第255話 瓦礫の街
「うわあ、マジで瓦礫の山じゃん」
癒楽房の扉を開けてみたらマジでマジマジの瓦礫の山。
癒楽房以外のすべての建物が壁一つ残さず崩されている。
「これを俺にどうしろと……」
マジョリカさんから『北の街を復興させて独立国家と作れ』とのシークレットクエスト。いろんな圧に負けて受けてしまったがこれは流石に無理かもしれん。
あと、シークレットクエスト受けたからその資金として薬草買ってくれるかと思ったけどそれは無理だった。
資金はやれん。だが国は作れ。……はい?
「うーん、じゃあ、まあとりあえず……家でも一軒建ててみるか?」
実はさっきステータス画面を見ながらいろいろと自分の事を思い出していたのだ。そしたら職業が【多能工】っていう建築関係の職業だった。一人で特殊建築物を建てられるということだ。
とりあえず特殊建築でもなんでもいいから家を作らんとな。
癒楽房の敷地を超えて瓦礫の中に一歩踏み出す。小石と土の中に足が少し埋まる。
ピンポーン
『シークレットクエスト<太皇太后の想い>が進展しました。第二の街跡地がクエスト受注者用にクラフト用地としてカスタマイズされます』
ピンポンさんのアナウンスが終わると自分の足元に一気に緑色の線が広がっていく。どうやらもともとあった家の区画に沿った線のようだ。
「なるほど、こういうことになるのか。この区画に沿って作れってことだな。それじゃあ……この区画をやるか」
癒楽房に一番近い区画。ちょうど癒楽房の建物と同じ広さで、見渡した中では一番狭い区画を選ぶ。
「この区画を指定して…で、何すんだ? 【特殊建築Lv4】?」
【特殊建築Lv4】の言葉に生産施設作成のテンプレートが現れる。
リストの中の『一般建築』を選択。
すると、真っ黒な画面が現れる。リストがない。
今度はリストの『特殊建築』を選択してみる。
再び真っ黒な画面が現れる。おかしい。なぜリストが出てこない。
…こういう時は説明書を見るに限る。チョイチョイっと。
【特殊建築Lv4】
生産施設を建設することを可能とする特殊技術。
はい、今作りたいのはその生産施設なのですが? なぜ作れないんだ? なにか条件があるのかな?
…
…
「あった、これかあ」
かれこれ10分は探し続けてようやく理由が分かった。コレだ。
<太皇太后の想い>
太皇太后マジョリカランから「第二の街を独立国家として復興させよ」とのシークレットクエストが出された。
≪フェーズⅠ≫
☑以下の建築物を建築する。
・行政府 0/1
・鍛冶工房 1/2
・薬房 1/2
・住居 0/10
・城壁 北側に10メートル
☑建築物は既存様式でないこと
「……既存様式でない…つまり、レシピにない新しい様式で建てろと?」
え、ってことは、自分で瓦礫を除けて、掃除して、木材とか用意して基礎を作ってレンガ焼いて……
「何年もかかるわーーっ!!」
ピンポーン
『【独り舞台】が発動しました』
クエーーー ドサッ
……なんか、思わず叫んじゃったら空から鳥が落ちてきた。落下ダメージでポリゴンになっとる。
【飛翔鳥の飛翔羽】
大気の影響を限りなくゼロにする魔力羽根。
あ、見覚えのある羽根……うん、一旦戻ろ。
羽根を拾って癒楽房に戻るとそのまま農屋に移動。
野菜の味見を続けているチッチャーネさんはそっとしておいて、屋根裏へと上がる。ネギ丸たちを見ながら極凰発砲水を呷ると、なんとなく気分転換にはなった。
『ゆらゆら』
『ゆら~?』
『ゆらら?』
「ん? 金もない、スキルも使えん。なのに国作れってさ」
『ゆら~♪』
『ゆらゆら♪』
『ゆらら~!』
