第274話 武器屋の異変
「……えっと、オリハルコン?」
「どうじゃ、このオリハルコンなら金になるじゃろ? 今の酒を買えるだけ買って欲しいんじゃが」
ダガンさんがオリハルコンを俺にズイッと近づけてくる。すでに俺の腹の真ん前に超希少金属が。いいのか、こんなものを酒代として受け取って……
「なんじゃ、これでは足りんのか。地上の酒はそんなに高いのか? じゃったら、そうじゃなアレも渡しておこう……」
「だーー、いえ、大丈夫。これで全然足りますから」
これ以上何かを出されたら俺もう無理。ここは受け取っておくしかないな。
「ダガンさん、これはお預かりします。どれだけ買えるかはわかりませんけど買えるだけ狩ってきますね」
腹の前のオリハルコンを受け取ってストレージに仕舞う。
「なあに、もしさっきのが買えんかったらどんな安酒でも構わんわい。地上の酒を試せるならそれでいい」
「そうじゃな、わしも他の酒が飲んでみたいの。スプラよ、先の酒が買えたとしても安酒も頼む」
「“買えたら”ですからね」
そう言って二人の元を後にして昨日に続いてラスプへと移動する。
「こんにちはー、マークスさーん」
「……」
オリハルコンを売るためにマークス工房を訪ねてみた。地上にあるかどうかも分からない金属をそこら辺の道具屋で売れるとは思えないからな。鉱物・武器関係で困った時はやっぱり刀匠マークサス・カンギスだろう。
「こんにちはー、マークスさーん」
「……」
あれ? いないのか? いや、いない時は店に入れないはずだが……おかしいな。
「マークスさーん……あ、ステラさんが!」
「……」
あっれえ? いつもならステラさんの名前出したらドタバタしながら出て来るのに。なんか変だ。
「ちょーっとお邪魔しますね…」
カウンターの奥へと入ってみる。うん、入れるな。じゃあ、工房覗いてみるか。
お留守の家に上がり込むのは気が引けるが、まあ、マークスさんなら大丈夫だろう。前にもよくあったしな。
足の脛まである暖簾をかき分けて中に入る。すると、作業台の上で見たことのあるゴリラがヘソ天でイビキをかいている。いや、セメントモリ、こんなところで何やってんだよ。
「セメントモリさーん、起きてもらえますかーー」
ゴリラの耳元で声を出して起こしてみる。あれ? 起きない。なんだこれ?
「おーい、セメントモリーー!!」
結構大きな声を出したのに全く起きる気配がない。あっれええ、今までプレイヤーが眠ったまま起きないとかなかったよな。
『ゆらら?』
「え、状態異常?」
ネギ坊から『起きないなら状態異常かも?』とのアドバイス。あ、そういうこと?
