第278話 気難しい卵
カタカタ
「……」
ウソノさんの目力に卵が焦っている。 …かのようにカタカタと微動している。
俺があれだけいびり散らかした時でも何の反応もなかったのに、ウソノさんがガン見したら動き出した。どういうことだ? で、目の前の画面では『卵』の文字が点滅中。
「……ふう、どうやら本物のようね。これはまいったわ」
ウソノさんがキマリ顔のガン見をやめていつもの切れ長で涼やかな目に戻る。額の汗を軽く拭うウソノさん。すると卵の微動も止んだ。
「あのウソノさん、ランク7クエストが点滅してるんですけど…」
「ええ、それはランク7に『卵の発見情報』『卵の取得情報』っていうのがあるからよ『卵』の項目に入ってるわ」
「え、それじゃあ…」
「そう、ランク7のクエストが二つクリアされたって事ね。ちょっと失礼するわね」
ウソノさんが人差し指をクルンと回すと、俺の前の画面がウソノさんの元へ移動する。そして画面を操作するウソノさん。
「卵の発見と取得で……3100万Gね。ランク7でも難易度が低い方から二つだから、昨日の合計よりは少ないわね。これでお酒買えるかしら?」
3100万G……十分です。手持ちと合わせればこれで酒が買える。ってか、今はそれより卵だ。
「はい、お酒はこれで大丈夫だと思います。あと、ウソノさん、この卵ってこの後どうしたらいいんですか? 卵って孵るんですか?」
「もちろん孵るわよ。ただ卵型従魔はちょっと厄介なのよ」
「厄介?」
「ええ、気難しいって言うか、自分が出て来たいと思うまで出てこないの」
自分が出てきたいと思うまで? …なんか嫌な予感がする。
「……もし、気を損ねたらどうなります?」
「ずっと殻の中ね。これまでも4割くらいの子たちが最後まで殻の中に閉じこもって制限時間を迎えたらしいわ。制限時間内に孵化しないと消えて世界に帰っていくの」
「消えて……4割ってほぼ半分じゃないですか」
「そうね、それが卵型なのよ。まあ卵型は母数が少ないからそれが可能性に直結するかわわからないんだけどね。たまたまの数字かもしれないし」
「なにか孵化させるコツとかないんですか? どうしたら機嫌を取れるんですか?」
「そう、そこなのよ。実は卵型には食べ物に好みがあるの。好みの食べ物を傍に置いてあげると出て来ると言われてるわ。でもそれを探すのが本当に大変。この世界にあるもの全てが対象でその中のほんの一部だけなの。これまでの話では1、2種類だと言われてるわ」
「世界中の食べ物の中で1、2種類……世界ってこのエリアってことです?」
「いいえ、世界中よ」
「はっ? 世界中? 王都とか?」
「王都もそうだけど、この大陸すべてってこと。いえ、もしかしたら海を渡った先やそれとも…」
「マジっすか!? 全世界の食べ物を試してみないとわからないってこと?」
「あ、食べ物は“人の”っていう意味じゃないわよ。卵型従魔が食べるものは水も石も鉱石も動物も植物も全部範囲に入るの。ただ加工品は入らないのよ。調理されたものとかポーションとか武器とかは食べないの」
えっと、つまり、全世界の素材からこの卵の好みを探せと? ってか、解放されてないエリアにどうやって行けと? そんなもん、タイムオーバーの未来しか見えんのだが?
「スプラっち、こういう広範囲の調査は身近なところから一歩ずつ進めるのよ。まず、手持ちにあるものから試してみたら?」
頭を抱える俺にゴマッキが囁いてくる。なんだ、この妙な説得力は。
「手持ちかあ…」
ストレージを探って餌になりそうなものを探す。
「因みに好みかどうかはすぐに分かるわ。傍に置いたらすぐに反応するの。卵型はみんな食いしん坊だから」
俺がストレージを探っていたのを知ったのか、ウソノさんが教えてくれる。
「えっと、じゃあ…」
仙湖の水。
……
駄目か。次、森鹿肉。
……
駄目。紫水晶。
……
癒楽草。
……
仙蜘蛛の糸。
……
だーーーーっ、きりが無えーー!!
