第28話 活性炭の価値
<特殊職業クエスト:マジョリカの弟子>
マジョリカ特性美容液の材料を集めることができたら「マジョリカの弟子」と認められる。
薬屋マジョリカさんからの特殊職業クエスト。その内容は美容液の材料集めを完了すること。クエストを受注した俺はそのまま薬屋を後にする。
残る材料は3つ。
【毒出し草】【ブルーゼリー】【活性炭】。
【毒出し草】【ブルーゼリー】は街の外に出ないといけない。だから無理だ。
なのでまずは【活性炭】を手に入れることにする。
『活性炭』を持っているのは武器屋のマークスさん。知っている相手でよかった。とにかく会って話をするしかないということで、俺は武器屋へと急ぐ。急いだと言っても配達している訳ではないからクソ遅いんだけど。
俺が店に入ると、ちょうどマークスさんは何本もの短剣を抱えて奥から出てきたところだった。
「おお、スプラか。今日も早速配達依頼をこなして…いくか?」
抱えた短剣をカウンターに降ろしたマークスさん、額の汗を拭いながら嬉しそうな笑顔を向けてくるが、俺の頭を見て一瞬止まる。
「あ、いえ、今日はちょっと別の用件で伺ったんですが、配達の方はお急ぎですかか?」
「いや、急ぎのはもう昨日スプラにやってもらったからな。大丈夫だ。で、配達以外の用事ってなんだ? 武器でも揃えにきたか?」
そう言うマークスさんの視線はずっと俺の頭に注がれている。あ、もしかしてこのヘアバンドか? でも、今はそれより大切な話があるのでスルーしておく。
「いえ、そうじゃなくて。今日はマークスさんにお聞きしたいことがありまして」
「ほう、俺に聞きたい? まあ武器についてはいろいろ教えてやれるが、ほら、スプラにはアレだろ? な?」
マークスさんが言いにくそうに言ってくる。アレとはステータス制限のことだろう。そんな気を使わなくてもいいのに。
「いえ、武器のことではないんですよ。実は『活性炭』についてお聞きしたくって」
「ほう、『活性炭』か。そんな話どこから聞いてきたんだ? あ、そうか、マジョリカの婆さんから聞いたのか?」
婆さんか…マークスさんは住人だからHPとかないんだろうが、あの人を婆さん呼ばわりして大丈夫なのか。
「あ、はい、マークスさんに聞けば教えてくれると言われて」
「そうか、婆さんからの紹介じゃ見せないわけにはいかないな。よし、特別に見せてやろう。勉強になるぞ、待ってろ」
マジョリカさんのことを何度も婆さん呼ばわりしてマークスさんがそのまま奥へ引っ込んでいく。
マークスさんが戻ってくるまでの数分間、俺は店内の武器や防具を見て回る。ほとんどが3万G以上のものばかりで中には桁が2つ違うものまである。とても怖くて近寄る事すらできない自分がいる。
万が一壊しでもしたら借金地獄に真っ逆さまだ。なのでここは遠目から確認するくらいでやめておく。
高価な武器を遠目から眺めていると、マークスさんが奥から一抱えはある大きな金属の箱を持ってきてカウンターの上にそっと置いた。
「おう、これが『活性炭』だ」
そう言って頑丈に封がされた蓋を開けて見せてくれた中には、うっすらと銀色に煌めく極小の炭がビッシリと入っていた。
「おおお、これが『活性炭』ですか」
俺がその神秘的にに輝く灰に見入っているとマークスさんはさらっと蓋をしてしまった。
「『活性炭』は聖銀を加工した時に少量だけ炉に残る燃えカスのことだ。ほんと少しだけしか残らなくてな。むちゃくちゃ稀少なんだ。これは俺がこれまでの聖銀加工で得たものをずっと溜め続けてきたもんなんだ」
げ、活性炭ってそんな貴重なものだったのか。マジョリカさん、そんなものを美容液に使おうとしていたのかよ。ってか、自分で使ってる美容液レシピって言ってたよな。こんなの日用品として使ってるってマジョリカさん金持ちばあ……おば様なのか?
「あの、ちなみにその『活性炭』を少し分けてもらうことって…」
「な、これをか?! おいおい、いくらスプラでもこればかりは無理だ。実は王都の知人からも先約が入っててな。それにこれはかなり高額になるんだ。スプラには本当に残念だが」
まあ、そうなるわな。見ただけですっごく高そうだもんなコレ。しかもステラさん情報では聖銀加工できる人が数が少ないらしい。
「あ、そうですよね。教会のステラさんもマークスさんのことを聖銀加工できる世界でも貴重な人だって言ってましたし、その過程でごく少量だけできる『活性炭』だとやっぱり貴重なものでしょうし」
これはあれだな。マークスさんの依頼をこなしまくってもっと信頼度を稼いでからクエストを受けるとかそんな感じなんだろう。じゃ、これから配達…
「おい、ステラさんがそんなことを言ってたのか?」
なぜか食い気味に反応してきたマークスさん。どうした? なんか鼻息荒いし耳も赤い。これは…そういう事なのか? そういう事でいいのか?
