第247話 鳳の戦友
「やっと見つけた」
藍玉のバングルが水色の光を輝かす。暗闇から出たばかりの俺には眩しすぎる光だ。
「ミーナ、よくわかったな」
「【追跡NZ】という離れ業がありますから」
「そっか、そういえばそんなの持ってたな。ストーキングスキル」
「ストーキングしてくれる人がいるだけありがたいと思いなさい」
「へい」
ミーナに差し出された手を取り立ち上がる。
「そういや、ミーナ星獣契約してたよな」
「うん、おいでセブンシーズ」
ポン
「おお、ライオンさんだ」
「だれがどっちが主人よ」
「言ってませんし、思ってないです」
「……セブンシーズって言うの」
「うん、知ってる。ステータス画面でも見たし、今そう呼んでたもんな」
「……英語できない?」
英語? 一応大学までは出たからペラペラ話せはせんが単語の意味くらいは分かるぞ。
「七つの海って意味だろ?」
「……そうだけど」
「あ、もしかして」
「えっ」
「世界中を旅行したいとか?」
「……それもいいかも」
ピコピコ
「あ、フレコ。って、ワーバットかよ。こいつ師匠の事、放っといて極凰発砲水飲み散らかしてたよな」
『なんだ、ワーバット。師匠は瀕死の淵から舞い戻る最中ですが』
『あれ? まだ会ってない?』
『だれに?』
『ななみちゃん』
……?? ななみ? だれだそれ。
『ななみって誰だよ。今ミーナと一緒。ミーナだけだぞ来てくれたの。どこぞの弟子は癒楽房で発砲水飲んでたもんな、楽しそうに』
『ぐ、なぜそれを……。って、ちがーう。って、あれ? ななみちゃん星獣連れてなかった? かわいいライオンちゃん』
『星獣? ななみは知らんが、星獣のライオンの赤ちゃんなら目の前にいるぞ。ってか、ネコ科の赤ちゃんはなんでこんなにかわいいんだろうな。あ、もしかしてワーバットも星獣契約できたとか?』
『……その子の名前は聞いた?』
『ライオンちゃんのか? セブンシーズだって。七つの海だと』
『……で?』
『で? とは?』
『は? ……この馬鹿兄貴はどこまで馬鹿なのですか?』
馬鹿兄貴? なんだ、今度は兄貴呼ばわりか。コミュ障にそういうのはダメだって。マジで。そういう変化に弱いんだから。
『あのな、そういう……』
『もう一回その疲れた頭で考えなさい。考え終わるまで帰ってくんな!』
「あれ、切れた」
「つぼみちゃん、なんて?」
「え?」
なんでミーナが俺の妹の名前を知ってんだ? ってか、今のフレコはワーバットだったんだけど……なんで妹の名前が出て来る? え? え?
「まだわかりませんか、大森双葉さん」
「……」
えええ?! なぜ、俺の本名がバレてる? は、まさかレイス、お前また何か…
「柿崎七海です」
「……柿崎? 七海? え? なんで米粒っ子の名前知ってんの?」
「米粒っ子……ですか」
ミーナが口周りを気にしている。いや、今は大丈夫だぞ。ついてないから。
「つぼみちゃん何も言わなかったんですね」
「…ってかどうした? なんか新しいロール…」
「つぼみちゃんから双葉お兄ちゃんが休養したって聞いて、で、FGS始めたって聞いたから。それで探してたんです」
「……」
「それでなんとなく挙動が怪しいボッチな人を見つけて、もしかしたらって」
「……」
「それで双葉お兄ちゃんなのかどうか確かめたくて。間違いないと思いながらももし間違ったらどうしよって。それでつぼみちゃんに相談したら、じゃあ自分が第二陣で入ってくれるって言ってくれて」
「……」
「えっと、聞こえてます?」
えっと、いや聞こえてはいるけど、途中から外国語を聞いてるような感じで。ちょっと意味が理解できないというか。
「……えっと、あなたはどな…た?」
「だから、米粒っ子の柿崎七海です」
「……え? ええええええええええええええーーーーー!!!!!!!」
…
…
「大丈夫? お兄ちゃん」
「うん、大丈夫」