ストレージから【大地の調合セット】を取り出して、調合を始める。材料は…あるな。じゃあ【秘薬Lv10】っと。
【中級キュアポーション(熟睡)】
できたポーションを使用すると、ヘソ天のセメントモリに白アイコンが表示される。
「マジで状態異常かよ。街中、しかもNPC工房の中でって」
セメントモリを対象に選ぶと、その全身を水色の癒しのエフェクトが包み込んでいく。
「ん? あれ? 僕…え? スプラさん? え、また夢見てる? 夢の中で夢?」
目を開けたセメントモリが俺を見て……再び目を閉じる。って、おい、こら起きろ。
「こら、寝んな、セメントモリ」
「ん? あれ、また夢?」
「夢じゃないから。帰ってきたのFGSに。3日前」
「帰ってきた……えっ、じゃあ本当にスプラさん?」
「本当だって、ほら、これ飲んんでしっかりしろ」
「ああ、癒楽の極凰発砲水!」
セメントモリが俺から奪うようにしてコップを取るとそのまま一気に呷る。
「ぷっはあー、本物だ。ってことは、スプラさん、おかえりなさい」
「はいはい、ただいま」
セメントモリにとって俺は極凰発砲水をくれる人って認識だということが今はっきりと理解できた。前々からそうじゃないかとは思ってたんだけど…まさか、マジでそうだとは……よし、次からは量を減らすか。
「で、セメントモリ、マークスさんいないの? で、なんで状態異常になってた?」
「あ、えっとですね。これには深い理由が……」
セメントモリがあまり深そうに見えないゴリラ顔でいきさつを話してくれた。
…
…
「マジか……マークさんが融合事故に…」
「そうなんです。ニカブが衛兵連れてやってきて。『これで新しい武器を作れって』。【森林虎の爪】って素材を持ってきたんです。それで事故が起きて…」
「で、今は教会で療養中と」
「はい…」
くそ、あんのニカブ野郎、刀匠カンギスになんてことさせやがったんだ。
「で、セメントモリが寝てたのは、変な客が来てから眠くなったと」
「はい、そうなんです。フラフラって店に入ってきたと思ったらジッと僕を見つめてきて…そしたら眠くなっちゃって」
重体のマークスさんに状態異常を与えてくる変な客か。その客も気にはなるが、圧倒的にここはマークスさん一択だな。
「じゃ、俺は教会に行ってくるから」
「はい、わかりました」
ニカブの腹をパンチングボールにする想像をしながらシャドーボクシングで教会へと向かう。途中エア・ブランコ商会の連中も見かけたが、あまりに腹が立ってたからメンチ切ってやったらそそくさと道を開けてくれた。
普段は絶対にしないんだが…人ってキレるとなんでもできちゃうんだな。そりゃ事件とかが起きる訳だ。
「ステラさーん」
「……はーい」
教会でステラさんを呼ぶ。
「まあ、スプラさん、戻ってこられたんですね!」
いつも清楚でおしとやかなステラさんが弾けるような笑顔を向けてくる。だが、今はその笑顔の理由を知っているだけに素直に喜べない。
「マークスさんの事聞きました。今、いいですか?」
「ええ、もちろん、こちらです」
ステラさんに案内されて通路を進む。突き当りの礼拝堂の扉の一つ手前。祝福を求めるかのように、一番礼拝堂に近いその部屋にマークスさんは横になっていた。全身に傷跡があり、傷跡の周辺は紫色に変色している。眉毛も白く変色してしまっている。
「マークスさん…」
「ずっとこんな感じで。うなされた時にはいつもスプラさんのお名前が出て来るんです」
そっか。くっそ、俺があの時卒業をやめてればこんなことには…
『ゆらゆら』
「あ、そ、そうだよな。ありがとうネギ坊」
ネギ坊から『早く治療してあげよ』って。そうだよな、怒っても何も変わらない。むしろ悪くなることが多いもんな。
俺はストレージから【全治ポーション】を取り出す。そしてマークスさんを対象にして使用する。
綺麗なエフェクトがマークスさんの全身を優しく包み込んでいく。
「まあ、少しだけ傷が癒えたように思います。スプラさん、ありがとうございます」
「……」
あれ? おかしいな。全治ポーションなら傷が全部治るはずなんだけど。
『ゆらゆら~』
「え、そんなに?」
ネギ坊から『傷が深くて多すぎるね~』
『ゆらゆらゆ~ら~』
それから『時間が経ってるから傷に複合呪毒が定着しているかも~』と。そうなのか。融合事故の傷は時間経過でひどくなるのか。
『ゆらゆら!』
「え、作る?」
ネギ坊が『よし、作るか!』とのこと。作るったって、同じことじゃないのか?
