第234話 対 堕仙蜘蛛3
初めて経験する劇毒状態。
自由を奪われた手足。
赤く点滅する呼吸バー。
回転し捩じれる視界。
そしてなぜかその視界の中心に見える肉。
……なんだこれ? なんでこんなところに肉? 劇毒状態って幻覚も見えるのか?
にしても肉の幻覚って…
そんな戸惑う俺の視界の肉がちょこちょこと動く。
その動きはまるで「おいしいよ~、食べてよ~」とでも言っているようだ。
……なんだよ、そんなに旨そうに動くなよ。わかったから。食ってやるからそんなに動くな。
もぞもぞと体を動かして肉まで移動する。
……ああ、この肉は森鹿肉だな。モモ肉か。ミーナの満腹度回復には品質が足りないやつだな。こんな旨そうなのになんで回復しないのかね。
「(パクリ)」
「よっしゃ―――!! かかった!! みんな引くぞーーー!!」
「「おおおおおおっ」」
……ん? なんだ? どこかで聞いたことのある声だが。ちょ、なんだ、口の中になにかひっかかってる。ちょ、引っ張るな。なんだこれ。……おおお、なんだ、体が浮いていく。ちょ、なんなんだ。おおおおおおおおお、引っ張られる――!!
「釣れたぞーーーーー!!!!」
「「おおおおおおおおおっ」」
おお、青空が綺麗だ……って、え? 空?
なんか見たことある景色。そうそう、極凰に連れていかれた時に見た景色。
眼下を見ると陰陽マーク然とした丸い第二エリアが広がっていた。
……
「大丈夫ですかスプラさん、あれ、なんかヤバそうっすね。とりあえずHPポーション掛けますね」
「ふううー」
残りのすべての息を吐く。そして思いっ切り息を吸う。するとほんの少しだけ呼吸バーが回復する。だが依然呼吸はヤバい状態だ。吸っては吐いてを繰り返し呼吸バーがはじけ飛ぶのをギリギリで防ぐ。
で、呼吸バーが最低値で安定しだすと周りの状況も見えてくる。
「え、クロマッティ? 釣りキチ? え、なんで?」
「スプラさん、そんなことより状態異常でしょ? なんの異常なんです?」
「あ、タラコまで」
「な・ん・の、状態異常ですかっ?!」
え、なんかめっちゃ怒ってない?
「顔色がド紫なんです! さっさと言ってください! なんの状態異常なんですっ?」
「あ、ああ、そうか。んとな、劇毒状態」
「げ、劇毒? そんなのあるんです?」
タラコが釣りキチを見渡すが、全員が首を傾げている。そっか、劇毒はまだ知られてなかったのか。
「タラコ、すまん、俺手足動かないからポーション作ってくれる?」
「え、ポーション? わたしがですか?」
「ああ、そんなに難しくないから」
「え、あ、わたし、まだ【調合】しか持ってないから」
「大丈夫。このネギ坊が教えてくれるから」
『ゆらゆら!』
「え、あ、え? 本当にわたし? 無理…」
「それですべて許す」
「んぐ、それは卑怯……わ、分かりました。やりますんで教えて下さい、ネギさん」
『ゆらゆら♪』
『ゆらゆらゆ~ら』
「まず、ネギ坊の葉っぱを一枚ちぎって…」
『ゆらゆ~ら』
「聖水とゴリゴリして……」
…
「へ? 【全治ポーション】…な、な、なんてもん作らせるんですかー!!!!」
タラコの絶叫が一体に響き渡った。
「いや、マジで助かった。ありがとな、タラコ」
「い、いえ、こちらこそ。いきなり【調合】カンストして【調薬Lv8】まで習得しちゃって。すみません、叫んだりして…」
シュンとするタラコだが、今回はタラコがいてくれなかったらヤバかった。
「じゃあ、早速戻らないとな」
「えっ、また行くんですか? あ、さっきの自分の顔色見てないですもんね」
「弟子がまだ下にいるんでね」
「もし、また劇毒になったらまた作りますから」
「あはは、ありがと」
