第3話 煽り耐性
地獄の逃走中を逃げ延び農屋に入った俺はステータス画面にあった固有スキル【マジ本気】を確認する。
すると、そこにはどう考えても無理ゲー仕様としか言えない極悪効果が連なっていた。
「こんなもん、管理者に思いっきり文句言ってやる」
俺はステータス画面をチョイチョイしてGMコールを探し、速攻でコールボタンを押すと、電話の呼び出し音が1回、2回となり、ガシャッと受話器を取る音が聞こえる。いや、アナログ電話かよ。
『おう、どした?』
「げっ」
俺のGMコールに出た相手……なんと俺をこんなステータスにしてFGSに放り込んだAI、海賊レイス当人だった。
『おいおい、人を呼んどいて「げっ」てなんだよ。俺とお前の仲なのに。落ち込むぞ』
俺の前に現れたドアから受話器を持って出てくる海賊のおっさん。周りの風景は一時停止中のように止まっている。これがGMコール仕様らしい。
「いやいや、なんすか、この固有スキル。バグかと思ったらマジなやつでしょ、これ」
『そう、マジなお前に俺からのマジなプレゼントだ。イカしてるだろ?』
【マジ本気】
三柱の一人レイスに認められ、この世界をリスクを顧みず貪欲に生き抜く覚悟を持った者に与えられた固有スキル…
≪効果≫
・小人族:初期ステータス減少(極大)、レベル上昇率減少(極大)、スキル習得率減少(極大)
・初期職業、初期属性、初期所持品、初期所持金の喪失
・死に戻りにつき初期状態に戻る。
イカしてるも何も「ずっと最弱キャラのままで死に戻りを繰り返せ」って風にしか読めんのだが?
そりゃあのクソ上司の顔が浮かんで《《ちょっとばかし》》カスハラもあったかもしれん。だが、さすがにコレはない。
「『カスハラしたので、最弱キャラになりました』って、流石にやりすぎでしょ。消費者センターに言いますよ」
『お前なあ、俺は聞いてたんだぞ。丁寧にキャラ作成進めようとしてたコリンズに「うるせえ」はないだろ。それに「4つ全部じゃなきゃやだー」とか』
く、このおっさん。内容は正しいが「やだー」とかは言ってない。子供かよ。
「そんな子供みたいな言い方…」
『だよな。お前は子供じゃない。だったら自分が言ったことには責任持たないとな。それが因果律というやつだ』
因果律やら責任やらって…俺、なんでAIに上から目線で講釈されてるんだ。クソ上司思い出すだろが。
「じゃあ、もう、いいですよ。他の人に言いますから。あ、そうだZ-steam社にクレーム入れますから」
『ああ、残念だが、そこにクレーム入れても無駄なんだなあ。お前さん規約読んでねえだろ』
「規約?」
『第8条に書いてあんぞ。FGSではプレイヤーのとった行動による結果に付きましてはプレイヤー自身の責任となります。それに関しての一切の申し出は受けかねますってな。ほれ』
レイスのおっさんが見せてくる画面には確かにその文言が書いてある。
くっそ、こんなこと書いてあったのかよ。てかそんな規約読んでる奴いねえだろ。
「こんなの卑怯でしょ、もういいです。キャラ作成し直します。初めからやります」
『ふっ、いいぜ、キャラクターの再作成料金は12万だな。ほら12万。ほらほら』
くっそ、このAI、そんな当たり前みたいに金を要求しやがって。
リアルでプロ野球観戦した時にお茶こぼしたら、前の席の女が少し服が濡れたからってクリーニング代5000円要求してきて、その怒った顔が怖くて頭下げて払っちゃったこと思い出したじゃねえか。
「じゃあ、もう消費者センターに言います」
『おやおや、自分のやったことに責任持てなくなったら今度は行政に泣きつくのか。そんな責任感のないやつはFGSには要らねえな』
「…責任感…要らねえ…」
~責任感のない奴は要らねえんだよ、クソ雑魚野郎~
……俺は責任感がないわけじゃねえ。
「じゃあ、責任とって12万払いますよ。で、もう一度コリンズさんと一緒に自分の好きなように楽しく作りますから。それじゃあ、さようなら。今後あなたと会うこともないでしょう」
『おお、そうかそうか、やっと12万払う気になったか。初めからおとなしく払っておけばよかったんだ。これで俺もこの金使ってアップデートできるってもんだ。何がいいかな~あ、そうだ演算処理チップを追加してもらおっかな。でもそうしたら今以上にモテちまうよな。デヘヘヘ』
く、マジか。俺の12万ってこのオッサンに使われるのかよ。そんなもん……絶対に嫌に決まってるだろ。
「やっぱり止めます」
『なんだよ、《《責任感のない》》やつだなあ』
「……このまま続けます。さっさとお引き取りください」
『え、続ける? お前、状況わかってんの? あ、もしかしてこの固有スキル持っててまともにプレイできるとでも思ってる? 俺がお前専用に作ったスキル舐めんなよ』
くそ、バンバン煽ってくるな。何度も何度もクソ上司の顔を思い出させやがって。こっちだって6年も耐えてきたんだ、舐めんな。煽り耐性はカンストしてんだよ。
「このままで結構です。続けることに決めました。もうお引き取りください」
『なんだよお、続けんのかよ。ったく、なら始めから文句言うなよ。ま、しっかり続けるならそのうち良いこともあるかも…』
「はいはい、もう邪魔なんで戻ってください」
『ちっ、人が折角アドバイスくれてやろうと思ったのに。ま、精々一人で頑張れや。じゃあな』