『ゆら!』
「え、そうかもだけど……ま、ここはやるしかないよな」
ネギ坊から『今ならもっと高みを目指せる!』と。うん、やるしかない。
【大地の調合セット】を取り出し、癒楽草を処理していく。すると、体が物凄くスムーズに動く。煮だす、擦る、混ぜる、擦る…それぞれの作業が点ではなく線として優雅に描かれていく。すべてが最終形へと流れ込む水の流れのように。
すごい、手作業で作るからこそわかる。これが統合され最適化されたスキルの力。
『ゆらゆら♪』
「できたな」
【完治ポーション】
回復ポーションの最終形態。
神聖さすら感じさせる容器に水色の液体がキラキラと清らかな光を放っている。そして周囲には虹色のオーラまでが漂っている。
──よし、これなら…
…
…
「……ん、んん」
「あ、マークさん!?」
「ん…んん……ん?」
「おお、目が覚めた!? ステラさーん、マークスさんの目が覚めました!」
「本当ですか? マーク…ス…さん……」
呼んでからものの数秒で駆け込んできたステラさん、目覚めたマークスさんを見てその場で膝をつく。そして俯くと床にポタポタと水滴が……ステラさん…。
「あ、わたし少し礼拝堂に行ってますね」
そう言ってステラさんは部屋を出て行った。礼拝堂か…感謝の祈りを捧げにいったんだろうな。この礼拝堂横の部屋、毎日毎日祈り続けてたんだろう。
──よかったですね、ステラさん。
「おう、スプラじゃねえか。なんだよ帰ってきたのか」
「『おう』じゃないですよ。もう、ステラさんに死ぬほど心配かけて」
「あ、いや、ははは」
と言いつつ、マークスさんにとってもステラさんに心配をかけ苦しませることが何よりも辛かったと思う。
「じゃあ、はい、これ快気祝いに一杯どうぞ」
「お、なんだこれ? うわっ、めちゃくちゃいい香りがするぞ」
「まあ飲んでください」
渡した極楽発砲水を一口飲んだマークスさんが残りを一気に飲み干す。
「…っぷはああ、美味い! これはすごいな。体に力が漲るようだ」
マークさんの顔色が以前と遜色ないほどに回復している。これならもう大丈夫だな。気力も十分なようだ。
「マークスさん、病み上がりで申し訳ないんですけど、ちょっと買い取ってほしい金属があるんですけど」
「おお、いいぞ。税金高くなって大変だったんだ。あの白豚に税金やるのは癪だが、仕事初めにその金属で何か作るとするわ。で、どんなだ? スプラがあえて持ってくるってことはそういう感じなんだろ? ったく、早速に鍛冶師の誇りを擽りやがって…」
流石はマークスさん、全部お見通しか。もう目が職人のそれだもんな。いつもの茶化した雰囲気は消えちゃってる。
「それじゃ、お言葉に甘えて……これなんですけど」
俺はストレージから、例の“金属”を取り出す。
「オリハルコンって言うらしいんですけど、今ちょっとお金が必要で……」
オリハルコンを見て取ったマークスさんの目が見開く。その目がみるみる血走っていく。
あ、目がひっくり返った。
「マークさん? ちょっと?」
白目を剥いたマークスさん、今度は口から泡を吹き始めた。うそ、これ…マズいか?
