第292話 ドワーフ兄弟の異変
「ダガンさん、すごいですね。あんな岩のモンスター地上では見たことないですよ。知ってたみたいですけど、もしかして地底のモンスターだったりするんです?」
「……そうじゃな、地底にはおるな」
岩魔と呼ばれる巨大岩モンスターはダガンさんのハンマー投げによって行政府と共に砕け散った。
音を聞いたチッチャーネさんとデッカイ&オッキイが戻ってきたから、三人には後片付けをしてもらっている。
「そっか、地底にはすごいのがいるんですね……あ、 岩の落ちた跡からすると、あっちから飛んできたみたいですね」
「……そっちは断崖があった方向じゃな」
「ですね。でもどうやって飛んできたんですかね」
「あの崖からここまで……スプラよ、こんな岩を投げられるようなモンスターが地上にはおるのか?」
「いえ、そんなモンスターはいないと思います」
そんなのできるのゴブリンジェネラルくらいだろうしな。
「そ、そうか、おらぬか……」
「ダガンさん? どうかしました?」
「あ、いや、なんでもない」
今、一瞬ダガンさんの表情が曇ったように見えたような…気のせいか?
「しかし、あんな大きな岩が飛んでくるなんて、危なくてしょうがないですよね」
「……そうじゃな」
「ちょっと、俺、見てきますよ。こんなだと建築どころじゃないてすし」
「ん? あ、いや、そ、そうじゃ、スプラ。わしはちと疲れてしまっての。今日はこの辺で止めじゃ」
ダガンさんがそう言って癒楽房へと戻って行く。さっきハンマー投げしてた人とは思えないほどに覇気がなくなってしまっているのは気のせいか?
まあ、折角建てたスチームパンクの行政府が壊れたんだからしょうがないか。ってか、あんなのが飛んでくるとか、これからどうやって行政府作ったらいいんだ?
頭を捻りながらダガンさんの後を追って俺も癒楽房に戻る。とりあえずは酒の準備だ。
…
「がっはっは、これはまた、飲む度に味が変わるとはな。不思議な酒じゃのう」
「だっはっは、このガツンとくるのど越しも最高じゃ。こんな飽きん酒があるとはの。地上は素晴らしいのう」
ガガンさんとダダンさんが五祥霊砲酒にご満悦だ。今回は200リットル入る【入り像君】に満タンだからな、安心だ。
あの後、ダガンさんの後を追って癒楽房に戻ったら、すでにダガンさんとガガンさんが作業台の上を綺麗に片付けて椅子にチョコンと座って待っていたのだ。その姿に吹きそうになったが何とか堪え、五祥霊砲酒を大きな瓶に入れ変えて先に飲んでもらった。
その間に俺はチッチャーネさんたちと行政府区画の後片付け。なんとか明日からまた建設できるくらいには綺麗にすることができた。
そして、チッチャーネさんたちは極楽発砲水をひとしきり飲んで帰っていった。
ってな訳で、それからは大人の酒盛りの時間になっている。
「ところで、ダガン、岩魔をやったそうじゃな」
「おお、そうじゃ。ガガンのハンマーが手元にあってよかったわい」
「まあ、わしのハンマーなら岩魔の1体や10体、屁でもないじゃろ」
「だっはっは、わしの腕があってこそじゃがな」
今、ガガンさん“岩魔の1体や10体”って言ったか? あんなもん10体とか街が壊滅するレベルだぞ。
「そうかそうか、そりゃそうじゃろうな。相手は180歳も年下なんじゃからの」
「だっはっ…は……180?」
いきなり流れる沈黙。ガガンさんが窓の外を見ればダガンさんはそんなガガンさんを凝視する。あれだけ飲み続けていた酒を全く口に運ぼうとしなくなってしまった。
「ガガン、それはどういう…」
「岩魔を投げ飛ばすような存在がこの地上におると思うか?」
