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第283話 復帰4日目 畑の珍事

 復帰4日目ログイン。



 農屋の屋根裏に上がると、日光浴を楽しむネギ丸たちがゆらゆらしていた。薬で眠かったので、話したり突いたりして和みながら眠気を覚ます。


 昨日はゴマッキさんが五祥霊砲酒を味見したあと、二人とも癒楽房に戻ってログアウト。また、朝に合流する事になっている。そのうち連絡がくるだろう。


「じゃみんな、今日もお手々もらうな」

『ゆら〜♪』


 ご機嫌な3人から希少植物を貰って畑に出ると、ミクリさんとゲンジさんが既に作業に入っていた。



「ミクリさん、ゲンジさんおはようございます」

「あ、スプラさん、おは。ちょっと、ちょっと」


 作業中のミクリさんが俺を見るなりチョイチョイと手招き。


 朝一の珍情報の報告かな? なんか恒例になりつつあるな。


 手招きに応じて寄って行くと俺の手を取るミクリさん。俺はそのまま手を引かれて畑の中をすたこら移動する。すると徐々に見えてくる摩訶不思議な光景。



「えっと……なんですか、これは?」

「こっちが聞きたくて呼んだんだよ?」


 ミクリさんと顔を見合いながら首を傾げる。


 目の前には2mほどの木々。そこにバナナ、パイナップル、パパイヤ、ドラゴンフルーツといった色鮮やかな南国フルーツの巨大な実が付いている。その大きさは30cmを優に超え、パイナップルに至っては実の部分だけで車のハンドルくらいあるお化けフルーツだ。



「いや、デカくないですか、これ」

「大きさもそうだけど、見たことないものばっかりでさ。なんだろね、これ」


 見たことない? ああ、確かにラスプでは見たことないな……



「たぶん果物だと思うんですけど……ところで、なんでこんなのが?」

「コレよ」


 そう言って見せられたミクリさんの手にはゴロゴロと転がる見覚えのある種。


「これ、もしかして?」

「そう、チッチャーネさんの種からできたのよ、これ全部」


「え、これ? でも植えてまだ2日だけど?」

「うん、そうよ。スプラさんの肥料とわたしの【栽培促進】で2日で収穫してるよ、この畑」


 そうだったのか……そういや昔、ゼン爺が言ってたような気もする。ミクリさんが2日、ゼン爺は品質アップで4日だっけ。



「そっか、凄いですね、2日でこんな南国フルーツが生るとは…」

「なんごく?」


「あ、いや、この果物ってもっと暖かい地域で取れる果物なんですよ。食べると甘くておいしいと思いますよ」

「え、これ食べられるの?」


「はい。食べてみましょうか?」


 生い茂る木々の中に足を踏み入れていき、俺の顔よりもデカいバナナをもぎ取る。


【ババナ】


 …うん、バナナのことだな。



「なんか、変な形だね〜」


 ミクリさんが興味津々で見つめる中、ババナの皮を剥く……はずが、残念ながら筋力が足らず無理。身体強化ポーションを呷ってから皮をめくると中からはクリーム色した柔らかそうなババナの実が姿を現した。


 では、お先に一口……


 大口を開けて側面に齧り付く。リアルでは絶対にないバナナの食べ方。



「うんっま、なんだこれ。バナナなのに果汁が溢れるって…」

「え? なに? 美味しいの?」


「こっちの一本食べてみてください。あ、皮が剥きにく……ですよね」


 渡したババナの皮をあっさりと剥いたミクリさん、角度を変えながらまじまじと眺めた後、目を瞑って豪快に齧り付いた。


「んんんー、おいひい。なにこへ」


 口いっぱいに頬張ったミクリさんが口を押えて目を輝かせる。いやその気持ちはわかる。南国系スイーツバイキングに行ったときのあの感動だ。食べきれないほどの量を前にした爆発する喜びと多少の戸惑い。