「まあな、やってればいつかは出来るんだろうけど」
俺の様子をネギ丸たちが気にしてくれる。『ボチボチやればいいよ~』だって。こういう時の癒楽草たちっていいな。気持ちが楽になる。
「っし、じゃあ、ボチボチやっていくかね」
癒楽房内で道具を探す。あの瓦礫じゃ、スコップでもないと話にならんからな。
……ないか。まあ、そうだよな。んじゃ、作るしかない……あ、そういやデッカイ達に鍬を渡してたよな。とりあえずアレを借りて使ってみてから新しいの作るか。どんな感じかだけでも知っておきたいし。
「おーい、デッカイ、オッキイ……」
「なんだ、兄ちゃん」
「なに、スプラお兄ちゃん」
二人が鎌と鍬を担いで走ってくる。だが、俺はその向こうに見える畑の様子が気になって仕方がない。なぜなら、刈った草と土が交ざり合ってそこに虫らしきものがピョンピョンとたくさん跳ねているのだ。まさに無秩序を絵に描いたような状況だ。
「…汚れたね」
デッカイとオッキイの服が草と土で汚れまくっている。これが【虫遊び】と【土遊び】の成果か。で、あの畑……『畑荒らし』…なるほど。
「ああ、この服か? 大丈夫だって、これくらい。で、何の用?」
「あのさ、オッキイに渡した鍬を少し借りたくて」
「これならもういいよ。もう土柔らかくなったから」
そう言って鍬を渡してくるオッキイ。
「おーい、スプラさん、野菜なくなったあ」
鍬を受け取ったところで、今度は農屋からチッチャーネさんが大きな体を揺らしながら歩いてくる。
「ねえ、スプラお兄ちゃん、その鍬で何するの?」
「もしかして他にも畑あんのか?」
「なあ、スプラさん、俺、食後の運動がしたいんだあ」
デッカイたちとチッチャーネさんが同時に話してくる。聞き取れんことはないが、できれば一人ずつでお願いしたい。
「えっと、じゃあ、オッキイからね。これは北の街のお掃除するために使うんだよ」
「北の街って…」
「え、兄ちゃん、北の街行くのか?」
「で、チッチャーネさんは運動ですか?」
「ああ、でも畑ん中走ると元気な姉ちゃんに怒られるからなあ」
そっか、運動したいのかあ。でも畑では無理だし、農屋で何か仕事ないかな。
「兄ちゃん、俺たちも北の街行く」
「スプラさん、俺、力仕事がしたいなあ」
ぐ、また同時に…。えっと、デッカイは北の街に行きたくて、チッチャーネさんは力仕事をしたいと……あれ?
「あ、じゃあ、三人とも北の街行きます? とりあえずは瓦礫の掃除するだけですけど」
「おお、行く行く。北の街は俺たちの母ちゃんの家があった街なんだ」
「おお、そこなら思いっきり運動しても怒られねえなあ」
……なんでいつも同時なんだ、この人たち。
という訳で、三人を連れて北の街に移動することになった。
「チッチャーネさん、それこっちにお願いします」
「うおっし」
「デッカイ、これバギーに積んで向こうな」
「おっけ」
「オッキイ、ここ掃除お願い」
「あーい」
チッチャーネさんは素手で大きな瓦礫を持ち上げては放り投げる。場所は癒楽房の空き地。畑にもできない場所だからとりあえず瓦礫置き場にすることにした。
デッカイが小さな瓦礫をバギーに載せる。このバギーは俺が作ってゼン爺に渡してあったのをミクリさんが受け継いでたものだ。
【畑の運搬車】
荷重を相殺する浮力と推進力を持つリヤカー。引き手の思うように動く。
これならデッカイにも使える。それにバギーを傾ければ一気に荷物を下せるからな。
…
…
「だいぶ片付きましたね」
「おう、俺もうクタクタだぜ」
「わたしもー」
「俺も腹減ってきたあ」
三人とももう限界そうだな。じゃあ、そろそろ戻るか。
ガタガタ
……ん? なんだ?
