第279話 卵と酒と目ん玉と
カタカタ
……
カタカタ
……
オリハルコンを出すと動いて仕舞うと止まる。
でもいっこうに卵から出て来る気配はない。
「うーん、おかしいわね。確かに反応しているのに」
ウソノさんが不思議そうに首を捻る。
話の流れでオリハルコンを取り出した時、なんと卵が反応を示した。「これは!?」と思い、オリハルコンを卵の横に置く。すると少しカタカタの揺れが大きくなる。
で、孵化するのかと期待して見守っていたのだが、カタカタするだけでそれ以上はなにも起きない。
試しにオリハルコンを引っ込めるとカタカタも止み、再度取り出すと再びカタカタが始まる。
明らかに反応しているのに生まれようとしない。なんなんだ、いったい。
「スプラ君、もしかしてこの卵に何かした?」
「え?」
……えっと、“何かしたか”と聞かれれば、“おもいっきりした”としか言えない。
①極凰を逃がすために卵が好物の絶仙蜘蛛に見せびらかして気を引いた。
②ワーバットを救出するために絶仙蜘蛛に見せびらかした挙句に無骨石板で目玉焼きにすると言って絶仙蜘蛛を慌てさせた。
③逃げる始祖仙蜘蛛を絆結で仕留めようと、人間ロケット弾の弾頭として始祖仙蜘蛛の気を引いた。
「……ちょっとだけ、怖がらせたかも?」
「そっかあ、うーん、だとすると中の子に性質変異が起きたかもね」
「性質変異?」
「そう、卵型は卵状態の時に受けた外部からの影響で性格が変わったり、時には属性や性質までが変わるという可能性が示唆されてるの。ただ、なにぶん実例が少なすぎて確証はないんだけど」
「え、ってことは…もしかして怖がりな性格になっちゃったり?」
「ま、そういう事もあるかもって事ね。記録には“誰にも心を開かない従魔”になっちゃった例もあるみたい。でも記録にあるのはどれも極端なことをした結果だから、スプラ君には参考にはならないかも?」
いえ、たぶんドンピシャで参考になってます。
誰にも心を開かない従魔……コミュ障の主人に、超人見知りの従魔か。
……地獄だな。
「……どうしたらいいんですかね?」
「まあ、好みがわかっただけでも超奇跡よ、ほんとに。だからあとはこの子が出て来たきたいと思った時に出て来るって感じかな?」
「そうですか……」
「まあ、そうガッカリしないで。はい、これ5600万G」
「へ? なんですか、これ?」
「卵型の好物が分かったクエスト報酬よ。好みが超希少金属だったことで+1000万G になってるわ」
マジか。ってことはさっきのと合わせて8700万G、手持ちを合わせたら10200万G……余裕で火酒2個買えちゃんじゃんかよ。
「ん? どうしたの? これじゃ少なかった?」
「え、いえ、めちゃくちゃありがたいです」
「そう、スプラ君が喜んでくれたのなら良かったわ」
…
…
「スプラっち、すごいのね、君」
「え、なにがです?」
酒場への移動中にゴマッキが顔を覗き込んでくる。
「8700万Gよ、一瞬で。なのにぜんぜん驚いてないし」
「いや、驚いてますよ」
でも、ま、驚いてはいるが、確かに昨日みたいな驚愕まではしていない。
「ふうん、で、それを全部お酒に変えちゃうの? なんかその辺の家でも一軒買えそうなんだけど」
「そうですかねえ。今税金バカ高いですし」
俺が卒業する前だったらな。『銀の斧』の拠点だった工房なら余裕で買えてる。
「ねえ、スプラっち、さっきの話だけどさ、あの酒飲みってドワーフの事だよね?」
「え、はい、そうですけど?」
「じゃあ、明日もスプラっちのログインと一緒にわたしもログインしてもいいかな?」
