第216話 崖の中の声
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「(はい、ここです。ストップ)」
フレンドコールで小声でやりとりしながらワーバットを声がしたらしい崖に移動させる。
「どう? 声聞こえる?」
「(はい、なんか叫ぶ声もするし、金属音もしますね)」
「了解」
崖の中からの叫ぶ声、金属音……ん? もしかして?
急いでムガンさん達との会話ログを遡る。
「なるほど、鍛冶師が行方不明、盗掘、秘密の鍛冶村かあ……もしここがその秘密の鍛冶村だとしたら? …人がほとんど来ない湖側の崖、北の山地の鉱脈にも近く、水も豊富。街から出るにも湖から船で出れば門番も気づかない……うん、あるな、これは。ってことは準備が必要か」
ストレージから無骨石板と簡易調合セットを取り出す。
ピンポーン
『特定行動により【菌創薬Lv8】のレベルが上がりました』
【骨粉(四種統合)】
【スプラ印の剛力ポーション】品質8
特殊上級薬師スプラの作品ポーションNo.3。
厳選された素材を卓越した技術と磨き抜かれた五感によって加工した特殊ポーションであり、使用者の筋力を+100
効果時間:30秒
【空湖のヌシの歯】と他の骨素材を粉々にして無骨石板で焼いてさらにゴリゴリ。するとできた【骨粉(四種統合)】。四種《《混合》》ではなく四種《《統合》》。説明にはヌシの歯が強すぎて、他の三つを取り込み統合した結果の四種統合ということらしい。
そしてそれを使って身体強化ポーションを作る。そしたらなんと新しい作品ポーションができてしまった。今度は筋力特化の剛力ポーション。とりあえず3個だけ作っておく。それとストレージに【爆裂木の実弾】と【超爆裂ポーション】があるのを確認。
「リオン、身体強化ポーションあげるから、もう一本糸持てる?」
『フンス? …フンス♪』
オッケーをくれたリオンに身体強化ポーションをかけて蜘蛛糸の片端を預ける。そして糸を体に巻いて崖を降りる。
「(師匠、こっちこっち)」
「(了解)」
手招きするワーバットの元へ降りていくと、壁の一部を大げさなジェスチャーで指さすワーバット。その部分に耳を当てると……確かに叫ぶ声と金属音、というか剣戟のような音が聞こえてくる。
「秘密の鍛冶村で争いごと…ということは鍛冶師たちの反乱か?!」
耳を壁に当てて耳を澄ます。
「(…バンディー…ぶっ潰…石炭…)」
ところでころで剣戟音が入り正確にはわからないが、これは十中八九反乱で間違いない。
「ワーバット、少し上げるよ」
ワーバットの糸にMPを流すとワーバットが持ち上げられていく。
「よし」
ストレージから金剛爪を取り出す。で、【石工Lv10】を発動。すると目の前の崖に数個の点が現れる。だが、それぞれの点には蜘蛛の巣のような模様がセットになってついている。これは……どうやらその点を打つとどう壁が割れるかが表示されているようだ。
「石工に反応するってことは、ここだけはオブジェクト扱いじゃないってことか…。でもこんな小さくしか割れないんじゃ何ともならんよな」
一番大きく壁が割れる場所を探す。が、どの点を打っても割れるのはせいぜい30㎝程度。それじゃそこから入ることはできない。
そこで試しにさっき作った【剛力ポーション】を飲んでみる。筋力が100アップすると、糸を掴んでいた腕も強くなり自分の体を片手で軽々持ち上げられるようになる。そしてその状態で壁を見ると…
「おお! 変化しとる」
蜘蛛の巣状の割れる予測線、それが1mを超えているポイントが浮かび上がっていた。さっきまではなかったポイントが筋力がアップしたことで見えるようになったらしい。
「よし、じゃあやるか」
手に金剛爪を握って、一度壁を蹴る。壁を離れた体が再び壁に吸い寄せられていく。その勢いも加えて金剛爪を【石工Lv10】が示す一点に打ち込む。
ピキーーン パラ パラパラ バラバラバラ…
俺が打ち込んだ金剛爪の跡から周囲に広がる蜘蛛の巣状のヒビ。その線が1mほどになった時、壁がパラパラと落ち始める。そこでもう一度壁を蹴り、勢いをつけてそのままヒビの中心に筋力101の蹴りを叩き込む。
ドッガーーーン ゴツゴツ ゴロゴロ
重く響く音を立てながら壁が崩れ岩が崖下へと落ちていく。崩れた壁の向こうに暗い空洞が見えてくる。そしてこちらからの光が空洞内を照らし出す。
するとそこには眩しそうにこっちを見る筋肉男たち数人と、1体の角の生えた大男の鬼人、つまるところ『オーガ』が目を見開いていた。
「鍛冶師の皆さんですかー」
「だ、誰だ」
「ムガンさんの知り合いです」