「どうした、兄ちゃん」
「あ、いや、今何か音がしなかった?」
「音? ……しないけど?」
「そっか、気のせいかな……」
ガタガタ
「あれ? やっぱ、音しない?」
「……しないけど? 兄ちゃん疲れたんだろ、きっと」
「そっか、気のせいだよな…(じーーーーー)」
ガタガタ
「そこだ―――!!」
ストレージから流れるようにダーツを出して狙撃する。狙いは少し大きめの瓦礫。ダーツを構えた瞬間、【石工Lv10】が反応。石目が浮かんだ瞬間、そこを目がけてダーツを撃ち込む。
カーンッ!
瓦礫が予定通りに砕け散る。 …そっか、こうやって瓦礫を砕いといたら掃除ももっと楽だったかもな。
「っと、今はそれどころじゃない」
ダーツを投げる前から赤く反応していた大きな瓦礫。その砕けた瓦礫を押しのけて下から現れたのは……
「やっぱり飛蛇かよ」
オーガが攻めてきた時に街中でプレイヤーが死に戻り始めたって聞いて、こいつしかいないと思っていた。仙蜘蛛なら繭になるだけだしな。
すぐに俺の視界から消える飛蛇。しかし飛蛇の習性はまだ覚えている。こいつは憶病だから真後ろからしか攻撃してこない。
「そこっ」
振り向かずに放ったダーツ。【危険察知NZ】が気配として教えてくるその場所で小さな衝突音が起きると、ログが飛蛇討伐完了を知らせてくる。
「お、ラッキー」
ドロップを拾ったらなんとレアドロップの【飛蛇の軽羽】だった。コイツはいろいろと使い道があるからありがたい。
「兄ちゃん、それなんだ?」
「あ、ダーツの事?」
デッカイがダーツに興味津々だ。そっか、そんなに興味あるんなら。
「いる?」
「え、いいのか?」
「あー、デッカイばっかりズルい」
「あ、じゃあオッキイにもあげるよ」
「やったーー」
うん、小さい子が素直に喜んでくれるのってなんでこんなに嬉しいんかね。
「……」
「あ、チッチャーネさんも要ります?」
「いいのかあ?」
「もちろん、たくさん持ってるんでよかったらどうそ」
「いやったああああ」
…ま、大きな大人が無邪気に喜ぶのも…いいもんだ…。
…
「あ、俺たちもう帰らないと。兄ちゃん、また明日な」
「また明日ね~」
「んじゃ、俺も腹減ったし帰るかなああ」
三人がダーツ片手にワイワイと楽しそうに癒楽房に帰って行った。
「そっか、もう18時か。まだログアウトには早いよな……瓦礫の街でも散策してくるか」
瓦礫を縫うようにして進む。時々つまずきながら歩いていくと、ひと際大きな瓦礫の山が現れる。
「ここは……あれだ。武具会館があった場所だな」
広い街道は瓦礫に埋め尽くされてはおらず、細いがしっかりと道が見える。その道に沿って武具会館の前まで足を進めてみた。
「で、道を挟んで向こう側が不動産屋だったよな……ん? なんだこの感じ?」
不動産屋を眺めていたら視界の隅に妙に気になる一帯がある。でも、そっちは武具会館の方だが……。
「やっぱり妙な感じがするんだが……」
こんな感じ確かどこかで経験したことある気がする。どごだっけ。うーん、思い出せん。…ま、ちょっと調べてみるか。
「ここ…だな。この下、何かある…」
大きな壁が倒れたような場所。その下に何かがある気がしてならない。
「ここはやっとこう。どうせいつかはやるんだしな、【石工Lv10】と」
倒れた壁をダーツで割る。大きい壁なので半分にしか割れなかった。これ以上はダーツがもったいないので自分で移動させてみる。
「ん、重いな。だめだ。ちっ」
ちょっとだけ意地になって、剛力ポーションを取り出して呷る。
「よし、じゃあ、いっせーのーでっと」
ガターン
壁を取り除けると、そこには見たことのある地下へ続く階段があった。
―――――――――――――
◇達成したこと◇
