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第235話 静寂の極凰洞

 黒煙に支配され地獄と化した極凰洞。


 そこにポリゴンの金色の光が輝く。



 その光の中に立つ影が1つ。


 鬼のような形相をしたのクロマッティが、丈2mの【海男のド根性大漁刀】を片手に仁王立ちしていた。


 二度大きく肩で息をすると、大漁刀を地面にぶっ刺す。足元で倒れるワーバットを抱きかかえると、その視線を堕仙蜘蛛へと向け射殺さんとばかりに睨みつける。



 ……えっと、なにかの映画かなんかでしょうか?



 赤い羽衣を来た竜人を抱えた白パンツ&黒タンクトップ。ぜんぜん似合わないはずが、なぜか妙に絵になって見える。なぜだ?



 俺がその疑問に頭を捻っている間に、クロマッティはワーバットを壁際にそっともたれさせる。そして地面に突き刺した大漁刀を引き抜くと、そこに液体をドボドボとかける。すると、その刀身から白い煙が立ち上った。



 ……白い煙? 何かけてるんだ? ドライアイスとかか?


 クロマッティの手元を拡大する。すると、その手に持たれているものが判明。



「えっ? 酸袋? 日本刀に酸かけちゃった?」


 ちょっとだけ引いた俺の気持ちなど知るかとばかりに、大漁刀を肩に担ぐクロマッティ、そのまま堕仙蜘蛛に突っ込んでいく。


 堕仙蜘蛛もすでに赤紫の視線でその姿を捉えてる模様。巨大蛇が一斉に鎌首をもたげクロマッティを迎え撃つ。一斉にクロマッティに振り下ろされる毒牙。



 スパスパスパスパ


 ひと際明るいポリゴンの光。すべての巨大蛇が大漁刀によってポリゴンに変えられる。その光の中から飛び出してくる彫刻のような筋肉。自身よりも長い刀を持ち、クロマッティがその脚を踏み台にして堕仙蜘蛛の体を駆け上がる。



 あっという間に堕仙蜘蛛の目の前に現れた白パンプレイヤー。すでに振りかぶっているのは青光の長刀。右上から左下へまっすぐに糸を引くような美しい軌跡が堕仙蜘蛛の視界を切断する。


 まとめて袈裟斬りにされた三つの目は静かにその赤紫の光を落とした。




 ピロン


 その様子に見とれていた俺の視界に現れるメッセージ受信のマーク。差出人はクロマッティ。


『スプラさん、すみません。貰った日本刀ダメにしちゃいました。あと、ワー坊の後をお願いします』


 内容を確認してすぐに視線を戻すと、自らのポリゴンの光に包まれるクロマッティがこっちに向かって手を振っていた。うん、いい笑顔。そして白い歯が眩しい。



ピコン

『プレイヤー「スプラ」に【堕仙の印】が押されました』




「おーい、ワーバット」

「ん? あ、師匠! あれ? クロは?」


 クロ? クロマッティの事か? 



「クロマッティなら今さっき死に戻ったぞ」

「え、嘘。あ、もしかして、死に戻る前、すっごい怖い顔してませんでした?」


 怖い顔? ああ、してたな。



「すっごい怖い顔で堕仙蜘蛛を睨みつけてたぞ」

「ああ、もう、やっぱり」



 ……クロ、ワー坊。あれ? いつの間にこの二人こんな距離が縮まってたんだ? そしてなんだ、この微妙な心境は。



「あの人、スキル持ちなんですよ。詳しくは本人から聞いてほしいんですけど、怒りの力をステータスアップに変換するみたいなスキルで、死に戻りと引き換えに発動するスキルなんです」


 え、なにその中二心をくすぐるスキル。知りたい。ぜひとも知りたい。俺は絶対に使わんスキルだけど。



「あ、師匠、そんなことより、堕仙蜘蛛は?」

「ああ、あそこ」


 湖の湖畔で全ての脚をきゅっと縮こまらせてひっくり返っている。



「ドロップは何だったんです?」

「……ドロップ?」


 あれ? そういやドロップがないな。……ん? ていうかなんで堕仙蜘蛛がまだそこにいるんだ? あれ?



