第238話 始祖たる所以
「逃げたか」
ミーナを蜘蛛糸で捕縛した始祖仙蜘蛛がそのまま極鳳堂を駆け上り地上へ逃げたらしい。地上がプレイヤーたちの悲鳴で大変なことになっている。
しかし、逃げるならこの横穴だと思っていただけに地上へ出て行ったことには首を傾げざるを得ない。
「アリオン、とりあえず追うぞ」
『ヒヒーーン』
壁をぐるぐる回りながら二段跳びをうまく使って崖を登るアリオン。ものの十数秒で地上に駆け上がる。
「そっちか」
「どこいった」
「とりあえず固まるな、的になるぞ」
サンペータさんとクロマッティがプレイヤーたちをまとめるのに必死だ。てかクロマッティ、死に戻ってからもう来たのか。
「サンペータさん」
「あ、スプラさん、無事でしたか」
「始祖仙蜘蛛がこっちに来たみたいですが」
「ええ、一瞬で数人が死に戻りました。ワーバットさんから始祖仙蜘蛛の事は聞いてます。瞬間移動するとか」
「ええ、ほぼ瞬間移動ですね。アレどこ行きました?」
「そうですね……あれですかね?」
サンペータさんが指さすのは空湖。湖面に不自然な波があちこちで起きている。
湖の上か。何してんだ? で、ミーナも一緒なのか?
ステータス画面でミーナの状況を確認するがHPはそのまま変わらず。満腹度だけ少し減ったか。ストレージ経由でポーションを使おうとしたが、距離が離れすぎてて使えない。
「アリオン、行ける?」
『ヒヒン』
アリオンからは『やってみせる』と意気込みが伝わってくる。もともと負けず嫌いだからなアリオンは。
「よし、アリオン、行くぞ」
『ヒヒヒーーーン』
身体強化ポーションを使ってステータスアップしたアリオンが崖を力強く降りていく。湖面も蹴って始祖仙蜘蛛がいるであろう波立つ湖面をめがけて突っ走る。そして走る先に動きが止まった始祖仙蜘蛛の姿が現れる。
「【一夜城】時間差&【散弾狙撃】」
ザッバーン キラキラ
突如湖面に現れた20mの張りぼてが、沈む前にダーツによってポリゴンに変わる。そのポリゴンの中を散弾したダーツがそこにいるはずの始祖仙蜘蛛を襲っていく。
ザブン
が、もちろん見てからでも反応できる始祖仙蜘蛛に通用するはずもなく、再び姿を消す始祖仙蜘蛛。
「やっぱ、速すぎるな……ん? なんだ?」
始祖仙蜘蛛がさっきまでいた場所が何か変だ。アリオンが用心しながら少しずつ近づいてくれる。俺も【遠見】で確認する。
「ん? 魚?」
以前に俺が空湖で見つけた魚のボーナスステージ。群れ過ぎて水上に押し出させるように跳ねまくる魚たち、その銀色の鱗が光に反射してキラキラして眩しかったアレが目の前にある。
ザブン
そうしているうちに湖の反対側で再び着水音。あちこち移動を終えた始祖仙蜘蛛が止まって姿を現している。
「アリオン、行くぞ。ミーナを助ける」
『ヒヒヒーン』
手に黒曜ダーツを準備して始祖仙蜘蛛に向かう。俺たちが向かってくるのをその赤紫の目で捉えているはずの始祖仙蜘蛛がじっと動かずこちらを窺っている。そしてその背後には蜘蛛糸で巻いたミーナを隠すように位置させている。
「【一夜城】…【散弾狙撃】」
なんとか隙を作ってミーナを縛っている蜘蛛糸を切り飛ばしたい。
【一夜城】のポリゴンが消える前に始祖仙蜘蛛を再びダーツが襲う。1本でもいい。ダメージを与えられれば毒であの動きを少しでも抑えることができるはず。
ザブン