「む、ムガンだと?」
ムガンさんの名前を聞いて一斉に騒めき立つ。でもなんか、互いに顔を見合ったり、首を捻ってたりしてて、あまり歓迎されている感じがしない。
「今、秘密の鍛冶村を探しているんです。バンディー家ですよね」
「……!!」
俺がバンディー家の名前を出すと今度は皆が揃ってわかりやすく動揺する。ん~、もしかしこれって……よし。
「バンディー家が秘密の鍛冶村を作って鉄鉱石や石炭を独り占めしちゃってるんですよ。それで困ってるんです。なので個人的に探りに来ました」
「…おい、バレてる…」
「…やっぱりまずかった…」
「……仕方ないだろ…」
「…だからもっと早く…」
鍛冶師たちが言い合いを始める。ちょっと言い争いにもなってきたな。
「ガアアーーーーー!!!」
そんな鍛冶師たちの様子をうかがってたオーガの咆哮が洞窟内に響く。肌を震わすほどの凄まじい衝撃と威圧感。急に竜巻にでも晒されたような圧だ。
「……」
「……」
「あれ?」
咆哮が終わって見ると鍛冶師たちがみんな泡を吹いて失神している。
「……?」
オーガが俺を見てポカンとしている。が、すぐに我に返り、再び咆哮。竜巻のような衝撃が俺を襲い通り過ぎていく。
「こういうのが咆哮ってやつだよな。やっぱ俺の【雄叫び】ってなんか違うよな」
「……?? ガ、ガガガオオオオオーーー」
二発目の咆哮を放ったオーガが今度は壁に立てかけてある釘バットを持ち出す。『金棒じゃねえのかよ!』と心の声でツッコみながらも、俺に襲い掛かってくる釘バットを金剛爪で叩き落す。
ガコン!!
「すっげ。これ」
筋力100と金剛爪のコンボが釘バットを床に打ち付ける。すると打ち付けられたバットが床に突き刺さった。
と、同時に俺の筋力バフも消えていく。一瞬の出来事だったが、これはいい思い出ができた。一瞬の強者ムーブだった。
「グガ、グッガアア」
カンカンカンカン
俺が悦に入っていたら急に慌て出したオーガが鐘を鳴らし始める。しまった、これアレだよな。
「ガガッガ」
「ゴゴガガ」
遠くから聞こえてくる声。足音と気配がどんどンと近づいてい来る。まずい、仲間を呼ばれてしまった。この倒れている鍛冶師たちだけでも逃がしたいのだが。
とりあえず、一人の鍛冶師を起こしてみる。
「大丈夫ですか? しっかりしてください!」
「……が…」
あ、だめだこれ。なんか状態異常っぽい。くそ、数がないんだけど仕方ない。
虎の子の【上級キュアポーション】を一人ずつ飲ませていく。でも数は足りない。
「…? あ、あれ?」
ポーションを飲ませた一人が目を覚ます。
「あ、オーガは?」
「今、仲間を呼んで来るのを待ってるみたいです。それより逃げられますか?」
「あ、そうだな。逃げないと。ん? こいつらはまだ寝てんのか」
「はい、状態異常みたいで」
「こりゃ気絶だな。オーガの咆哮に遭ったか。よし、ほら、起きろ」
ゴキッ
そう言って鍛冶師は気絶している別の鍛冶師の背中に膝を当て押し込む。結構ないい音がするとともに鍛冶師の眼が開く。
「がはっ、痛たた」
「おう、起きたか。他の奴も起こしてくれ」
「ん? あ、ああ、そういう事か。わかった」
起きた鍛冶師も自分がされたと同じように背中に膝を押し込んでは目を覚ませさて行く。そうしてあっという間に6人の鍛冶師の目が覚めた。
「ゴガガガ!」
「グガーー!」
だが、鍛冶師全員の眼が覚めたところでオーガの追加2体が現れる。
「くそ、間に合わんかったか」
目の前の3体のオーガが一斉に息を吸い込む。これはさっきの咆哮が来るか。ここで鍛冶師たちがまた気絶してしまったらお手上げになってしまう。
「どんぐり【散弾狙撃】!」
カカカカン
それそれの鬼が手に持つ釘バットでどんぐり片をことごとく弾く。技で返されるのは初めてだ。
……仕方ない、爆裂ポーションを使うか。でも鍛冶師たちがダメージくらうかもな……俺自身もリオンの【かばう】がないとどうなるか…。
俺がそんなことを考え迷っている間にもオーガ3体は吸う息で胸を膨らませる。そしてその目が見開いて口も開くと……そのまま動きが止まった。
「なんだ?」
オーガたちが揃って視線を俺の後方に向けている。視線を追って振り返ると、そこにはいつの間にか穴に入ってきていたワーバットがいた。
なんとなく無性に腹が立ってくる変な動きをしている赤竜人がそこにいた。
❖❖❖レイスの部屋❖❖❖
「しっかし、すっごいタイミングで遭遇しましたよね。鍛冶師の反乱が起きる時にこの崖を降りてるとか」
「ま、小僧だからな。」
「先輩、それは禁断の響きじゃなかったんです?」