「おっ、ミクリ何食べてんだ? おお、それか、俺も気になってたんだ」


 どうやらゲンジさんも試食タイムらしい。


「ゲンジさん、これどうぞ」


 果汁たっぷりババナをゲンジさんに手渡す。すると皮を剥いて齧り付くゲンジさん。


「なんはこれ、うっま」


 どうやらゲンジさんも気に入ったらしい。良かった。二人にはずっと畑で頑張ってもらってるから何かで報いたかったんだ。



「この果物は珍しすぎてまだ販売はできませんからお二人で食べてください」


「えええっ? いいの、本当に?」

「ええ、大丈夫です」


「いやでもスプラさん、こんなの王都へ持ってったらバカ高い値段で売れるぞ。本当に食べちゃうのか?」

「王都にはまだ行けませんから。それにニカブーに高い税金も払いたくないですし。楽しく食べちゃいましょう」


 あのブーちゃんに払うくらいなら食べて楽しむに限る、うん。


「かあああ、やっぱりスプラさんを待っててよかったぜ。農業ギルドの契約やめてく奴らを横目にちょこっとだけ迷ったんだけど…」


 ゲンジさん【孤独】にかかってたもんな。そりゃ迷うよな。



「あ、いや、迷ったってもちょこっとだけだぞ。スプラさんから貰ったジュースや、時間前でも帰らせてくれたことを思い出してすぐに振り払ったからさ」


 そっか、そういやそんな事あったっけ。そんな小さなことを覚えて……よかったな、ゲンジさんいなかったらマジでヤバかったし……よし、ここは思う存分食べてもらおう。


「じゃあ、この辺のフルーツは全部収穫していきましょう……ん?」


 フルーツ畑と化した一帯を眺めた時、ふと気が付く。



「ミクリさん、ゲンジさん、なんか、周りの野菜が小さくなってません?」


 フルーツの木々のその外側。普通の野菜を育てている場所が2m程の幅で生育が悪くなっている。まるでそこだけ苗を植えたばかりのように土が見えて…


「ああ、それね。そうなの、この種を植えた周辺だけ野菜が育たなかったのよ」


「それなあ、たぶん競合したんだと思うぜ。こっちの果物の方が勝ったんだろうな」


 ゲンジさんが次のババナを剥きながら教えてくれる。そうか、たしか祖父ちゃんの畑でもそんなこと言ってた気がするな。“野菜は喧嘩するのがいる”って。今回は果物と野菜が喧嘩しちゃったのかな。じゃあ…


「ミクリさん、ゲンジさん、俺、畑買ってきます。果物専用の畑」

「畑? 今、高いよ?」

「大丈夫、小規模の方ですから」


 アリオンに乗って農業ギルドに走る。エア・ブランコには気を付けていたが出会わなかった。どうやら畑区画には奴らは出没しないらしい。


 ギルドで600万G払って小規模畑を購入する。なぜか100万G値上がりしていたがそれでも安いと思ってしまった自分は頭が酒の値段にやられているようだ。



「お、兄ちゃん、おっはよー」

「おっはよー」

「スプラさん、おはよう」


 ちょうど出勤してきたデッカイたち三人と入り口でばったり出会う。三人とも今日も元気に同時挨拶だ。なんかちょっとハモってるし。



「みなさん、おはようございます。今日もよろしくお願いします。チッチャーネさんは味見用の野菜が農屋にありますんでどうぞ。デッカイとオッキイはちょっといいか?」


「ん? なんだ?」

「なあに?」



 二人を連れて小規模畑に移動する。


「うおお、今日もまたすごいことになってるな」


 学校の教室ほどの畑、その敷地内が草丈3m程の雑草で埋め尽くされている。もう草とは呼べそうもない程大きい。そして「しめじですか?」ってくらいギュウギュウ詰めだ。



「おれたちのスキルが進化したからな」

「レベルも上がってるしね」


 デッカイとオッキイが小さな胸を張る。小さい子供の自信に満ちた姿ほど見ていて嬉しくなるものはないな。



「そっか、じゃあ、そんな成長期まっさかりの二人にお願いがありまーす」

「なんだ?」

「なになに?」


「実はさっき、そこの隣の畑も買ったんだ。で、こっちのデカい草が生えてる方を綺麗にして、この種を撒いてくれる? それが終わったら新しいほうの畑の手入れをしてほしいんだ」


「おっ、そっか、いよいよ俺たちの畑を使うんだな。いいぜ、じゃあさっさと草刈りしちゃうからちょっと待ってて」


 デッカイが農屋へ鎌を取りに行く。そして鎌を持ってくるとそのまま畑の草刈りを始めた。


「じゃあ、わたしも~」


 頃合いを見てオッキイも畑に入り、草刈り済みの地面に手を当てる。するとモコモコ盛り上がる土。ヒョコヒョコと頭を出すモグラたちにオッキイが身振り手振りで指示を出す。


 指示を受けたモグラが地面に潜る。すると刈られた草が土と交じり合いながらフカフカの土に変わっていく。



「おお、確かに成長してるな。そっか、それじゃあ、俺も手伝ちゃうか」


 デッカイが刈った草を【熟達の妙技】で乾燥させる。乾燥したほうが土に混ぜやすいって聞いたことがある……ん?