だが、当然のように水面を蹴る音だけを残して姿を消す始祖仙蜘蛛。これではキリがない。
……のだが、なにかおかしい。
さっきから全く攻撃してこない。四段攻撃をされたらと思ってアリオンに身体強化ポーションを使っておいたのに、結局ここまで一度も攻撃を受けなかった。
そして強化時間が終わる。
「クールタイム待ちか……んん? アリオン、あそこ」
『ヒン』
アリオンが湖面を歩いて俺が指す場所に向かう。一応は警戒するが、危険反応はない。そりゃそうだ。そこにいるのはただの魚。集まり過ぎてピチピチと水面を飛び跳ねる大量の魚たち。
「また魚? どういうこと…… え、もしかして? え、そういうこと?」
なるほど、そりゃFGSだもんな。すべてには原《《因》》があるから結《《果》》が起きる。そうか、そういう事か。
「アリオン、追いかけまくるぞ」
『ヒヒーーン』
アリオンが躍動し湖面を蹴る。小さな水飛沫を上げながら湖面を疾走するアリオン。その先には再び姿を見せている始祖仙蜘蛛。
「そういう事ならもう小細工はいらんな。【散弾狙撃】」
ザブン
大きな水飛沫を上げて姿を消す始祖仙蜘蛛。しかし水飛沫のあがる方向が始祖仙蜘蛛の移動方向を教えてくれる。
「アリオン、あっち」
『ヒヒーン』
俺が指すとほぼ同時にアリオンも向きを変える。どうやらアリオンも水飛沫から始祖仙蜘蛛の逃げた方向を予測しているようだ。
「【散弾狙撃】」
射程に入った途端に放つダーツ。そして水飛沫と共に姿を消す始祖仙蜘蛛。すぐに追いかける俺たち。
こうして始まった追いかけっこが終わったのは4回目を終えた時だ。
KIIIIIEEEEEE
俺たちのしつこさに業を煮やしたのか始祖仙蜘蛛がこっちに向かってくる。すかさずクールタイムが明けた身体強化ポーションとスプラ印をアリオンに使う。
『ヒヒーーーン』
ザブン
余裕をもって四段攻撃を躱すアリオン。身体強化ポーションの効果か、アリオンの学習速度が勝ってきたのか。おそらくそれらにプラスしてもう一つの理由もあるのだろう。
「腹ペコ蜘蛛ってか」
そう、明らかに動きが鈍っている。ひとつひとつの動きにこれまでのような圧倒してくる迫力がない。つまりこれは飢餓状態のステータスダウン効果。
「魚食べたいよな。でも戦闘中に食べるって難しいんだぞ。今、お前が捕まえているその猫さんならコツを知ってるんだけどな」
完全に理解した。
コイツがミーナを連れて地上に出た目的は腹ごしらえだ。湖上を駆けまわって魚のボーナスステージを探してたんだろう。ミーナのコスパの悪さを見ればわかる。突出したスピードにはその代償が付いて回る。それが因果と言うものだ。
エンペラーもクソ速かったが、始祖仙蜘蛛のスピードはそれ以上。しかも移動距離が桁違いに長い。燃費は最悪だろう。
動きが少しでも鈍くなったのならその目を狙わせてもらうぞ。
KIIEEE KIIEEE KIIEEE
俺がダーツを構えると始祖仙蜘蛛がその赤紫の目で俺を見つめる。色は変わっても相変わらず嫌な目だ。
GUURRRRAAAAAA
「っぐぐぐ、なんちゅうう音」
俺を見つめていたと思ったら今度は腹の底から絞り出したような絶叫。周りの崖や山地に反響してやまびこ状態になる。
「……ん? なんだ?」
始祖仙蜘蛛の絶叫が終わって2、3秒後、湖面にさざ波が広がっていく。地震か何かか?
