第305話 爆弾情報の生る畑
「では、こちらがクエスト達成報酬の3340万Gとなります」
「「おおおおおおおっ」」
ドリアさんが目の前にドンと金貨を積む。後ろからの声が気になって、速攻でストレージに仕舞う。
「おめでとうございます!ギルドランク6を達成されました、スプラ様には『採種』が解放されました。簡単にご説明させていただきますね」
ピンポーン
『採種システム解放により、【採種】のスキルを習得しました』
紅玉皇を頭上に掲げた時とは打って変わって凛とした雰囲気に戻ったドリアさんから『採種』について説明を受ける。内容はこんな感じ。
・採種ができるのは自分の畑で栽培した作物だけ
・採種は一つの作物から2つの種が採れる
・採種した種はギルドで登録して販売することができる
・種の開発者はロイヤリティーを受け取る。
「以上となりますが、何がご不明な点はございますか?」
ふむ、手に入れた作物は一度俺の畑で栽培に成功すれば採種可能になると。
「ロイヤリティーってなんですか?」
「はい、開発された種をギルドで登録して販売すると、その種から派生した作物や種が販売された時に販売額の10%が開発者にロイヤリティーとして支払われる仕組みです。登録から30日間有効となります」
おお、つまり特許みたいなものか?
「それはいいですね」
「はい。積極的に変異や進化に取り組むことをお勧めいたします」
「ちなみに、俺の肥料って100%で進化させますけど、それってロイヤリティー発生したりとかしませんか?」
「……お時間を少々頂けますか?」
「「おおおおおっ」」
ドリアさんが腕を組んで首を傾げる。すっごい考え込んでいるようだ。
「はい、では種のコーティングも種の開発とみなしロイヤリティーを付加いたします。コーティング種から派生した作物、種の販売には10%のロイヤリティーがスプラ様に支払われます」
「え?」
いや、ちょっと聞いてみただけでお金が欲しかったわけじゃなかったんだが…
「大変失礼いたしました。まったく新しいシステムですので、思考が及んでいませんでした。進化率100%でしたら既に進化済みと同じことですもんね」
「「おおおおっ!!」」
ドリアさんが苦笑いをする。凛としたドリアさんの珍しい表情を見てしまった。
「じゃあ、コーティング材は考えておきますね」
「はい、よろしくお願いします」
お辞儀した後に手でバイバイしてくれるドリアさん。最後に野太い声の大歓声を背中に受けながらギルドを出る。
さて、じゃあ、早速採種してみますか。んで、デッカイたちはしっかりと案内できたかな?
…
…
「ただいま~」
「あ、スプラさん、ゼンさんが畑で待ってるって」
農屋に戻ると休憩中のミクリさんがクレオと極楽発砲水を飲んで和んでいた。
「仲良しですね」
「あ、なんか、ナガちゃんがかわいいって言ってくれて」
「この白い子かわいすぎるよね。ふわふわでキラキラで」
ミクリさんがナガちゃんを膝の上に載せてすごく幸せそうだ。……ふむ、これはもしや、かわいい星獣にはNPC信頼度を上げる効果があるのか?