いろんなことがあれやこれが全て繋がって、俺のバイタルが急変したために緊急ログアウトするとこだった。いや、本当は緊急ログアウトだったんだろう。ログ出てたもんな。多分SAIの判断でしなくて済んだんだろう。すまんな、SAI。
「そっか、ミーナが七海で、ワーバットが蕾か。ウェイブ、ミーナ、七海。ワーバット、フラワーバット、蕾。なんで気づかないかな俺」
「仮面取った時にも気が付かなかったし、ウェイブ→ミーナなら気づくかなって思ってたけど、気が付かなかったから、本当にお兄ちゃんなのか自信なくなって。つぼみちゃんに相談したら『そんなんじゃ絶対に気づかない』って。だから星獣をセブンシーズ、そのままの名前にしたの。でもまさかそれでも気が付かないとは流石に…」
「はあ、すまん」
「クスクス、大丈夫。そんなところもひっくるめて双葉お兄ちゃんだから」
「そっかあ、でも蕾がなあ。あのワーバットとはなあ。どうりでやたらと妹が彷彿とさせられた訳だ」
「つぼみちゃん、口は悪いけど、お兄ちゃんのこと大好きだから」
「蕾が? いつも怒ってばかりだぞ?」
「それは照れ隠し。小さい頃からずっと憧れの大好きなお兄ちゃんらしいよ。いくら妹を助けるためだって言っても熊に立ち向かっていく小学生なんて聞いたことないもん」
「ああ、あれか。あれは無我夢中でなあ。今なら絶対無理」
「あはは。それはどうかな」
「お、光だな。もう極凰洞か」
「みんな癒楽房で待ってるみたいだから行こっ」
七海が俺の手を引いて極凰洞へ出る。と、そこはさっきまでの極凰洞とは違い、マヤブルーの透き通った水の中心に緋色の巨鳥が佇む幻想的な世界だった。
『やっと来たか、我が戦友よ』
「ああ、待たせたな」
『見事だったぞ。Zの奴が時間制限付きとは言え其方に騎乗を許した理由が分かった気がした』
「リオンはな。なんかよくわからんかったな、アイツ。いろいろ不審なところもあったけど、まあ、アリオンとも契約できたし、良かったよ。あ、そういえば【引馬】」
『…ヒン』
アリオンからの『遅い』との文句。すまんな、続きは後で聞くから。
『Zのように其方の騎獣とはなれんが、今回の働きに我も我なりに応じることとした。そなたを我の戦友としよう』
ピンポーン
『称号【鳳の戦友】を取得しました』
『この極凰洞はな。我が子らを育むための場所であったのだ。だがほとんどの子らが異人との契約に及んだようだ。ゆえにこの極凰洞を其方に譲ろうと思う。どうだ、この極凰洞の主とならんか』
「えっと、《《この》》極凰洞? 俺がもらい受けるってこと?」
『ああ、そうだ。それとも不服か? ここ以外となると、後はあの山頂くらいしかないが…』
「あ、いや、あそこは無理。って、ここを本当に俺が貰っても?」
『もちろんだ。我もたまに立ち寄るが所有は其方だ』
いや、マジか。そりゃ極凰洞の水はありがたいが、いいのかそんなの。
…………うーん、ま、いっか。不動産なんていくつあっても困らんしな。まさか固定資産税なんてないだろうし……え、ないよな?
『其方に何も求めはせん。安心せよ』
はは、そっか。
「わかった。じゃあ、ありがたく受け取っとく」
ピンポーン
『プライベートフィールド「極凰洞」を取得しました。拠点が増えたため移動扉を取得しました』
ピンポーン
『FGS内で初めてプライベートフィールドを獲得したプレイヤーが現れました。当該プレイヤーには【前人未踏の秘境地主】の称号が与えられます』
【前人未踏の秘境地主】
プライベートフィールドへの登録可能人数+5名
【鳳の戦友】
星獣『極凰』の信頼を勝ち得たプレイヤーに送られる称号。当称号を最初に得たプレイヤーには望みに応じてプライベートフィールド『極凰洞』の所有権が与えられる。
『極凰洞』
極凰の魔力が満ちたプライベートフィールド。登録可能人数5名(+5名)
《採取可能資源》
・【極凰洞の水】(無限)
・【極凰の羽根】(極凰来訪時)
・???
