第212話 腹ペコ天然竜
いつもお読みいただきありがとうございます。
誤字報告も大変助かっています。
よろしければブックマークや★評価をいただけると嬉しいです!
「あのさ、ワーバット、そんなユニークスキルの事話すのってすごく勇気がいるよな」
「え、そりゃ、そうですよ。こんなの知られたら誰も好敵手なんてなってくれませんし」
「だよな。でだ、ワーバットのその勇気に応じて、俺の秘密も教えとこうと思う」
「え? あのピエロ君の秘密? 知りたい知りたい!」
目をキラキラさせてくる竜人。数秒後にはこの目が死んだ魚のようになるんだろうな。でも好敵手になってしまった以上、言わなくてもいずれ分かる事。だったら早く言っておいたほうがいいだろう。
「実は俺もユニークスキル持ちなんだ」
「え? ……といいますと?」
「まあ、見たほうが早い。ほら、これが説明」
俺の【マジ本気】の説明を読むワーバットの眼が見開かれ、そしてどんどんと生気を失っていく。ま、そりゃそうだ。俺の好敵手になるということはステータスはオール1になるということ。そして俺がレベルでワーバットを抜かすことはない。つまり永遠のステータスオール1が決定した瞬間なのだ。
「……」
見終わったワーバットが青く澄んだ空を見上げる。うん、今日も空が綺麗だ。
「で、どうする? 弟子になるか?」
ま、弟子になったとしてもそんなステータスじゃ外には連れ出せんからな。教会で子供たちと遊んでてもらうくらいしかないんだけど。
「…はあ、なんでわたしいつもいつもこうなんだろ…キャラ作成…12万…無理…また頼むか…無理…」
なんか漫画みたいな見事な放心状態でぶつぶつ言い続けるワーバット。大丈夫か? バイタルが心配になってくるレベルだぞ。
「ちなみに折角だし俺のステータスも見とくか?」
なんかすっごく申し訳なくなってきたから、俺にできることはさせてもらおう。称号とか見たらテンション上がるんじゃないかな。
「ほら、内緒なんだが称号をいくつか持っててな」
「え、称号?」
おお、食いついた。称号入れ食い説だな。
「おおおお、すごいすごい。あ、これレイドボス戦に何千人も招待したって伝説の。え、特殊生産物? 農屋EXって…あ、これか! あ、シークレットクエスト! 解決者発見! 出たーー、世界七不思議……」
興奮してたワーバットがひたと落ち着く。そして俺を見つめる。
「なんか詳細がわかってなかった噂の称号が勢揃いしてるんですけど?」
いやいや、そんな不思議そうな顔されても…取りたくて取ったんじゃないし。
「おや、異人さんかね」
「……?」
寝耳に水、青天の霹靂、藪から棒。…突然やってくることを表す言葉はいくつかあるが、どれもこの瞬間の俺の気持ちを正確に表すことはできない。
ええっと、満腹度…大丈夫。場所…あ、いつの間にか一角亭の前じゃん!!
「なに? お婆ちゃん」
「おやおや、竜人族とは珍しいね。いやいや、あたしはこの街の世話役みたいなことをしているネヒルザって言うんだけどね。あんたもしかしてお腹空いてるんじゃないのかい?」
ぐぐぐ、対象はワーバットか。いやそうだよな、ユニークスキル持ちってところで「金なし装備なし腹ペコ」だってことに気づかないといけなかった。
くそ、今回だけはマジでヤバいかもしれん。ワーバットは今ステータスオール1になったばかりで、しかもミーナみたいなチート要素はゼロ。これはヤバすぎる。
「お腹? あ、ホントだ。もうすぐ飢餓状態になるところだった。お婆ちゃん教えてくれてありがとね」
「お、お婆…あたしはこれでもこの街の世話役でね。街の住人からは『ネヒルザ《《おばさま》》』って呼ばれててね」
いやいや、みんな『ネヒルザ』って呼び捨てだったぞ。しかも眉間にしわ寄せて。
「え、ネヒルザおばさまって世話役なの? だったら安くて美味しい店知ってます?」
「ああ、知ってるとも。どうだい? あたしの奢りで食べに行くかい?」
「え、奢り? え、じゃあじゃあ、高くて美味しいお店がいい!」
「た、高くて、美味しい?」
「よかった〜、世話役だったらお金持ちなんだよね? しかも顔が利くなら特別料理とかも出てきちゃったり? うわ〜楽しみ〜」
「え、お金持ち……はは、そうだよ、あたしは、お金持ちでね、世話役なんだ。特別料理の一つや二つ出してもらおうかね」
……なんか思ってた展開と違う。なんだこれ?
