第297話 進まない行政府
「いやあ、あんなに大量の石炭が採れるとは」
「施設値の上がり方を見ると、この土地はむしろ炭鉱がメインだったみたいね」
癒楽房の敷地内にあった炭鉱をチク坊提灯の灯りで探検する。すると、すぐに石炭の採掘ポイントが見つかった。ウキウキで石炭を掘っていくと、その後も大量に見つかる採掘ポイント。金剛爪と身体強化ポーションを駆使して採掘しまくっちまった。
途中からゴマッキさんを放ったらかしてしまってたが運よく熟睡にはならなかった。振り返るとゴマッキさんがカラッカラに乾いた笑みを浮かべていた。
「よし、じゃあ、この石炭は癒楽房とマグマ工房に分けて保管するか」
一杯になってしまったストレージを空けるために、マグマ工房に石炭を置きに行く。するとガガンさんが鍛冶場に向かっていた。
「おお、スプラか……そちらの嬢ちゃんは…どこかで見たことあるようじゃが…」
ゴマッキさんを見たガガンさんが首を傾げる。昨晩は思いっきり熟睡させられたんだが、NPCは熟睡前の記憶はないはず。なのに見たことがあるというのは、ドワーフは別仕様ということか?
「もう、ドワーフのお兄さんにそんなこと言われたら嬉しくなっちゃうわ。こんな異人いくらでもいますわよ、ホホホ」
「お兄さん……そうか異人はみんなそんな変てこな恰好をしておるのだな。そっかそっか」
……さらっと誤魔化したな、ゴマッキさん。やはりコミュ力お化け説は有力か…
「ガガンさん、今作ってた、それってなんですか?」
「おお、これか。これは対岩魔用の防具とでも言おうかの」
「対岩魔?」
「ああ、岩魔が飛んでくるとなったらおちおち建設などしておれん。じゃから、飛んできた岩魔を打ち返すためのハンマーを作れんもんかとな」
そう言ってガガンさんが見せてくれたのはハンマーというより、巨大なフライパン。直径2m以上はある。こういうの、海外の動画で一度見たことがあるな。数十人分を一気に料理するやつだ。
「うわ~、おっきなフライパン。これで、その飛んで来るっていう岩?を叩き返すってこと?」
「ああ、そういうことじゃ。そろそろダガンが行政府を作り始める頃じゃが、嬢ちゃんも一緒に見に来るか?」
「ぜひぜひ、見させてください!」
なぜかノリノリのゴマッキさん。一人にはしとけないから俺も一緒に行くことになった。
「おお、ガガンにスプラか。して、そっちの嬢ちゃんはどこかで会ったかの?」
「あら、こっちのお兄さんも“これぞドワーフ”って感じだわ~」
「お、嬢ちゃんわかるか。そうじゃ、わしが“ドワーフの鑑”と言われるダガンじゃ」
「はん、何が“ドワーフの鑑”じゃ。鏡で自分の姿を見たらどうじゃ」
「ああっ、なんじゃと!」
「なんじゃ!」
「あはは、お二人とも逞しくて素敵なドワーフの鑑ですわ」
「「そ、そうじゃろか?」」
ゴマッキさんのヨイショに揃って赤面するドワーフ……
まあ、二人ともそっくりだからな。相手をけなしたら全部ブーメランだ。
「にしても、昨日の今日でもうこんなにできたんですか?」
昨日壊されたはずの行政府が、すでに腰ほどまでの壁ができている。しかも今回はとっても頑丈そうだ。
「まあ、昨日みたいな張りぼてじゃと岩魔で粉砕されるからの。基礎から重厚に作っておるんじゃ。ってそれより、ガガン、その平たいのは何じゃ?」
「おお、これで飛んできた岩魔を叩き返してやろうと思っての」
「ほう、そんなもんで叩き返せるのか?」
「そりゃ…やってみんとわからんわい。それよりダガンこそ、重厚だとはいえこの程度の基礎で岩魔を防げるとでも思っておるのか」
「できるかは岩魔が飛んできたらわかるわい」
「結局、飛んでくるまでわからんのじゃろが」
「なんじゃと!」
「なんじゃ!」
また言い合いを始めるドワーフ兄弟。これいつまで続くん……ん? 危険反応?!
