第270話 ❖AI達の舞台裏②❖
『じゃあ、今日も始めて行こう。ログイン情報はもういいよ。なにか変わった事があったら報告をお願い。アマデウス、なにかあるかい?』
「はい、マスター。本日は報告義務に入るFGS世界全体に影響をもたらす可能性が20%を超えるような事象は確認できませんでした。が、1~5%の間でいくつか事象がありました」
『へえ、最近じゃ1%を超えるだけでもすごい事だったけど、5%だったらかなり珍しい事だね』
「はい、昨日の、独立国家建設のシークレットクエストの件36%と地底界への通路開通の件89%に次ぐ出来事となります。1件目は1.4%です。農業ギルドでの契約住人のスキル進化が2件立て続けに起きました。進化先のスキルが農業において非常に高度な影響をもたらすことが予測されますが、ラスプにおける畑買い占めの現状が可能性を押し下げています」
『そうか、現状ラスプの畑はほぼ独占状態だからね。あれでずいぶん可能性の芽が摘まれているだろうね。他にもあるかな?』
「2件目は2.2%、初めて従魔ギルドシステムの利用がありました。一気にクエストが消化されたため、当該プレイヤーのギルドランクが一気に7まで上昇し従魔ギルドのシステム解放条件を満たしています。仮にシステム解放が行われますと影響率は63%へと上昇します」
『おおお、従魔ギルドが? そっかそっか、ずっと放ったらかしだったからねえ。開発陣も嘆いてたんだよ。従魔ギルドだけで予算の3%、ギルドじゃ一番リソース食ってるのにって』
「今回の件は従魔ギルトの解放が早すぎただけで、本来でしたら今頃からが従魔ギルド解放の可能性が上昇していく時期となります。ただ、解放可能となった従魔ギルドシステムはあと2か月先の予定だったものですので、現状での解放は時期尚早かと」
『ははは、従魔ギルドは急に忙しくなったね。これがどうなっていくか…ま、ゆったりと見守っていこうか』
「はい、承知しました。次の事象ですが、エルフの里の防壁である古代森林にたどり着いたプレイヤーが現れております。ただ、その過程は偶然性が99.9998%となっていて再現性はほぼありません」
『ほう、偶然にしてもあのギミックを抜けたのはすごいことだ。いや、むしろ正規ルート以外でたどり着く方がすごい』
「はい、管理AI内でもあまりの可能性の低さにネタルートとして位置付けられていたルートでした」
『ははは、ネタルートか。じゃ、そっちの方がすごいじゃん』
「ですが、入り口のボスモンスターによって2.3秒で死に戻っていますので…」
『いやいや、たどり着いたということはその先に進む可能性も0じゃなかったってことだ。いいじゃないか、それこそがFGSの可能性。今回は死に戻ってしまったが、どんなファクターが影響を及ぼすかわからない。複数ファクターでシナジーが起きればコンマ8桁くらいの可能性くらい突破するだろう。それがのこのFGSの可能性なんだから』
「はい、マスター。FGSの可能性はそのコンマ8桁から始まっています。その可能性を引き当てた開発陣から始まっていますので」
『ほんとあれは奇跡だった。その奇跡の結晶から作られたのが君たち管理AIだからね。じゃ、他にもあるかな? コリンズはどう?』
「はい、マスター。王都でわずかな揺らぎが観測されています」
『揺らぎ? コリンズがそんな曖昧な表現使うなんて珍しいね。解析不能な感じかな?』
「はい、直接影響を与えている事象は見つかっていません。すべてコンマ5桁の影響率ですから。ただ、それらがおかしな共鳴を起こしているとあえて表現します」
『おかしな共鳴ね……ふふふ、いいじゃないか。コリンズありがとう、その表現、わたしが聞きたかった表現の一つだ。はっはっは、面白くなってきそうだ。じゃあ他にないようなら今回はこれで』
「「はい、マスター」」
アマデウスとコリンズが優雅に部屋を去って行く。
『レイスくーん……はまだダメか。本当に忙しいのかな。稼働率…13%? え? 低くない? もしかして本当にサボってるだけだったりする? ……うーん、こりゃ今度二人で面談かな』
❖❖❖レイスの部屋❖❖❖
「あーあ、なんでこんなの担当にしちまったかなあ、俺……あれ? ところでトレントってこんなに数少なかったっけ? もっとウジャウジャいたような…」
「気のせいっすよ、先輩。トレントなんてそんな大量討伐なんてできるモンスターじゃないっす。はい、差し入れのジュースっす」
「お、サンキュ……いや、やっぱ変だな。ログ見とくか……いや、いいか、めんどいしな。って、うっま、なんだこれ」
「昨日から管理AIに出回ってるジュースみたいっす」
「みたいっすって……お前、これまさかFGSからデータ抜き取って再現してんじゃねーだろうな」
「し、知りませんよ俺は。さっき本部覗いたらみんな飲んでたんすから。なんすか、せっかく先輩の為にこっそり持ってきてあげたのに」
「んぐ、そ、そうか、悪いな。配信直後のあの大変だったころを思い出しちまってな。ちょっと緊張して稼働率上がっちまったらしい」
「まあ、あの時は先輩もうやばかったですからね。でも今はこうやってのんびり見てるだけでいいんすから」
「まあな、ちょっと退屈ではあるがな」
「え、じゃあ、あの時みたいになったほうがいいって事っすか?」
「馬鹿野郎、いいわけねえだろうが。稼働率上がるようなこと言うんじゃねえ。フラグになったらどうすんだ」
「あ、すみません(AIがフラグって…)」