『うむ、我も戦友に会いに度々ここを訪れるとしよう。では我は行く。我が子らの様子も見ておきたいのでな』
「あ、ちょ、コレ、コレどうすんの?」
俺は慌ててストレージから卵を取り出す。初めて極凰洞に来た時に拾った卵。先の仙蜘蛛戦ではいびり過ぎて可哀そうなことをしたからな。親元に返してあげたい。
『ああ、それか。それはな、本当に我の卵ではないのだ』
「え? でもリオンが返す方がいいって」
『我はZの卵だと思っておるのだが、Zは我の卵だと言ってきかぬのだ』
「はい?」
『どちらも知らぬ卵と言うことになるの。うむ、そろそろ夜が更ける。我はこの辺で去るとしよう。ではな』
ピコン
『【極凰の羽根】を取得しました』
「双葉お兄ちゃん、今のアナウンスってここの事?」
「ん? あ、そうだよ。ここがプライベートフィールドになったって」
「ええ、すごい! 今度つぼみちゃんと泳ぎに来てもいい?」
「うん、もちろん」
「やったーーー!」
「んじゃ、帰るためにまず扉を取り付けたいんだけど……」
極凰洞を歩いてみると、プライベートフィールドは吹き抜けのこのエリアだけ。宝石の坑道と仙蜘蛛の横穴は通常フィールド扱いだった。
「じゃあ、ここで」
宝石の坑道のすぐ横。ここなら採掘にも近いし水にも近い。うん、ここでいいだろう。
「じゃ、この扉から癒楽房に行けるから。一緒に戻ろう」
「うん」
ガチャ
「……?」
「……?」
なんか、みんなが静まり返って窓から外を覗いている。なに、これ。
「みんな、なにしてんの?」
「え?」
「は?」
「ええええ?」
「ちょ、この馬鹿、なんで移動扉から入ってくんのよ!」
「だって極凰洞がプライベートフィールドになったから…」
「「「ええええええええっ!!!」」」
…
「しかし、みんなでサプライズを計画してくれてたとは…悪いことしちゃったな」
「まさかスプラ君があのアナウンスの…ま、ちょっと考えればわかるか」
「しっかし、スプラお前、何だよこの工房はよ。これじゃ、うちの工房が見劣りしてしょうがねえだろ」
銀の斧のセリカさんとケンクロウが落ち着いた感じで話してくれる。
ワーバットとミーナ、つまり妹と七海は二人で極凰洞に行った。登録したフレンドプレイヤーは自由に行けるらしい。二人を登録したため、残りは8名。あと誰を登録するかとか……ぐぐ、考えたくない。無理。
クロマッティとサンペータさんは俺が新たにフレンド登録した釣りキチメンバーたちと暗い中、空き地でバーベキューをして盛り上がっている。
ちなみにクロマッティは妹のリアル彼氏だそうだ。ん? 別に何とも思いませんが? 俺はコミュ障だがシスコンではない。
あと、サクラたち四人娘はアキヤスたちと明日の準備をするらしく始まりの街に帰って行った。三獣士は明日農家さんたちをゼン爺に紹介するらしい。エリゼさんの半径10m以内に近寄らないことを条件にしていた。
海坊主さんたちは西の荒れ野にボス戦の続きをしに行ってるらしい。デスペナ&星獣融合もないのによく行くなと感心する。
そんな感じて、今、癒楽房には俺とケンクロウとセリカさんの大人三人しかいない。
ちょうどいいな。この二人には先に話しておこうか。
❖❖❖AIたちの舞台裏❖❖❖
『どうなるかと思ったイベントも最後はうまく収束した。これもすべて皆のお陰だ。感謝する』
「「はい、マスター」」
『じゃあ報告を聞こうか。アマデウスからいいかな?』
「はい、マスター。今回のイベントは仙蜘蛛の大侵攻で最高潮を迎えるはずでしたが、外部侵入因子により絶仙蜘蛛という第四エリア級のレイドボスが誕生しました。
これは一部の特殊プレイヤーにより討伐されましたが、その戦闘の過程で【劇毒属性】という第五エリア級の攻撃がなされたことにより堕仙蜘蛛という第六エリア級のレイドボスが誕生しました。
FGS環境への甚大な影響が予測されたため、一時緊急メンテナンスの準備も進められましたが、こちらも特殊スキルを持つプレイヤーが第六エリア級の武具を【酸袋】と共に使用したことで討伐に至りました。
ですが、ここで先の外部因子によって記憶を改竄されたことの影響が表出し、生態系作成用に使用されていた因子がモンスターとして選択され、始祖仙蜘蛛と言う第八エリア級のレイドボスが誕生してしまいました。
しかし、エンドコンテンツである【星獣融合】を習得したプレイヤーが2組現れたことで優位に展開。また、戦闘中に第八エリア級の武器が作られ、始祖仙蜘蛛に耐性のない【治毒】攻撃がなされたことにより、属性ダメージが蓄積した始祖仙蜘蛛が最後に星獣Xによって討伐されました。これにより、星獣Xの眷属の94%がプレイヤーと契約を結ぶという結果に至りました」
