第237話 涼色のバングル
始祖仙蜘蛛の脚が全て凍結から解放された。
DAN!
『ヒヒヒーーン』
ピンポーン
『特定行動により星獣アリオンの【守護Lv7】のレベルが上がりました』
アリオンが吹っ飛ばされ、HPが一気にレッドゾーンに。
一段攻撃のはずなのに、アリオンの予測守護が全く間に合わなかった。8本脚が揃って元々の速度から桁違いに増加したらしい。
くそ、脚数の割合計算だと思ってたのに。
クールタイムを終えたばかりHPポーションを使用する。だが次は間に合わないだろう。
『ヒヒヒーーーン』
DADAN!
ピンポーン
『特定行動により星獣アリオンの【守護Lv8】のレベルが上がりました』
始祖仙蜘蛛が今度は二段攻撃を仕掛けてきた。確実に仕留めようってことだろう。だが、今回はアリオンがその攻撃を避けた。先の一段攻撃から二段攻撃の予測を割り出したか。すごいなアリオン。
全ての脚が解放された始祖仙蜘蛛の速さはすでに音を完全に置き去りにしている。本来なら一撃で死に戻りしているところだろうが、こっちもアリオンの【守護】の予測速度と精度が飛躍的に増している。
『ヒヒヒ--ン』
DADADAN!
ピンポーン
『特定行動により星獣アリオンの【守護Lv9】のレベルが上がりました』
今度は三段攻撃も避ける。そしていよいよアリオンの【守護】がカンストする。普段ならレベルカンストは嬉しいものだが今回ばかりは全く嬉しくない。
『ヒヒヒーーン』
DADADADAN! DON!
「ぐふっ」『ヒヒーーーン』
カンストした【守護Lv10】をいきなり超えてくる四段攻撃。しかも今回は俺にもダメージが2入った。かばい切れなくなったという事は、どうやらこの四段攻撃はアリオンの予測を遥かに超えてきたらしい。
段数攻撃の予測は段数が増えるごとに指数関数的にバリエーションが増える。三段から四段になる際のバリーションの増え方は一段から一気に三段まで増えた時の更に数倍にも上るだろう。それはつまり予測にかかる時間も数倍になるということ。ここまではなんとなく予想は付いていた。
しかし…
「【守護Lv10】の上はなかったかあ…」
自分とアリオンに【HPポーション】を使って回復する。【守護】がカンストしたらさらに上位の守護スキルが解放されるのではとの期待もあった。だがそれがなかったとなると後は…。
『ヒヒヒーーン』
DADADADAN! DON!
「があっ」『ヒヒーーーン』
再び決まる四段攻撃。やはり四段目の攻撃にはまったく予測は追いつかないようだ。HPポーションのクールタイムの残り4秒。始祖仙蜘蛛の硬直はもう解けるだろう。
「くそ、終わった」
『ヒヒヒーーン』
DADADADAN! DOドン! ドガーン
「え?」
始祖仙蜘蛛の四段攻撃。確実に俺たちを死に戻りさせるはずだった四段目の攻撃が来ない。見ると対面の壁に立ち上る土煙と薄らぼんやりした影。なんだ?
薄暗い極凰洞。一瞬その遠い空から光が注ぐ。
影の一部がキラリと光る。涼やかな水色、藍玉の輝き。
「奇遇だな、こんなところで」
「……」
懐かしいな、このロール。……クソ水色銀仮面。
「え、ネギちゃん、またそこなの? 触れ合いにくいんだけど。リオンちゃんの上がよかった」
「いくら猫っても気まぐれすぎんだろ。それより、早くしないと15秒終わるぞ。ウルトラファイター」
「30秒」
「ん?」
「【飢餓耐性】生えた。もうそこまで腹ペコじゃない」
「飢餓……やったじゃん!」
「うん」
KIIIIEEEEEEEE!! DAN!
