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第250話 凋落の農業ギルド

「ええええっ!! 農業ギルドが破産した!!?」


 倉庫と化した農業ギルドを見上げる俺の横で、ゼン爺がぽつりと衝撃の事実を口にした。


 肩を落とすゼン爺。その服装は継ぎはぎだらけのヨレヨレ服。顔は頬が痩せこけ目の下には深いクマ。


 かつて畑を管理しながらかけだし農業プレイヤーをしごきまくっていた、あの頼もしいゼン爺の面影はどこにもない。「癒楽草ではない草の灰が〜」とはしゃいでいたあのゼン爺とはまるで別人だ。



 ゼン爺が『農業ギルド』の看板にゆっくりと歩み寄る。傾いている看板を直そうとするが手を離すと元に戻ってしまう。何度か試みた後に諦めたゼン爺が大きなため息を一つ。


「はあ……ニカブ……北の街の元武具会館館長。ご記憶にございますかな? 全ての元凶はあやつてした。鍛冶師の反乱によって追放されたあの男は、それまでの後ろ盾であったバンディー家を見限り、今度は三公の筆頭貴族カイザル家に取り入ったのです」


 ニカブ…いたな、そんな奴。腹だけ社長みたいな風貌で、白ジャケットがパッツンパッツン、モルスさんとマカラさんへの態度がクソだったのはよく覚えている。


「経緯は分かりかねますが、ニカブはあのカイザル家を動かしました。カイザル家を通して王家に圧力をかけて、ここラスプへの命令書を出させたのです。内容は──『ニカブを始まりの街ラスプの新領主とし、当街の商業ギルドと冒険者ギルドを、異人のエア・ブランコ商会に委ねる』」


「え? あのニカブが新領主!? え? じゃあメアリーさんは? っていうか、冒険者ギルドと商業ギルドをプレイヤー……異人に? なにそれ? 無茶苦茶じゃない?」


 百歩譲って領主云々のストーリー的な部分は仕方ないとしても、プレイヤーにギルドを委ねるとかそれはシステム的に駄目だろ……あ、いや、でもこのゲーム(FSG)、1プレイヤーに街の統治権限を与えてくるようなゲームだったわ。



「そう、無茶苦茶でした。ですがその無茶苦茶がまかり通った結果、領主であったセゾール様は行方不明、奥方のメアリー様は……ニカブの妻に」


「え、メアリーさんが!?」


 セゾールさんはともかく、メアリーさんがあのパッツンの夫人って、それはちょっと受け入れ難いぞ。美人過ぎて俺は苦手だったけど、ミーナは結構お世話になってたからな。


「そんな命令が出たすぐのことでした。エア・ブランコ商会が農業ギルドの資金貸出制度を使い、大規模に畑を買い占めたのです。アイザックは農業が発展すると言って喜んでおりましたが……それが破滅への道でした。エア・ブランコ商会による畑の買い占めがほぽ終わったその直後、領主になったニカブが『ラスプ住民への食料安定供給のため農業関連の借金をすべて帳消しにする』などという命令を出したのです」


 借金帳消し……は? 何その経済原理ガン無視した命令。江戸時代かよ。


「その結果、農業ギルドは一瞬で破産。独自施策による破産のため本部からの支援も得られず、責任を問われたアイザックは追放。……で、前任者だったという理由で、わしがギルドマスターに戻されたのです」


 え、ゼン爺って元ギルドマスターだったの? どうりでアイザックさんのゼン爺への態度が……って、いや、そんなことより、今の流れだと農業ギルドが倉庫になっちゃったのって、俺がアイザックさんに提案したJ◯ローンが悪用されたからじゃん。



「…ごめん、ゼン爺。その資金貸付制度、俺がアイザックさんに提案したやつ……俺のせいかも」


「いいえ、とんでもない。あの貸付け制度によって畑従事者は爆発的に増えました。あれがなければこの街の食料事情は大混乱に陥っておったでしょう。スプラさんのせいではありませんぞ。これは、エア・ブランコ商会がニカブと結託…いえ、カイザル家も含めた大規模な計画的暴挙と言えま…ゴホゴホ」


 急に咳き込むゼン爺。あのゼン爺の弱り果てた姿には流石に胸が締め付けられる。せめてゼン爺だけでも元気になってもらいたいところ……あ、そうだ。



 ストレージから【癒楽の極凰発砲水】を取り出す。


 これは卒業前に万が一また戻ってきちゃった時のためにみんなでお帰りパーティーでもしようかと取っておいた物だ。


 ゼン爺、これ大好きだったしな。ちょっとでも元気出してもらえるといいけど。



 極凰発泡水を見たゼン爺の目が輝く。


「お、おおお、それはかの癒楽草ではない草ののど越しジュース……いや、懐かしいですな」

 

 俺からコップを受け取ると、すぐさま口に運んでゴクゴクと喉を鳴らすゼン爺。



「ぷはああ。これはまさしく癒楽草…ではな味。あの頃の味ですなあ。不思議とあの頃の力が沸々と湧いてきますわい」


「……え?」


 飲み切ったゼン爺の体になぜか水色のエフェクトが現れる。えっと…このエフェクトって状態異常回復の色じゃなかったっけ?


