第262話 復帰2日目 謎の種
「スプラさーん!」
「あ、ミクリさん。おはようございます」
2日目のログイン早々、ミクリさんが駆けてくる。その後ろでは、長い腕を器用に動かし、無言で作業を続けるゲンジさんの姿。
「スプラさん、報告がいろいろあって!」
いつになく慌ててるミクリさん。珍しいな、何があったんだ?
「まずは……こっち来て!」
「え、あ、はい?」
ぐいっと手を引かれ、連れて行かれたのは隣の小規模畑。中規模畑を荒らされないよう、デッカイとオッキイの遊び場にしていた場所だ。
「見てよ、これ! なにこの草!」
「うわっ!? ……なんだこれ?」
昨日まで土むき出しで、虫が跳ね回っていた畑が俺の背丈以上もある草でびっしり埋め尽くされていた。
どう見ても異常だ。しかも草は全部【雑草】表記。いや、ただの雑草にしてはでかすぎるだろコレ。
「ミクリさん、何かしました?」
「してないよ。虫がいる畑なんて絶対入らないし」
じゃあ原因は…何だ?
「次の報告行っていい? 野菜なんだけど、農屋に置いてあるの」
また手を引かれ、今度は農屋へ。なんか親戚のお姉さんに連れられる小学生みたいで落ち着かん。
「見て、これ。昨日スプラさんの肥料を使ったんだけど」
「おお、立派な野菜ですね。品質アップですか?」
「アップどころじゃないよ。品種自体が変わってるの。ほら【赤トメト】だったのが【紅皇玉】に。帯魔性付きで、食べるとステータスにバフがかかるらしい」
「おお、これは美味そう」
「でしょ? しかも全部こうなってるの。100%上位種。変異じゃなくて、これもう進化だよ。あの肥料、何?」
ミクリさんの慌てぶりからして、かなりヤバい現象らしい。そういや肥料、ちゃんと確認してなかったな。チョイっと。
【癒楽バイオ極肥(10000倍希釈)】品質10
作物品質:+2~5
収穫量:1.5~3倍
帯魔性:100%
作物進化確率:100%
えーっと……うん、よくわからんけど確かにヤバそうな気はする。
「えっと……100%進化に、品質+2~5、収穫量3倍、確定バフ効果……」
「こういうのは前もって言ってよね!? 朝から腰抜けるかと思った」
「すみません……」
「あ、違うから、怒ってないよ。ただのお願いってだけ。で、これどうする? 値段4~5倍で売れると思うけど?」
「4倍!? そんなに?」
「うん、王宮に出しても通用する品質だもん」
「王宮? ……いやあ、どうだろ。うーん、とりあえず値段は据え置きで。ほら、今は税金も高いから」
「ああ、そっか。じゃあ、まだお金貰わなくて正解だったかな~」
「お金?」
「うん、まだ貰ってないんだ、野菜代。ほら、スプラさんが店回って契約した時、お金はいつでもいいって伝えてたでしょ?」
ああ、言ったなそういや。あの時は卒業ってことで浮かれて「タダでいい」って言ったらマーサさんに怒られたんだっけ。で、「料金は相場の半額、支払はいつでもいい」ってことにしたんだったな。
「じゃあ、まだお金はそのままで。ニカブに税金納めたくないですし。で、今回の進化野菜の件は先にマーサさんに説明しておいてください。なにか言われたらマーサさんの言う通りにしてもらっていいので」
「うん、了解。じゃあ、最後の報告なんだけど、スプラさんコレ何か知ってる?」
差し出された手のひらには――俺の親指大の種。こげ茶に黄緑の線。【???の種】としか表示されない。
「知らないですね。どうしたんですか、このどデカい種?」
「農屋のあちこちに落ちてたの。他にも丸いのや、トゲトゲのやいろんな種類があって」
農屋……? なんでそんなところに──ん? 農屋!?
