第225話 男の漁場
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「はい、じゃあ、次の竿どうそ~」
「師匠、次はこの2本です」
「ふむ、じゃあ糸と針を」
「はい、どうそ」
針と糸を繋げ、それを竿の先に通していく。
【熟練の下処理】先生がおっしゃる通りに糸を熱して乾燥し3本の糸を撚っていく。先生曰く、3本を撚ることで耐久は10倍以上になるとのこと。始めは慣れない作業で15分かかっていた作業が【糸撚りLv1】を覚えてから自動化されて1分もかからずにできている。
糸と針の結び方もリアルで検索して覚えてきた。ということで、いっぱしの釣り竿職人と化しているピエロが今ここにいる。
そしてさっき釣りキチから釣り竿の増産依頼の来たのでそっちも対応が必要になった。
「ワーバット、ムガンさんのところ行って釣り竿の追加50本お願いしてきてくれる?」
「はい、師匠、了解です」
その間に糸撚りを続けて…
「師匠!」
「どわっ」
いきなり目の前に現れるワーバット、敏捷が上がったからと言ってミーナと同じことをしてくるとは。
「ムガンさんから『この大変な時に釣り竿なんぞ作っとる暇はないから自分で作れ』って。はい、これ【聖魔鋼インゴット】です」
……いや、その大変な時だから仙蜘蛛相手に無双している釣りキチ用に釣り竿作ってほしかったのだが?
「仕方ない、自分で作るか」
【聖魔鋼インゴット】を金床に置く。
じゃ、釣り竿に……ん? 待てよ。よく考えたら別に釣り竿じゃないといけないってことないよな? 仙蜘蛛漁すればいいんだし?
ということで、【聖魔鋼インゴット】で細い針金を作る。しなりが欲しいので作り方は清玉ロッドと同じ感じで作っていく。
【聖魔ワイヤー】
聖魔鋼を特殊技術によりワイヤー状にしたもの。硬度が高いがMPを流すことで軟化する。不思議な力を持つワイヤー。
うーん、少しだけしなりが弱くなってしまったか。MPを流すと軟化するか…どういうこと?
「おおー、こういう事か」
MP流したらグニャリと曲がる。でもMP止めたらピーンとまっすぐに。なにこれ、楽しい。
グニャリ ピーン
グニャリ ピーン
グニャリ ピーン
…
「師匠……何やってるんです?」
聖魔ワイヤーがなんか癖になる動きをするもんだから曲げたり伸ばしたりして遊んでるところをワーバットに見られてしまった。なにもそんな可哀そうな人を見る目で見なくても…。
「ワーバット君、これは別にただ遊んでいた訳ではないのだよ。新たな対仙蜘蛛武器を試していたところなのだ」
うん、嘘ではない。遊んではいたが、ただ遊んでいたのではない。
「別に師匠の趣味にとやかく言う事はないですけど、釣りキチさん達の方が大変そうですよ。新しい竿ができてると思って来てみたのに」
「あ、はい。すみません。じゃ、あと5分だけ待ってくれる?」
「はあ、まあ、いいんですけど」
ワーバットの微妙な視線に耐えながら続きを行う。
まず、この聖魔ワイヤーを何本も作る。そしてワイヤーの両端を丸く加工し仙蜘蛛の撚糸を通せるようにする。
そのワイヤーを揃えて台に置き、中心を固定しながら30度の角度をつけて1本ずつずらしていく。ぐるっと360度になったら中心を熱して叩いてくっつける。
今度はぐるっと円周上に並ぶワイヤーの穴に仙蜘蛛の撚糸を通していく。そして最後にすべてのワイヤーを少しだけしならせて撚糸を結ぶ。
「なんか見かけは浅めのザルみたいだな」
で、最後にぐるっと輪にした撚糸に別の糸の片端をくっつけ、MPを流す。
「おおお、師匠、これはもしや?」
「そうです。ワイヤー網で漁をしよう作戦ですな」
MPを流したワイヤー網は一気にそのザルの口をしぼめる。まるて食虫植物が獲物を取るときみたいだ。これで仙蜘蛛を一気に釣り上げるのだ。
「あ、そうだ、折角だからあれも取り付けておくとしましょう」
ストレージからもう使い道が見えないアレを取り出す。宝石の融合に成功した際の光源となったあの【土竜雷爪】の欠片4つ、これも取り付けとこうか。光れば夜漁もできるだろうし。
「…ワーバット君、ちょっと離れててくれんかね」
「なんです? さっきからそのちょくちょく挟んでくる芝居じみたのは」
…それはあなたが哀れむような目で見てくるから、ロールプレイに逃げているのです。
「ま、いいですけど…」
ワーバットが後ろへ下がっていく。よし、じゃあいいかな?
