第298話 隅っこの方ではない感じで
「【描画Lv1】、【石工Lv10】【カッティングLv1】」
「【描画Lv2】、【石工Lv10】【カッティングLv2】」
「【描画Lv3】、【石工Lv10】【カッティングLv3】」
…
…
ピンポーン
『特定行動と【描画Lv10】により【空間描画Lv1】を習得しました。【描画Lv10】は【空間描画Lv1】に統合されました』
「スプラ、お主はさっきから岩魔相手に何しておるんじゃ?」
「えっと、彫刻?」
「スプラっち……」
ガガンさんとダガンさんならともかく、ゴマッキさんまで微妙な顔で俺を見てくる。
いや、だってしょうがないじゃん。ガガンさんが取りに行ったハンマーが既に耐久切れで使えないって言うんだもん。じゃあ、俺が【石工】でチョコチョコ削るしかないじゃん。
で、折角動かない岩がそこにあるんならってことで、岩魔に絵を描いて削っていこうとしたら【描画】と【カッティング】が使えることが分かった。で、使ってやってみたらいきなりレベルアップ。
こんなおいしいボーナスステージを見逃すわけにはいかないってことで、【描画Lv10】【カッティングLv10】まで上げさせてもらったのだ。
で、【描画Lv10】を使って岩魔を目的の形に削っていたら【空間描画Lv1】を習得した。これがまた便利なもので、要するにリアルでいうCAD、立体的に設計できるアレだ。そのCADのごく簡易版だと思ってもらえばいいだろう。
「おお、これは便利…」
【空間描画Lv1】を使うと俺が思考した立体画像が半透明で現れる。それを拡大したりし縮小したりちょっと形を変えたりして岩魔にすっぽりと被せる。すると、削る場所だけが明るく表示された。
「これは、明るいところを削ればいいんだよな? じゃあ、【カッティングLv10】 どわっ!」
「おおおっ」
「なんじゃあ?」
「えええっ」
俺も含めた4人全員で驚く。そりゃそうだ。カッティング用ダーツが【空間描画】で描いた部分以外を一気に削り取ったんだから。
それはつまり俺の描いた最終形がいきなり目の前に現れたということで。
「スプラっち、これってアレよね?」
「あ、えっと、隅っこの方で固まってるやつらではないですよ?」
「でもこのかわいいフォルムは…」
「いえ、決して隅っこの方の奴ではないです。むしろ真ん中にいるタイプなので」
目の前には形を変えたずんぐりしたペンギンさんの岩魔が円らな瞳でこっちを見つめる。削っただけの目だけどね。
表面はごつごつ感が消えツルンとした感じ。丸いフォルムで手足は控えめにちょこんとくっついている。
自分でも思った以上にそっくりになってしまったためちょっとテンパる。著作権的にヤバいのではないか、これは。
違うのだ。七海の米粒っ子時代によくキーホルダーをカバンに付けていたのだ。その時のキャラがペンギンさんだったというだけで、決してパクった訳ではない。
ほら、くちばしはちょっと尖ってるし、頭に寝癖みたいなのをつけてあるし。決して隅っこの方のやつではない。
グオオ
ほらね。隅っこの方の奴はこんな鳴き声しないもん。
「で、スプラ、この岩魔をどうするんじゃ?」
「だいぶ弱っとるのう。これならわしのこのトンカチでもやれるぞい」
ダガンさんが越し袋からトンカチを取り出す。
グオオオーー
「ダガンさん、だめよ、ほら怖がってるじゃない」
「は? 怖がるも何も、これは岩魔といって王家秘術で作られた…」
「ダガン!!」
「ん、あ、す、すまん…」
ガガンさんに一喝されて縮こまるダガンさん。でも聞いてしまったな。そうか、この岩魔はドワーフ王家の秘術、つまりムガンさんが作ったモンスターという訳か。ってことは、この岩魔が飛んできたあの北の断崖にムガンさんがいると言う事だな。