タラコには悪いが、実はもう【全知ポーション】は使えない。さっき使ったものが品質1だったことでクールタイムが36時間もあるのだ。タラコは気づいてないみたいだからそのままにしておこう。
「さて、じゃあ、【引…」
「スプラさん!」
声の方を向くと、麦わら帽子のサンペータさんが走ってきていた。
「レイドボスのアナウンスが届いたので急いで来ましたよ」
「ああ、アナウンス行っちゃいましたもんね。でも街の方は大丈夫なんです?」
「ええ、プレイヤーが増えてきたんでもう大丈夫かと。今ごろ、みんなで底引き網漁して大量のドロップに変えている頃ですよ。急ぎ主力だけ先に行かせたんですが、状況はどうなんです?」
「ええ、実は…」
…
「えええっ、劇毒地獄?!!」
「はい、クロマッティさんが俺を釣り上げてくれたんでなんとか助かったんですが、下はヤバいと思います。でもまだワーバットが下にいるんで」
ステータスではまだ劇毒にはなっていないからアリオンとうまく躱しているんだろう。
「でも、その8個の目をやらないとダメなんですよね」
「ですね。蜘蛛糸の包帯でガードしてるんでかなり厄介です」
「近寄れない上に、蜘蛛糸でガード……となると、酸袋ですかね」
「そう、でもあれはレアドロップなんですよね。アシッドフロッグとかいう…」
「なんすか、【酸袋】ならいっぱいありますよ」
話を聞いていたクロマッティが横から出て来る。
「え、【酸袋】ってレアドロップだよ?」
「やだな、リーダー、合流した泥んこ組が言ってたじゃないっすか。お土産あるって」
「えっ? あのお土産のこと?」
「そうっすよ、ほらこれ。なんかすっごいいい泥がある場所を見つけたのに酸を吐いてくるカエルがウジャウジャいて、カエル討伐班と泥遊び班に分かれて活動してたみたいっすよ。ってことで、この【酸袋】の山っすね」
そう言いながらストレージから見たことのある袋を次々と取り出すクロマッティ。
「ワー坊が下にいるんすよね。じゃあ、俺も行きますよ。日本刀貰ったお礼には安すぎるかもしれないっすけど」
「え、でも劇毒ってまじでヤバいですよ」
「大丈夫っす。俺【息止め】持ってますから。5分やそこらなら平気っス」
息止め? なんそれ?
「よく潜ってるんで」
そう言いながら早速崖を降りていくクロマッティ。この黒マッチョ、クライミングもできるのか? しかも降りる方。
クロマッティが降りていくのをしばらく見送った後。
「【引馬】」
『ヒン? ヒン!』
アリオンを呼び寄せる。元気になった俺を見てめっちゃ嬉しそうだ。心配してくれてたのかな。なんだよもう、かわいいじゃないか。
「じゃ、アリオン、黒煙のない場所まで行ける?」
『ヒヒーン』
アリオンが躍動し崖を一気に駆け下りる。ぐるぐると崖面を螺旋状に走り降りていくアリオン。こんなアクロバティックな動きは求めていなかったんだが…。
ものの十数秒で極凰洞に降り立つアリオン。見るとクロマッティは既にワーバットと合流済みだった。堕仙蜘蛛が真ん中の小山に上り、その向こうに二人が見える。
で、クロマッティがなぜか釣り竿を出してるんだが? この湖には流石に魚はおらんぞ。って、本当に針に餌付け出したぞ。まじで何するつもり…ん? キャスト?
GUOOOOOOOOO
極凰洞に久々に響く堕仙蜘蛛のこもった叫び声。紫に変色しきった水面が波立つ。
ってか、今あの人何したんだ?
【遠見】を使って観察すると、堕仙蜘蛛の目から白い煙が立ち上っている。そしてその部分をしきりに堕仙蜘蛛が脚で擦っている。
視界をクロマッティに合わせると再び釣り針に餌をつけて……って、いや、それ餌じゃなくて【酸袋】!