「できたー、道化師の夜漁網!」
ピッカーーーン
『称号【不断の開発者】の効果により特殊生産物が生産されました』
「きゃー、なんですかーこれーーっ」
【己を捨てられぬ道化師の涙網】
笑われてなんぼの道化師にとって羞恥心は最大の敵。その毒牙に支配された道化師は、己の未熟な心を鍛えるために漁に出る。男の漁場の荒波が己の汚れた羞恥心を洗い流し終えるその日まで。
「ワーバット君、これは男の涙網です」
なんかワイヤーが紐っぽくなり、横向きにもワイヤーが入って網目もできた。うん、漁網っぽくなった。ワイヤー網って感じだな。称号補正万歳!
んじゃ、竿もちゃちゃっと作って持って行きますかね。
「サンペータさーん」
「あ、スプラさん、ほんとすみません、本職でもないのに作らせちゃって……えっと、変わった帽子ですね?」
さっきは釣り竿に熱中していて見れてなかったのが今回はネギ坊をガン見するサンペータさん。
「はは、帽子代わりと言うかなんというか…」
「かわいい系の帽子はまだ作られてないので、もしかしたら流行るかもしれませんね」
はい? いやいや、流行る訳ないだろ。ここはツッコむところなのか? うん、目は真剣。じゃこのままスルーだな。
「はは、未熟な心も鍛えられますしね」
「え? 未熟?」
不思議そうな顔のサンペータさん。ネギ坊のことはもう流してもいいかな。
「あ、いえ、何でもないです。それはそうと、これ使ってみてもらえません?」
「えっと…なんですか、それ?」
「男漁網です」
「……?」
…
…
「「えええええええっ!!」」
外壁の上で驚きの叫びが飛び交いまくる。
……いやいや、こんなの俺も「ええええっ!!!」なんだけど。
今、目の前でサンペータさんに男漁網を使ってもらったら、なんと30匹ほどの仙蜘蛛が一気にポリゴンになったのだ。
サンペータさんが男漁網にMP流して仙蜘蛛に向かって投げた。そしたら空中で男漁網がぐんぐん大きくなって仙蜘蛛の群れの中に落ちる。そして手に持っている仙蜘蛛の撚糸にMPを流して糸を縮める。すると、仙蜘蛛を囲い込むようにして男漁網の口が締まっていき、最後には網の中の仙蜘蛛が全てポリゴンに変わってしまった。
「と、とりあえず引き上げましょうか」
さらにMPを流して網を引き寄せると網の中にはドロップのアイテムがいっぱいだった。うん、半分くらい【仙蜘蛛の糸】だな。これじゃあ癒楽房に運ばれてくる糸の量が半端ないはずだわ。
「えっと、MP流せばいいのかな?」
恐る恐る網の部分にMPを流すサンペータさん。すると男漁網がバンっと開き中のドロップが零れ落ちる。俺に対してはアイコン表示されてないってことはこれはサンペータさんのドロップってことだな。どうやら作成者報酬とかはないようだ。
「ちょっと、これは革命が起きますね……」
深刻そうな顔のサンペータさん。そんな顔されると俺すごく心配になるんだよな。人の不安そうな顔みると不安になるタイプなんだ俺。
「スプラさん! この網もっと作れますか?」
「あ、えっと、素材があればだけど。インゴットがあるどうか…」
「…インゴットかあ。今、ログインプレイヤーの7割はこのエリアに向かっています。そしたらインゴットはどれだけあってお足りないでしょう。この網だけでも【仙蜘蛛の糸】で作ることができればいいのですが…」
プルプル