うん、アレを投げ飛ばせるのはゴブリンジェネラルくらいだな。普通はいないだろう。
「……」
「数日過ごしてみてわかった。地上の環境では地底のような超大型の魔物は存在できん」
「……ガガン、何が言いたい」
「おぬしも薄々気づいておるのじゃろ。岩魔を飛ばした力について」
飛ばした力……そうなんだよな。なんであんなもんが降ってくるんだって話だよな。
「……ガガン、おぬしまさか、これが王家の仕業とでも言いたいのか。気でも狂ったか、ガガン!」
「そうじゃな気でも気が狂いそうなのは確かじゃな」
バンッ
「言いたいことがあるならはっきりと言え、ガガン」
ダガンさんがテーブルを叩き、コップの五祥霊砲酒が溢れて作業台に広がる。
「……ムガン様のお孫様が地上で生き残っておられるそうじゃ」
「なっ、ムガン様の……お孫様じゃと。そ、それは本当かガガン」
ダガンさんの見開いた目がものすごく血走っている。そうだよな。地上に残って死んだと思っていた王様、その王様の孫が生きているとか衝撃的すぎるよな。
「本当じゃ。だが、つい最近この街が滅んでから行方が分からなくなっておっての。だが、ダガンの話を聞いて確信したわい。ムガン様のお孫様、いや、ムガン王はこの地上で生きておられるとな」
バンッ
「ガガン、そんな重要なことをなぜ黙っておった」
ダガンさんが再びテーブルを叩くとコップから更に酒がこぼれる。
「生きておられるのかが不明じゃったからじゃ。スプラからは行方不明だと聞いておったからの」
そう、ムガンさんもモルスさんもマカラさんも。あの6人の鍛冶師さん達もみんないなくなっちゃたんだよな。本当にどこ行ったんだ。
「ゆ、行方不明じゃと……」
「ああ、じゃから行方が分かるまでは伏せておこうと思っておった。が、昼間の轟音とおぬしから聞いた岩魔の情報でわかった。ムガン様、いやムガン様のお孫様は生きておられる」
再び流れる沈黙。だが、今度の沈黙はさっきと違った熱のある沈黙。ふとしたきっかけで爆発する、そんな危険な沈黙が流れる。
「そうか、ムガン様、あのムガン様のお孫様が生きておられる……」
「ああ、じゃが、大きな問題も発生した」
「問題?」
「この街はムガン様が王家三代にわたって過ごした街。そして鍛冶の街じゃ。なのに、ドワーフ王のムガン様がこの街の再建を阻んできた……ダガン、おぬしも薄々は感じておったのではないか?」
ん? ムガンさんが再建の邪魔してる? どういうことだ?
「……ふう、嫌な予感というのはよく当たるものじゃな。あの岩魔は北の断崖から飛んできた。地上には岩魔をそんな距離投げ飛ばせるモンスターはおらんそうじゃ。岩魔をあのような距離飛ばせる力など、わしは一つしか知らん」
「王家槌術」
「うむ」
二人が作業台に広がった酒を見つめる。まだ気泡が出続けるそれを見ながらお互い何かを言いたげに見える。だが二人とも口を開こうとしない。
「えっと、すみません、ガガンさんダガンさん。つまり、あの北の断崖にはムガンさんがいて、王家の力で岩魔を街に飛ばしてきた。そういう事ですか?」
「……普通に考えたらそうなるの」
ガガンさんが絞り出すように言葉をつぐむ。
そうか、北の断崖か……こりゃ、また俺が行くしかないかな。飛蛇や仙蜘蛛もいるだろうし、俺しか対処できんしな。
「あ、お二人とも五祥霊砲酒もっと飲みます? 実はまだこの大瓶ひゃ…20本近くあるんですけど」
ダンッ
ガンッ
「「もちろんじゃ!」」
…
…
「はあ、流石にちと飲み過ぎたわい。酔い覚ましにもう一つハンマーでも打ってくるかの。ダガン用にな」