 見る見るうちにゼン爺のやつれた頬が元に戻り目の下のクマも消えていく。


 ……えっと、どういうことでしょうか? 



『ゆらゆら♪』

「え、なにそれ?」

『ゆらゆ~ら…』

「えええっ、そうだったの?」


 ネギ坊が言うには『【落胆】が治ったよ♪』って事らしい。【落胆】とは新しい状態異常で、プレイヤーの場合は1時間ステータス80%減、戦闘時には50%の確率で自らスタンするという極悪仕様なのだそうだ。気力回復剤によって回復可能とのこと。


「…ってことは、極凰発砲水が気力回復剤ってこと? あれ? そんな効果あったっけ? チョイっと」



【癒楽の極凰発砲水】

 弾けるのど越しに溢れる生命の力。これぞ究極の自然派飲料水。

 至高の気力回復剤ともなる。



 おお、説明書きが増えとる。そっか、そんな効果が……【落胆】導入で追加されたってことだな。


「……俺も治らんかな…」


『ゆら~』

「はは、そうだよな」


 ネギ坊から『それはちょっと~』って。そりゃそうだ。



「スプラさん、中に入りましょうかの」


 顔が別人のように元気になったゼン爺がスタスタとギルドに入っていく。そのゼン爺を見た受付嬢がギョッとした顔で立ち上がって会釈する。



「ドリアさん、雇用契約用の住人リストを出してくれるかね?」

「あ、はい」


 俺とゼン爺の前に画面が出され3組の住人のリストが現れる。



「まあ、そんな訳で現在ラスプにおける農業ギルドの信頼は失墜しておりまして。ギルドがご紹介できる住人はこれだけなのです」


 なるほどな、そういう理由でこの少なさだったのか。手抜きとかじゃなかったんだな。こりゃ俺、完全にカスハラしちまったか。ごめん、ドリアさん。



「ドリアさん、面倒くさいこと言ってすみませんでした。あ、これよかったら飲んでください」


 ストレージから極凰発砲水を取り出してドリアさんの前に置く。ゼン爺から物欲しそうな視線を受けるが気づかないフリで。


「あ、はあ…」


 ドリアさんが怪訝そうにコップを持って中身を念入りに確認する。こういう冷たい感じが新上司を思い出させる。お薬飲んでなかったら吐き気でヤバかったかもしれない。



「ぷはー、おいっしー。え、なんですか、コレ」

「これはこちらのスプラさんが作った超高級ジュースですぞ」


 水色のエフェクトに包まれたドリアさん、さっきまでのダルそうなオーラが消えてその目は優し気に、血色もよくなった。


「では契約住人の紹介をさせていただきます」

「……?」


 背筋が伸びて手は前で重ねられ、腰から倒すように美しい角度15°の会釈。さっきとはまるで違う。え? もしかしてドリアさんも。【落胆】だったの?