「あ、すみません、フレンドコールみたいで」
このフレンドコールの音にはいまだに慣れんな。ごくたまににしか鳴らないし。で、その貴重なフレンドのお相手はだれかなっと……お、セメントモリじゃん。評価点10くれたセメントモリじゃんか。
「はいはい、セメントモリ? どうした?」
『あ、すみませんスプラさん、突然に。実は一つご相談が…』
「相談? なに?」
『えっとですね、スプラさんがイベント初日に弟子にしたタラコって女性プレイヤー覚えてます?』
タラコ? そりゃもちろん覚えているとも。評価点1をくれたタラコだろ。
「覚えてるけど? タラコがどうした?」
『実は、今日の僕の師匠がケンクロウさんっていうクラン「銀の斧」のクランマスターで、そのサブマスの弟子がタラコだったんです。それで、僕がスプラさんの弟子だったことを知って、ぜひスプラさんに謝りたいって。今隣にいるんですよ。なんかすごい反省してるというか、凹んでると言うか』
なんだ、反省って。俺、今、評価点の事ちょっと無理なんだよな。芋づる式でいろいろと思い出しちゃうし。だーーくそ、イケメン出てくんな!
「ふうん、で?」
『あ、で、もしよかったら何か手伝わせてもらいたいって』
「手伝う? そっちの師匠のことは放っといていいのか?」
『はい、むしろ事情を知ったケンクロウさんがそうしろって』
プルプル
ん? またフレコ? えっとこれどうしたらいいんだ?
『あ、ケンクロウさんがフレンドコールに出て欲しいらしいです』
「え、ケンクロウ? あ、本当だ」
『普通にボタン押してもらえば繋がりますんで』
んじゃ、ポチっとな。
『おう、悪いな、スプラ。多分最前線で忙しいんだとは思うが、なんでもいいんだ、タラコになにか償い的なことさせてやってくれんか? 相当まいってるみたいでな』
まいってる? 償いってことは自分が悪かったと思ってるってことだよな。そっか。ちょうど人手が欲しいと思ってたところだしな。よし。
「ええっと、今どこに?」
『みんなで山越えの最中なんだ。もうすぐ抜け道抜けて第二エリアに入るところだ』
ってことは釣りキチたちとバーベキューした辺りだな。
「じゃあ、今街が仙蜘蛛に囲まれてるんで迎えに行きますね」
『迎え? 囲まれてんのにどうやって来るんだ?』
「あ、大丈夫です。抜け道抜けたら、仙蜘蛛のいない湖畔にいてください」
『湖畔?』
❖❖❖レイスの部屋❖❖❖
「あ、先輩、どうでした?」
「ああ、形跡が紛れちまった。途中から不特定プレイヤー数人に紐づけられてそののまま消えるって例のアレだ」
「それって、あの記録消去事件のアレっすか?」
「ああ、あの時と同じ。AIの記録を改竄するプログラムだな」
「今回アレが影響受けてるってことは、もしかしてアレの記録に入られたってことっすか?」
「ああ、そうだ。しかも今回は俺のアプローチを弾く程の保護をかけてやがる。改竄した後に保護をかける周到さ。前回から学習してやがる。つまりあっちも自立型なんだろう」
「どうします? マスターに報告を…」
「馬鹿言え、イベント最終日のクライマックスなんだ。こんなところで緊急メンテなんてかけれるかよ」
「え、じゃあ、放っておくんすか? プレイヤー全員死に戻りっすよ」
「うむ……」
「先輩?」
「ここは《《見》》だな」
「え、何もしないんすか?」