ムガン王伝説を肴に五祥霊砲酒を飲みまくっていたガガンさんがようやく腰を上げる。あっという間に20本全部飲んでしまった。二人だと飲む量が二倍になるというウソノさんの言葉がは本当だったようだ。正直に100本って言わなくてよかった。
「わしもちと飲み過ぎたようじゃ。どれ、わしも一つ何か打ってみるか。地上の素材も確かめてみたいしの」
ガガンさんもダガンさんも立ち上がって二人で肩を組みながら癒楽房を出て行く。もう表情に暗さはなくない。よかった。
バタン
ドアが閉まる音。しかし、その直後からなんとなく外が騒がしい。
「…だ、だれ…おぬしは……」
「どう…ガガン……なんじゃ…」
ドアの外で二人の叫ぶ声が聞こえる……と思ったら、そのまま聞こえなくなった。
「ガガンさん、どうかされましたか?」
「……」
返事がない。え、うそ、敷地内だよな? 敵とか来ることになったのか? あ、もしかして仙蜘蛛に糸にやられたか? それとも背後から飛蛇に…
「くそ、どうする。黒曜ダーツがない今は仙蜘蛛とはやり合えないし。でも二人を放ってはおけないし……行くしかないか」
ストレージからピエロダーツを取り出してドアに向かう。
ガチャ キイイイイ
俺が心を決めた直後、ドアのノブが勝手に回り、甲高い音を鳴らして開いていく。ドアの向こうには赤く染まった空。逆光に目を細めながら、床を伸びて来る一筋の影だけがはっきりと見て取れた。どうやら何かが立っているらしい。くそ、逆光で良く見えん。こうなったら先制攻撃しかない。
「ピエロダーツ狙…」
グガーーーーー ゴガーーーーー
「…撃……へ?」
逆光に目が慣れ、ダーツを放とうとしたその時、大きなイビキが二人分聞こえ、俺の視線の先には……見たことのあるグルグル眼鏡がこっちをじっと見つめていた。
──マジかあ、ゴマッキさん…
視界が暗転する直前に床でヘソ天しているガガンさんとダガンさんが見える。
バタン グウウウ
グガーーーーー ゴガーーーーー
それから10分間、ヘソ天でイビキをかく男三人の姿を見下ろしながら過ごた俺は二人にキュアポーションを使って、復帰4日目をログアウトするのだった。
これは今日一日ゴマッキさんの事を忘れてた罰と言うことかな…。
❖❖❖レイスの部屋❖❖❖
「おーーい、小僧、ドワーフ相手にお前なんちゅう酒出してんだコラ!」
「うわ、これはひどいっすね。ただでさえドワーフへの酒譲渡は信頼バフがエグイのに…」
「この前さらっと作ってたからついスルーしちまったがこれはあかんやつだ」
「うへ、霊酒なうえにさらに希少成分が大量に入ってて、しかもそれを飲み放題とか…。そりゃ堅物ドワーフも王家の秘密をペラペラ話しちゃう訳ですよ」
「これ、どうなるんだ。もういろいろゴチャゴチャになり過ぎてもう俺にも処理できんぞ」
「ヤバい畑にヤバい従魔、真視の眼鏡にドワーフたち……あ、なんか吐きそうっす」
「お、小僧やっとログアウトしやがった」
「はああ、助かった~。……って、あれ、先輩どうかしました?」
「マスターから報告会へのフォローアップ来ちゃった……今日は流石に休もうかと思ってたのに」
―――――――――――――
◇達成したこと◇
・破壊されたスチームバンク城を片付ける
・五祥霊砲酒を存分に振る舞う
・ムガンさんに異変があった可能性を知る
・北の断崖を調べることにする
・ゆらゆらゴマッキに会いヘソ天10分
・復帰4日目ログアウト
◆ステータス◆
名前:スプラ
種族:小人族
星獣:アリオン[★☆☆☆☆]
肩書:マジョリカの好敵手
職業:多能工
属性:なし
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:1
耐久:1(+33)
敏捷:1(+53)
器用:1
知力:1