「お待たせしました、マークスさん、良くなって本当に……きゃーーーーーーー!!!」
右に白目のマークさん、左に腰を抜かしたステラさん。
この後、いい笑顔のステラさんからキツ~いお説教を受けた俺だった。
―――――――――――――
◇達成したこと◇
・武器屋で寝ていたセメントモリを起こす
・セメントモリから事情を聴く
・教会でマークスさんを見舞う
・制作【中級キュアポーション(熟睡)】【完治ポーション】
・マークスさんが完治する
・オリハルコンを見せたマークスさんが落ちる
・ステラさんからお説教を受ける
◆ステータス◆
名前:スプラ
種族:小人族
星獣:アリオン[★☆☆☆☆]
肩書:マジョリカの好敵手
職業:多能工
属性:なし
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:1
耐久:1(+33)
敏捷:1(+53)
器用:1
知力:1
≪武器≫ (決断の短刃─絆結─)※筋力不足
≪鎧≫ 仙蜘蛛の真道化服【耐久+33、耐性(斬撃・刺突・熱・冷気・粘着)】
≪足≫ 飛蛇の真道化靴【敏捷+53】
◆固有スキル:【マジ本気】
◆スキル:
特殊──【逃走NZ】【危険察知NZ】
保有──【品格】【献身】【騎奏術】【依頼収集】【念和】【土いじり】【熟達の妙技】【眼通力】【薬草の英知】【劇毒取扱】【特級毒物知識】【独り舞台】【鉱物学】
成長──【秘薬Lv10】【石工Lv10】【配達Lv10】【一夜城Lv10】【投擲Lv10】【狙撃Lv10】【料理Lv9】【融合鍛冶Lv6】【特殊建築Lv4】【散弾狙撃Lv4】【ルーティンワークLv3】【極意の採取Lv2】【上級採掘Lv1】【瘴薬Lv1】【カッティングv1】【レザークラフトLv1】【裁縫Lv1】【描画Lv1】
耐性──【苦痛耐性Lv3】
◆所持金:約1500万G
◆従魔:ネギ坊[癒楽草]
◆称号:【不断の開発者】【魁の息吹】【新緑の初友】【自然保護の魁】【農楽の祖】【肩で風を切る】【肩で疾風を巻き起こす】【秘密の仕事人】【秘密の解決者】【秘密の革新者】【不思議ハンター】【不思議開拓者】【巨魁一番槍】【開拓者】【文質彬彬】【器用貧乏】
■【常設クエスト】
<定期納品:一角亭・蜥蜴の尻尾亭・腹ペコ熊の満腹亭……>
■【シークレットクエスト】
<太皇太后の想い> 第二の街復興と独立国家建設
・行政府 0/1
・鍛冶工房 3/2
・薬房 1/2
・住居 0/10
・城壁 北側に10メートル
◆星獣◆
名前:アリオン
種族:星獣[★☆☆☆☆]
契約:小人族スプラ
Lv:20
HP:310
MP:445
筋力:48
耐久:46【+42】
敏捷:120
器用:47
知力:69
装備:
≪鎧≫ 赤猛牛革の馬鎧【耐久+30、耐性(冷気・熱)】
≪アクセサリー≫ 赤猛牛革の鞍【耐久+12】
≪アクセサリー≫ 赤猛牛革の鐙【騎乗者投擲系スキルの精度・威力上昇(小)】
◆固有スキル:【白馬誓魂】
◆スキル:【疾走Lv8】【足蹴Lv1】【噛み付きLv2】【水上疾走Lv1】【かばうLv10】【躍動】【跳躍Lv2】【二段跳び】【守護Lv10】
◆従魔◆
名前:ネギ坊
種族:瘉楽草[★★★★☆]
属性:植物
契約:スプラ(小人族)
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:3
耐久:3
敏捷:0
器用:6
知力:10
装備:
≪葉≫【毒毒毒草】
≪葉≫【爆炎草】
≪葉≫【紫艶草】
◆固有スキル:【超再生】【分蘖】
◆スキル:【劇物取扱】【爆発耐性】【寒気耐性】
◆分蘖体:ネギ丸【月影霊草】ネギ玉【氷華草】ネギコロ【天雷草】
◆生産セット◆
・大地の調合セット
◆特殊所持品◆
・卵
・魔剣の未完成図面
◆所有物件◆
・農屋&畑(中×1、小×1)
・癒楽房
・極凰洞
◆契約住民◆
・ミクリ【栽培促進】
・ゲンジ【高速播種】
・チッチャーネ【味見】【???】
・デッカイ【益虫使い3】&オッキイ【益獣遣い3】
◆お手伝い◆
・ガガン【???】
・ダガン【???】