「あの、師匠、この湖の水ってこんな少なかったでしたっけ?」

「え? 水?」


 言われて湖を見てみると、紫の毒々しい水が…確かに減ってる。あれかな、堕仙蜘蛛がバシャバシャしすぎたから湖の水が減っちゃったのかな。



「師匠、なんか学校のプールと勘違いしてません?」

「え、あ、そ、そう?」


 ぐぐ、心が読まれる。でも、しょうがないじゃん、俺にとって水場と言えば学校のプールなんだから。古き良くもない思い出がたくさんあるんだから。



「しっかし、ほんとに少なくなってるな。どこかに流れてってるのか?」

「どこかって、どこです?」


「いや、そりゃ…底?」

「ああ、そうですね。あんな大きな堕仙蜘蛛が這いずり回ったんですもんね。そりゃ湖の底に穴の一つや二つ……ある訳ねーだろ!!」


 おおお、ワーバットが俺にツッコんできた。なんだ? なんなんだ? 急に関係性を変えていこうとかか? そう言うの俺無理だからな。急に態度変えるとか無理だから。



「ん、あ、す、すみません、スプラ師匠にある訳ねーだろとか言っちゃった」

「あ、ああ、別にいいけど」


 良くないぞ。こういうのは良くない。コミュ障に対してこういうのはどうかと思う。



「でも、アレだな。ここの水で極上発砲水作れただけに、ここの水が汚染されちゃったのは痛かったな」

「あ、そうです。それそれ、その極上発砲水の為に頑張ったんです」


 まあ、そうだよな。あんなどデカい怪物のヘイトを一人で負ってたんだもんな。なんだかんだでよくやったよな。



「え、あれ? でも水がないってことはもう作れない?」


 急に心配そうになるワーバット。そんなもん弟子が頑張ったんだからそれに応えない師匠なんているわけないだろ。会社でも部下の頑張りに応えない上司などおらん。クソ上司以外はな。



「よし、じゃあ、ここで乾杯するか」

「ええっ、やったーー!!」


 いやはや。まさかこんなことになるとは。癒楽房を出る前に持ってきておいてよかった。セメントモリが飲みつくす勢いだったからそっとコップのまま仕舞っておいたやつが二つあるのだ。


 ストレージからコップに入った癒楽極凰発砲水を取り出す。



「はい、これ」

「おお、これが最上級天然発砲水…」

 

 ワーバットが目を見開いてコップの中を覗き込む。覗き込む…覗き込む…込む…


 ……いや、見すぎだから。



「え? あれ?」


 そのワーバットが急に慌て出す。なんかコップの裏を覗いているんだが? なんだ? 賞味期限でも書いてあったか?



「師匠、なんかちょっとずつ減ってるんですけど。なんですか、これ。もしかして炭酸が抜けると量が減る?」

「いやいや、炭酸抜けても量は減ら…な……あれ? 減ってる?」



 二人でコップの中を凝視する。


 いや、確かに減ってる。少しずつだが数秒に1㎜くらい? 目に見えてわかる程度には減っている。なんだこれ? ……ん? まさか?!


 視線を湖に戻す。するとこっちもついさっきより目に見えて水の量が減っている。なんだ? なにが起きてる?



「師匠、アレ見てください」


 そう言ってワーバットが指すのはひっくり返っている堕仙蜘蛛。んん? なんかさっきよりも大きくなってね?



「大きくなってるか?」

「大きく? それはわかりませんが、堕仙蜘蛛が触れてる水の部分見てください」


 水に触れてる部分? 