奇声が響き始祖仙蜘蛛が土煙から姿を現す。だが、その五芒星の一つが消えている。
ドドドドドドドン ドッカーーーン
見えない戦い。しかし、どっちが優勢かはよくわかる。見えはしないが感じることはできる。もう慣れたあの感じだ。
「イケメンはどうした?」
「イケメン? だれ?」
「高身長イケメン」
「ああ、料理人。料理はまあまあ。ぎり満腹度回復するくらい」
「その料理人はどうした?」
「急に消えた。バグみたいになって。で、その時【飢餓耐性】生えた」
「なんかわからんけど良かったな、コスパ改善して」
「高級コスパ店だからありがたく思いなさい」
ピンポーン
『プレイヤー「ミーナ」からパーティー加入申請がありました。承諾しますか?』
「んじゃ、『拒否』っと」
「ああ?」
「…嘘です。ごめんなさい」
心の底まで凍りそうな冷気。だけど今は全く凍りそうにない。
ピンポーン
『プレイヤー「ミーナ」がパーティーに加わりました』
名前:ミーナ
種族:魔獣三尾猫
星獣:セブンシーズ
肩書:マーサの娘
職業:食肉問屋
属性:なし
Lv:20
HP:20
MP:340
筋力:2
耐久:2
敏捷:343
器用:2
知力:2
装備:路地裏工房のオーバーオールセット
:勘違い男の品質ダウンジャケット
:藍玉のバングル
固有スキル:【マジ舞餌】
スキル:【連撃】【一撃】【結界】【回避】【挑発NZ】【回避NZ】【狂化撃】【グルメ】【飢餓耐性】
……ぐ、興味本位で覗いてみたら気になることだらけじゃねえかよ。戦闘中じゃなけりゃ問い詰めるんだが。くそ、気になる。
「覗き魔ピエロさん、まだ戦闘中ですよ」
「……そうですね」
ぐぐぐ、心読み本家の正確さよ。ワーバット、こういうところは真似するんじゃないぞ。
KIIIIIIIIIEEEEEEEE
DAN!
超高音域の叫び。そして五芒星の上半分を失った始祖仙蜘蛛が怒りで残りの目を赤く染め上げる。ここからが本気の勝負だな。
「モグモグ、あと5個か」
覚醒状態が終わったミーナが食事タイムをこなしている。残り30秒で5個。普通の引き算ならちょうど終わるんだがな。
「ミーナ、アイツの目が赤くなった。たぶんヤバいぞ」
「うん、わかってる。んじゃ行ってくる」
ミーナが2本の尻尾を機嫌よく揺らすと姿を消す。
ドドドン DADADAN
ドドドドン DADADADAN
目には見えないが衝撃音だけが伝わってくる。が、始祖仙蜘蛛が吹っ飛ばされる様子は一向に現れない。
「(一人じゃ無理、ヘルプ)」
「うっし、【一夜城Lv10】」
ドッシーーン
ドン ドカーーーン
俺が出した一夜城。出した途端にポリゴンに変わる。と同時に衝撃音。壁に立ち上る土煙。
「ごめん、2個残った、モグモグ」
「いや、出来すぎだ」
赤い目になった始祖仙蜘蛛の戦闘力は倍じゃ済まないだろう。それを【一夜城】一つ出しただけで5個中3個も仕留めるんだからさすがとしか言いようがない。これはチートスキルもあるが、プレイヤースキルとIQも相当だぞ。
「さて、チート猫がいてあと二つなら……なんとかなるか?」
「だれがいいところに来て中途半端で終わる猫よ」
「……言ってませんが?」
それに思ってもいない。
「…ちなみに思ってもいないぞ」
「……ほんと?」
「これはマジ」
「……そっか」
1本に戻ったミーナの尻尾がリズミカルに揺れる。
「うっし、ここからは共同作業でやりますか」
「……ケーキカットじゃないから」
「……?」
「……なにすればいい?」
そっか、ミーナはケーキ好きだったか。じゃ、マーサさんに作り方聞いてみるか。そういや、米粒っ子もケーキ好きだったよな。少しでも大きな方を選ぶために目見開いてチェックしてたっけ。
KIIIIEEEEEEE
再び木霊す高音域の声。
DAN!