海賊レイスは捨て台詞を吐いて戻っていった。
くっそ、「責任感ない」とか何度も言いやがって。こうなったら意地でも続けたる。
…
…
中央広場噴水前。
「だー、もう、無理」
これで5回目の死に戻りだ。
とうとう噴水のゴボゴボザップーンが『お前また来たのかよ』って聞こえるようになってきた。海賊の次は噴水にまで馬鹿にされるのか俺は。
海賊レイスのおっさんにいい思いさせないためにこのまま続けることを選んだ俺。こんなステータスでも「採取くらいならできるはず」、そう思ってフィールドに出てみた。
周囲を警戒しながら進むもヒョコっと出てくるモフモフのリスに見つかり、こっちが「モコモコしてかわいいな〜」って思ってたら、俺に向かって走ってくる。で、近くまで来た時、リスの表情が滅茶滅茶怒ってるのに気づき急いで逃げようとしたが、俺が背を向けた瞬間に背中に衝撃を感じ、気づいたら噴水前だった。
2回目は始めから警戒度MAXで臨む。
さりげなく他プレイヤーの影に隠れながら移動。「悪いが盾になってもらうぜ作戦」だ。そして作戦が功を奏して採取ポイントを発見。テンションアゲアゲでポイントに向かう。が、ここで問題発生。採取を始めたはいいがどれだけ経っても採取が終わらないのだ。そういう仕様なのかと思いながらもふと他のプレイヤーを見てみると何のことはない。あっという間に採取を終えて次のポイントへ移動してくではないか。
それを見て俺は悟る。
「採取時間もステータス依存なんかい!」
これは器用さとか筋力あたりが怪しい…なんて考えながら採取を続けているうちに測ったかのように目と鼻の先にポップするリス。その凶悪な顔から視線をそらした瞬間に視界が暗転して気がついたら見覚えのある噴水前だった。
いや、それでも俺は頑張った。
パワハラ環境で6年も仕事を続けた俺は諦めが悪い方だ。
そして頑張って続けていたら奇跡が起きた。
4回目にしてなんと3つ並んだ採取ポイントを見つけたのだ。しかも【青草】【治癒草】【毒出し草】と立て続けに採取にまで成功。
「ああ、やっぱり努力はするもんだ」と感動に心を打ち震えさせながら街へ戻ったら「待ってたぜ」とばかりに門の前に立ちはだかっている凶悪顔のモコモコ。あと数歩のところで……無残にも散った。
で、その成功間際までいった事を励みに5回目のチャレンジに向かった。そしたら今度は「いい加減に諦めろ」とばかりに門を出た瞬間に会敵し、そこで俺の心はポッキリ折れたのだった。
「くっそ、こりゃレイスが自信満々で煽ってくるはずだ」
噴水前で後悔の念との泥仕合を続けていると周りからヒシヒシと刺さりまくる視線。
「ねえ、あの子、15分くらい前にも死に戻ってなかった?」
「え? 嘘、初ログインじゃない? 弱そうな格好だし」
「違うわよ、しっかり15分前に見たんだから。ジャージに草鞋なんてあの子くらいだし」
「おいおい、15分やそこらで移動できるってことはこの近辺ってことだろ? 雑魚しか出ねえのにどうやったら死に戻るんだよ。そんなんわざとやろうと思ってもできねえって」
「ん、ま、それはそうよね… でも確かに見たのよね」
はいはい、そのできないことをやってるんですよ。門出た瞬間にやられましたよ。リス公が俺が噴水から門まで移動する時間すら計算し出しましたからね。
って、そんなことより早くこの場を離れないと。変な噂とかになっても嫌すぎる。こりゃしばらく死に戻りは避けとくか。
周りの目を誤魔化すために腕を組みながら考え込む素振りでその場を立ち去る。クソ遅いのに走ってるという情景が余計目立つということを理解したのだ。
「ねえ、ほらすごく考え込んでるみたいじゃん。助けてあげようよ」
「いや、そんな暇ねえだろ。これからクエスト受注しに行くんだろ? 早く行かねえといいクエストなくなるだろ」
「うん、まあ、そうだけど…でも考え込んてるみたいだし…」
「放っとけよ、自分で何とかするって。それより早く…」
まだなにか話してるみたいだけど知らん。どうせろくでもないことなんだろう。
去りながらこっちを見て話していた連中を横目で追う。すると、俺が去ったのを見てこぞって移動して行った。その先は広場の東側にある大きめの建物。
そう言えば、いつもあの建物周辺にはプレイヤーが集まっていた気がするな。
「俺も行ってみるか。もうリスは飽きた」
❖❖❖❖レイスの部屋❖❖❖❖
いやいや、ちょっとばかし煽ってやったらコロッといきやがったな。大人《成熟AI》の煽りを舐めんなよ。
そもそもたった12万で超性能AIの俺をどうこうできるわけねえだろ。四桁違うっての。しばらくはリスのサンドバックでもやってやがれ。はっは。
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◇達成したこと◇
・海賊に煽られキャラ作り直しを固辞する
・リスに5回死に戻りさせられる。
・死に戻りの噂が広がる事を恐れて採取を諦める
◆ステータス◆
名前:スプラ
種族:小人族
職業:なし
属性:なし
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:1
耐久:1
敏捷:1
器用:1
知力:1
装備:なし
固有スキル:【マジ本気】
スキル:なし
所持金:0G