『ゆらゆら♪』

「え、【無気力】? そんなのもできたの? …なんかいろいろ変わったんだな」


 改めて一ヶ月の長さを実感する。そうだよな、俺が活動した時間の2倍だもんな。そりゃ、いろいろ変わるよな。



「では、スプラ様、こちらが現在、農業ギルドを介して契約可能な住人リストでございます」



「3組かあ。まあ、でも破産したギルドに登録してくれてるだけでもありがたいのか…な……あれ? ちょっと待って。この【高速播種】って…」


「はい、そちらの方はスプラ様に限り氏名の公開を許可しておられます。お名前は『ゲンジ』様でございます」


「ゲンジ……あああっ、もしかしてエリゼさんと一緒に俺が初めて契約した!?」


「はい、以前にご契約なさった住人でございます。【高速播種】のスキルは非常に希少でございますので、ご契約をお勧めいたします」


 そうか、ゲンジさんか。これはありがたい。


「ほう、なぜそのような住人が残っていたかと疑問でしたが、なるほど、スプラさんへの信頼が勝っておったようですな」


「じゃあ、他の人たちも……」


「あとの方々はお勧めできません」


 ドリアさんがはっきりと言ってくる。お勧めできないって。そんなこと言われると、むしろ気になるんだけど。


「えっと、へえ、【味見】に【虫遊び】【土遊び】かあ。しかも契約料金が1000Gって。最低金額って5000Gじゃなかったっけ?」


「スプラさん、その2組…その3人は流石に……スプラさんの足を引っ張るだけですぞ」


 ゼン爺が止めてくる……が。


「足を引っ張るだけ……」



~チームの足を引っ張るだけの人材は不要です~


 くそ、あの新クソ上司、みんなにいう体で視線ははっきりと俺に向けてたよな。こっちだって好き好んで休んでたわけじゃねえっての。



「スプラ様、こちらの方々はお勧めいたしかねます」

「わしでも扱い切れん3人です。止めておきなされ」


……決めた。


「ドリアさん、その3人も契約します」



―――――――――――――

◇達成したこと◇

・農業ギルド破綻の経緯を聞く。

・J◯ローンが悪用されたことに罪悪感を感じる。

・落胆中のゼン爺を極凰発砲水で元気にする。

・無気力中のドリアを極凰発砲水で元気にする。

・ゼン爺とドリアの制止を振り切り住人全員契約。



◆ステータス◆

名前:スプラ

種族:小人族

星獣:アリオン[★☆☆☆☆]

肩書:マジョリカの好敵手

職業:多能工

属性:なし

Lv:1

HP:10

MP:10

筋力:1

耐久:1(+33)

敏捷:1(+53)

器用:1

知力:1

≪武器≫ 決断の短刃─絆結─

≪鎧≫ 仙蜘蛛の真道化服【耐久+33、耐性(斬撃・刺突・熱・冷気・粘着)】

≪足≫ 飛蛇の真道化靴【敏捷+53】


◆固有スキル:【マジ本気】


◆スキル:【逃走NZ】【正直】【勤勉】【高潔】【献身】【投擲Lv10】【狙撃Lv10】【引馬】【騎乗】【流鏑馬】【配達Lv10】【調合Lv10】【調薬Lv10】【創薬Lv10】【依頼収集】【斡旋】【料理Lv9】【寸劇Lv10】【遠見】【念和】【土いじり】【石工Lv10】【乾燥】【雄叫び】【熟練の下処理】【火加減の極み】【匠の匙加減】【ルーティンワークLv3】【描画Lv1】【危険察知NZ】【散弾狙撃Lv4】【融合鍛冶Lv6】【観察眼】【苦痛耐性Lv3】【慧眼(薬草)】【薬草学】【採取Lv10】【精密採取fLv4】【採取者の確信】【採掘Lv10】【菌創薬Lv10】【上級鉱物知識】【カッティングv1】【レザークラフトLv1】【裁縫Lv1】【虚仮脅しLv10】【一夜城Lv10】【特殊建築Lv4】


◆所持金:約1300万G


◆従魔:ネギ坊[癒楽草]


◆称号:【不断の開発者】【魁の息吹】【新緑の初友】【自然保護の魁】【農楽の祖】【肩で風を切る】【肩で疾風を巻き起こす】【秘密の仕事人】【秘密の解決者】【秘密の革新者】【不思議ハンター】【不思議開拓者】【巨魁一番槍】【開拓者】【文質彬彬】



■【常設クエスト】

<定期納品:一角亭・蜥蜴の尻尾亭・腹ペコ熊の満腹亭……>



◆星獣◆

名前:アリオン

種族:星獣[★☆☆☆☆]

契約:小人族スプラ

Lv:20

HP:310

MP:445

筋力:48

耐久:46【+42】

敏捷:120

器用:47

知力:69

装備:

≪鎧≫ 赤猛牛革の馬鎧【耐久+30、耐性(冷気・熱)】

≪アクセサリー≫ 赤猛牛革の鞍【耐久+12】

≪アクセサリー≫ 赤猛牛革の鐙【騎乗者投擲系スキルの精度・威力上昇(小)】


◆固有スキル:【白馬誓魂】


◆スキル:【疾走Lv8】【足蹴Lv1】【噛み付きLv2】【水上疾走Lv1】【かばうLv10】【躍動】【跳躍Lv2】【二段跳び】【守護Lv10】



◆従魔◆

名前:ネギ坊

種族:瘉楽草[★★★★☆]

属性:植物

契約:スプラ(小人族)

Lv:1

HP:10

MP:10

筋力:3

耐久:3

敏捷:0

器用:6

知力:10

装備:

≪葉≫【毒毒毒草】

≪葉≫【爆炎草】

≪葉≫【紫艶草】


◆固有スキル:【超再生】【分蘖】


◆スキル:【劇物取扱】【爆発耐性】【寒気耐性】


◆分蘖体:

ネギ丸【月影霊草】

ネギ玉【氷華草】

ネギコロ【天雷草】



◆生産セット◆

・大地の調合セット


◆特殊所持品◆

・卵

・魔剣の未完成図面


◆所有物件◆

・農屋&畑(中規模)

・癒楽房

・極凰洞


◆契約住民◆

・ミクリ【栽培促進】

・ゲンジ【高速播種】

・??【味見】

・??【虫遊び】【土遊び】


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