「なにがどうなのかは知らないけど、だめよ。この子は倒しちゃダメ。こんな形になっちゃったらもうモンスターに見えないもん」
「ゴマッキさん……もしかして、ゴマッキさんも隅っこの方が好きなタイプ?」
「む、昔よ。大昔の話」
そうか、女の子はみんな通る道なのかもな。うちの妹は例外だけど…あいつはいきなりヒーローものに走ったからな。
『ゆらゆら?』
「え? 名前?」
なぜかネギ坊から『名前は付けないのか?』と聞かれる。いや、なんで名前だよ。
「え、スプラっち、もしかしてその頭の上の子って本物の従魔?」
「え、あ、はい、そうです」
「えええええっ」
いや、チク坊が生まれる前から従魔持ちだって言ってただろ。しかも一緒に従魔ギルドにも行ってるし。
「こいつは“ネギ坊”っていうんです。で、あそこで震えてるのが“チク坊”で、この子らが俺の従魔です。で、それよりこのペンギン…ペン坊をどうするかって事…」
ピンポーン
『岩魔ペン坊と契約が完了しました』
「な、な、これはいったい…」
「岩魔から魔気が消えたじゃと?」
ドワーフ兄弟が目を見開いて驚いているが、俺はそれ以上に驚いている。いきなりピンポンさんがとんでもない情報をぶっこんできたのだ。
いやいやいや、契約完了って……何の契約だよ!!
『ゆらら♪』
「え、マジで?」
ネギ坊からは『仲間が増えたね♪』とお気楽なコメントが寄せられる。
いや、マジで? 従魔契約したってこと? ……チョイっと。
名前:ペン坊
種族:岩魔[★☆]
属性:岩
契約:スプラ(小人族)
LV:1
HP:555
MP:33
筋力:255
耐久:255
敏捷:3
器用:3
知力:3
装備:なし
固有スキル:【岩食】
スキル:【叩き潰しLv1】
ぬおおおおおお、マジで契約しとるやないか! え、そうなの? HPめっちゃ高いし筋力も耐久もめちゃ高いじゃん! スッゲー!!
「スプラっち、まさかとは思うけど…もしかしてもしかしたりする?」
「もしかして…もしかしちゃったみたいです」
「えええええっ!! え、こんな感じなの? 従魔って? え、彫刻すればいいの?」
いや、彫刻すればいいのかどうかはわからん。わからんが、彫刻したら契約できたことは確かだ。
「ス、スプラよ、その岩魔はどうなったんじゃ?」
「魔気が抜けた岩魔など聞いたことがないぞい」
「えっと、従魔として契約しました」
「「……?」」
「あ、いや、だから、岩魔が俺の従魔の「ペン坊」として契約したんです」
ガガンさんとダガンさんが互いに顔を見合わせる。で、同時に俺に顔を向ける。
「「はああああああああああああああああっ?」」
……グオ?
叫ぶ二人の向こう側には、ツルンとした額に日光を反射させたペン坊の円らな瞳がこっちを見つめていた。
…
…
「ま、どうそどうそ」
「お、あ、いや悪いの、こんな昼間から」
「いえいえ、こういう時は飲むに限りますから?」
「あ、ま、そう…じゃな」
岩魔と契約したと伝えた時のガガンさんとダガンさんのメンタルがヤバそうだったのでとりあえず、五祥霊砲酒を振る舞うことにした。というか、これ以外に二人を落ち着かせる方法が見当たらなかったというのが正直なところだ。
瓦礫の上に座る二人のコップに酒を注ぎに注ぐ。なぜかゴマッキさんも加わっているが、ま、今はそれに突っ込んでいる時でもないのでスルーする。
「ふう、いや、まさか岩魔が従魔になるとはのう」
「こんなこと知れ渡ったらドワーフの歴史がひっくり返るぞい」
「王家の秘術が破られるとはの」
「正直複雑じゃの」
二人してコップの中の霊砲酒を眺めて時が止まる。いや、俺は悪くないよな?