「はっは、大丈夫だろ。さすがに今回は相手が悪い。オーガはバンディー家の秘密兵器。反響効果のある洞窟内で咆哮を響かせりゃ相手がドラゴンであっても太刀打ちできん」
「あ、でも、スプラさんにだけそのオーガの咆哮が効いてないみたいっすね」
「へ? は? えっと? どういうこと…」
「あ、特殊気絶状態が破られましたね。上級キュアポーションなんて何エリアも先のアイテムなのに…」
「はあ……こりゃあの時だな。小僧が原因不明の恐慌状態になった事が原因だ。その後も、MJがたまたま月影霊草の情報出したり、ZNがたまたま花壇でフィールド採取専用のはずの薬草を栽培してたり、EZがたまたまその花壇の世話をしてたり、EZの効果幅が大きい【良い声】の最大効果がたまたまピンポイントで発揮されたり、そのEZがたまたまジャストタイミングで採取しちゃってたり、それをたまたま従魔になってた超希少種のYR-1が装備しちゃったり、その主の小僧がたまたま【創薬】習得してたり、たまたまMJの工房でレシピ入手してたり……んぐぐぐ」
「…先輩? どうかしまし…」
「こんな『たまたま』の連続コンボなんてあってたまるかーーーーーーーーーーー!!!!!」
「(おおお、先輩の稼働率が80%を超えたっす。スプラさんスゲーっす)」
―――――――――――――
◇達成したこと◇
・制作:【骨粉(四種統合)】【スプラ印の剛力ポーション】
・習得:【菌創薬Lv9】
・壁破壊
・鍛冶師たちを助けようとがんばる。
・オーガの咆哮をやり過ごす。
・虎の子の【上級キュアポーション】を使う。
◆ステータス◆
名前:スプラ
種族:小人族
星獣:リオン[★☆☆☆☆☆]
肩書:マジョリカの好敵手
職業:創菌薬師
属性:なし
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:1
耐久:1(+33)
敏捷:1(+53)
器用:1
知力:1
装備:仙蜘蛛の真道化服【耐久+33、耐性(斬撃・刺突・熱・冷気・粘着)
】
:飛蛇の真道化靴【敏捷+53】
固有スキル:【マジ本気】
スキル:【逃走NZ】【正直】【勤勉】【高潔】【献身】【投擲Lv10】【狙撃Lv10】【引馬】【騎乗】【流鏑馬】【配達Lv10】【調合Lv10】【調薬Lv10】【創薬Lv10】【依頼収集】【斡旋】【料理Lv9】【寸劇Lv3】【遠見】【念和】【土いじり】【石工Lv10】【乾燥】【雄叫び】【熟練の下処理】【火加減の極み】【匠の匙加減】【ルーティンワークLv3】【描画Lv1】【危険察知NZ】【散弾狙撃Lv4】【融合鍛冶Lv6】【観察眼】【苦痛耐性Lv3】【慧眼(薬草)】【薬草学】【採取Lv10】【精密採取fLv4】【採取者の確信】【採掘Lv10】【菌創薬Lv9】new!【上級鉱物知識】【カッティングv1】【レザークラフトLv1】
所持金:約1300万G
称号:【不断の開発者】【魁の息吹】【新緑の初友】【自然保護の魁】【農楽の祖】【肩で風を切る】【肩で疾風を巻き起こす】【秘密の仕事人】【秘密の解決者】【秘密の革新者】【秘密の火消し人】【不思議ハンター】【不思議開拓者】【巨魁一番槍】【開拓者】
従魔:ネギ坊[癒楽草]
◎進行中常設クエスト:
<蜥蜴の尻尾亭への定期納品>
●特殊クエスト
<シークレットクエスト:刀匠カンギスの使い>
〇進行中クエスト:
<眷属??の絆>
◆星獣◆
名前:リオン
種族:星獣[★☆☆☆☆☆]
契約:小人族スプラ
Lv:20
HP:310
MP:445
筋力:48
耐久:46【+42】
敏捷:120
器用:47
知力:69
装備:赤猛牛革の馬鎧【耐久+30、耐性(冷気・熱)】
:赤猛牛革の鞍【耐久+12】
:赤猛牛革の鐙【騎乗者投擲系スキルの精度・威力上昇(小)】
固有スキル:■■■■ ■■■■
スキル:【疾走Lv9】【足蹴Lv1】【噛み付きLv2】【運搬(極)】【水上疾走Lv1】【かばうLv5】【躍動】【跳躍Lv3】
◆契約◆
《従魔》
名前:ネギ坊
種族:瘉楽草[★★★★☆]
属性:植物
契約:スプラ(小人族)
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:3
耐久:3
敏捷:0
器用:6
知力:10
装備:【毒毒毒草】
:【爆炎草】
:【紫艶草】
固有スキル:【超再生】【分蘖】
スキル:【劇物取扱】【爆発耐性】【寒気耐性】
分蘖体:ネギ丸【月影霊草】
:ネギ玉【氷華草】
:ネギコロ【天雷草】
《不動産》
畑(中規模)
農屋(EX)
薬房2-12
≪雇用≫
エリゼ
ゼン
ミクリ