「ええ、もちろん大丈夫ですけど。ってか、ゴマッキさん社会人ですよね? 明日水曜日ですけどお仕事は休みなんですか?」
「え、あ、仕事? あ、ええっと、まあ、これが仕事みたいなもんだから」
「これが仕事って…え、ゲーマーだったんですか?」
「え、まあ、そんな感じかな。だからなるべくたくさんプレイしたくって」
へえ、そっか。ゲーマーって人初めて会ったな。ふうん、こんな普通の人っぽいのにゲーマーかあ。いいなゲームして食っていけるなんて。……あ、待てよ、そんなら俺だってできるんじゃね? 療養中のFGSログイン時間凄いことになってるし。
「ゴマッキさん、ゲーマーってどれくらい稼げるんですか?」
「え、どれくらい稼げるか? え、あ、えっと、そうね……あ、スプラっち、アレじゃない? 酒場の看板」
なんかゴマッキと話してたらあっという間に到着してしまった。やっぱ、パーティーっていいよな。ってか、俺を緊張させないってゴマッキのコミュ力すげえな。
酒場のスイングドア、昨日は屈辱を味わったが、今日はさっとゴマッキが開けてくれて俺を通してくれた。こういうとこ社会人だよな。しかもこのナチュラルな動き、おそらく中堅だろう。こりゃゴマッキじゃなくてゴマッキ《《さん》》だな。
「いらっしゃいませ」
店内に足を踏み入れてまずやったことは客の確認だ。見渡してみたが、昨日の怖そうな白黒ピエロは居なかった。取り巻きの族もいない。ってことで100%リラックスモードでカウンターに向かう。
「おや、あなたは昨日の。いやはや、昨日はすみませんでした、あのような金額の酒を買わせてしまって…」
店主が軽く頭を下げる。昨日よりもだいぶ親し気な様子だ。
「いえ、お酒が南の行商人からしか入らないことも、税金がバカ高いことも知ってますんで」
「いえいえ、それでもです。酒場は本来、住人や異人のお客様が気軽に酒を酌み交わす場。このような悪趣味な店ではないのです。わたしとしても原価ギリギリでお出ししたいのですが、こと酒の価格に関してはニカブ領主の意向で下げられないのです」
そっか、やっぱ元凶はニカブか。あのパッツンめ、今度会ったら絶対にあのジャケットのボタン飛ばさせたるからな。
「はい、大丈夫ですよ。悪いのはあのニカブとエア・ブランコ、それからカイザル家ですから」
「ははは、お客様は勇気がおありだ。ですが、関係者の前では口にせぬことです。御身のためにも」
なんかこの店主さんいい人だな。
「はい、ありがとうございます。じゃあ、今日は火酒2本…あ、やっぱり火酒とワイスキーとワッカください」
「えっと、お客さま、昨日に続き本日も……あまりご無理をなさらぬように…」
今度は俺の懐具合まで心配してくれるのか。
「ありがとうございます。でも大丈夫です。必要な時に使わなかったらお金の意味なんてないですから」
「……さようでございますか。では、こちらが火酒とワイスキー、ワッカで9100万Gでございます」
お金を支払いお酒を受け取る。
店を出る時もゴマッキさんが流れるような自然さでスイングドアを開けてくれる。あまりに当たり前な雰囲気でやってくれるから「ありがとう」も言いそびれてしまった。
「なんか金銭感覚狂うわあ」
ゴマッキさんが陽が傾いてきたオレンジ色の空に向かって背伸びをする。
「これ本当にあげちゃうの、スプラっち」
「はい、そのために買ったので」
「9100万Gよ。3桁違うのよ、3桁」
まあ、そうだよな。前までの価格帯だったらそれくらいが相場だろう。
「水入れて嵩増ししたらどう?」
おお、俺と同じこと考えてる。でも、そうだよな。あの二人、火酒も水みたいに飲んでたもんな。だったら薄めるっていうのもアリっちゃアリか。