「コレ植えてみていかな?」
「んー、いいんじゃないですか? 植えてみたら正体もわかりますし…あ、来たみたいですね」
二人でどデカい種を見つめていると玄関に気配が現れる。
「おはよう~さ~ん」
「「おはよーー」」
チッチャーネさんとデッカイ達がのんびり出勤。
「おはようございます、みなさん」
「スプラさん、俺、今日も野菜食べたいなあ」
「俺はまた畑やりたい」
「わたしも~」
挨拶もそこそこにそれぞれやりたいことを同時に言い出す三人。どうやら昨日と同じパターンになりそうだ。
「じゃあ、デッカイ達はもう畑行ってていいよ。でも草がすごいから気を付けて」
「いやったー、オッキイ、草刈りだ」
「ええ~、じゃあ早くしてね!」
デッカイとオッキイがワイワイと畑に向かっていった。
「チッチャーネさんは農屋に行きましょうか。おいしそうなのが山盛りありますよ」
「おお、嬉しいなあ。スプラさんの野菜は美味いからなあ」
大きな体を揺らして喜ぶチッチャーネさん。その様子を見ている俺の頭の中では、ひとつの推測が渦を巻いているのだった。
…
「じゃあ、これ今日の野菜です」
「おやあ、昨日のよりも美味そうだあ。スプラさん、本当にこれ食べてもいいのかあ?」
「もちろん。足りますか?」
「ああ、十分だよ。食べ終わったら昨日の力仕事してもいいかあ?」
「はい、お願いする予定です」
「よおっし、じゃあ、いただきまーす」
チッチャーネさんは両手で野菜をつかみ、豪快に交互にかじる。
──昨日、農屋に謎の種を落とせるとしたら、このタイミングなんだよな。
「ムシャムシャ、ムシャムシャ……ゴクン」
「……」
「ムシャムシャ、ムシャムシャ、ムシャム……ゴクン」
「……」
野菜にかぶりつきながらおいしそうに食べるチッチャーネさん。だが、ふとした時にその口が止まる。そして俺を見ては何かを飲み込む音。
──これは、怪しさしかないな。
「……チッチャーネさん、俺ちょっと上でポーション作ってます。野菜足りなくなったら大声で呼んでください」
そう言って屋根裏ロフトへ。ネギ丸たちに葉っぱを貰ってからこっそり1階を覗く。
すると、俺がいなくなった下ではチッチャーネさんがウッキウキで野菜を食べていた。
「ムッシャムッシャ! いやぁ、今日のは特に美味いなあ! ムッシャムッシャ!」
右手に【紅皇玉】、左手に【黄帝瓜】。交互にガブガブとかじっては、モグモグ、ゴックン。……これはもう味見祭だな。
食べるたびにほっぺがふくらんで、ムニムニ動く様は、見ようによっては巨大リス。動画でよく見る食べ過ぎて大きくなりすぎたアレだ。
「ムッシャ、ムッシャ、ムッ……」
「……お、止まった」
これは来るか?