「皆さん、岩魔来ます!」
「よっしゃ、任せろ」
「今度は破壊などさせんぞ」
ガガンさんがフライパンを持って北側へと走って行く。ダガンさんは行政府の真ん中で仁王立ちだ。いや、ダガンさんそこは危なくない?
危険反応がどんどん強くなる。そして…
「来たかーーー! おおおおりゃああーー!」
飛んできた3m級の大岩を飛び上がったガガンさんがフライパンでぶっ叩く。
ブァァァァーーーーーーーーーン ドーーン
「ぬおおおお」
岩魔が吹っ飛ばされ…ずに行政府の手前の敷地に落ちる。そしてガガンさんの方が吹っ飛ばされ仁王立ちしているたダガンさんがそれを受け止める。
グオオオオオーーー
落とされた岩から手足が生えて岩魔が吠える。
ドン ドン ドン
岩魔がその重そうな脚で行政府に向かって進行して来る。
「これ以上壊されてたまるかーーー」
ハンマーを振り上げたダガンさんが岩魔へと突進して行く。が、そこで異変が起きる。俺の視界がさらに赤く染まったのだ。そしてその赤は北の空を指す。
「ガガンさん、ダガンさん、もう一体来ます!!」
「なんじゃとーー」
「マジかーーー」
ガガンさんのフライパンは先の一撃で大きく凹みぶっ叩けるような状態じゃない。ダガンさんもすでにハンマーを持って岩魔の真ん前。次の一体に対処でいるような状態じゃない。
ドーーーーーン
ガガンさんが急ぎその場を離れると、行政府の真ん中に大岩が衝突。地面が砕かれ、衝撃で地面が波打つ。その耳をつんざく咆哮と共に、巨体がゆっくりと立ち上がった
グオオオオーー
「くっそーーー、壊されたかーーー!!!」
ダガンさんが悔しがりながらハンマーで目の前の岩魔を殴りつける。その一撃で岩魔の巨体にひびが入る。だが、まだ倒せてはいない。岩魔が鈍い動きでダガンさんに向かって岩の拳を振り上げる。
「こんのクソったれめーー!」
ダガンさんがその場でハンマーを持って回転を始める。回転しながら岩魔の真下まで移動すると、その回転の力を全てハンマーの一撃に変換して下から叩き上げる。
グオオオオオー
空中に打ち上げられた岩魔がそのままポリゴンに変わる。追撃は必要なかったらしい。ガガンさんの初撃のフライパンですでに相当なダメージがあったようだ。
「お前は絶対に許さんぞーーー!!」
一体目を倒したダガンさんがすぐにハンマーを振りかぶる。そして行政府の真ん中で破壊行動をしている二体目に突進、途中で回転を始めそのまま接近して下から打ち上げる。
宙に打ち上げられた岩魔に勢いよく回転するハンマーが飛んでいく。轟音とともに空中で衝突した岩魔とハンマーは両方ともポリゴンに変わっていった。
「はあ、はあ、はあ」
肩で息をするダガンさん。
「これではまたやり直しじゃの」
破壊された基礎部分を眺めるガガンさん、その口元は固い。
一陣の風が土ぼこりを運び去る中、気まずい沈黙が流れる。
これではキリがないな。何とかしないと……先に別の施設を建てるとか?
ステータス画面からシークレットクエストを確認する。
<太皇太后の想い> 第二の街復興と独立国家建設
・行政府 0/1
・鍛冶工房 3/2
・薬房 1/2
・住居 0/10
・城壁 北側に10メートル
薬房、住居、城壁……城壁? そうか、城壁か。北側に10m、これだな。
「ガガンさん、ダガンさん、ちょっと計画変更しましょう。北の城壁を先に作ったらどうでしょうか?」
「「……!」」
ダガンさんが俺を見てそれから北側を見る。ガガンさんは俺を見つめてから手を額にやり北の断崖を眺める。
「「それががいい!」」
二人して俺を指さして叫んできた。
ドワーフ兄弟とゴマッキさんの後ろをアリオンに乗って北の端まで進む。第二の街が破壊されてから初めて街の端っこまで来た。ここまで来ると、本当に街全部が破壊されたことを実感する。
「おお、アレが木というものかの」
「おお、地面が緑じゃ。美しいの」
ガガンさんが木を見て感動するとダガンさんは一面に生える草に見惚れている。どうやら自分たちだけでは街の外に出てなかったようだ。
『チチュ?』
チク坊がリュックから出て来て肩に移動してくる。鼻をヒクヒクさせては周りを確認している様子。そういえばチク坊もフィールド初めてだったな。
『チュチュチュ』
俺の肩から降りて草原に入るチク坊。見た感じモンスターもポップしそうにないし、万が一の時は【逃走】があるからな。
「ふむ、この辺りが良さそうじゃが…ダガンどうじゃ?」
「そうじゃな、先の岩魔の方向からするとその辺りになるかの」
ガガンさんとダガンさんが北の崖と行政府の場所を見ながら壁の場所を検討している。
「ガガンさん、ダガンさん、作る壁は10m以上あれば大丈夫なんで」
「10mじゃと、ここからそこまでくらいかの?」
「いや、ダガン、もう1mこっちじゃないか?」
「そうかの。ここからそこでいい気がするが」
「ふむ、岩魔の発射場所があの辺じゃから…」
二人が北の断崖を眺める。そして俺も眺める…といきなり視界が真っ赤に染まる。
え、ここにも来るの? マジで?