酸袋を釣り針に付けて竿をブンブンと振り回すクロマッティ。そして勢いをつけたその酸袋を堕仙蜘蛛に向かってキャスト。
どうやらさっきは酸袋を釣り糸の先に付けて堕仙蜘蛛の目に命中させたらしい。
キャストされた酸袋が堕仙蜘蛛の目に向かっていく。
しかし、堕仙蜘蛛も学習しているようだ。飛んできたそれを見てすぐに脚でガードする。こうなると厄介なんだよな……ん? なんそれ。
クロマッティが竿を引き、グルンと回す。すると堕仙蜘蛛に向かっていた酸袋が急に方向を変える。
いきなり明後日の方向に飛んでいく酸袋。しかし、クロマッティが再度釣り竿を振ると今度は角度を変えて再び堕仙蜘蛛に向かっていく。この角度は……俺が真横から狙ったあの角度。
GUOOOOOOOOOO
見事に目に命中する酸袋。そして堕仙蜘蛛の野太い叫び。巨大な脚がその巨大さに似つかわしくない速さで目を擦る。
さらに次の酸袋が釣り針に付けられる。その間にワーバットまでストレージから何かを取り出して堕仙蜘蛛に投げる。あれは…鉄鉱石? でも白い煙が上がってるけど……あ、もしかして【酸付与】したのか。
ワーバットが投げた鉄鉱石がコツンと堕仙蜘蛛の頭に当たる。当たった頭からも白煙が立ちのぼる。それを気にしてガードが外れた目に今度はクロマッティが酸袋をキャストする。ドンピシャで目に命中。3個目の目から光が消える。
ってか、あの二人、コンビネーションバッチリだな。師匠としてちょっと嫉妬するまであるんだが?
酸付与の鉄鉱石と酸袋のキャストにより、どんどん目の光を減らしていく堕仙蜘蛛。その目が上段の3つだけになった時、それは起きた。
…目の色が変わった。赤紫色か。
さっきまでは白い蜘蛛糸を通したボヤッとした紫色だったのが、今度は鮮明な赤紫に変化した。そしてそれまで体を覆っていた包帯状の蜘蛛糸が体から離れて空中を舞う。
それはまるで何匹もの巨大な蛇が鎌首をもたげているかのようで…。
GUUUUUAAAAAAA
巨大蛇と化した蜘蛛糸の包帯が二人を襲う。クロマッティが酸袋でけん制するが、目の色が変わった堕仙蜘蛛はそれには目もくれずに二人に巨大蛇を叩き込む。
すんでのところでその攻撃をかわすクロマッティとワーバット。しかし、その躱した先は劇毒の黒煙の中。すぐに膝をつくワーバット。そこに襲い掛かる巨大蛇。ワーバットの体が包帯に巻かれる。
そして悲鳴。
包帯が本当の蛇のようにワーバットの体を締め付ける。するとそこに飛んでくる酸袋と釣り竿。…釣り竿?