 緑色の草を乾燥させて茶色くすると、今度はその茶色の枯草にアイコンが表示される。


「なんだこれ?」


 アイコンをチョイするとそこには【発酵】の文字。


「ああ、発酵ね。そういや祖父ちゃん枯葉に米ぬかやらいろいろ混ぜて踏んでたな。発酵させて腐葉土を作るって言ってたっけ」


 迷わず【発酵】を選択する。すると、茶色のカサカサしていた枯葉が今度は黒く変色していく。なんか湯気出てるけど……そっか発酵は熱が出るって祖父ちゃん言ってたっけ。



「うわあ、なんか山の匂いがする~。あ、お兄ちゃん、モグラさんがとっても喜んでるみたい。この黒い土が畑にいいんだって」


 オッキイがそう言ってる間にもモグラたちが腐葉土を土の中に混ぜ込んでいく。畑中がどんどんモコモコのフカフカになっていく。



「よし、じゃあこの種を植えようか」

「おお、でっかいな」

「おっきいね」


 チッチャーネさんの種を見て目を大きくする二人。その胸のワクワクが伝わってくるようだ。


「じゃあ、これはデッカイ、こっちはオッキイが植えてくれ」

「よっしゃー」

「やったー」


 俺の手から種を受け取って畑に入っていく二人。それぞれで数を数えてはどこに植えるかを相談しているようだ。


「よし、じゃあ俺はここからここまで。オッキイはそこから向こうまでな」

「うん」


 デッカイとオッキイが持ち場につく。二人で同時に頷きあって種植えが始まる。じゃあ、俺はチッチャーネさんの味見祭でも見て来るか…



「に、兄ちゃーん、助けてくれー」

「大変だよー!」


 農屋に戻ろうとすると背後から二人から助けを呼ぶ声。


 ──え、まさかもうなんか起きた?




❖❖❖レイスの部屋❖❖❖


「先輩、あのババナってヤバくないっすか?」

「ババナだけじゃねえ、パパーヤもマンガーもドラゴルもパッチョンも全部ヤバいぞ。なんなんだ、いったい」


「スプラさんアレでジュースとか作んないですよね」

「そんなもん作られてたまるか……って、げっ、畑買ってんじゃねえかよ。まさか、量産する気か? 小僧、お前、ちょっとは周りへの影響を考え…」


「あーあ、先輩、今の果物だけであちこちで変な可能性が出現しちゃってます。料理屋とかヤバいっすね」

「マジかーっ……ん? ちょっと待て、なんだ、あの雑草畑は。なんかバグってないか?」


「なんで雑草があんなに成長してるんすかね…」

「は? 【熟達の妙技】ってなんだ……はあああ? 極級スキルだと!! え? 【発酵】?」


「料理人ルートでしたよね、【発酵】って」

「ああ、スキル【発酵】は料理の上級スキル……それを今、さらっと派生技みたいに使わんかったか?」


「うわあ、できた【腐葉土】で畑がさらにバグってますね、しかもあの召喚獣の働きがまた……」

「ぐぬぬ、その畑に何を植えるつもりだ、小僧……」


「あ、種ですよ、先輩。なんすか、あの大きさ。それに色と形が…」

「いやいやいやいやいや、小僧、そのバグ畑にその種はあかん。駄目だーーー!!やめろーーー!!」



「「……あ」」




―――――――――――――

◇達成したこと◇

・復帰4日目ログイン

・巨大南国フルーツを試食する

・フルーツは契約住人用とする

・小規模畑を600万Gで購入

・旧小規模畑の草を腐葉土に変える

・腐葉土畑にチッチャーネの種を植えさせる

・なにかが起きる



◆ステータス◆

名前:スプラ

種族:小人族

星獣:アリオン[★☆☆☆☆]