「住人の皆さんはかわいい星獣がお好きなんですね」
「ん? あ、わたしはこの子みたいな“かわいい子”が好きかな。でもゲンジは“できる子”が好きみたいだけど」
ほほう、なるほどそうか。住人によって好みが違うと。これはいい情報だな。
バタン
「スプラさん、お帰りでしたかっ」
勢いよく開いたドアから入ってきたのは息を切らしたゼン爺だった。
「ゼン爺どうしたの、そんなに息を切らせて」
「どうしたのって。なにをそんな吞気なことを」
「呑気なこと?」
「とりあえず、よろしいかな」
そう言ってゼン爺が俺の手を引いて畑に向かう。祖父ちゃんに手を引かれたことはなかったからなんか新鮮だ。
「まずは、この食虫植物ですじゃ。新種の植物が4種類も……これは植物学者が見たら卒倒しますぞ」
植物学者……どこかで会った気もするな。
「そしてこっち!」
また手を引かれる俺。俺は祖父ちゃん子ではなかったから新鮮だ。
「この果物はこの国では決して取れぬものですぞ。しかもこのような大きさ」
ゼン爺が自分の上半身もあるババナを抱えて見せてくる。いや、持たなくても分かるから。
「そしてこっち」
再び俺の手を引いて食虫植物の畑に戻る。すると、食虫植物の中からかき分けるようにしてデッカイとオッキイが出て来る。
「この土、なんですかこれは。このような動物的な性質の土など、遥か北の大陸にしかないものですぞ」
遥か北の大陸? どこだそれ。
「で、最後にこの二人です!」
デッカイとオッキイがいい顔でゼン爺の前にやって来る。どうやら自信が回復したらしい。
「【益虫使い】に【益獣使い】。これは召喚術ではありませんか。なぜ、エルフ族の虫使いスキルにドワーフ族の土獣使いスキルを人族が習得しているのです?! しかも双子の兄弟だとか?」
え? ちょっと何を言ってるのか理解できないんだが? エルフとドワーフがどうかしたか?
「その顔は何もわかっておりませんな……いいですか? このデッカイとオッキイの先祖にエルフとドワーフがいるということを言っておるのです!」
「……??」
「あ、俺の母ちゃんエルフだったらしい。秘密だって言われたけど、もうバレてるからいいよ」
「お祖父ちゃんはドワーフの王様だったらしいよ」
えっと、え? ドワーフの王様……って、ムガンさんのお祖父ちゃん? お父さん? まさか、ムガンさん本人じゃないよな? で、あの献身が見せてきた映像のお母さんがエルフ?
「はあああああああああああああ!?」
…
…
「落ち着かれましたかの」
「うん、ありがと」
いろいろと情報が頭の中を錯綜してバイタルがヤバいことになった。警告が来てたからもう少しでアウトだった。
ゼン爺が淹れていくれた極楽発砲水を呷る。
「プハーーー」
爽快なのど越しと鼻に抜ける清涼感とさわやかな後味。リアルだと砂糖の甘さでたくさんは飲めないが、これならどれだけでも飲める。皆がこぞって飲みたがる気持ちが良く理解できた。
「で、ゼン爺、今まで話してくれたことなんだけど、まとめるとこんな感じでいいのかな」
・巨大果物はこの国では採れないもの。
・食虫植物ができたのはデッカイとオッキイのスキルが生み出した『虫獣土』が原因。
・『虫獣土』は聞いたことがない。エルフの虫使いとドワーフの土獣使いの力が合わさって作られたと思われる。
・デッカイとオッキイのお母さんがエルフ、お祖父さんがムガンさんかムガンさんのお父さん。
「ええ、そんな感じですな。で、どの情報も今の王都へ報告すれば連行される可能性があります」
「え、連行?」
「はい、今の王都は勢力バランスが崩れ各貴族が勢力を争っていますのでな。どの勢力に知られてもスプラ様やデッカイとオッキイを手に入れようとするでしょう」
ぐぐぐ、俺だけならまだしも権力者にトラウマがある子供二人にそれはいくらなんでも酷過ぎる。