巨大蛇はその釣り竿を酸袋ごとあっさりと避ける。しかし次の瞬間、巨大蛇がそのもたげる鎌首ごと地に落ちた。ポリゴン化する巨大蛇。
そのポリゴンの中で仁王立ちしている影がひとつ。
それはメチャクチャ怒り狂った顔のクロマッティだった。
❖❖❖レイスの部屋❖❖❖
「はい、先輩さっさとボタン押して下さ……?」
「小僧、お前何やってんだ。こんな時に魚ごっこか…あ、いや違う、これは」
「は? 釣り?」
「だはははは。こら小僧、釣り上げられてんじゃねえー」
「でも劇毒状態っすよ。ストレージ機能も使えない今、無理っすよ……えええっ?」
「こらああ、小僧ー、なに他の奴にとんでもないポーション作らせてんだ~!」
「先輩、まだ気を抜けるような状況じゃないっすけど」
「おいおい、また行くのかよ~。気をつけろよ~」
「(なんか先輩も含めて最近の管理AIってスプラさん関連では空気が緩いんすよね。なんでそんな……はっ、もしやスプラさんが新種のマルウエア?)」
―――――――――――――
◇達成したこと◇
・釣りキチに釣り上げられる。
・タラコに【全治ポーション】を作らせる。
・クロマッティの能力に呆れる。
◆ステータス◆
名前:スプラ
種族:小人族
星獣:アリオン[★☆☆☆☆]
肩書:マジョリカの好敵手
職業:多能工
属性:なし
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:1
耐久:1(+33)
敏捷:1(+53)
器用:1
知力:1
装備:仙蜘蛛の真道化服【耐久+33、耐性(斬撃・刺突・熱・冷気・粘着)
】
:飛蛇の真道化靴【敏捷+53】
固有スキル:【マジ本気】
スキル:【逃走NZ】【正直】【勤勉】【高潔】【献身】【投擲Lv10】【狙撃Lv10】【引馬】【騎乗】【流鏑馬】【配達Lv10】【調合Lv10】【調薬Lv10】【創薬Lv10】【依頼収集】【斡旋】【料理Lv9】【寸劇Lv10】【遠見】【念和】【土いじり】【石工Lv10】【乾燥】【雄叫び】【熟練の下処理】【火加減の極み】【匠の匙加減】【ルーティンワークLv3】【描画Lv1】【危険察知NZ】【散弾狙撃Lv4】【融合鍛冶Lv6】【観察眼】【苦痛耐性Lv3】【慧眼(薬草)】【薬草学】【採取Lv10】【精密採取fLv4】【採取者の確信】【採掘Lv10】【菌創薬Lv10】new!【上級鉱物知識】【カッティングv1】【レザークラフトLv1】【裁縫Lv1】【虚仮脅しLv10】【一夜城Lv10】【特殊建築Lv4】
所持金:約1300万G
称号:【不断の開発者】【魁の息吹】【新緑の初友】【自然保護の魁】【農楽の祖】【肩で風を切る】【肩で疾風を巻き起こす】【秘密の仕事人】【秘密の解決者】【秘密の革新者】【不思議ハンター】【不思議開拓者】【巨魁一番槍】【開拓者】【文質彬彬】
従魔:ネギ坊[癒楽草]
◎進行中常設クエスト:
<蜥蜴の尻尾亭への定期納品>
●特殊クエスト
<シークレットクエスト:刀匠カンギスの使い>
〇進行中クエスト:
◆星獣◆
名前:アリオン
種族:星獣[★☆☆☆☆]
契約:小人族スプラ
Lv:20
HP:310
MP:445
筋力:48
耐久:46【+42】
敏捷:120
器用:47
知力:69
装備:赤猛牛革の馬鎧【耐久+30、耐性(冷気・熱)】
:赤猛牛革の鞍【耐久+12】
:赤猛牛革の鐙【騎乗者投擲系スキルの精度・威力上昇(小)】
固有スキル:【友との約束】
スキル:【疾走Lv8】【足蹴Lv1】【噛み付きLv2】【水上疾走Lv1】【かばうLv7】【躍動】【跳躍Lv2】【二段跳び】
◆契約◆
《従魔》
名前:ネギ坊
種族:瘉楽草[★★★★☆]
属性:植物
契約:スプラ(小人族)
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:3
耐久:3
敏捷:0
器用:6
知力:10
装備:【毒毒毒草】
:【爆炎草】
:【紫艶草】
固有スキル:【超再生】【分蘖】
スキル:【劇物取扱】【爆発耐性】【寒気耐性】
分蘖体:ネギ丸【月影霊草】
:ネギ玉【氷華草】
:ネギコロ【天雷草】
《不動産》
EX農屋&中規模畑 5.7億
癒楽房 4.9億
≪雇用≫
エリゼ
ゼン
ミクリ