「この街で一番美味しいお店って何処だろ…?」
「そ、そうだね、蜥蜴の尻尾亭ってところが…」
いや、そこはコスパ店寄りです。
「そりゃ、うちに決まってんじゃないか」
「へ?」
「あ、マーサさん!」
なんと、店からマーサさんが出てきてくれた。ミーナの時も終盤で助けに入ってきてくれたけど。今回は序盤から登場なのか?
「さあ、いつもの個室使っていいから。で、《《特別料理》》をご注文だったね」
「あ、いや、そんな特別でなくても…」
「ネヒルザさんは街の世話役ですから、世話役の顔に泥を塗らない料理をお願いします!」
おお、ワーバット、絶妙な言い回しだな。
「そ、そりゃ、せ、世話役だからね。任せておきなよ」
ピンポーン
『〈特殊クエスト:ネヒルザのプライド〉が発生しました。本クエストは任意でキャンセル可能です』
んんん? なんだ? 任意キャンセル可能? なにそれ、初めて聞いた。じゃ、直ぐにキャンセルしたらいいだけじゃん?
「じゃ、ご注文承ったよ。スプラ君も今日は遠慮しないで食べていきなよ。優しいネヒルザおばさまの奢りだからね」
「え、あ、はい」
「やった〜、これがピエロ効果かー」
なんだ、ピエロ効果って? これから笑われたりするのか?
…ま、なんかわからんけど、とりあえず食っとくか。さっき食ったばっかだけど。なんかあったらキャンセルしたらいいだけだし、イベントの打ち上げって事で! まだ午前10時だけどな!!
…
「うん、これもおいっしー!」
なんかワーバットの食べっぷりが凄い。これ、絶対に満腹なのに食べてるだろ。
「いい食べっぷりだね〜、まだ持ってくるからね〜」
料理を運んできたマーサさんがワーバットを見て嬉しそうに戻っていく。
「で、でね、今の女将なんだけどね、これがまた息子が部屋に籠りっきりでね…」
そう、さっきからこうやってワーバットの凄い食べっぷりに表情を引きつらせたネヒルザ婆が必死に噂話を仕掛けるのだが…。
「モグモグ、おばさま本当に情報通なんですね〜。でも世話役は秘密厳守。個人情報の漏洩は信用失っちゃうから大変ですよね〜」
ワーバットがリスみたいにほっぺを膨らませて鋭い事を言う。さっきからずっとこうやってネヒルザ婆の機先を制し続けているのだ。しかもナチュラルに。
「……ま、まあ、そうだね。口の軽い奴は信用を失う。あ、そうそう、口の軽いと言えば…ほら、ここの女店員。あの店員がまた…」
「モグモグ、そうですよね。口が軽い人って自分じゃ気づいてないですもんね。でもたまに意図的に言いふらす人がいるんで、そういう人には近づかないほうがいいんですよね〜」
おお、ワーバット、今度はネヒルザ婆の前にバーケード置きおった。
「そ、そうだねえ。わざと言いふらす奴とは付き合えないよねえ…あ、そう言えば、この国の王族には一人変なのがいるみたいでねえ、何でも王族の役割を放棄して街で悠々自適に暮らしてるらしいって噂なんだよ。王族ともあろうものがそんな…」
…なんか聞いたことある話が出てきたな。
「モグモグ、おばさまは世話役だから王族の気持ちも分かっちゃうんですね〜。わたしは庶民だから王族の苦労とはわかんないなあ」
「…そう、わたしは世話役だからね。王族の苦労くらい……知る訳ないだろ!! なんで街の世話役が国の王族の苦労がわかるんだい! 小娘っ、あんたもしかしてわざとわたしの気を逆撫でるようなことを言ってないかい」
「モグモグ、え、逆撫でる? なんで? この街でみんなから尊敬を集めてみんなから信用されて好かれてる優しいおばさまのことをなんでわたしが逆撫でないといけないの?」
「…こ、このトカゲ、絶対にわざと言ってるだろ! あたしだって自分が周りからどう思われてるかくらいはわかってるんだよ!」
「……??」
おお、ワーバット、天然でネヒルザ婆を怒らせとる。こりゃ、ある意味才能だな。俺もよく天然の妹に怒ったもんだ。ネヒルザ婆のその気持ちは分かるぞ。
「ま、まだその態度を続ける気かい、この…」
「はい、お待ちどうさま。これが最後、森大鹿のヒレ肉のステーキだよ」
ピンポーン
『〈特殊クエスト:ネヒルザのプライド〉が完了しました。パーティーメンバーのワーバットが【逆撫NZ】を習得しました』
ここで、いきなりクエスト終了のアナウンス。えっと、何がどうした?
