)】
≪アクセサリー≫ 赤猛牛革の鞍【耐久+12】
≪アクセサリー≫ 赤猛牛革の鐙【騎乗者投擲系スキルの精度・威力上昇(小)】
◆固有スキル:【白馬誓魂】
◆スキル:【疾走Lv8】【足蹴Lv1】【噛み付きLv2】【水上疾走Lv1】【かばうLv10】【躍動】【跳躍Lv2】【二段跳び】【守護Lv10】
◆従魔◆
名前:ネギ坊
種族:瘉楽草[★★★★☆]
属性:植物
契約:スプラ(小人族)
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:3
耐久:3
敏捷:0
器用:6
知力:10
装備:
≪葉≫【毒毒毒草】
≪葉≫【爆炎草】
≪葉≫【紫艶草】
◆固有スキル:【超再生】【分蘖】
◆スキル:【劇物取扱】【爆発耐性】【寒気耐性】
◆分蘖体:ネギ丸【月影霊草】ネギ玉【氷華草】ネギコロ【天雷草】
名前:チク坊
種族:護針獣[★☆☆☆☆☆]
属性:依存
契約:スプラ(小人族)
LV:1
HP:20
MP:410
筋力:5
耐久:4
敏捷:14
器用:12
知力:14
装備:なし
固有スキル:【僕を守って】■■■■
スキル:【逃走】
名前:ペン坊、ミケ坊、タツ坊(岩っ子班)
種族:岩魔[★☆]
属性:岩
契約:スプラ(小人族)
LV:1
HP:555
MP:33
筋力:255
耐久:255
敏捷:3
器用:3
知力:3
装備:なし
固有スキル:【岩食】
スキル:【叩き潰しLv1】
◆生産セット◆
・大地の調合セット
◆特殊所持品◆
・魔剣の未完成図面
◆所有物件◆
・農屋
・野菜畑(中)、フルーツ畑(小)、食虫植物畑(小)
・癒楽房(格式Ⅲ)
・極凰洞
◆契約住民◆
・ミクリ【栽培促進】
・ゲンジ【高速播種】
・チッチャーネ【味見】【原種進化】
・デッカイ【益虫使い3】&オッキイ【益獣遣い3】
◆お手伝い◆
・ガガン【???】
・ダガン【???】




