第211話 運命の出会い
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「さて、じゃあ試してみようか」
武器屋を出てそのまま一番近い西門へ向かう。新しい装備、【紫水晶のオープンフィンガー】と【混沌のオープンフィンガー】を試してみるためだ。
新武具とか自作武具なんて試す時が一番楽しいものなのだ。
武具のお試しには敵には強すぎず弱すぎずの相手を選びたい。今の俺にとってそれはリザードドッグだ。
これまで散々リスとトレントの連携に対応してきたから今更リザードドッグの連携に脅威は感じない。【散弾狙撃】で一撃死しないリザードドッグに毒と混沌の効果を確かめるのだ。
…
「ふむ、なるほど…」
試しにいくつかの群れを殲滅して分かったこと。
まず【紫水晶のオープンフィンガー】が得物に付与する毒は弱毒だということ。リザードドッグの動きを少し阻害して連携を乱すことができた。俺にとっては弾が尽きない限り無限に搦め手を使用できるというのはかなり使える。
次に【混沌のオープンフィンガー】だが、これは正直使い勝手が悪すぎた。攻撃の3回に1回くらいの割合でランダム属性が付与される感じ。戦闘中に度々狙ってもいない効果が出てビビらせてくる。俺にとってはとてもじゃないが一撃死のリスクの中で頼りにできる代物ではなかった。
「ま、不用品で作っただけだからな。こんなもんか」
武具の検証を一通り終えたので腹ごしらえに街に戻る。そして第二の街に向かおうとしたのだが……西門に入ったところで言い争いの声が聞こえてきた。新武具のお試しと食事とで心身ともに満腹な俺、当たり前のようにスルーするつもりだったのだが、争いはプレイヤーでなく、NPCだと知って足を止める。
「そう言わないで、どうかお願いします。息子を探してください」
「何度も言うが、俺は門から離れられないんだ。ギルドへ依頼を出すか、領主館の隣に衛兵の詰め所があるからそこに行ってくれ」
「でも、時間が。こうしてる間にもモンスターの群れに…」
息子? そっか、子供が西の荒れ野に…。それは心配だろうな。俺に親心はまだ分からんが、俺が小さい頃迷子になった遊園地で母親が俺を見つけて泣き崩れてたっけな。親ってそんなものなんだろうな。あ、そういえばあの鳥の卵持ってきちゃってるよな…。今頃心配して…
「ちょっと、門番さん、さすがにそれはないでしょう!」
「なんだ、今度は……へ? 竜人?」
「え?」
卵の事を考えていたら聞こえてきた「竜人」の一言。思わず門を振り返る。門番さんの前にいたのは赤い竜人風アバターのプレイヤーだった。
「おお、竜人だ。すげー、強そう…だが…」
格好いい竜人アバター。背に羽根が生え、頬にはウロコのような模様。まさに赤き竜人と言える女性プレイヤー。
だが、問題はそのアバターの頭の上にあった。そこに見えるのはイベント評価値3の真っ赤な表記。
……え、3ってことは、3人から最低評価の1を食らってるってことだよな。そんな猛者がいたのかよ。
「だから、あんたら異人は知らないかもしれないが、門番は動いちゃいけないの。だから衛兵の詰め所かギルドへ緊急依頼をかけるべきなんだよ」」
「そんなルールなんかより人命が大切でしょ!! 人命の危機に動けないとか、目的のズレたルール程害悪な物はないの!」
おおお、それ、父親がいつも言ってたことだ。他にも同じこと言う人がいるなんて。そっか、あの人って変な人だと思ってたが、一般的なことも言ってたんだな。
「だから、そんなことはわかってるが、俺が今ここ離れたらもっと大きな危険になるかもしれないだろ。街中を危険に晒せって言うのか」
「誰もそんなこといってないでしょ! ちょっと行って探せばいいだけじゃない」
うわ、すっごい食ってかかってる。なんかアレだな。ちょっと見てられんな。…なんか妹を見てるみたいで。
実は俺の妹もこんな感じだ。もう22歳になるってのに小さい頃から全然変わらん。深く考えないですぐに行動に移しては周囲の反感を買いおる。俺と真逆で感情が先に出るタイプだ。
「あの、俺でよかったら探してきますけど…」
「え? いやいや、スプラさんにそんなご迷惑かけるなんて」
なぜか門番さんがものすごく恐縮がってくる。
…? いや、俺、門番さんに気を遣われるような者ではないぞ。太皇太后の愛弟子の肩書もなくなったし。あ、でも好敵手ってことは同列扱いってことに……いや、流石にそれはないか。
「いえいえ、ちょっと西に用事があるんでついでに見てきますよ」
「ほ、本当にいいんですか?」
「ああ、息子を、息子をよろしくお願いします」
「はいはい、じゃ、行ってきます」
ここはさっさと行ってくる方がいいな。
「……? あの、もしかしてついてくるんですか?」
「いいからいいから、お先へどうぞ」
西門を出たところで赤竜人がコソコソと付いてきていることに気が付く。いや、このクエスト欲しいなら譲るんだが? なのに「お先へどうぞ」ってなんだ。
言いたいことはいろいろあるが、面倒くさいことになりそうで、なるべくその存在には触れないようにして子供を探すことに。で、リオンで疾走するとあっと言う間に姿が消える赤竜人。どうやらスピードは遅かったらしい。