≪武器≫ (決断の短刃─絆結─)※筋力不足
≪鎧≫ 仙蜘蛛の真道化服【耐久+33、耐性(斬撃・刺突・熱・冷気・粘着)】
≪足≫ 飛蛇の真道化靴【敏捷+53】
≪アクセサリー≫ 帰還道化師の超自然派ペットキャリーセット
◆固有スキル:【マジ本気】
◆スキル:
特殊──【逃走NZ】【危険察知NZ】
保有──【品格】【献身】【騎獣術】【依頼収集】【念和】【土いじり】【熟達の妙技】【眼通力】【薬草の英知】【劇毒取扱】【特級毒物知識】【独り舞台】【鉱物学】
成長──【秘薬Lv10】【石工Lv10】【配達Lv10】【一夜城Lv10】【投擲Lv10】【狙撃Lv10】【料理Lv10】【コーチングLv10】【融合鍛冶Lv6】【解析鍛冶Lv4】【特殊建築Lv4】【散弾狙撃Lv4】【高級料理Lv4】【ルーティンワークLv3】【極意の採取Lv2】【上級採掘Lv1】【瘴薬Lv1】【カッティングv1】【レザークラフトLv1】【裁縫Lv1】【描画Lv1】【コスパ料理Lv1】
耐性──【苦痛耐性Lv3】
◆所持金:約900万G
◆従魔:ネギ坊[癒楽草]、チク坊[護針獣]
◆称号:【不断の開発者】【魁の息吹】【新緑の初友】【自然保護の魁】【農楽の祖】【肩で風を切る】【肩で疾風を巻き起こす】【秘密の仕事人】【秘密の解決者】【秘密の革新者】【不思議ハンター】【不思議開拓者】【巨魁一番槍】【開拓者】【文質彬彬】【器用貧乏】
■【常設クエスト】
<定期納品:一角亭・蜥蜴の尻尾亭・腹ペコ熊の満腹亭……>
■【シークレットクエスト】
<太皇太后の想い> 第二の街復興と独立国家建設
・行政府 0/1
・鍛冶工房 3/2
・薬房 1/2
・住居 0/10
・城壁 北側に10メートル
◆星獣◆
名前:アリオン
種族:星獣[★☆☆☆☆]
契約:小人族スプラ
Lv:20
HP:310
MP:445
筋力:48
耐久:46【+42】
敏捷:120
器用:47
知力:69
装備:
≪鎧≫ 赤猛牛革の馬鎧【耐久+30、耐性(冷気・熱)】
≪アクセサリー≫ 赤猛牛革の鞍【耐久+12】
≪アクセサリー≫ 赤猛牛革の鐙【騎乗者投擲系スキルの精度・威力上昇(小)】
◆固有スキル:【白馬誓魂】
◆スキル:【疾走Lv8】【足蹴Lv1】【噛み付きLv2】【水上疾走Lv1】【かばうLv10】【躍動】【跳躍Lv2】【二段跳び】【守護Lv10】
◆従魔◆
名前:ネギ坊
種族:瘉楽草[★★★★☆]
属性:植物
契約:スプラ(小人族)
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:3
耐久:3
敏捷:0
器用:6
知力:10
装備:
≪葉≫【毒毒毒草】
≪葉≫【爆炎草】
≪葉≫【紫艶草】
◆固有スキル:【超再生】【分蘖】
◆スキル:【劇物取扱】【爆発耐性】【寒気耐性】
◆分蘖体:ネギ丸【月影霊草】ネギ玉【氷華草】ネギコロ【天雷草】
名前:チク坊
種族:護針獣[★☆☆☆☆☆]
属性:依存
契約:スプラ(小人族)
LV:1
HP:20
MP:410
筋力:5
耐久:4
敏捷:14
器用:12
知力:14
装備:なし
固有スキル:【僕を守って】■■■■
スキル:【逃走】
◆生産セット◆
・大地の調合セット
◆特殊所持品◆
・魔剣の未完成図面
◆所有物件◆
・農屋
・野菜畑(中)、フルーツ畑(小)、食虫植物畑(小)
・癒楽房
・極凰洞
◆契約住民◆
・ミクリ【栽培促進】
・ゲンジ【高速播種】
・チッチャーネ【味見】【???】
・デッカイ【益虫使い3】&オッキイ【益獣遣い3】
◆お手伝い◆
・ガガン【???】
・ダガン【???】