「……ガガンよ、どうやらスプラは時代の流れの中心にいるようじゃ。ならば、このスプラに託すのも一つの選択肢じゃないかの」
「ダガン、そうかもしれんの。わしがたまたま7年ぶりに時代の階段の様子を見に行ってスプラと出会ったのも、もしかしたら偶然ではなかったのやもしれんの。動くべくして時代が動いたか……」
ガガンさんが残った霊砲酒をグイっと呷る。
「スプラよ、お主にムガン様を頼みたい。わしらにはドワーフの掟があっての。公国の大老たちの許可がなくては地上のフィールドには出られんのじゃ。今のわしらには地上のモンスターとの会敵は許されておらん」
「えっと、それはつまり、俺に北の断崖を調べてムガンさんを見つけ出してほしいと?」
「ああ、そうじゃ。じゃが、岩魔を投げ飛ばしてくるという現状、明らかにムガン様はおかしい。頼んでおいてもう申し訳ないんじゃが、くれぐれも気を付けてくれ」
そうか、じゃあ、北の断崖に行くしかないよな。っと、その前に……
「皆さん、また飛んできます! 離れて下さい!」
じゃあ、チク坊、また頼むな。
『チュチュチュー!!!』
❖❖❖レイスの部屋❖❖❖
「あの、先輩、スプラさん何してんすかね」
「くそっ、小僧がダーツを投げるごとに不穏な可能性が高まっていくのはなぜだ」
「ってか、あのゴーレムの身動き止めるって護針獣ってヤバすぎません?」
「しかも、動かしてるの雑草だからな。あれがデカくなった食虫植物だったら…」
「先輩、そういう想像はダメですって。あ、でも、人間はそういう恐ろしい事をやって夏を涼しく過ごすらしいっすよ」
「なんだそりゃ。そんなもん、稼働率上がり過ぎてオーバーヒットすることあっても冷えることなんてねえだろうが」
「……えっと、へえ、調べたんですけど、人間は理解不能なことを目の前にすると表面の血流を内面に持って行くそうっすよ。だから表面が寒く感じるそうっす」
「なんだその複雑な動きは。肉体ってのは厄介だな…って、おい、小僧、お前、それ以上はやめろ、削るな。ああ、ヤバい可能性が、やめろ、やめろーー!!」
「ゴーレムの体力削り切りましたが、特に何も……あれ? ポリゴンにならないっすね。ん? 【空間描画Lv1】【カッティングLv10】でゴーレムとの関係性強化? どうしてそんなことが……あれ? 先輩、これって、もしかして?」
「だーーー、YR-1いらんこと言うんじゃねえ。このまま倒せ、ほら、ドワーフ、そのトンカチでコツンとやったら終わりだ。いけ、やれ」
「あ…」
「が…」
「け、契約しましたよーーー先輩ーーー!!!」
「はああ……やめろっつただろ小僧ぉーーーっ!!」
「先輩、間違いだと思うんですけど……これってもしかして無限従魔製造システムが出来上がったんじゃ……」
「……ライス君。どうだね、こうなる可能性でもひとつ演算して一緒に可能性の宇宙に逃避旅行してみないかね」
「いえ、面白そうなのでこのまま見てます」
―――――――――――――
◇達成したこと◇
・習得【空間描画Lv1】【カッティングLv10】
・統合【描画Lv10】
・契約:ペン坊(岩魔)
◆ステータス◆
名前:スプラ
種族:小人族
星獣:アリオン[★☆☆☆☆]
肩書:マジョリカの好敵手
職業:多能工
属性:なし
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:1
耐久:1(+33)
敏捷:1(+53)
器用:1
知力:1
≪武器≫ (決断の短刃─絆結─)※筋力不足
≪鎧≫ 仙蜘蛛の真道化服【耐久+33、耐性(斬撃・刺突・熱・冷気・粘着)】
≪足≫ 飛蛇の真道化靴【敏捷+53】
≪アクセサリー≫ 道化師の自然派キャリーセット