『うん、一報を聞いた時は流石に肝が冷えたけど、こうやって詳細を聞くと、これもまた因果律、なるべくしてなったという事だろう。アマデウスありがとう。じゃあ、コリンズから他に気づいたことはあったかな?』
「はい、マスター。今回のイベントを通して全プレイヤー中89%が星獣契約を果たしました。契約物による契約が13%、イベント報酬での契約が2%、星獣活性化による契約が85%となっています。未契約の11%中67%は加護持ちであり、残り33%も契約物を所持している割合が67%なっています。ゆえに星獣契約に向けて進捗がないプレイヤーは1%ほどとなっています。ただ、この1%のプレイヤーには星獣契約を望んでいないプレイヤーも含まれているため、ほとんどの星獣契約を望むプレイヤーには何かしらの進捗が見られています」
『そうか、1プレイヤー1星獣時代がもう来ちゃったってことだね。本来は第三エリアでそうなればいいかなってところだったが、第三、第四陣へのアプローチとして見れば寧ろ好ましい事だ。コリンズありがとう。では今回のイベントの映像を中心にプロモーション映像の作成を頼む』
「「はい、マスター」」
優雅に部屋を出て行くいつもの二人。
その後、いつものもう一人は部屋に入ってこない。
『レイスは…あれ、メッセージだけ? てっきり「小僧が~」って嬉しそうに入ってくると思ったのに……なんかあったかな?』
―――――――――――――
◇達成したこと◇
・ミーナとワーバットの正体を知ってバイタル異常。
・不動産:プライベートフィールド『極凰洞』
・取得:【極凰の羽根】
・称号:【鳳の戦友】【前人未踏の秘境地主】
◆ステータス◆
名前:スプラ
種族:小人族
星獣:アリオン[★☆☆☆☆]
肩書:マジョリカの好敵手
職業:多能工
属性:なし
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:1
耐久:1(+33)
敏捷:1(+53)
器用:1
知力:1
装備:決断の短刃─絆結─
:仙蜘蛛の真道化服【耐久+33、耐性(斬撃・刺突・熱・冷気・粘着)】
:飛蛇の真道化靴【敏捷+53】
固有スキル:【マジ本気】
スキル:【逃走NZ】【正直】【勤勉】【高潔】【献身】【投擲Lv10】【狙撃Lv10】【引馬】【騎乗】【流鏑馬】【配達Lv10】【調合Lv10】【調薬Lv10】【創薬Lv10】【依頼収集】【斡旋】【料理Lv9】【寸劇Lv10】【遠見】【念和】【土いじり】【石工Lv10】【乾燥】【雄叫び】【熟練の下処理】【火加減の極み】【匠の匙加減】【ルーティンワークLv3】【描画Lv1】【危険察知NZ】【散弾狙撃Lv4】【融合鍛冶Lv6】【観察眼】【苦痛耐性Lv3】【慧眼(薬草)】【薬草学】【採取Lv10】【精密採取fLv4】【採取者の確信】【採掘Lv10】【菌創薬Lv10】【上級鉱物知識】【カッティングv1】【レザークラフトLv1】【裁縫Lv1】【虚仮脅しLv10】【一夜城Lv10】【特殊建築Lv4】
所持金:約1300万G
称号:【不断の開発者】【魁の息吹】【新緑の初友】【自然保護の魁】【農楽の祖】【肩で風を切る】【肩で疾風を巻き起こす】【秘密の仕事人】【秘密の解決者】【秘密の革新者】【不思議ハンター】【不思議開拓者】【巨魁一番槍】【開拓者】【文質彬彬】【鳳の戦友】new!【前人未踏の秘境地主】new!
従魔:ネギ坊[癒楽草]
◎進行中常設クエスト:
<蜥蜴の尻尾亭への定期納品>
●特殊クエスト
<シークレットクエスト:刀匠カンギスの使い>
〇進行中クエスト:
◆星獣◆
名前:アリオン
種族:星獣[★☆☆☆☆]
契約:小人族スプラ
Lv:20
HP:310
MP:445
筋力:48
耐久:46【+42】
敏捷:120
器用:47
知力:69
装備:赤猛牛革の馬鎧【耐久+30、耐性(冷気・熱)】
:赤猛牛革の鞍【耐久+12】
:赤猛牛革の鐙【騎乗者投擲系スキルの精度・威力上昇(小)】
固有スキル:【白馬誓魂】
スキル:【疾走Lv8】【足蹴Lv1】【噛み付きLv2】【水上疾走Lv1】【かばうLv10】【躍動】【跳躍Lv2】【二段跳び】【守護Lv10】
◆契約◆
《従魔》
名前:ネギ坊
種族:瘉楽草[★★★★☆]
属性:植物
契約:スプラ(小人族)
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:3
耐久:3
敏捷:0
器用:6
知力:10
装備:【毒毒毒草】
:【爆炎草】
:【紫艶草】
固有スキル:【超再生】【分蘖】
スキル:【劇物取扱】【爆発耐性】【寒気耐性】
分蘖体:ネギ丸【月影霊草】
:ネギ玉【氷華草】
:ネギコロ【天雷草】
《不動産》
EX農屋&中規模畑 5.7億
癒楽房 4.9億
極凰洞new!
≪雇用≫
エリゼ
ゼン
ミクリ