「……ウソノさん、これ、無理では?」
「……そう、厄介なのよ」
そう言うウソノさんの彷徨う視線が、このミッションが無理ゲーであると物語っている。
「ま、とりあえずお酒買ってきます…」
「そ、そう? でも、スプラ君、あんなクソドワ……大酒飲みの為にスプラ君が苦労する必要なんかないわよ」
「あ、ははは、でも、今ちょっとお世話になってる方々なんで」
「方々…複数? スプラ君、言っとくけどその大酒飲みは一人より二人の方がよく飲むのよ。二人になるとそれぞれが2倍、三人で3倍、四人で4倍…」
「あははは、なんすか、その指数関数的な増え方……」
ウソノさんの目が笑っていない。
「もしかして、マジの話です?」
「ええ、この界隈では有名な話よ」
マジか……じゃあ全然足らねえなじゃん。どうする? 水で薄めるか? いや、バレるだろうな、ドワーフだし。
「本当、スプラ君をこんなに困らせるなんて……もう、スプラ君、今度そいつらにお酒渡す時は『超希少金属でも持ってきやがれ、コノヤロー』って言ってあげて。あいつ達、それくらいハッキリ言わないと分からないから。空気とか読めない奴らなのよ」
「ははは、じゃあ、もし次があったら……って、はは、実はもう前払いされちゃってるんですよ。こんなの貰っちゃってて。でも、いくら価値があるっても売れなきゃ意味なくて」
ストレージからオリハルコンを取り出してウソノさんに見せる。
カタカタ
「……ん?」
❖❖❖レイスの部屋❖❖❖
「先輩、EG004の反応止まりました」
「そうか、焦ったが今のはUNのスキルに反応しただけってことだな」
「はい、そのようです。それ以降は反応値0です」
「ふうう。そうか、そうだった。卵は餌の特定が一番厄介。だからエリアが8割解放された辺りから少しづつ発見が始まる予定だったんだ。それを小僧の奴、スキルのごり押しで見つけちまったからな。まあ、でも餌のヒントが出回るのも第八エリアからだ。ヒントなしで特定なんてできっこない」
「まだ第二エリアっすもんね。これは流石にスプラさんでも踏み抜ける確率はゼロっすよ。だってまだ世界自体が解放されてないんすから」
「ま、そうだよな。餌の所在は最低ランクでも第五エリアからだ。小僧が持ってるはずもないし、手に入れる可能性もない。つまり、あの卵は時間切れで消えるだけ」
「っすね、そんなうまくいくわけないっす。膨大なシステム計算でバランス保ってるんすから」
「ん? ちょっと待て。何かがおかしい」
「え、なんすか。今回は物理的に無理っすよ」
「いや、俺の第6感がヤバいと伝えて来る」
「は? 第6感って。AIがなに言ってやがるんすか」
「馬鹿野郎、第6感てのは現状と膨大な過去データを照らし合わせた時に出てくる一瞬の揺らぎのことだ。これをノイズとして扱うか、確かな違いとして扱うかで予測が180度変わってくるんだ。覚えとけ!」
「え、あ、そういうもんなんっすか?」
「おい、そういや、さっきから小僧、ドワーフのこと話してねえか?」
「話してますね。UNが極端な反応してますし。あ、スプラさん、なんか出しました……へ?」
「は?」
「オリハルコンだとおーーーーっ!!!!」
「なんで、そんなもの持ってんすか、スプラさん!」
「おいいいいーー、卵反応してんじゃねえかあーーーーー!!!!!」
「(いやあ、なんかこういうの久々でいいっすね。改めておかえりなさい、スプラさん)」
―――――――――――――
◇達成したこと◇
・卵の餌探しが無理ゲーだと知る。
・ウソノからドワーフの酒飲みの習性を聞かされる。