「なんか流れができてる? ……あ、いや、これ水が堕仙蜘蛛に流れ込んでね?」

「やっぱりそう見えますよね? 湖の水が堕仙蜘蛛に吸い取られてる…あ、発砲水がもう半分もない」


 今度はコップの発砲水が減っている。いや、いったい何が起きてるんだ?



『ブルヒヒン』

『ゆらゆら…』


 耳をクルクル回しながらアリオンが不機嫌そうだ。ネギ坊からもなんとなく不安そうな気持ちが伝わってくる。


 だが二人がそんな様子になる理由も十分に理解できる。なぜなら、俺の危険察知も反応を始めているからだ。そしてその危険の元凶も今はよくわかる。


 湖の水の流れが赤い光となっている。ところどころで渦を巻きながらも全体としては一方向に流れている。


 さらに空中にも赤い空気の流れが見える。こっちも湖の水と同じだ。ところどころでつむじ風を巻き起こしなが一方向に流れていっている。


 それら赤い水と赤い空気の行きつく先はもちろん……堕仙蜘蛛。



 そして俺たちが息を飲んで見ている前で、更なる変化が起きる。元凶であろう堕仙蜘蛛、脚を小さく丸めるようにしてひっくり返っているその巨大がほのかに赤く光り出したのだ。


 堕仙蜘蛛自体に危険察知が反応するという事は…。



「ワーバット、気をつけろ。これ渡しとく」


 ストレージから【特殊HPポーション(大地の祝福)】、【特殊HPポーション】×2、【スプラ印の身体強化ポーション】、【スプラ印の剛力ポーション】、【身体強化ポーション】、【全治ポーション】をトレードで渡す。



「これじゃあ、イベントポイント極大マイナスです」


 そう言いながらも素直にすべてを受け取るワーバット。おそらくこれから起きることをなんとなく予想できているのだろう。


 湖と周囲の赤みがどんどんと薄れていく。それに従って赤みを増していった堕仙蜘蛛。極凰洞のすべてを吸い込んだ堕仙蜘蛛の巨体がその巻き付く包帯ごと激しく燃え出した。


 ……は? 蜘蛛糸が燃えるって? 



ピンポーン

『称号【自然保護の魁】の効果が発動しました。堕仙蜘蛛のエネルギーが規定値を超えました。堕仙蜘蛛が特殊進化します。……特殊進化の過程で先祖返りが選択されました。堕仙蜘蛛が先祖返りします』



 静寂の極凰洞にピンポンさんの意味不明なアナウンスが響いた。



❖❖❖レイスの部屋❖❖❖


「先輩、見事でしたね、あの袈裟斬り」

「ああ、いいもの見せてもらった。だがあのスキル、レイドボス相手にはちと役不足。可能にしたのは小僧の刀だな。いい組み合わせだった」


「スプラさんが自分で持ってたらこんなことにはならなかったって事っすもんね。これも因果律っすかね」

「まあ、そうだな。で、その因果律に横やりを入れたあの何かが影響するとしたらここからだ。レイドボスの記憶に入っちまったバグがこの進化にどんな影響をもたらすのか…」



「……先祖返り? なんすかそれ。…先祖の特徴を持って生まれる? へえ、生物ってそんなことってあるんすね」

「堕仙蜘蛛の先祖……聞いたことねえな」


「あ、先輩、これじゃないっすか? FGSの生態系のごく初期の記録ですけど」

「ほう…ってか、これはモンスターとして作ったもんじゃねえだろうが。生態系生成のための起点因子だろ」


「でも、記憶が改ざんされたんなら…」

「うぐぐ、こんなもんが出てきたらどうにもならんぞ。それこそFGSの生態系が初期に戻っちまう」


「先輩、これは流石に止めたほうが…」

「んぐぐぐぐ」



―――――――――――――

◇達成したこと◇

・クロマッティとワーバットの1シーンに見惚れる。

・クロマッティとワーバットの関係にモヤる。

・堕仙蜘蛛復活の予感。

・ワーバットにいろいろあげ過ぎてポイント極大マイナス。




 ◆ステータス◆

 名前:スプラ

 種族:小人族

 星獣:アリオン[★☆☆☆☆]