KIIIIIEEEEEE
そして始祖仙蜘蛛が動く。が、今度は今までとは真逆、陸地へと向かった。
逆を突かれて出遅れたが、なんとか後を追いかける。陸地を見ると未だ仙蜘蛛とプレイヤーたちがイベントクライマックスとなる激闘を繰り広げている。
そのただなかに現れる始祖仙蜘蛛。プレイヤーたちから悲鳴が聞こえる。特に女性プレイヤーたちが混乱したようだ。確かにああいう脚の長い蜘蛛は気持ち悪いもんな。しっかし…
「何で今度は陸なんだ? 魚はいいのか……って、げっ!」
陸に上がった始祖仙蜘蛛が仙蜘蛛の大群を食い始めた。流石にこれは俺でも気持ち悪い。プレイヤーたちからは黄色くない悲鳴もたくさん聞こえている。
「アリオン、アイツ共食い始めた。なんかヤバそうだ。急ごう」
『ヒヒーン』
GUSHA GUSHA GUSHA
「散弾狙撃」
手当たり次第に食べまくる始祖仙蜘蛛に向かい30本のダーツが飛んでいく。
カンカンカン……
そのすべてをその細い脚で弾く始祖仙蜘蛛。子仙蜘蛛を食いながら俺を振り返る。
「は? え?」
その顔を見た俺は混乱する。なぜなら、その顔に五芒星の一部が復活しているのだ。すでに頂点の3つに赤紫の光が灯っている。
「共食いでダメージ回復すんの? マジか」
これは予想外過ぎる。レイドボスに有るまじき鬼畜仕様だ。ここは何としても邪魔しないと……っし、爆裂ポーションで餌の子仙蜘蛛を一掃してやる!
「【投……げっ」
俺の目的を察知したのか、始祖仙蜘蛛が今度はミーナを前面に出してくる。こいつやっぱIQ高い系だったか。一番嫌なことをしてくる。
「くそっ、だったら黒曜ダーツでそのまま蜘蛛糸を……」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
「なんだ? 次は地震か?」
地面が振動する。そしてその振動が徐々に大きくなってくると、俺の視界も反応を始める。俺と始祖仙蜘蛛の間の地面が真っ赤に染まったのだ。なんだ? 土竜鮫でも出くるのか?
いや、そんなことより今は共食いをやめさせないと。
「共食いなんて腹壊すぞっ!」
カンカンカン…
手当たり次第に狙撃したダーツが全て弾かれる。
「こうなりゃ弾尽きるまで打ち続け…おわっ」
突然俺の足元が隆起を始め、狙撃モーションがキャンセルされる。
……これはスタン攻撃。
『ヒヒーーン』
アリオンが【守護Lv10】を発動。その場を一気に離れる。
ドドドドドドカーーーーン
「はああああああ? マジで?」
隆起する地面が裂けて中から姿を見せたのは……3匹の極仙蜘蛛だった。
❖❖❖レイスの部屋❖❖❖
「先輩、あの魚の大群が集まる場所って、本来は空湖のヌシを呼び寄せるためのものだったはずですよね」
「ああ、そうだな」
「それが始祖仙蜘蛛の餌場になるとか、不思議な因果っすね」
「ああ、そうだな」
「はあっ、共食い? 始祖仙蜘蛛は自らが削られることでリソースを生態系に還元するはずなのに、これは真逆の行動っす。こんなの予測に全くなかったことっすよ」
「ああ、そうだな」
「あああ、極仙蜘蛛が3体って。モンスターリソースが集まり過ぎっす。どうすればいいんすか――」
「ああ、そうだな」
「先輩、聞いてます?! 早く対処しないと本当に大変なことになるすっよ」
「だから、今やってるって!」
「あ、そうだったんすね。すみません、生意気なこと言って」
「とりあえず極鳳堂のからの半分を空湖へ移動。陸の方は……ライス、管理AIの本部で新しく仕入れてきてくれ」
