第290話 【僕を守って】に守られて
「きゃーーーーーーーーーー!!」
ミクリさんの叫び声に急いで畑に向かう。
「大丈夫ですか、ミクリさん! …って、げえええ!」
行ってみたら畑が大変なことになっていた。なんと、畑がモンスターで溢れ返っているのだ。3mを超える植物モンスター。ギザギザの葉がガシガシと音を立てながら合わせられていたり、巨大な花に大きな口があったり、自身の丈よりさらに長い蔓で空中を鞭のように叩いていたり。
そしてなにより、ミクリさんがその蔓に絡め取られて空中に釣り上げられている。ゲンジさんがデッカイの鎌を振って対処しているが、ギザギザの葉で受け止められたり、蔓でいなされたりでどうにもならない様子。
「チク坊が面白いほうの畑に入って行ったんだ。そしたら急に虫を食べる植物たちが大きくなって」
「チク坊ね、畑でチクチクを周りに飛ばしたの。そのチクチクが刺さった植物が大きくなって動いてるの」
デッカイとオッキイが必死にこの惨状の経緯を教えてくれる。
そうか、これはチク坊の仕業か。
「スプラさあん、ごめんなあ、俺のせいでこんなことになっちゃったあ」
チッチャーネさんが涙を溜めながら謝ってくる。いや、まあ、この体で食べちゃいたい発言はな。チク坊が怖がるのも無理はない。が、そんなことをこれまで散々怖がらせてきた俺が言えた立場ではない。
「チッチャーネさん、大丈夫、心配しないで」
大丈夫かどうかは分からんが、チッチャーネさんには元気でいて欲しい。
「キャーーーッ」
「こんの、デカブツ野郎!」
振り回されるミクリさんを見てゲンジさんが長い腕をしならせて鎌で薙ぎ払う。だが、如何せんあのギザギザの葉が鎌の刃を受け付けない。
「え、ちょ、やだ、やだやだ」
ミクリさんを振り回していた蔓が振り回すのを止め、今度は大きな口を開いた巨大花の上にミクリさんを移動させる。それを見たミクリさんの顔が蒼白に。必死に蔓を外そうとするが体に食い込んだ蔓はまったく緩まない。
「こりゃまずいな、どうする……あ」
ストレージからピエロダーツと【劣滅除草剤】を取り出す。
「狙撃!」
グアアオオオオ
俺が放った劣滅ピエロダーツ。それをギザギザの葉で受ける植物モンスター。だがダーツに触れた葉が触れた場所からどんどん変色して枯れていく。
ものの2、3秒で全身が枯れてポリゴンに変わった。
「相変わらずクソエグイな…」
トレント木材を採りに行った時にも散々使ったが、この枯れ方は見てる方としてもいたたまれなくなる。これ、リアルだったら絶対に使っちゃダメな除草剤だ。ゲームでも「環境への影響は限定的」って説明がなければ使うの躊躇るレベルだぞ。
「ああ、助かった~。ありがとう、スプラさん、ゲンジ」
ゲンジさんの長い腕でキャッチされたミクリさんがホッとした表情で植物から距離を取る。
さて、じゃあ、残りも枯らしていきますか。
【食虫植獣の蔓】×4
食虫植獣の蔓は鞭より締まる
【食虫植獣の葉】×5
食虫植獣の葉は鉄より硬い
【食虫植獣の花弁】×3
食虫植獣の花弁は絹より滑らかな肌触り
【食虫植獣の溶解液】×1
食虫植獣の溶解液は理想の錬金媒体
……なんかいろいろと取れたな。
植物モンスターを全部枯らしてドロップに変えると、そのドロップの中から灰色のウニのような物体がヒョコっと出て来る。
『チュウ~』
鳴き声からすると、どうやらこのウニがチク坊らしい。
「チク坊、もう怖くないぞ。ほれ」
恐る恐る顔を出すチク坊にオリ玉を見せてやると丸まった体から手足が出てきてチョコチョコと寄ってきてくれた。
チッチャーネさんには農屋に行ってもらっているからかチク坊からは安心感が伝わってくる。
コリコリ コリコリ
「なあ、さっきの植物モンスターってチク坊がやったの?」
『チュ? チュチュ…』
「あ、いや、怒ってる訳じゃないから。チク坊は怖かっただけだもんな。逃げることは悪い事じゃないぞ、俺なんか逃げまくって今がある訳だし」
最近は使ってないが【逃走NZ】がなかったらとっくにFGSやめてただろう。