「んぐ……プッ!」
コロンコロン。
床に落ちたのは、どデカいブツ。なんか、昨日のよりデカくね? で、それが何かと言うと……【???の種】か。
……うん、いきなり確定だな。
「美味いなあ。本当に美味い」
ロフトを降りようとしたが、1階から嬉しそうな声が聞こえてくる。
こんなに嬉しそうに食べるチッチャーネさんを止めるなんてことは俺には無理だ。仕方がない、もうしばらく様子を見ることにするか。
「ムッシャムッシャ! あー幸せだなあ……プッ!」
コロンコロン。二発目。
「うまいうまい……プッ!」
カーン。
三発目は、不器用ドリンクサーバーに当たって跳ね返る。そしてテーブルの上でスピンする星形の種。
あかん、今のは吹き出すところだった。スピンは反則だって
……さて、どうする。出て行くタイミングを見失ったぞ。
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◇達成したこと◇
・小畑の異変に驚く。
・野菜の進化に驚く。
・野菜価格は据え置き
・ミクリから謎の種の報告&植えるのを許可
・チッチャーネが種を飛ばす現場を目撃する。
◆ステータス◆
名前:スプラ
種族:小人族
星獣:アリオン[★☆☆☆☆]
肩書:マジョリカの好敵手
職業:多能工
属性:なし
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:1
耐久:1(+33)
敏捷:1(+53)
器用:1
知力:1
≪武器≫ (決断の短刃─絆結─)※筋力不足
≪鎧≫ 仙蜘蛛の真道化服【耐久+33、耐性(斬撃・刺突・熱・冷気・粘着)】
≪足≫ 飛蛇の真道化靴【敏捷+53】
◆固有スキル:【マジ本気】
◆スキル:
特殊──【逃走NZ】【危険察知NZ】
保有──【品格】【献身】【騎奏術】【依頼収集】【念和】【土いじり】【熟達の妙技】【眼通力】【薬草の英知】【劇毒取扱】【特級毒物知識】【独り舞台】
成長──【秘薬Lv10】【石工Lv10】【配達Lv10】【一夜城Lv10】【投擲Lv10】【狙撃Lv10】【料理Lv9】【融合鍛冶Lv6】【特殊建築Lv4】【散弾狙撃Lv4】【中級採掘Lv3】【ルーティンワークLv3】【極意の採取Lv2】【瘴薬Lv1】【カッティングv1】【レザークラフトLv1】【裁縫Lv1】【描画Lv1】
耐性──【苦痛耐性Lv3】
◆所持金:約800万G
◆従魔:ネギ坊[癒楽草]
◆称号:【不断の開発者】【魁の息吹】【新緑の初友】【自然保護の魁】【農楽の祖】【肩で風を切る】【肩で疾風を巻き起こす】【秘密の仕事人】【秘密の解決者】【秘密の革新者】【不思議ハンター】【不思議開拓者】【巨魁一番槍】【開拓者】【文質彬彬】【器用貧乏】
■【常設クエスト】
<定期納品:一角亭・蜥蜴の尻尾亭・腹ペコ熊の満腹亭……>
■【シークレットクエスト】
<太皇太后の想い> 第二の街復興と独立国家建設
・行政府 0/1
・鍛冶工房 1/2
・薬房 1/2
・住居 0/10
・城壁 北側に10メートル
◆星獣◆
名前:アリオン
種族:星獣[★☆☆☆☆]
契約:小人族スプラ
Lv:20
HP:310
MP:445
筋力:48
耐久:46【+42】
敏捷:120
器用:47
知力:69
装備:
≪鎧≫ 赤猛牛革の馬鎧【耐久+30、耐性(冷気・熱)】
≪アクセサリー≫ 赤猛牛革の鞍【耐久+12】
≪アクセサリー≫ 赤猛牛革の鐙【騎乗者投擲系スキルの精度・威力上昇(小)】
◆固有スキル:【白馬誓魂】
◆スキル:【疾走Lv8】【足蹴Lv1】【噛み付きLv2】【水上疾走Lv1】【かばうLv10】【躍動】【跳躍Lv2】【二段跳び】【守護Lv10】
◆従魔◆
名前:ネギ坊
種族:瘉楽草[★★★★☆]
属性:植物
契約:スプラ(小人族)
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:3
耐久:3
敏捷:0
器用:6
知力:10
装備:
≪葉≫【毒毒毒草】
≪葉≫【爆炎草】
≪葉≫【紫艶草】
◆固有スキル:【超再生】【分蘖】
◆スキル:【劇物取扱】【爆発耐性】【寒気耐性】
◆分蘖体:ネギ丸【月影霊草】ネギ玉【氷華草】ネギコロ【天雷草】
◆生産セット◆
・大地の調合セット
◆特殊所持品◆
・卵
・魔剣の未完成図面
◆所有物件◆
・農屋&畑(中×1、小×1)
・癒楽房
・極凰洞
◆契約住民◆
・ミクリ【栽培促進】
・ゲンジ【高速播種】
・チッチャーネ【味見】
・デッカイ【虫遊び】&オッキイ【土遊び】
◆お手伝い◆
・ガガン(ドワーフ)【???】