 肩書:マジョリカの好敵手

 職業:多能工

 属性:なし

 Lv:1

 HP:10

 MP:10

 筋力:1

 耐久:1(+33)

 敏捷:1(+53)

 器用:1

 知力:1

 装備:仙蜘蛛の真道化服【耐久+33、耐性(斬撃・刺突・熱・冷気・粘着)

 】

 :飛蛇の真道化靴【敏捷+53】

 固有スキル:【マジ本気】

 スキル:【逃走NZ】【正直】【勤勉】【高潔】【献身】【投擲Lv10】【狙撃Lv10】【引馬】【騎乗】【流鏑馬】【配達Lv10】【調合Lv10】【調薬Lv10】【創薬Lv10】【依頼収集】【斡旋】【料理Lv9】【寸劇Lv10】【遠見】【念和】【土いじり】【石工Lv10】【乾燥】【雄叫び】【熟練の下処理】【火加減の極み】【匠の匙加減】【ルーティンワークLv3】【描画Lv1】【危険察知NZ】【散弾狙撃Lv4】【融合鍛冶Lv6】【観察眼】【苦痛耐性Lv3】【慧眼(薬草)】【薬草学】【採取Lv10】【精密採取fLv4】【採取者の確信】【採掘Lv10】【菌創薬Lv10】new!【上級鉱物知識】【カッティングv1】【レザークラフトLv1】【裁縫Lv1】【虚仮脅しLv10】【一夜城Lv10】【特殊建築Lv4】

 所持金:約1300万G

 称号:【不断の開発者】【魁の息吹】【新緑の初友】【自然保護の魁】【農楽の祖】【肩で風を切る】【肩で疾風を巻き起こす】【秘密の仕事人】【秘密の解決者】【秘密の革新者】【不思議ハンター】【不思議開拓者】【巨魁一番槍】【開拓者】【文質彬彬】

 従魔:ネギ坊[癒楽草]


 ◎進行中常設クエスト:

 <蜥蜴の尻尾亭への定期納品>

 ●特殊クエスト

 <シークレットクエスト:刀匠カンギスの使い>

 〇進行中クエスト:



 ◆星獣◆

 名前:アリオン

 種族:星獣[★☆☆☆☆]

 契約:小人族スプラ

 Lv:20

 HP:310

 MP:445

 筋力:48

 耐久:46【+42】

 敏捷:120

 器用:47

 知力:69

 装備:赤猛牛革の馬鎧【耐久+30、耐性(冷気・熱)】

 :赤猛牛革の鞍【耐久+12】

 :赤猛牛革の鐙【騎乗者投擲系スキルの精度・威力上昇(小)】

 固有スキル:【友との約束】

 スキル:【疾走Lv8】【足蹴Lv1】【噛み付きLv2】【水上疾走Lv1】【かばうLv7】【躍動】【跳躍Lv2】【二段跳び】



 ◆契約◆

 《従魔》

 名前:ネギ坊

 種族:瘉楽草ゆらくそう[★★★★☆]

 属性:植物

 契約:スプラ(小人族)

 Lv:1

 HP:10

 MP:10

 筋力:3

 耐久:3

 敏捷:0

 器用:6

 知力:10

 装備:【毒毒毒草】

   :【爆炎草】

   :【紫艶草】

 固有スキル:【超再生】【分蘖】

 スキル:【劇物取扱】【爆発耐性】【寒気耐性】

 分蘖体:ネギ丸【月影霊草】

    :ネギ玉【氷華草】

    :ネギコロ【天雷草】


《不動産》

 EX農屋&中規模畑 5.7億

 癒楽房 4.9億


 ≪雇用≫

 エリゼ

 ゼン

 ミクリ


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