『チュチュチュ』
「へえ、そうなのか。あれが【僕を守って】なのか」
『チュチュ』
「あ、本来は針を飛ばして攻撃するスキルだったのか」
『チュチュ~』
「性質変化しちゃったから、あんなことになるとは自分でも知らなかったんだな。あ、もう一個食べるか?」
『チュ♪』
「そうか、あの植物モンスターはチク坊を守ろうとしてたってことか。なるほど」
コリコリ コリコリ
「スプラ兄ちゃん、この畑どうする? また種植えとくか?」
騒ぎが収まったことでデッカイとオッキイも落ち着いたらしい。
「ん、あ、そうだな。じゃあミクリさんに種もらって植えておいてくれる? あ、あと、農屋に新しいジュース作って置いてあるからミクリさんに言って一緒に飲んでいいぞ」
「おお、やったー。じゃあ、行ってくる~」
「あ、わたしも行く~」
デッカイとオッキイが農屋へと走って行く。
さてと、じゃあ俺は何するかな。ガガンさんたちのところに行くにはもう少し時間があるし……ちょっと製作でもするか。
農屋へ戻って癒楽房に移動する。
作業台の上に取り出したのは【食虫植獣の花弁】だ。ドロップでこれを見た時にふと思いついたのだ。今回はこれでチク坊が入るリュックでも作ろうかと思っている。
チク坊のさっきの様子じゃこれからも同じことが起きるかもしれない。もしラスプの街中でさっきみたいなことが起きたら絶対に面倒くさいことになるに決まってる。
だから、チク坊が逃げ込める場所、チク坊用のリュックを作ってやろうという訳だ。
作業台に1m四方の【食虫植獣の花弁】を置く。リュックなんて作った事ないからごく簡単なもので。
まず万事屋さんの便利アイテム【バッサリ君】で食虫植物の花弁を適当な大きさに切っていく。そのあと二つに折って両側を【ピッタリ君】でくっつける。口元をクルリと折り返して折り返した先の方だけをくっつける。まあ、紐を通すための部分だ。
今度は【食虫植獣の蔓】を取り出して紐の代わりに通していく。ぐるっと2周させたら紐を結んで完成だ。
「よし、完成! 名付けて“チク坊リュック”!」
『……』
「あれ? ピッカーンが来ない。なんで?」
てっきりここで【不断の開発者】の称号効果、特殊生産物化のアナウンスが来るかと思ったのに、どうやら今回は来ないようだ。SAIの奴サボってんのか? AIが夏バテとかやめてくれよ。
「ま、仕方ないか。これでも使えんことはないしな」
袋の口を少し開けといて背負ってみる。うん、紐の長さも丁度いいな。
『チュチュ?』
「うん、チク坊用のリュック。怖かったりしたらいつでも入っていいから」
『チュチュ♪』
頭の上から背中に移動したチク坊がリュックに入っていく。うん、チク坊からご機嫌な感情が伝わってくる。殻の中が安心だったみたいだし、こんなの好きだと思ったんだ。
『ゆ~ら~』
「え、そうなの? じゃあ作る?」
『ゆら♪』
今度はネギ坊から『帽子も欲しいね~』と羨ましそうな感じ。そっか、それなら帽子も作るか、そのうち作ろうと思ってたし。
【食虫植獣の葉】をバッサリ君でチョキチョキしていく。鉄より硬いとか書いてあるけど重さは普通に葉っぱの重さ。しかもバッサリ君で切れるのはありがたい。
帽子も作ったことないから大体で。目標は前に冒険者ギルドのゴルバさんから貰った天井部分が破れ取れたシルクハットだ。ネギ坊が隠れられて尚且つ日光も当たるとなるとあんなのしか思いつかない。
「じゃ、こうして……よし、できた。これでネギ坊用の帽子とチク坊用のリュックができたな。なんか食虫植獣従魔セットって感じだな」
ピッカーーン
「うおお、予想してなかった~」
『チュチュ~!』
『ゆら♪』
ピンポーン
『称号【不断の開発者】の効果により特殊生産物が生産されました』
【道化師の自然派キャリーセット】
万事屋のチート道具を使って全てを植物由来素材のみで作成した道化師がいかにも喜びそうなペット入れ。自然派だから女子にモテるとか。そんな甘い考えが透けて見えるぜ。
……SAI君? なんか名前と説明文のバランスがおかしくね?