で、子供はと言うと、そのままリザードドッグを蹴散らしながら進んでいったらすぐに見つけるとができきた。どうやら低難易度なただの人助けクエストだったらしい。
そのまま子供を護衛しながら街へ連れて帰る。すると門の外まで出て来ていた子供の母親が泣きながら抱きしめていた。その様子を見て俺はやっぱりを思い出す。ストレージに入っている卵。極凰洞で拾った水色と黄緑のマーブルな卵。始めは天雷鳥の卵かと思ったけど、極凰の背景を見た時に極凰の卵ということでほぼ確定したのだ。
「これ、やっぱ返す方がいいよな」
『フンス♪』
同じ境遇を経験したリオンに聞くと『もちろん♪』だって。そりゃそうだよな。でもどうやって行けばいいんだろうな。またあの崖を降りてワーナーの罠にかかってやるのか。なんか抵抗あるな。
「お見事でした! ぜひこのわたしをあなたの弟子に!」
「……」
「いや、スルー⁈」
俺がスルーして去ろうとしたら仰け反って驚く赤竜人。なんだよ、そういうの止めろ。妹を彷彿とさせてくるんじゃない、マジで。
「あの、弟子って言われても」
「見たところ、弟子いないですよね。それに評価値の12って……あ」
「12ですけど、それが……なにか?」
『評価値』の言葉から芋づる式で嫌なことを思い出してしまった。その雰囲気を感じたのか急に慌て出す赤竜人。
「いえ、その、違うんです。あ、でも、この評価値っておかしくないです? なんで一方的に評価なんてされないといけないんですかね。そんなの相手の気分一つで変わる事じゃないですか。客観的な要素なんて一つもないでしょ? そんなことでこっちの楽しいはずのFGS生活がぶち壊されるって、マジでクソシステムですよね。それに他人に平気で低評価下せるってどんな神経してるんだっての。自分の事見えてないのかよって。人の事どうこう評価する前に自分の身を正せよって感じじゃないですか!」
「お、お、おう…」
なんか、自分以上に怒ってる奴を見ると自分は冷静になってくるな。ま、そっか、そうだよな。俺が悪いんじゃないもんな。人の評価を気にして気分を損ねるなんて馬鹿馬鹿しい事この上ないな。
「で、師匠を探してるんですか?」
「探してます!」
「じゃ、評価値3の理由を聞いても?」
「はっ?」
いやいや、そんな「それ聞いちゃいます?」的な反応は違うから。聞くの当たり前しょ。評価システム自体もおかしいけど、評価値3はその何倍もおかしいからな。
「…わかりました。このワーバット、恥を忍んでお話しします! ただお話しする前に一つだけお願いがあります!」
ピロン
『プレイヤー「ワーバッド」があなたの永遠の好敵手となることを希望しています。プレイヤー「ワーバッド」をあなたの永遠の好敵手と認めますか?』
「……??」
突然目の前に現れたアナウンスウィンドウ。意味が理解できず3度読み返してしまった。そして4度目の読み返しを始める。
「スプラさん、ここは深く考えずにオッケーしてください。わたしを弟子にするなら絶対に損にはなりませんから」
なんだ、その怪しすぎる決めゼリフは。そんなのに乗ったら絶対に借金負うことになるだろうが。……ま、そうは思いつつも。
「認めますっと」
「やったーー!」
ま、FGSに限っては金ならあるし、マジョリカさんやマークスさん、マーサさん達住人の皆さんやリオンやネギ坊もいる。金なんか別になくなったっていい。
「じゃ、お話ししますね」
とてもウキウキな鬱陶しい態度でワーバットから評価値3のいきさつを聞いた。
で、聞いみて超ビビった。このワーバット、なんと俺やミーナと同じ『レイス案件』だったのだ。
なんでもキャラ作成時にコリンズさんに『すぐに強くなれるように』って言い続け、なだめに入ったアマデウスさんにも迫り続けた結果、レイスが起動して【マジ慢心】というふざけた名前のユニークスキルを押し付けられたとのこと。
で、その内容がコレ。
【マジ慢心】
三柱の一人レイスに認められ、この世界を要領の良さだけで生き抜く覚悟を持った者に与えられた固有スキル。初期種族は命を懸けて誇りを守る赤竜人族。永遠の好敵手が決まると、瞬時に相手レベル+1レベルとなり、ステータス全てにおいて常に+10%を保つようになる。
好敵手が決まった赤竜人族は不死となるが、好敵手にレベルで抜かれた時には誇りを守るために自ら死を選ぶ。また、好敵手が3日間活動をしなかった場合は好敵手関係が解除され、レベルとステータスのみ元に戻る。
死に戻るたびに職業、装備、持ち物、所持金、スキル、レベルが初期状態に戻る。
世界と関わった赤竜人族が死に戻ったとしても、その刻まれた足跡は世界の住人の心から消え去ることはないだろう。その小さな足跡が世界の今を支えているのだから。
「つまり、ワーバットは好敵手の俺の+1レベルになって、スタータスもずっと俺の1.1倍を維持するってことか?」
「はい! 今まではズルいと言われるのが嫌で誰にも言わなかったんですけど、スプラさん、いえあの全プレイヤーの最前線を行くピエロ君ならこのメリットをわかってくれると思いまして。これって、今回のイベントじゃチートじゃないですか?」
「……なるほどな。事情はよく理解した」
理解はしたが、何といったらいいのか。ご愁傷様とでも言えばいいのか。
❖❖❖レイスの部屋❖❖❖
うーん、やっぱりランダム属性付与ってのは管理AI泣かせだな。
って、あああああ!!