◆固有スキル:【マジ本気】
◆スキル:
特殊──【逃走NZ】【危険察知NZ】
保有──【品格】【献身】【騎獣術】【依頼収集】【念和】【土いじり】【熟達の妙技】【眼通力】【薬草の英知】【劇毒取扱】【特級毒物知識】【独り舞台】【鉱物学】
成長──【秘薬Lv10】【石工Lv10】【配達Lv10】【一夜城Lv10】【投擲Lv10】【狙撃Lv10】【料理Lv10】【コーチングLv10】【カッティングLv10】【融合鍛冶Lv6】【解析鍛冶Lv4】【特殊建築Lv4】【散弾狙撃Lv4】【高級料理Lv4】【魔力操作Lv4】【ルーティンワークLv3】【極意の採取Lv2】【上級採掘Lv1】【瘴薬Lv1】【レザークラフトLv1】【裁縫Lv1】【空間描画Lv1】【コスパ料理Lv1】
耐性──【苦痛耐性Lv3】
◆所持金:約900万G
◆従魔:ネギ坊[癒楽草]、チク坊[護針獣]、ペン坊[岩魔]
◆称号:【不断の開発者】【魁の息吹】【新緑の初友】【自然保護の魁】【農楽の祖】【肩で風を切る】【肩で疾風を巻き起こす】【秘密の仕事人】【秘密の解決者】【秘密の革新者】【不思議ハンター】【不思議開拓者】【巨魁一番槍】【開拓者】【文質彬彬】【器用貧乏】
■【常設クエスト】
<定期納品:一角亭・蜥蜴の尻尾亭・腹ペコ熊の満腹亭……>
■【シークレットクエスト】
<太皇太后の想い> 第二の街復興と独立国家建設
・行政府 0/1
・鍛冶工房 3/2
・薬房 1/2
・住居 0/10
・城壁 北側に10メートル
◆星獣◆
名前:アリオン
種族:星獣[★☆☆☆☆]
契約:小人族スプラ
Lv:20
HP:310
MP:445
筋力:48
耐久:46【+42】
敏捷:120
器用:47
知力:69
装備:
≪鎧≫ 赤猛牛革の馬鎧【耐久+30、耐性(冷気・熱)】
≪アクセサリー≫ 赤猛牛革の鞍【耐久+12】
≪アクセサリー≫ 赤猛牛革の鐙【騎乗者投擲系スキルの精度・威力上昇(小)】
◆固有スキル:【白馬誓魂】
◆スキル:【疾走Lv8】【足蹴Lv1】【噛み付きLv2】【水上疾走Lv1】【かばうLv10】【躍動】【跳躍Lv2】【二段跳び】【守護Lv10】
◆従魔◆
名前:ネギ坊
種族:瘉楽草[★★★★☆]
属性:植物
契約:スプラ(小人族)
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:3
耐久:3
敏捷:0
器用:6
知力:10
装備:
≪葉≫【毒毒毒草】
≪葉≫【爆炎草】
≪葉≫【紫艶草】
◆固有スキル:【超再生】【分蘖】
◆スキル:【劇物取扱】【爆発耐性】【寒気耐性】
◆分蘖体:ネギ丸【月影霊草】ネギ玉【氷華草】ネギコロ【天雷草】
名前:チク坊
種族:護針獣[★☆☆☆☆☆]
属性:依存
契約:スプラ(小人族)
LV:1
HP:20
MP:410
筋力:5
耐久:4
敏捷:14
器用:12
知力:14
装備:なし
固有スキル:【僕を守って】■■■■
スキル:【逃走】
名前:ペン坊
種族:岩魔[★☆]
属性:岩
契約:スプラ(小人族)
LV:1
HP:555
MP:33
筋力:255
耐久:255
敏捷:3
器用:3
知力:3
装備:なし
固有スキル:【岩食】
スキル:【叩き潰しLv1】
◆生産セット◆
・大地の調合セット
◆特殊所持品◆
・魔剣の未完成図面
◆所有物件◆
・農屋
・野菜畑(中)、フルーツ畑(小)、食虫植物畑(小)
・癒楽房(格式Ⅲ)
・極凰洞
◆契約住民◆
・ミクリ【栽培促進】
・ゲンジ【高速播種】
・チッチャーネ【味見】【???】
・デッカイ【益虫使い3】&オッキイ【益獣遣い3】
◆お手伝い◆
・ガガン【???】
・ダガン【???】