「お二人とも岩魔来ます!」
「なんじゃと!」
「いかん、油断しておった。ハンマーを持ってきておらん」
二人が城壁区画から距離を取る。ゴマッキさんは既に退避済み。俺も距離を取らないと……
『チュチュ?』
「あ、チク坊、忘れてた! チク坊、逃げろ! 早く!」
『チュ? チュチュチューー!!!』
初めは急に“逃げろ”と言われて戸惑っていたチク坊も、あの巨大な気配に気が付いた様子。すぐに草むらの中に姿を消した。
ドーーーーーーン
見事に城壁区画、それもこの辺かなと思ってた場所にピンポイントで落下してきた巨大な岩。土煙の中で岩から手足が生えるのが見える。
「くそ、ハンマーがないとアレは無理じゃ」
「わ、わしが取って来るから、それまで時間稼ぎを頼む」
グオオオオオーーー
急な襲撃に俺たちが慌てていると、それをあざ笑うかのように土煙の中で岩魔が吠える。
グオオオオーー
また吠える。
グオオオー
また吠える。……って、なんか、元気なくなってない?
「……え?」
土煙が風で運び去られると、そこには岩魔が……緑の草で体を雁字搦めに縛られ動けなくなっていた。その足元には草原から伸びている無数の蔓が生き物のように蠢いている。
グオオ……
草にギシギシと音を立てて拘束される岩魔が「なんとかしてくれ」と言わんばかりに俺に体を向けてきた。いやいや。
『チュチュ……』
❖❖❖レイスの部屋❖❖❖
「先輩、このゴーレムの動きを見るに、行政府にだけ反応してますね」
「そうだな。行政府はその出来が新国家自体ののランクにも関わってくるからな」
「本来の形、“街の復興”ならここまで難易度高くなかったはずですけど」
「新国家建設となりゃな。そりゃ、当然極級モードだろうな」
「このゴーレムの来襲って、行政府作ろうとすれば永遠に続きますよね」
「ああ、根源を絶つか、ワンクッション置くかだが……まあ、そうだよな、城壁作って岩魔が城壁に集中している間に行政府をササっと作るしかねえな。小僧、いい判断だ」
「でもそれだと大した行政府作れませんよね?」
「ああ、城壁をいかに固くするか。それが一番の肝だ」
「あ、さっそく来ましたよ……って、へ? なんすかあれ…うわあ、護針獣っすね。あのゴーレムが拘束されてますよ。しかも元はただの雑草のモンスターに」
「え、ゴーレム拘束できんの? 嘘?!」
「なんか思った以上にヤバそうっすね、あの護針獣。どうなるんすかね、先輩」
「うーん、ゴーレム拘束後の可能性がバグってる。小僧、お前、自重しろよ。頼むぞ!」
―――――――――――――
◇達成したこと◇
・行政府が再び破壊される
・目標を北の城壁に変える
・岩魔がチク坊によってモンスター化された草によって捕縛
◆ステータス◆
名前:スプラ
種族:小人族
星獣:アリオン[★☆☆☆☆]
肩書:マジョリカの好敵手
職業:多能工
属性:なし
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:1
耐久:1(+33)
敏捷:1(+53)
器用:1
知力:1
≪武器≫ (決断の短刃─絆結─)※筋力不足
≪鎧≫ 仙蜘蛛の真道化服【耐久+33、耐性(斬撃・刺突・熱・冷気・粘着)】
≪足≫ 飛蛇の真道化靴【敏捷+53】
≪アクセサリー≫ 道化師の自然派キャリーセット
◆固有スキル:【マジ本気】
◆スキル:
特殊──【逃走NZ】【危険察知NZ】
保有──【品格】【献身】【騎獣術】【依頼収集】【念和】【土いじり】【熟達の妙技】【眼通力】【薬草の英知】【劇毒取扱】【特級毒物知識】【独り舞台】【鉱物学】
成長──【秘薬Lv10】【石工Lv10】【配達Lv10】【一夜城Lv10】【投擲Lv10】【狙撃Lv10】【料理Lv10】【コーチングLv10】【融合鍛冶Lv6】【解析鍛冶Lv4】【特殊建築Lv4】【散弾狙撃Lv4】【高級料理Lv4】【魔力操作Lv4】【ルーティンワークLv3】【極意の採取Lv2】【上級採掘Lv1】【瘴薬Lv1】【カッティングv1】【レザークラフトLv1】【裁縫Lv1】【描画Lv1】【コスパ料理Lv1】
耐性──【苦痛耐性Lv3】
◆所持金:約900万G
◆従魔:ネギ坊[癒楽草]、チク坊[護針獣]
◆称号:【不断の開発者】【魁の息吹】【新緑の初友】【自然保護の魁】【農楽の祖】【肩で風を切る】【肩で疾風を巻き起こす】【秘密の仕事人】【秘密の解決者】【秘密の革新者】【不思議ハンター】【不思議開拓者】【巨魁一番槍】【開拓者】【文質彬彬】【器用貧乏】
■【常設クエスト】
<定期納品:一角亭・蜥蜴の尻尾亭・腹ペコ熊の満腹亭……>
■【シークレットクエスト】
<太皇太后の想い> 第二の街復興と独立国家建設
・行政府 0/1
・鍛冶工房 3/2
・薬房 1/2
・住居 0/10
・城壁 北側に10メートル
◆星獣◆
名前:アリオン
種族:星獣[★☆☆☆☆]
契約:小人族スプラ
Lv:20
HP:310
MP:445
筋力:48
耐久:46【+42】
敏捷:120
器用:47
知力:69
装備:
≪鎧≫ 赤猛牛革の馬鎧【耐久+30、耐性(冷気・熱)】
≪アクセサリー≫ 赤猛牛革の鞍【耐久+12】
≪アクセサリー≫ 赤猛牛革の鐙【騎乗者投擲系スキルの精度・威力上昇(小)】
◆固有スキル:【白馬誓魂】
◆スキル:【疾走Lv8】【足蹴Lv1】【噛み付きLv2】【水上疾走Lv1】【かばうLv10】【躍動】【跳躍Lv2】【二段跳び】【守護Lv10】
◆従魔◆
名前:ネギ坊
種族:瘉楽草[★★★★☆]
属性:植物
契約:スプラ(小人族)
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:3
耐久:3
敏捷:0
器用:6
知力:10
装備:
≪葉≫【毒毒毒草】
≪葉≫【爆炎草】
≪葉≫【紫艶草】
◆固有スキル:【超再生】【分蘖】
◆スキル:【劇物取扱】【爆発耐性】【寒気耐性】
◆分蘖体:ネギ丸【月影霊草】ネギ玉【氷華草】ネギコロ【天雷草】
名前:チク坊
種族:護針獣[★☆☆☆☆☆]
属性:依存
契約:スプラ(小人族)
LV:1
HP:20
MP:410
筋力:5
耐久:4
敏捷:14
器用:12
知力:14
装備:なし
固有スキル:【僕を守って】■■■■
スキル:【逃走】
◆生産セット◆
・大地の調合セット
◆特殊所持品◆
・魔剣の未完成図面
◆所有物件◆
・農屋
・野菜畑(中)、フルーツ畑(小)、食虫植物畑(小)
・癒楽房(格式Ⅲ)
・極凰洞
◆契約住民◆
・ミクリ【栽培促進】
・ゲンジ【高速播種】
・チッチャーネ【味見】【???】
・デッカイ【益虫使い3】&オッキイ【益獣遣い3】
◆お手伝い◆
・ガガン【???】
・ダガン【???】