……んじゃ、久しぶりに行ってみるか。いるかな、極凰。
「へえ、ここがスプラっちの畑かあ」
「はい、もう皆さん帰っちゃいましたけど、昼間は住人の方々が作業してくれてるんですよ」
「結構広いのね。うわ、なんか凄い野菜がいっぱいなんだけど? え、なにこの大きさ。それに艶が…なんか光の反射具合がヤバいわよ」
「はい、肥料とか住人の方のスキルとかで品質がいいんですよね」
「え、ちょ、これログハウスじゃない? なんで畑にログハウス?」
「あ、なんか、畑と一緒に貰ったんですよ。作った農具と引き換えに」
「作った農具? 引き換え? え?」
ゴマッキさんを連れて農屋に入る。
「あ、この扉で拠点を移動できるんですよ」
「拠点を移動? え、ここ以外にも拠点があるの?」
「ええ。第二の街の瓦礫の中にひとつあるのと、もうひとつ、今から行くところはすごく幻想的できれいな場所ですよ。フィールドの一部なんですけど」
「え、幻想的? フィールド? 何それ。え、ちょっと待って。あ、確か、掲示板に書いてあったかも。過去に一人だけプライベートフィールドを貰ったプレイヤーがいるって。え、もしかしてそれがスプラっち?」
「まあ、行ってみたらわかりますよ。地上の楽園とかでよく見るような雰囲気のある場所です」
「えええ、本当!?」
「あ、でも登録しないと入れないんで…ちょっと待ってくださいね」
登録可能人数が10人。ミーナとワーバットに加えてゴマッキさんを登録する。
「じゃあ、開けますよ」
「え、え、本当にプライベートフィールドなの?」
すごく嬉しそうなゴマッキさんを扉の前に立たせて極凰洞への扉を開く。さあ、ここが極凰洞ですよー。
「……へ? ぎゃあああああああーーーー!!!!」
後ろに吹っ飛んで腰を抜かすゴマッキさん。
その声に俺も死ぬほどビビったがなんとか踏みとどまる。そして半開きになっている移動扉を恐る恐る開けてみると……どデカい極凰の目がこっちを覗いていた。
うん、ちょっとだけ予想してた俺でもビビったわ。極凰、近すぎるって!
『どれだけ待たせるのだ、戦友よ』
❖❖❖レイスの部屋❖❖❖
「EG004の反応が変ですね」
「出てこねえな。なにやってんだ?」
「どうやら性質が変化しているようです。警戒度が凄まじく高くなってますね」
「え、ってことは? 出てこない?」
「はい、この感じだとオリハルコンがあっても無理っすね」
「そ、そうか……は、はっは。だろうな」
「先輩の第6感は大丈夫っすか?」
「…うん、大丈夫だ。なーんにも反応してねえ」
「じゃ、これで安心…」
「だー、それ以上言うんじゃねえ。フラグが立っちまう」
「先輩、そのフラグってのも変っすよね。なんで関係のないところで言葉に出しただけで影響が出るんすか?」
「そ、それは……け、経験則だ」
「経験則?……あ、スプラさん大金突っ込んだっすね。酒なんて飲むだけでなくなっちゃうのに。バフもないのによく買いますよね」
「……」
「あれ? 先輩? どうしました?」
「いや、なんでこんなに店主の信頼度高いのかなって」
「信頼度? あ、ホントっすね。ちょっと調べてみます……あ、信頼度上昇ログによるとスプラさんがお酒に使ったお金の量が原因みたいっす。あの金額だと来店回数が4桁に届いててもおかしくない金額なので」
「……そうか、小僧、お前、ついに金で信頼度買うようになったか」
―――――――――――――
◇達成したこと◇
・卵関連で計8700万G入手。
・火酒とワイスキーとワッカを9100万Gで購入。
・なぜか店主に優しくされる。
・酒を薄めることに決める。