「……じゃあ、ラスプで栽培するのはやめた方がいいね」
「そうですな、今は新領主の目もありますし、そのほうが無難かと」
「そっかあ。じゃあ、フルーツの栽培は一旦やめとこう。野菜は大丈夫だよね?」
「ええ、野菜までならギリ大丈夫ですな。というか、あれなら品評会に…」
「ん? なに?」
「あ、いやいや、こちらの話です」
「……?」
そっかあ、それじゃあ、とりあえず野菜の方でナガちゃん用の種を取るか。で、フルーツは全部収穫して農屋へ入れて、食虫植物は……どうしよ。
「食虫植物は廃棄かなあ」
「非常にもったいない事ですが…」
「え、スプラ君、廃棄ってもしかしてあの食虫植物のこと?」
話を聞いていたのかクレオが割って入って来る。
「うん、アレが王都に知られると連行されるかもって」
「ふうん、じゃあ、北の街で栽培したら?」
「え? 北の街…って、クレオなんで知って…あっ」
クレオの膝の上でいい子いい子されているナガちゃんのつぶらな瞳がキランと光った。
「もしかして?」
「うん、ナガちゃんと視覚共有して見てた。あ、大丈夫だよ、誰にも言ってないから」
そっか、鳥型星獣って情報収取能力ってヤバいんだな……でもまあ、クレオなら大丈夫か。もともとフレンドで癒楽房にだって入れるんだしな
「じゃあ、クレオには伝えとくわ。実は……」
…
…
「はあああああああああああああ!! こ、国家建設ーーーーー!!?」
クレオの膝からナガちゃんが転げ落ちた。
❖❖❖レイスの部屋❖❖❖
「先輩、スプラさんのこれって、大金持ちへの布石っすよね?」
「肥料のロイヤリティーって……善意の顔してやがるが後々の可能性を見たら悪徳領主よりも狡猾だな。俺でも引くレベルだわ」
「それをあのDRが率先して勧めるとか…」
「100%進化ってバグ効果のせいだな。実質進化させてるようなものだからな」
「この種が今後の農業のデフォルトにでもなったら、今後30日の農業関連のほぼ全売り上げの10%がスプラさんの元に……」
「腹黒いっ! 小僧の腹は漆黒の闇だ!」
…
「よし、ZN、よく言った! これで小僧の暴走は一旦止まるな」
「スプラさん、自分が爆弾情報抱えまくってることに気づいてないですからね」
「あいつは爆弾を爆竹と勘違いしてるからな。ちゃんと爆弾なんだって教えとくことはいい事だ。ZNがいい仕事したな」
「……あ、ZN、今、品評会のこと話そうとしてます!」
「は、品評会? コラーーーZN! それはあと2エリア先だーーー! まだ参加できんの小僧しかいねえだろうか!!」
「あ、言うのやめましたね。たぶん、それに気づいたんだと思います」
「くそ、ZNも大概だな」
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◇達成したこと◇
・農業クエスト報酬で3340万G獲得
・採種システムの説明を受ける
・コーティング種のロイヤリティー確約を得る
・ゼン爺情報で、自分が爆弾情報をいくつも抱えていることを知る
・果物、食虫植物の栽培をやめる
・クレオに国家建設クエストの事を明かす
◆ステータス◆
名前:スプラ
種族:小人族
星獣:アリオン[★☆☆☆☆]
肩書:マジョリカの好敵手
職業:多能工
属性:なし
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:1
耐久:1(+33)
敏捷:1(+53)
器用:1
知力:1
≪武器≫ (決断の短刃─絆結─)※筋力不足
≪鎧≫ 仙蜘蛛の真道化服【耐久+33、耐性(斬撃・刺突・熱・冷気・粘着)】
≪足≫ 飛蛇の真道化靴【敏捷+53】
≪アクセサリー≫ 道化師の自然派キャリーセット