❖❖❖レイスの部屋❖❖❖
「なんじゃありゃーーーー!! 化け物が生まれてるぞ、ライス!」
「先輩、ヤバいです。生態系の大混乱の可能性が高騰中です!」
「おいおいおい、いったい何が起きたってんだ」
「わかりませ…あ、先輩、さっきの護針獣の固有スキル、あの解析結果!」
「解析結果……え、『針が生み出す守護兵』……ってコレの事?」
「そうっすよ。ほら、根元に針みたいなのが刺さってますもん」
「まじか、こんな化け物生み出すの? あのちっこい見た目で?」
「AIを見かけで判断する馬鹿はどいつっすか!」
「おま、先輩に向かって馬鹿とは…なん……は? 劣滅除草剤? なにそのチート性能? コラー、小僧、お前そんなもんどうやって作った?」
「あ、先輩、スプラさんの生産活動のログを見たら生産過程ですごいものが……」
「あ、ちょっと待て。それ以上は言わなくていい。なんか今、すごく嫌な可能性がよぎった」
「あ、そうっすか…(鋭いっすね)」
「うおい、ドロップがエグイだろ! なんだ、その素材リソース量……って、第6エリア相当じゃねえかよ」
「あ、先輩、スプラさん生産活動始めてますよ。これアレじゃないっすかね。特殊生産物案件」
「おお、そうか、小僧が卒業してからあの権限が管理AIに戻ってきてたんだよな。ちょっと待てよ……お、担当が新米だってよ。よし、権限貰っちまうか」
「あ、先輩、スプラさん、もうリュック完成させました!」
「え、あ、ちょ、まだ権限移譲中だって…」
「間に合いませんでしたね…」
「いや、小僧が作るの速すぎんだって。くそ、TZがチート道具なんか渡すから」
「先輩、ヤバいっすよ、もう次の製作に入っちゃってます」
「え、ちょっと待て。もう少しで権限が来るから…よし来た! じゃあ、さっき作ったのも一緒にセットでやるぞ。ライス、お前に造形と性能、タイトル任せる。説明文は難しいから俺がやる。急げ」
―――――――――――――
◇達成したこと◇
・モンスター化した食虫植物にビビる
・劣滅除草剤ダーツで討伐
・食虫植獣素材ゲット
・チク坊の【僕を守って】の性能を知る
・制作【道化師の自然派キャリーセット】
◆ステータス◆
名前:スプラ
種族:小人族
星獣:アリオン[★☆☆☆☆]
肩書:マジョリカの好敵手
職業:多能工
属性:なし
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:1
耐久:1(+33)
敏捷:1(+53)
器用:1
知力:1
≪武器≫ (決断の短刃─絆結─)※筋力不足
≪鎧≫ 仙蜘蛛の真道化服【耐久+33、耐性(斬撃・刺突・熱・冷気・粘着)】
≪足≫ 飛蛇の真道化靴【敏捷+53】
≪アクセサリー≫ 道化師の自然派キャリーセット
◆固有スキル:【マジ本気】
◆スキル:
特殊──【逃走NZ】【危険察知NZ】
保有──【品格】【献身】【騎獣術】【依頼収集】【念和】【土いじり】【熟達の妙技】【眼通力】【薬草の英知】【劇毒取扱】【特級毒物知識】【独り舞台】【鉱物学】