「森鹿肉、ヒ、ヒレだって!? な、なんてもの出してくるんだい!」
「なんだい、あれだけ威勢良く奢るだの言っておいて、払えないってのかい? 情けないねえ」
動揺しまくるネヒルザ婆としてやったりのマーサさん。
なるほど、そういう感じのやつか。そういや前のクエストでネヒルザ婆の所持金50万Gだったもんな。森鹿ヒレ肉は年1回の王国の晩餐会で上級貴族にだけ振る舞われる肉だったはず。そら、所持金一気にぶっ飛ぶわな。ってか、マーサさん、マジでなんちゅうもん出してくるんだよ。
「こ、こんなもの、領主だって払えるもんか。あたしは払わないからね」
「そうかい、そりゃ残念だね。じゃ、《《これだけは》》わたしからの奢りってことにしとくよ。それなら払えるんだろ? 《《ネヒルザおばさま》》」
「く…あ、ああ、持ってけ、この泥棒!」
ダンッ
ネヒルザ婆が見たことのある財布をテーブルに叩きつける。
「ああ、お会計はレジでお願いしますね」
マーサさんのダメ押しでネヒルザ婆は財布を手に取りそのまま部屋を出ていった。
「はっはっは、竜人のお嬢ちゃん、なかなかやるじゃないか。気に入った。いつでも食べにおいて」
そう言ってマーサさんは空いたお皿をまとめて持つと体を揺らしながら戻って行った。
「スプラさん、この肉めちゃくちゃ美味しいですね。リアルでも食べたことないてす、こんなの」
「はは、だよな。あのヒレ肉をあのマーサさんが調理したんだからな。で、ワーバット、さっき習得したスキル見せてくれる?」
「あ、そう言えばアナウンスありましたよね。えっと…はい、これです」
ふむ、【逆撫NZ】か。どうせイラっとさせるスキルだろ? それがなんの役に立つ……ん?
「ちょ、ちょっと、ワーバット、これ! やばいぞ!」
「え、ヤバい? 【逆撫NZ】……ん? どこがヤバいんです…って、あ、ああああ! え、これ、もしかして?」
俺たちが目を血走らせながら見ているスキル説明。
【逆撫NZ】
特殊NPCネヒルザと遭遇を果たした際の行動によって習得できる【NZ】スキル。
ネヒルザのプライドを最後まで逆撫でし続けた者が習得する特級逆撫スキル。
周囲の敵に嫌悪感を抱かせストレス状態に陥らせ、自身に攻撃を集中させる。効果範囲は嫌悪感を抱かせる言動を加えることで拡大する。
相変わらずよくわからん説明だが、ある一文だけはワーバットにとってはヤバいのだ。
『自身に攻撃を集中させる』
ワーバットはスキル効果でどれだけ攻撃されても死に戻らない。そのワーバットが【逆撫NZ】して敵の攻撃を一身に受けまくる。
ってことは俺はリスクなしで遠距離から相手を殲滅できる。つまり、『最強タンク』がここに爆誕したという訳だ。
「あのさ、ワーバット、実は今さ、別のシークレットクエスト受けててさ……」
こんなことならワーバットが弟子の間にシークレットクエストを進めるしかないじゃん。
「えええ、ドワーフ? 貴族に王都? 鉄鉱石も? ええええええ……」
…
…
❖❖❖レイスの部屋❖❖❖
はっ?