肩書:マジョリカの好敵手

職業:多能工

属性:なし

Lv:1

HP:10

MP:10

筋力:1

耐久:1(+33)

敏捷:1(+53)

器用:1

知力:1

≪武器≫ (決断の短刃─絆結─)※筋力不足

≪鎧≫ 仙蜘蛛の真道化服【耐久+33、耐性(斬撃・刺突・熱・冷気・粘着)】

≪足≫ 飛蛇の真道化靴【敏捷+53】


◆固有スキル:【マジ本気】

◆スキル:

特殊──【逃走NZ】【危険察知NZ】

保有──【品格】【献身】【騎獣術】【依頼収集】【念和】【土いじり】【熟達の妙技】【眼通力】【薬草の英知】【劇毒取扱】【特級毒物知識】【独り舞台】【鉱物学】

成長──【秘薬Lv10】【石工Lv10】【配達Lv10】【一夜城Lv10】【投擲Lv10】【狙撃Lv10】【料理Lv10】【融合鍛冶Lv6】【特殊建築Lv4】【散弾狙撃Lv4】【ルーティンワークLv3】【極意の採取Lv2】【上級採掘Lv1】【瘴薬Lv1】【カッティングv1】【レザークラフトLv1】【裁縫Lv1】【描画Lv1】【高級料理Lv1】【コスパ料理Lv1】

耐性──【苦痛耐性Lv3】


◆所持金:約500万G

◆従魔:ネギ坊[癒楽草]

◆称号:【不断の開発者】【魁の息吹】【新緑の初友】【自然保護の魁】【農楽の祖】【肩で風を切る】【肩で疾風を巻き起こす】【秘密の仕事人】【秘密の解決者】【秘密の革新者】【不思議ハンター】【不思議開拓者】【巨魁一番槍】【開拓者】【文質彬彬】【器用貧乏】



■【常設クエスト】

<定期納品:一角亭・蜥蜴の尻尾亭・腹ペコ熊の満腹亭……>

■【シークレットクエスト】

<太皇太后の想い> 第二の街復興と独立国家建設

・行政府 0/1

・鍛冶工房 3/2

・薬房 1/2

・住居 0/10

・城壁 北側に10メートル



◆星獣◆

名前:アリオン

種族:星獣[★☆☆☆☆]

契約:小人族スプラ

Lv:20

HP:310

MP:445

筋力:48

耐久:46【+42】

敏捷:120

器用:47

知力:69

装備:

≪鎧≫ 赤猛牛革の馬鎧【耐久+30、耐性(冷気・熱)】

≪アクセサリー≫ 赤猛牛革の鞍【耐久+12】

≪アクセサリー≫ 赤猛牛革の鐙【騎乗者投擲系スキルの精度・威力上昇(小)】

◆固有スキル:【白馬誓魂】

◆スキル:【疾走Lv8】【足蹴Lv1】【噛み付きLv2】【水上疾走Lv1】【かばうLv10】【躍動】【跳躍Lv2】【二段跳び】【守護Lv10】



◆従魔◆

名前:ネギ坊

種族:瘉楽草[★★★★☆]

属性:植物

契約:スプラ(小人族)

Lv:1

HP:10

MP:10

筋力:3

耐久:3

敏捷:0

器用:6

知力:10

装備:

≪葉≫【毒毒毒草】

≪葉≫【爆炎草】

≪葉≫【紫艶草】

◆固有スキル:【超再生】【分蘖】

◆スキル:【劇物取扱】【爆発耐性】【寒気耐性】

◆分蘖体:ネギ丸【月影霊草】ネギ玉【氷華草】ネギコロ【天雷草】



◆生産セット◆

・大地の調合セット



◆特殊所持品◆

・卵(警戒中)

・魔剣の未完成図面



◆所有物件◆

・農屋&畑(中×1、小×2)

・癒楽房

・極凰洞



◆契約住民◆

・ミクリ【栽培促進】

・ゲンジ【高速播種】

・チッチャーネ【味見】【???】

・デッカイ【益虫使い3】&オッキイ【益獣遣い3】


◆お手伝い◆

・ガガン【???】

・ダガン【???】


 



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