「えっと……なんのことっす?」
「視点カメラに決まってるだろ」
「……え、カメラ?」
―――――――――――――
◇達成したこと◇
・始祖仙蜘蛛の燃費の悪さを見抜く。
・始祖仙蜘蛛の食事の邪魔をする。
・共食いにドン引き。
・極仙蜘蛛に憤る。
◆ステータス◆
名前:スプラ
種族:小人族
星獣:アリオン[★☆☆☆☆]
肩書:マジョリカの好敵手
職業:多能工
属性:なし
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:1
耐久:1(+33)
敏捷:1(+53)
器用:1
知力:1
装備:仙蜘蛛の真道化服【耐久+33、耐性(斬撃・刺突・熱・冷気・粘着)
】
:飛蛇の真道化靴【敏捷+53】
固有スキル:【マジ本気】
スキル:【逃走NZ】【正直】【勤勉】【高潔】【献身】【投擲Lv10】【狙撃Lv10】【引馬】【騎乗】【流鏑馬】【配達Lv10】【調合Lv10】【調薬Lv10】【創薬Lv10】【依頼収集】【斡旋】【料理Lv9】【寸劇Lv10】【遠見】【念和】【土いじり】【石工Lv10】【乾燥】【雄叫び】【熟練の下処理】【火加減の極み】【匠の匙加減】【ルーティンワークLv3】【描画Lv1】【危険察知NZ】【散弾狙撃Lv4】【融合鍛冶Lv6】【観察眼】【苦痛耐性Lv3】【慧眼(薬草)】【薬草学】【採取Lv10】【精密採取fLv4】【採取者の確信】【採掘Lv10】【菌創薬Lv10】【上級鉱物知識】【カッティングv1】【レザークラフトLv1】【裁縫Lv1】【虚仮脅しLv10】【一夜城Lv10】【特殊建築Lv4】
所持金:約1300万G
称号:【不断の開発者】【魁の息吹】【新緑の初友】【自然保護の魁】【農楽の祖】【肩で風を切る】【肩で疾風を巻き起こす】【秘密の仕事人】【秘密の解決者】【秘密の革新者】【不思議ハンター】【不思議開拓者】【巨魁一番槍】【開拓者】【文質彬彬】
従魔:ネギ坊[癒楽草]
◎進行中常設クエスト:
<蜥蜴の尻尾亭への定期納品>
●特殊クエスト
<シークレットクエスト:刀匠カンギスの使い>
〇進行中クエスト:
◆星獣◆
名前:アリオン
種族:星獣[★☆☆☆☆]
契約:小人族スプラ
Lv:20
HP:310
MP:445
筋力:48
耐久:46【+42】
敏捷:120
器用:47
知力:69
装備:赤猛牛革の馬鎧【耐久+30、耐性(冷気・熱)】
:赤猛牛革の鞍【耐久+12】
:赤猛牛革の鐙【騎乗者投擲系スキルの精度・威力上昇(小)】
固有スキル:【友との約束】
スキル:【疾走Lv8】【足蹴Lv1】【噛み付きLv2】【水上疾走Lv1】【かばうLv10】【躍動】【跳躍Lv2】【二段跳び】【守護Lv10】
◆契約◆
《従魔》
名前:ネギ坊
種族:瘉楽草[★★★★☆]
属性:植物
契約:スプラ(小人族)
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:3
耐久:3
敏捷:0
器用:6
知力:10
装備:【毒毒毒草】
:【爆炎草】
:【紫艶草】
固有スキル:【超再生】【分蘖】
スキル:【劇物取扱】【爆発耐性】【寒気耐性】
分蘖体:ネギ丸【月影霊草】
:ネギ玉【氷華草】
:ネギコロ【天雷草】
《不動産》
EX農屋&中規模畑 5.7億
癒楽房 4.9億
≪雇用≫
エリゼ
ゼン
ミクリ