そしてミーナの目と鼻の先に現れる2つの目。五芒星の一番下の2つの赤い目が猫をじっと見つめる。リアルなら猫の圧勝なのだが…
「動き回って」
「りょ…」
言い終わる前に消えるミーナ。と同時に消える始祖仙蜘蛛。衝突音はないがミーナの満腹度が目に見えて減っているのを見ると、とんでもない速さの攻防がなされているのがわかる。
「よし、じゃあ今の内に作るか。【一夜城】【一夜城】【一夜城】【一夜城】……」
…
よし、完成。ミーナの満腹度は…ギリギリOK。
「ミーナ、俺の前…」
「ここ?」
「どわっ」
いや、呼んだけど……呼ぶと同時に現れるとかする?
KIIIISHIIIIIII KISHA KISHA KISHA
「お、かかったみたいだな」
「おお、定置網?」
「そう。良く知ってんな」
「クソ親父に」
定置網漁は、箱型の網の中に魚を誘導するように別の網をはる仕掛け漁だ。
今回は箱型網の代わりに仙蜘蛛の網を使い、誘導用の網の代わりに【一夜城】をじょうご型に置いた。じょうごの先にミーナを呼び、じょうごで誘導した始祖仙蜘蛛が仕掛けてあった自分の子孫たちの蜘蛛糸に絡まったという訳だ。
KISHA KISHA
始祖仙蜘蛛のクソ細くクソ長い脚に蜘蛛糸が複雑に絡み付く。動けば動く程その脚に絡む蜘蛛糸が締め付けていく。
「紫毒ダーツ」
グサグサ
俺が放ったダーツが始祖仙蜘蛛の2つの目をとらえる。
KISHAAAAAAAAAAAAAAAAAA
始祖仙蜘蛛の絶叫。蜘蛛糸に絡まる脚が一度大きく動き、そして小さく丸まっていく。赤い目が全て消え去った。
「お疲れ」
「うん」
「あそこの天井に珍味がぶら下がってますがどうする?」
「もち。珍味は根こそぎいただきます」
『ブルヒヒン』
『ゆらゆら?』
ん? アリオンが首を振る。ネギ坊も俺の頭をペチペチ。なんだ二人して?
「うわあっ」
背後でミーナの声。振り向くと、ミーナの身体に巻き付く真っ赤な危険反応。そしてそのまま体ごと宙に持ち上げられる。
「ミーナ!」
KISHAAAAA KISHAAAAA
糸を辿るとそこには脚を丸めたままの始祖仙蜘蛛。その頭には消えた五芒星の真ん中で明減する紫の光。
「まだあったのかよ!」
「うわっ、ぐふっ」
蜘蛛糸に持ち上げられそのまま壁に叩きつけられるミーナ。HPがあっという間にレッドゾーンに入る。ストレージからそのままミーナにHPポーションを使って回復する。
KISHAAAAAAA
始祖仙蜘蛛が口を開く。歯も牙も何もない口が見える。そしてそこから湧き上がる液体。コポコポと沸きあがっているその液体を自らの脚に吹きかける。すると白い煙を上げて溶け出す蜘蛛糸。あっという間に前脚の4本が蜘蛛糸から解放される。
……えっと、もしかして【酸】持ちでいらっしゃいます?
DAN!