・オリハルコンをウソノに見せる。
・卵が反応する。
◆ステータス◆
名前:スプラ
種族:小人族
星獣:アリオン[★☆☆☆☆]
肩書:マジョリカの好敵手
職業:多能工
属性:なし
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:1
耐久:1(+33)
敏捷:1(+53)
器用:1
知力:1
≪武器≫ (決断の短刃─絆結─)※筋力不足
≪鎧≫ 仙蜘蛛の真道化服【耐久+33、耐性(斬撃・刺突・熱・冷気・粘着)】
≪足≫ 飛蛇の真道化靴【敏捷+53】
◆固有スキル:【マジ本気】
◆スキル:
特殊──【逃走NZ】【危険察知NZ】
保有──【品格】【献身】【騎奏術】【依頼収集】【念和】【土いじり】【熟達の妙技】【眼通力】【薬草の英知】【劇毒取扱】【特級毒物知識】【独り舞台】【鉱物学】
成長──【秘薬Lv10】【石工Lv10】【配達Lv10】【一夜城Lv10】【投擲Lv10】【狙撃Lv10】【料理Lv9】【融合鍛冶Lv6】【特殊建築Lv4】【散弾狙撃Lv4】【ルーティンワークLv3】【極意の採取Lv2】【上級採掘Lv1】【瘴薬Lv1】【カッティングv1】【レザークラフトLv1】【裁縫Lv1】【描画Lv1】
耐性──【苦痛耐性Lv3】
◆所持金:約1500万G
◆従魔:ネギ坊[癒楽草]
◆称号:【不断の開発者】【魁の息吹】【新緑の初友】【自然保護の魁】【農楽の祖】【肩で風を切る】【肩で疾風を巻き起こす】【秘密の仕事人】【秘密の解決者】【秘密の革新者】【不思議ハンター】【不思議開拓者】【巨魁一番槍】【開拓者】【文質彬彬】【器用貧乏】
■【常設クエスト】
<定期納品:一角亭・蜥蜴の尻尾亭・腹ペコ熊の満腹亭……>
■【シークレットクエスト】
<太皇太后の想い> 第二の街復興と独立国家建設
・行政府 0/1
・鍛冶工房 3/2
・薬房 1/2
・住居 0/10
・城壁 北側に10メートル
◆星獣◆
名前:アリオン
種族:星獣[★☆☆☆☆]
契約:小人族スプラ
Lv:20
HP:310
MP:445
筋力:48
耐久:46【+42】
敏捷:120
器用:47
知力:69
装備:
≪鎧≫ 赤猛牛革の馬鎧【耐久+30、耐性(冷気・熱)】
≪アクセサリー≫ 赤猛牛革の鞍【耐久+12】
≪アクセサリー≫ 赤猛牛革の鐙【騎乗者投擲系スキルの精度・威力上昇(小)】
◆固有スキル:【白馬誓魂】
◆スキル:【疾走Lv8】【足蹴Lv1】【噛み付きLv2】【水上疾走Lv1】【かばうLv10】【躍動】【跳躍Lv2】【二段跳び】【守護Lv10】
◆従魔◆
名前:ネギ坊
種族:瘉楽草[★★★★☆]
属性:植物
契約:スプラ(小人族)
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:3
耐久:3
敏捷:0
器用:6
知力:10
装備:
≪葉≫【毒毒毒草】
≪葉≫【爆炎草】
≪葉≫【紫艶草】
◆固有スキル:【超再生】【分蘖】
◆スキル:【劇物取扱】【爆発耐性】【寒気耐性】
◆分蘖体:ネギ丸【月影霊草】ネギ玉【氷華草】ネギコロ【天雷草】
◆生産セット◆
・大地の調合セット
◆特殊所持品◆
・卵(オリハルコンに反応中)
・魔剣の未完成図面
◆所有物件◆
・農屋&畑(中×1、小×1)
・癒楽房
・極凰洞
◆契約住民◆
・ミクリ【栽培促進】
・ゲンジ【高速播種】
・チッチャーネ【味見】【???】
・デッカイ【益虫使い3】&オッキイ【益獣遣い3】
◆お手伝い◆
・ガガン【???】
・ダガン【???】