◆固有スキル:【マジ本気】
◆スキル:
特殊──【逃走NZ】【危険察知NZ】
保有──【品格】【献身】【騎獣術】【依頼収集】【念和】【土いじり】【熟達の妙技】【眼通力】【薬草の英知】【劇毒取扱】【特級毒物知識】【独り舞台】【鉱物学】
成長──【秘薬Lv10】【石工Lv10】【配達Lv10】【一夜城Lv10】【投擲Lv10】【狙撃Lv10】【料理Lv10】【コーチングLv10】【カッティングLv10】【融合鍛冶Lv6】【解析鍛冶Lv4】【特殊建築Lv4】【散弾狙撃Lv4】【高級料理Lv4】【魔力操作Lv4】【ルーティンワークLv3】【極意の採取Lv2】【上級採掘Lv1】【瘴薬Lv1】【レザークラフトLv1】【裁縫Lv1】【空間描画Lv1】【コスパ料理Lv1】
耐性──【苦痛耐性Lv3】
◆所持金:約4240万G
◆従魔:ネギ坊[癒楽草]、チク坊[護針獣]、ペン坊・ミケ坊・タツ坊[岩魔]
◆称号:【不断の開発者】【魁の息吹】【新緑の初友】【自然保護の魁】【農楽の祖】【肩で風を切る】【肩で疾風を巻き起こす】【秘密の仕事人】【秘密の解決者】【秘密の革新者】【不思議ハンター】【不思議開拓者】【巨魁一番槍】【開拓者】【文質彬彬】【器用貧乏】
■【常設クエスト】
<定期納品:一角亭・蜥蜴の尻尾亭・腹ペコ熊の満腹亭……>
■【シークレットクエスト】
<太皇太后の想い> 第二の街復興と独立国家建設
・行政府 0/1
・鍛冶工房 3/2
・薬房 1/2
・住居 0/10
・城壁 北側に10メートル
◆星獣◆
名前:アリオン
種族:星獣[★☆☆☆☆]
契約:小人族スプラ
Lv:20
HP:310
MP:445
筋力:48
耐久:46【+42】
敏捷:120
器用:47
知力:69
装備:
≪鎧≫ 赤猛牛革の馬鎧【耐久+30、耐性(冷気・熱)】
≪アクセサリー≫ 赤猛牛革の鞍【耐久+12】
≪アクセサリー≫ 赤猛牛革の鐙【騎乗者投擲系スキルの精度・威力上昇(小)】
◆固有スキル:【白馬誓魂】
◆スキル:【疾走Lv8】【足蹴Lv1】【噛み付きLv2】【水上疾走Lv1】【かばうLv10】【躍動】【跳躍Lv2】【二段跳び】【守護Lv10】
◆従魔◆
名前:ネギ坊
種族:瘉楽草[★★★★☆]
属性:植物
契約:スプラ(小人族)
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:3
耐久:3
敏捷:0
器用:6
知力:10
装備:
≪葉≫【毒毒毒草】
≪葉≫【爆炎草】
≪葉≫【紫艶草】
◆固有スキル:【超再生】【分蘖】
◆スキル:【劇物取扱】【爆発耐性】【寒気耐性】
◆分蘖体:ネギ丸【月影霊草】ネギ玉【氷華草】ネギコロ【天雷草】
名前:チク坊
種族:護針獣[★☆☆☆☆☆]
属性:依存
契約:スプラ(小人族)
LV:1
HP:20
MP:410
筋力:5
耐久:4
敏捷:14
器用:12
知力:14
装備:なし
固有スキル:【僕を守って】■■■■
スキル:【逃走】
名前:ペン坊、ミケ坊、タツ坊(岩っ子班)
種族:岩魔[★☆]
属性:岩
契約:スプラ(小人族)
LV:1
HP:555
MP:33
筋力:255
耐久:255
敏捷:3
器用:3
知力:3
装備:なし
固有スキル:【岩食】
スキル:【叩き潰しLv1】
◆生産セット◆
・大地の調合セット
◆特殊所持品◆
・魔剣の未完成図面
◆所有物件◆
・農屋
・野菜畑(中)、フルーツ畑(小)、食虫植物畑(小)
・癒楽房(格式Ⅲ)
・極凰洞
◆契約住民◆
・ミクリ【栽培促進】
・ゲンジ【高速播種】
・チッチャーネ【味見】【原種進化】
・デッカイ【益虫使い3】&オッキイ【益獣遣い3】
◆お手伝い◆
・ガガン【???】
・ダガン【???】