・瓦礫の街を確認する。
・シークレットクエスト条件を確認する。
・取得【飛翔鳥の飛翔羽】【飛蛇の軽羽】
・スキルが使えないことにやる気をなくす。
・チッチャーネら3人を瓦礫掃除要員とする。
・街中を散策して地下室への入り口を発見する。
◆ステータス◆
名前:スプラ
種族:小人族
星獣:アリオン[★☆☆☆☆]
肩書:マジョリカの好敵手
職業:多能工
属性:なし
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:1
耐久:1(+33)
敏捷:1(+53)
器用:1
知力:1
≪武器≫ (決断の短刃─絆結─)※筋力不足
≪鎧≫ 仙蜘蛛の真道化服【耐久+33、耐性(斬撃・刺突・熱・冷気・粘着)】
≪足≫ 飛蛇の真道化靴【敏捷+53】
◆固有スキル:【マジ本気】
◆スキル:
特殊──【逃走NZ】【危険察知NZ】
保有──【品格】【献身】【騎奏術】【依頼収集】【念和】【土いじり】【熟達の妙技】【眼通力】【薬草の英知】【劇毒取扱】【特級毒物知識】【独り舞台】
成長──【秘薬Lv10】【採掘Lv10】【石工Lv10】【配達Lv10】【一夜城Lv10】【投擲Lv10】【狙撃Lv10】【料理Lv9】【融合鍛冶Lv6】【特殊建築Lv4】【散弾狙撃Lv4】【ルーティンワークLv3】【極意の採取Lv2】【瘴薬Lv1】【カッティングv1】【レザークラフトLv1】【裁縫Lv1】【描画Lv1】
耐性──【苦痛耐性Lv3】
◆所持金:約800万G
◆従魔:ネギ坊[癒楽草]
◆称号:【不断の開発者】【魁の息吹】【新緑の初友】【自然保護の魁】【農楽の祖】【肩で風を切る】【肩で疾風を巻き起こす】【秘密の仕事人】【秘密の解決者】【秘密の革新者】【不思議ハンター】【不思議開拓者】【巨魁一番槍】【開拓者】【文質彬彬】【器用貧乏】
■【常設クエスト】
<定期納品:一角亭・蜥蜴の尻尾亭・腹ペコ熊の満腹亭……>
■【シークレットクエスト】
<太皇太后の想い> 第二の街復興と独立国家建設
・行政府 0/1
・鍛冶工房 1/2
・薬房 1/2
・住居 0/10
・城壁 北側に10メートル
◆星獣◆
名前:アリオン
種族:星獣[★☆☆☆☆]
契約:小人族スプラ
Lv:20
HP:310
MP:445
筋力:48
耐久:46【+42】
敏捷:120
器用:47
知力:69
装備:
≪鎧≫ 赤猛牛革の馬鎧【耐久+30、耐性(冷気・熱)】
≪アクセサリー≫ 赤猛牛革の鞍【耐久+12】
≪アクセサリー≫ 赤猛牛革の鐙【騎乗者投擲系スキルの精度・威力上昇(小)】
◆固有スキル:【白馬誓魂】
◆スキル:【疾走Lv8】【足蹴Lv1】【噛み付きLv2】【水上疾走Lv1】【かばうLv10】【躍動】【跳躍Lv2】【二段跳び】【守護Lv10】
◆従魔◆
名前:ネギ坊
種族:瘉楽草[★★★★☆]
属性:植物
契約:スプラ(小人族)
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:3
耐久:3
敏捷:0
器用:6
知力:10
装備:
≪葉≫【毒毒毒草】
≪葉≫【爆炎草】
≪葉≫【紫艶草】
◆固有スキル:【超再生】【分蘖】
◆スキル:【劇物取扱】【爆発耐性】【寒気耐性】
◆分蘖体:ネギ丸【月影霊草】ネギ玉【氷華草】ネギコロ【天雷草】
◆生産セット◆
・大地の調合セット
◆特殊所持品◆
・卵
・魔剣の未完成図面
◆所有物件◆
・農屋&畑(中×1、小×1)
・癒楽房
・極凰洞
◆契約住民◆
・ミクリ【栽培促進】
・ゲンジ【高速播種】
・チッチャーネ【味見】
・デッカイ【虫遊び】&オッキイ【土遊び】