そのまま姿を消す始祖仙蜘蛛。一瞬置いてミーナも消える。何が起きたのか理解が追い付かない。しかし数秒後、上空から湧き起こったプレイヤーたちの悲鳴で状況を理解した。
❖❖❖レイスの部屋❖❖❖
ライス
「まったく見えないっすね」
ライス
「しっかし音より動きが速いとこんなに気持ち悪いもんなんすね」
ライス
「あ、でもそっか。予測すればいいんすね。でも、星獣AIってこんな高性能でしたっけ?」
レイス
「できたーーーー!」
「あ、先輩おかえりなさい。いけそうです?」
「ああ、十分だ。360度カメラをつけてきてやった。全方位からデータ収集したら逃すことはないだろ。あとはお前がうまい事やって映像化すればいいだけだ」
「え、俺っすか?」
「もちろん。マスターも期待してるからな。ライスには」
「え、期待? マジで?」
「ああ、だからこそ俺に付けたんだぞ」
「(そうだったんすね。開始早々左遷されたんだと思ってました)」
―――――――――――――
◇達成したこと◇
・リオン:【守護Lv10】
・ミーナパーティーメンバー合流。
・ミーナのステータスが気になる。
・始祖仙蜘蛛にミーナを攫われる。
◆ステータス◆
名前:スプラ
種族:小人族
星獣:アリオン[★☆☆☆☆]
肩書:マジョリカの好敵手
職業:多能工
属性:なし
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:1
耐久:1(+33)
敏捷:1(+53)
器用:1
知力:1
装備:仙蜘蛛の真道化服【耐久+33、耐性(斬撃・刺突・熱・冷気・粘着)
】
:飛蛇の真道化靴【敏捷+53】
固有スキル:【マジ本気】
スキル:【逃走NZ】【正直】【勤勉】【高潔】【献身】【投擲Lv10】【狙撃Lv10】【引馬】【騎乗】【流鏑馬】【配達Lv10】【調合Lv10】【調薬Lv10】【創薬Lv10】【依頼収集】【斡旋】【料理Lv9】【寸劇Lv10】【遠見】【念和】【土いじり】【石工Lv10】【乾燥】【雄叫び】【熟練の下処理】【火加減の極み】【匠の匙加減】【ルーティンワークLv3】【描画Lv1】【危険察知NZ】【散弾狙撃Lv4】【融合鍛冶Lv6】【観察眼】【苦痛耐性Lv3】【慧眼(薬草)】【薬草学】【採取Lv10】【精密採取fLv4】【採取者の確信】【採掘Lv10】【菌創薬Lv10】new!【上級鉱物知識】【カッティングv1】【レザークラフトLv1】【裁縫Lv1】【虚仮脅しLv10】【一夜城Lv10】【特殊建築Lv4】
所持金:約1300万G
称号:【不断の開発者】【魁の息吹】【新緑の初友】【自然保護の魁】【農楽の祖】【肩で風を切る】【肩で疾風を巻き起こす】【秘密の仕事人】【秘密の解決者】【秘密の革新者】【不思議ハンター】【不思議開拓者】【巨魁一番槍】【開拓者】【文質彬彬】
従魔:ネギ坊[癒楽草]
◎進行中常設クエスト:
<蜥蜴の尻尾亭への定期納品>
●特殊クエスト
<シークレットクエスト:刀匠カンギスの使い>
〇進行中クエスト:
◆星獣◆
名前:アリオン
種族:星獣[★☆☆☆☆]
契約:小人族スプラ
Lv:20
HP:310
MP:445
筋力:48
耐久:46【+42】
敏捷:120
器用:47
知力:69
装備:赤猛牛革の馬鎧【耐久+30、耐性(冷気・熱)】
:赤猛牛革の鞍【耐久+12】
:赤猛牛革の鐙【騎乗者投擲系スキルの精度・威力上昇(小)】
固有スキル:【友との約束】
スキル:【疾走Lv8】【足蹴Lv1】【噛み付きLv2】【水上疾走Lv1】【かばうLv10】【躍動】【跳躍Lv2】【二段跳び】【守護Lv10】new!
◆契約◆
《従魔》
名前:ネギ坊
種族:瘉楽草[★★★★☆]
属性:植物
契約:スプラ(小人族)
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:3
耐久:3
敏捷:0
器用:6
知力:10
装備:【毒毒毒草】
:【爆炎草】
:【紫艶草】
固有スキル:【超再生】【分蘖】
スキル:【劇物取扱】【爆発耐性】【寒気耐性】
分蘖体:ネギ丸【月影霊草】
:ネギ玉【氷華草】
:ネギコロ【天雷草】
《不動産》
EX農屋&中規模畑 5.7億
癒楽房 4.9億
≪雇用≫
エリゼ
ゼン
ミクリ