・ゴマッキを極凰洞に招待する。
・ゴマッキ腰を抜かす。
・極凰と再会。
◆ステータス◆
名前:スプラ
種族:小人族
星獣:アリオン[★☆☆☆☆]
肩書:マジョリカの好敵手
職業:多能工
属性:なし
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:1
耐久:1(+33)
敏捷:1(+53)
器用:1
知力:1
≪武器≫ (決断の短刃─絆結─)※筋力不足
≪鎧≫ 仙蜘蛛の真道化服【耐久+33、耐性(斬撃・刺突・熱・冷気・粘着)】
≪足≫ 飛蛇の真道化靴【敏捷+53】
◆固有スキル:【マジ本気】
◆スキル:
特殊──【逃走NZ】【危険察知NZ】
保有──【品格】【献身】【騎奏術】【依頼収集】【念和】【土いじり】【熟達の妙技】【眼通力】【薬草の英知】【劇毒取扱】【特級毒物知識】【独り舞台】【鉱物学】
成長──【秘薬Lv10】【石工Lv10】【配達Lv10】【一夜城Lv10】【投擲Lv10】【狙撃Lv10】【料理Lv9】【融合鍛冶Lv6】【特殊建築Lv4】【散弾狙撃Lv4】【ルーティンワークLv3】【極意の採取Lv2】【上級採掘Lv1】【瘴薬Lv1】【カッティングv1】【レザークラフトLv1】【裁縫Lv1】【描画Lv1】
耐性──【苦痛耐性Lv3】
◆所持金:約1100万G
◆従魔:ネギ坊[癒楽草]
◆称号:【不断の開発者】【魁の息吹】【新緑の初友】【自然保護の魁】【農楽の祖】【肩で風を切る】【肩で疾風を巻き起こす】【秘密の仕事人】【秘密の解決者】【秘密の革新者】【不思議ハンター】【不思議開拓者】【巨魁一番槍】【開拓者】【文質彬彬】【器用貧乏】
■【常設クエスト】
<定期納品:一角亭・蜥蜴の尻尾亭・腹ペコ熊の満腹亭……>
■【シークレットクエスト】
<太皇太后の想い> 第二の街復興と独立国家建設
・行政府 0/1
・鍛冶工房 3/2
・薬房 1/2
・住居 0/10
・城壁 北側に10メートル
◆星獣◆
名前:アリオン
種族:星獣[★☆☆☆☆]
契約:小人族スプラ
Lv:20
HP:310
MP:445
筋力:48
耐久:46【+42】
敏捷:120
器用:47
知力:69
装備:
≪鎧≫ 赤猛牛革の馬鎧【耐久+30、耐性(冷気・熱)】
≪アクセサリー≫ 赤猛牛革の鞍【耐久+12】
≪アクセサリー≫ 赤猛牛革の鐙【騎乗者投擲系スキルの精度・威力上昇(小)】
◆固有スキル:【白馬誓魂】
◆スキル:【疾走Lv8】【足蹴Lv1】【噛み付きLv2】【水上疾走Lv1】【かばうLv10】【躍動】【跳躍Lv2】【二段跳び】【守護Lv10】
◆従魔◆
名前:ネギ坊
種族:瘉楽草[★★★★☆]
属性:植物
契約:スプラ(小人族)
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:3
耐久:3
敏捷:0
器用:6
知力:10
装備:
≪葉≫【毒毒毒草】
≪葉≫【爆炎草】
≪葉≫【紫艶草】
◆固有スキル:【超再生】【分蘖】
◆スキル:【劇物取扱】【爆発耐性】【寒気耐性】
◆分蘖体:ネギ丸【月影霊草】ネギ玉【氷華草】ネギコロ【天雷草】
◆生産セット◆
・大地の調合セット
◆特殊所持品◆
・卵(警戒中)
・魔剣の未完成図面
◆所有物件◆
・農屋&畑(中×1、小×1)
・癒楽房
・極凰洞
◆契約住民◆
・ミクリ【栽培促進】
・ゲンジ【高速播種】
・チッチャーネ【味見】【???】
・デッカイ【益虫使い3】&オッキイ【益獣遣い3】
◆お手伝い◆
・ガガン【???】
・ダガン【???】