成長──【秘薬Lv10】【石工Lv10】【配達Lv10】【一夜城Lv10】【投擲Lv10】【狙撃Lv10】【料理Lv10】【コーチングLv10】【融合鍛冶Lv6】【解析鍛冶Lv4】【特殊建築Lv4】【散弾狙撃Lv4】【高級料理Lv4】【ルーティンワークLv3】【極意の採取Lv2】【上級採掘Lv1】【瘴薬Lv1】【カッティングv1】【レザークラフトLv1】【裁縫Lv1】【描画Lv1】【コスパ料理Lv1】
耐性──【苦痛耐性Lv3】
◆所持金:約500万G
◆従魔:ネギ坊[癒楽草]、チク坊[護針獣]
◆称号:【不断の開発者】【魁の息吹】【新緑の初友】【自然保護の魁】【農楽の祖】【肩で風を切る】【肩で疾風を巻き起こす】【秘密の仕事人】【秘密の解決者】【秘密の革新者】【不思議ハンター】【不思議開拓者】【巨魁一番槍】【開拓者】【文質彬彬】【器用貧乏】
■【常設クエスト】
<定期納品:一角亭・蜥蜴の尻尾亭・腹ペコ熊の満腹亭……>
■【シークレットクエスト】
<太皇太后の想い> 第二の街復興と独立国家建設
・行政府 0/1
・鍛冶工房 3/2
・薬房 1/2
・住居 0/10
・城壁 北側に10メートル
◆星獣◆
名前:アリオン
種族:星獣[★☆☆☆☆]
契約:小人族スプラ
Lv:20
HP:310
MP:445
筋力:48
耐久:46【+42】
敏捷:120
器用:47
知力:69
装備:
≪鎧≫ 赤猛牛革の馬鎧【耐久+30、耐性(冷気・熱)】
≪アクセサリー≫ 赤猛牛革の鞍【耐久+12】
≪アクセサリー≫ 赤猛牛革の鐙【騎乗者投擲系スキルの精度・威力上昇(小)】
◆固有スキル:【白馬誓魂】
◆スキル:【疾走Lv8】【足蹴Lv1】【噛み付きLv2】【水上疾走Lv1】【かばうLv10】【躍動】【跳躍Lv2】【二段跳び】【守護Lv10】
◆従魔◆
名前:ネギ坊
種族:瘉楽草[★★★★☆]
属性:植物
契約:スプラ(小人族)
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:3
耐久:3
敏捷:0
器用:6
知力:10
装備:
≪葉≫【毒毒毒草】
≪葉≫【爆炎草】
≪葉≫【紫艶草】
◆固有スキル:【超再生】【分蘖】
◆スキル:【劇物取扱】【爆発耐性】【寒気耐性】
◆分蘖体:ネギ丸【月影霊草】ネギ玉【氷華草】ネギコロ【天雷草】
名前:チク坊
種族:護針獣[★☆☆☆☆☆]
属性:依存
契約:スプラ(小人族)
LV:1
HP:20
MP:410
筋力:5
耐久:4
敏捷:14
器用:12
知力:14
装備:なし
固有スキル:【僕を守って】■■■■
スキル:【逃走】
◆生産セット◆
・大地の調合セット
◆特殊所持品◆
・魔剣の未完成図面
◆所有物件◆
・農屋
・野菜畑(中)、フルーツ畑(小)、食虫植物畑(小)
・癒楽房
・極凰洞
◆契約住民◆
・ミクリ【栽培促進】
・ゲンジ【高速播種】
・チッチャーネ【味見】【???】
・デッカイ【益虫使い3】&オッキイ【益獣遣い3】
◆お手伝い◆
・ガガン【???】
・ダガン【???】