「ああ、今は何もしない。《《完全な準備をするため》》にここは見に入る。以上」
「えっと、先輩?」
「………」
―――――――――――――
◇達成したこと◇
・制作:【聖魔ワイヤー】【己を捨てられぬ道化師の涙網】
・譲渡:【己を捨てられぬ道化師の涙網】→サンペータ
・タラコを迎えに行くことに決める。
◆ステータス◆
名前:スプラ
種族:小人族
星獣:アリオン[★☆☆☆☆]
肩書:マジョリカの好敵手
職業:創菌薬師
属性:なし
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:1
耐久:1(+33)
敏捷:1(+53)
器用:1
知力:1
装備:仙蜘蛛の真道化服【耐久+33、耐性(斬撃・刺突・熱・冷気・粘着)
】
:飛蛇の真道化靴【敏捷+53】
固有スキル:【マジ本気】
スキル:【逃走NZ】【正直】【勤勉】【高潔】【献身】【投擲Lv10】【狙撃Lv10】【引馬】【騎乗】【流鏑馬】【配達Lv10】【調合Lv10】【調薬Lv10】【創薬Lv10】【依頼収集】【斡旋】【料理Lv9】【寸劇Lv4】【遠見】【念和】【土いじり】【石工Lv10】【乾燥】【雄叫び】【熟練の下処理】【火加減の極み】【匠の匙加減】【ルーティンワークLv3】【描画Lv1】【危険察知NZ】【散弾狙撃Lv4】【融合鍛冶Lv6】【観察眼】【苦痛耐性Lv3】【慧眼(薬草)】【薬草学】【採取Lv10】【精密採取fLv4】【採取者の確信】【採掘Lv10】【菌創薬Lv9】【上級鉱物知識】【カッティングv1】【レザークラフトLv1】【裁縫Lv1】
所持金:約1300万G
称号:【不断の開発者】【魁の息吹】【新緑の初友】【自然保護の魁】【農楽の祖】【肩で風を切る】【肩で疾風を巻き起こす】【秘密の仕事人】【秘密の解決者】【秘密の革新者】【秘密の火消し人】【不思議ハンター】【不思議開拓者】【巨魁一番槍】【開拓者】
従魔:ネギ坊[癒楽草]
◎進行中常設クエスト:
<蜥蜴の尻尾亭への定期納品>
●特殊クエスト
<シークレットクエスト:刀匠カンギスの使い>
〇進行中クエスト:
◆星獣◆
名前:アリオン
種族:星獣[★☆☆☆☆]
契約:小人族スプラ
Lv:20
HP:310
MP:445
筋力:48
耐久:46【+42】
敏捷:120
器用:47
知力:69
装備:赤猛牛革の馬鎧【耐久+30、耐性(冷気・熱)】
:赤猛牛革の鞍【耐久+12】
:赤猛牛革の鐙【騎乗者投擲系スキルの精度・威力上昇(小)】
固有スキル:【友との約束】
スキル:【疾走Lv8】【足蹴Lv1】【噛み付きLv2】【水上疾走Lv1】【かばうLv7】【躍動】【跳躍Lv2】【二段跳び】
◆契約◆
《従魔》
名前:ネギ坊
種族:瘉楽草[★★★★☆]
属性:植物
契約:スプラ(小人族)
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:3
耐久:3
敏捷:0
器用:6
知力:10
装備:【毒毒毒草】
:【爆炎草】
:【紫艶草】
固有スキル:【超再生】【分蘖】
スキル:【劇物取扱】【爆発耐性】【寒気耐性】
分蘖体:ネギ丸【月影霊草】
:ネギ玉【氷華草】
:ネギコロ【天雷草】
《不動産》
畑(中規模)
農屋(EX)
癒楽房
≪雇用≫
エリゼ
ゼン
ミクリ