なんそれ。
なんそれ。
なんそれなんそれなんそれなんそれなんそれなんそれなんそれなんそれなんそれなんそれ……
「先輩、ダイジェスト映像送っておき……ひいい、先輩が壊れるっす。誰か来てくださーーい!!」
―――――――――――――
◇達成したこと◇
・ワーバットのネヒルザクエストを見学。
・うまい料理をたらふく食う。(さっき食ったばかりなのに)
・ワーバット:【逆撫NZ】習得
・【マジ慢心】と【逆撫NZ】のシナジー効果の可能性に戦慄する。
◆ステータス◆
名前:スプラ
種族:小人族
星獣:リオン[★☆☆☆☆☆]
肩書:マジョリカの好敵手
職業:創菌薬師
属性:なし
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:1
耐久:1(+33)
敏捷:1(+53)
器用:1
知力:1
装備:仙蜘蛛の真道化服【耐久+33、耐性(斬撃・刺突・熱・冷気・粘着)
】
:飛蛇の真道化靴【敏捷+53】
固有スキル:【マジ本気】
スキル:【逃走NZ】【正直】【勤勉】【高潔】【献身】【投擲Lv10】【狙撃Lv10】【引馬】【騎乗】【流鏑馬】【配達Lv10】【調合Lv10】【調薬Lv10】【創薬Lv10】【依頼収集】【斡旋】【料理Lv9】【寸劇Lv3】【遠見】【念和】【土いじり】【石工Lv10】new!【乾燥】【雄叫び】【熟練の下処理】【火加減の極み】【匠の匙加減】【ルーティンワークLv3】【描画Lv1】【危険察知NZ】【散弾狙撃Lv4】【融合鍛冶Lv6】new!【観察眼】【苦痛耐性Lv3】【慧眼(薬草)】【薬草学】【採取Lv10】【精密採取fLv4】【採取者の確信】【採掘Lv10】【菌創薬Lv8】【上級鉱物知識】【カッティングv1】new!【レザークラフトLv1】new!
所持金:約1300万G
称号:【不断の開発者】【魁の息吹】【新緑の初友】【自然保護の魁】【農楽の祖】【肩で風を切る】【肩で疾風を巻き起こす】【秘密の仕事人】【秘密の解決者】【秘密の革新者】【秘密の火消し人】【不思議ハンター】【不思議開拓者】【巨魁一番槍】【開拓者】
従魔:ネギ坊[癒楽草]
◎進行中常設クエスト:
<蜥蜴の尻尾亭への定期納品>
●特殊クエスト
<シークレットクエスト:刀匠カンギスの使い>
〇進行中クエスト:
<眷属??の絆>
◆星獣◆
名前:リオン
種族:星獣[★☆☆☆☆☆]
契約:小人族スプラ
Lv:20
HP:310
MP:445
筋力:48
耐久:46【+42】
敏捷:120
器用:47
知力:69
装備:赤猛牛革の馬鎧【耐久+30、耐性(冷気・熱)】
:赤猛牛革の鞍【耐久+12】
:赤猛牛革の鐙【騎乗者投擲系スキルの精度・威力上昇(小)】
固有スキル:■■■■ ■■■■
スキル:【疾走Lv9】【足蹴Lv1】【噛み付きLv2】【運搬(極)】【水上疾走Lv1】【かばうLv5】【躍動】【跳躍Lv3】
◆契約◆
《従魔》
名前:ネギ坊
種族:瘉楽草[★★★☆☆]
属性:植物
契約:スプラ(小人族)
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:3
耐久:3
敏捷:0
器用:6
知力:10
装備:【毒毒毒草】
:【爆炎草】
:【紫艶草】
固有スキル:【超再生】【分蘖】
スキル:【劇物取扱】【爆発耐性】【寒気耐性】
分蘖体:ネギ丸【月影霊草】
:ネギ玉【氷華草】
《不動産》
畑(中規模)
農屋(EX)
≪雇用≫
エリゼ
ゼン
ミクリ