そういやこいつの事忘れてた!!
あまりに鬱陶しすぎて思考から排除してた。
こういう感情だけのやつは理解できねえんだよあ。
ほんとストレスしかない。
「気が付けよ」って思いで、絶対に周りから嫌われるようにしてやったのに、よりによって小僧と接触するとは……って、だははははーー!
そうか、こいつと小僧の組み合わせ、こりゃ最高だ。
これはFGSきってのギャグ要素として伝説になるかもな。
いやあ、こういうのを求めてた、うん。
俺、こういうの大好物かもしれん。
そういやこういうのをシナジー効果って言うんだよな。
だははは。
―――――――――――――
◇達成したこと◇
・【紫水晶のオープンフィンガー】【混沌のオープンフィンガー】のお試し。
・NPCの子供を助ける。
・卵の事を思い出す。
・ワーバットの好敵手となる。
・ワーバットがレイス案件だと知る。
・【マジ慢心】の内容を知る。
◆ステータス◆
名前:スプラ
種族:小人族
星獣:リオン[★☆☆☆☆☆]
肩書:マジョリカの好敵手
職業:創菌薬師
属性:なし
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:1
耐久:1(+33)
敏捷:1(+53)
器用:1
知力:1
装備:仙蜘蛛の真道化服【耐久+33、耐性(斬撃・刺突・熱・冷気・粘着)
】
:飛蛇の真道化靴【敏捷+53】
固有スキル:【マジ本気】
スキル:【逃走NZ】【正直】【勤勉】【高潔】【献身】【投擲Lv10】【狙撃Lv10】【引馬】【騎乗】【流鏑馬】【配達Lv10】【調合Lv10】【調薬Lv10】【創薬Lv10】【依頼収集】【斡旋】【料理Lv9】【寸劇Lv3】【遠見】【念和】【土いじり】【石工Lv10】new!【乾燥】【雄叫び】【熟練の下処理】【火加減の極み】【匠の匙加減】【ルーティンワークLv3】【描画Lv1】【危険察知NZ】【散弾狙撃Lv4】【融合鍛冶Lv6】【観察眼】【苦痛耐性Lv3】【慧眼(薬草)】【薬草学】【採取Lv10】【精密採取fLv4】【採取者の確信】【採掘Lv10】【菌創薬Lv8】【上級鉱物知識】【カッティングv1】【レザークラフトLv1】
所持金:約1300万G
称号:【不断の開発者】【魁の息吹】【新緑の初友】【自然保護の魁】【農楽の祖】【肩で風を切る】【肩で疾風を巻き起こす】【秘密の仕事人】【秘密の解決者】【秘密の革新者】【秘密の火消し人】【不思議ハンター】【不思議開拓者】【巨魁一番槍】【開拓者】
従魔:ネギ坊[癒楽草]
◎進行中常設クエスト:
<蜥蜴の尻尾亭への定期納品>
●特殊クエスト
<シークレットクエスト:刀匠カンギスの使い>
〇進行中クエスト:
<眷属??の絆>
◆星獣◆
名前:リオン
種族:星獣[★☆☆☆☆☆]
契約:小人族スプラ
Lv:20
HP:310
MP:445
筋力:48
耐久:46【+42】
敏捷:120
器用:47
知力:69
装備:赤猛牛革の馬鎧【耐久+30、耐性(冷気・熱)】
:赤猛牛革の鞍【耐久+12】
:赤猛牛革の鐙【騎乗者投擲系スキルの精度・威力上昇(小)】
固有スキル:■■■■ ■■■■
スキル:【疾走Lv9】【足蹴Lv1】【噛み付きLv2】【運搬(極)】【水上疾走Lv1】【かばうLv5】【躍動】【跳躍Lv3】
◆契約◆
《従魔》
名前:ネギ坊
種族:瘉楽草[★★★☆☆]
属性:植物
契約:スプラ(小人族)
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:3
耐久:3
敏捷:0
器用:6
知力:10
装備:【毒毒毒草】
:【爆炎草】
:【紫艶草】
固有スキル:【超再生】【分蘖】
スキル:【劇物取扱】【爆発耐性】【寒気耐性】
分蘖体:ネギ丸【月影霊草】
:ネギ玉【氷華草】
《不動産》
畑(中規模)
農屋(EX)
≪雇用≫
エリゼ
ゼン
ミクリ