「ええ、マークスさん、ステラさんから絶賛されてましたよ。『マークスさんほどの武器職人を見たことがない』って。『人としてとても尊敬している』って」
「な、そ、尊敬してる……」
あ、今度は頭から湯気が。経験ほぼゼロの俺でも理解できるこの古典的でわかりやすい新設設計。
それから俺は空中を見つめてブツブツ言い出してるマークスさんの頭の湯気が消えるまで店内を見て回った。遠巻きに。
…
…
「はうっ、お、おう、で、この『活性炭』が欲しいんだったか? ってスプラ?」
5分ほど云百万Gの武器を超遠巻きに眺めていると、カウンターからマークスさんの声が聞こえてきた。どうやら戻ってきてくれたらしい。いつまで待つのか心配だったからホッとした。
「はい、少しでいいので分けていただけると助かるのですが」
「なんだ、少しなんて言わずに全部持って行け」
「え、全部? いやいや、こんな貴重なものを。それに既に予約が……」
「いいから、持って行けって。ただ一つ頼みがあるんだが…いいか?」
そう言ってマークスさんは活性炭の入った金属製の箱を俺に押し付けてくる。
なるほど、交換条件ありってことね。わかりやすいからそのほうがありがたい。でも無理難題じゃないよな?
「頼みって? どんな?」
俺は箱を大事に受け取りながら依頼の内容を確認する。おそらくステラさんの好きな食べ物ものとか好きな娯楽とかそんな情報収集の依頼と予想する。
「あの、だな、その、こ、今度教会に行ったらでいいんだが、ス、ステラさんにこ、恋人とかいるのかどうかなんかを聞いといてくれないだろうか?」
…意外とド直球の依頼だった。でも、クエスト内容としては全く報酬に見合ってない。これ、本当にそんなことでいいのか。そんなことでこんな高価なものを貰ってしまって本当にいいのか? うーん、こりゃオプションをつけといたほうがいいかもな。
「いいですよ、それくらい。聞くのはそれだけでいいんですか? 好きなタイプとか、好きな食べ物とか、デートで行きたい場所とか聞いときますよ」
「デ、デート……!!」
今度は空中を見て口をパクパクし出すマークスさん。まるで鯉のように…あ、恋なのか…。はあ、なんか面倒くさくなってきたから、ここは放っておいて次を進めるとしよう。
俺はお礼に加えて「これプレゼントにどうぞ」と書いた紙をカウンターに置くと、【孤高狼のターバン風ヘアバンド】を外して添える。そして押し付けられた『活性炭』の入った箱を持ってマジョリカさんが待つ薬屋へと向かう。
ピンポーン
『<クエスト:武器屋マークスの個人的な依頼>を受けました』
ヘアバンドは俺の中性的なアバターに合うんだからステラさんにも合うだろう。なんなら色変してくれてもいいし。
「スプラです」
俺は薬屋に入るとすぐに自分の名前を伝える。いつもの一連のやり取りが多少面倒になってきたからな。
「おお、スプラかい。早いじゃないか…て、なんだいその大きな箱は?」
「『活性炭』です」
ストレージから取り出した活性炭の箱をカウンターの上そっと置く。
「は? ちょっと、スプラ、『活性炭』って、どれだけ貰ってきたんだい。さすがにその箱は大きすぎるだろう」
「いえ、マークスさんから『いいから全部持っていけ』って言われまして、言葉通りいただきました」
マジョリカさんは箱の蓋を開けて中を覗くと、目が飛び出るんじゃないかと思うほど驚いている。いつもの威厳に満ちたオーラは消え失せ、そして、そのまま固まった。
❖❖❖❖レイスの部屋❖❖❖❖
別にいいんだけどよお。AI同士でも恋愛OKだからなここは。
ただなあ、MKに積まれてるチップって、あんなにチョロかったか?
小僧にいいようにコロコロされるレベルじゃねえはずなんだけどな。
どうなってんだ?
っていうか、小僧、こんなしょうもないことしてないでさっさといい絵を撮らてくれ。薬の調合とか絶対に一定数の需要はあるんだから。ちゃっちゃと転職しようぜ、な?
――――――――――――――
◇達成したこと◇
・【活性炭】を大量に確保
・受注 <クエスト:武器屋マークスの個人的な依頼>
◆ステータス◆
名前:スプラ
種族:小人族
職業:なし
属性:なし
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:1
耐久:1
敏捷:1
器用:1
知力:1
固有スキル:【マジ本気】
スキル:【正直】【薬の基本知識EX】【配達Lv4】【勤勉】【逃走NZ】【高潔】【依頼収集】【献身】【リサイクル武具】
装備:【ただのネックレス】
【夢追う男の挑戦的ローマサンダル】
所持金:約0万G
称号:【不断の開発者】【魁の息吹】
◎進行中常設クエスト:
<薬屋マジョリカの薬草採取依頼>
●進行中特殊クエスト
<特殊職業クエスト:マジョリカの弟子>
<シークレットクエスト:万事屋の悩み事>
〇進行中クエスト:
<武器屋マークスの個人的な依頼>




